不動産が共有となっている場合、他の共有者の持分を買い取りたい場合もあるでしょう。
たとえば、その共有者が管理費を支払わない場合や、その共有者の所在が不明で不動産の修繕や売却に支障をきたしている場合などが挙げられます。
では、他の共有者が有する共有持分を買い取る方法はあるのでしょうか?
今回は、共有持分を買い取る方法について弁護士が詳しく解説します。
共有持分の買取請求とは
他の共有者の持分を買い取りたい場合、共有持分の買取請求を検討することとなります。
一口に「共有持分の買取請求」といっても、これには次の2つが想定されます。
- 当事者間の話し合いによる買取請求
- 裁判上での買取請求
当事者間の話し合いによる買取請求
1つ目は、当事者間の話し合いによる買取請求です。
その不動産に関する管理費を滞納している場合などは、共有者が金銭的に困窮をしているかその不動産自体に興味を失っている可能性が高いといえます。
そのため、共有持分を買い取る旨をその共有者に直接申し入れることで、その金額にさえ納得が得られれば売買に応じてもらえる可能性が高いでしょう。
裁判上での買取請求
2つ目は、裁判上での買取請求です。
これは、本来その不動産に関する管理費を本来はその持分に応じて各共有者が負担すべきところ、一部の共有者が管理費を滞納している場合にその滞納者の共有持分を他の共有者が強制的に買い取る制度です(民法253条)。
相手が話し合いによる買取に応じない場合は、こちらの方法を検討することとなるでしょう。
裁判上で共有持分の買取請求をする要件
裁判上で相手の共有持分を買い取るために満たすべき要件は次のとおりです。
- 請求者が買取対象者が支払うべき管理費を負担していること
- 買取対象者が1年以内に管理費負担の義務を履行しないこと
なお、あくまでも「買取」請求であるため、他の共有者の持分を無償で取得できるわけではありません。
買取を請求する際は、それぞれ証拠が必要となるうえ、適正な買取対価(償金)を定める必要があるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
請求者が買取対象者が支払うべき管理費を負担していること
1つ目の要件は、買取請求をする共有者が、買取対象としている他の共有者が負担すべき管理費を負担していることです。
買取対象者が1年以内に管理費負担の義務を履行しないこと
2つ目の要件は、買取請求をする共有者がその支払いを請求したにもかかわらず、買取対象としている他の共有者がその後1年以内に義務を履行しないことです。
共有者が所在不明の場合に買取請求をする方法
先ほど解説した買取請求は、管理費を滞納している共有者と連絡が取れることを前提としています。
しかし、実際には共有者と連絡が取れず困っているケースも少なくありません。
共有不動産の用途を変える大規模修繕をしたり一定期間(土地:原則5年、建物:3年)を超える賃借権を設定したりするには、原則として共有者全員の同意を得なければなりません。
しかし、共有者の一部と連絡が取れない場合はこのような同意を得ることができず、共有不動産の活用が大きく制限されています。
このような場合に所在不明となっている共有者の持分を買い取ることができれば、その不動産の活用がスムーズとなるでしょう。
所在不明となっている共有者の持分を買い取りたい場合には、「所在等不明共有者の不動産の持分の取得」の活用が検討できます。
ここでは、この制度の概要と利用の流れについて解説します。
参照元:民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について(法務省)
「所在等不明共有者の不動産の持分の取得」の概要
「所在等不明共有者の不動産の持分の取得」制度とは、共有者が裁判所の決定を得ることで、所在等不明共有者(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を取得することができる制度です。
この制度は、所有者不明土地の解消へ向けて民法や不動産登記法などさまざまな法改正がなされた中で新たに誕生し、2023年4月から既に施行されています。
所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度を活用することで、所在等不明共有者の共有持分を他の共有者が強制的に取得することが可能となります。
ただし、無償で取得できるわけではなく、取得する共有持分の時価相当額を法務局へ供託しなければなりません。
その後、所在等不明共有者が現れた際は、その供託金から元所在等不明共有者が売買代金の支払いを受けることとなります。
なお、遺産相続によって不動産が自動的に共有となっているケースでは、相続開始から10年を経過しなければこの制度を活用することはできません。
この場合は、通常の遺産分割手続によって解決を図るべきであるためです。
参照元:令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(法務省民事局)
所在等不明共有者の持分を取得するまでの流れ
所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度を活用して、所在等不明共有者の持分を取得するまでの流れは次のとおりです。
- 裁判を申し立てる
- 異議届出期間等の公告をする
- 時価相当額の金銭を供託する
- 所在等不明共有者の持分の譲渡権限を申立人に付与する裁判が確定する
裁判を申し立てる
不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ、裁判を申し立てます。
なお、あらかじめその共有者の所在等が不明であるといえるだけの調査をすることが必要です。
一般的には、その不動産の登記簿のほか住民票などを調査します。
異議届出期間等の公告をする
申立てをすると、異議届出期間等の公告がなされます。
3か月の公告期間内に所在等不明共有者が異議の届出をして所在等が判明した場合は、裁判の申立ては却下されます。
併せて登記簿上の共有者への通知もなされますが、異議届出期間の満了前に共有物分割の訴えが提起されて異議の届出があった場合はその共有物分割訴訟が優先されることとなり、この持分取得の裁判の申立ては却下されます。
時価相当額の金銭を供託する
3か月以上の異議届出期間が経過すると、所在等不明共有者の持分を取得できる可能性が高くなります。
この段階で、取得する共有持分の時価相当額の金銭を法務局へ納付しなければなりません。
供託すべき具体的な金額は裁判所が決定します。
所在等不明共有者の持分の譲渡権限を申立人に付与する裁判が確定する
裁判が確定し、申立人が所在等不明者の共有持分を取得します。
共有者が所在不明の場合に所在不明共有者も持分を含めて土地を売却する方法
一部の共有者が所在不明となっている土地全体を売却したい場合は、「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡」が有力な選択肢となります。
ここでは、制度の概要と流れについて解説します。
「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡」の概要
「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡」制度とは、所在のわかっている共有者全員が協力することで、所在等不明共有者が有する持分を含めた不動産全体を第三者に売却することができる制度です。
これも所有者不明土地の解消へ向けた法改正の一環として誕生した制度であり、2023年4月から既に施行されています。
不動産の共有持分は、他の共有者の意思にかかわらず自己の共有持分のみを売却することが可能です。
しかし、不動産のうち2分の1の共有持分を有する者が自己の持分のみを売り出したところで、購入者が現れる可能性は高くありません。
なぜなら、買い手の立場からすると、他の共有者がいる不動産の共有持分のみを買ったところで、その不動産の活用には制限がかかるうえ、他の共有者とのトラブルに巻き込まれる可能性もあるためです。
中には不動産の共有持分を専門的に買い取る不動産会社も存在するものの、それでも不動産の持分すべてを売却する場合と比較して、買取価格が非常に低くなる可能性が高いでしょう。
そこで検討したいのが、この所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度の活用です。
これにより購入者の裾野が大きく広がることとなるほか、適正な対価で不動産を売却することが可能になります。
所在等不明共有者の持分を譲渡するまでの流れ
所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度を活用し、所在等不明共有者の持分を含めて不動産を売却するまでの流れは次のとおりです。
- 裁判を申し立てる
- 異議届出期間等の公告をする
- 時価相当額の金銭を供託する
- 取得の裁判
- 土地全体を売却する
なお、ここでは不動産の共有者がA氏、B氏、C氏3名であり、このうちC氏が所在等不明、Aが申し立てをする前提で解説します。
裁判を申し立てる
不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ、A氏が裁判を申し立てます。
こちらも、C氏の所在等が不明であるといえるだけの調査をしたうえで、その証拠を提示することが必要です。
一般的には、その不動産の登記簿の住民票の調査などを行います。
異議届出期間等の公告をする
申立てをすると、異議届出期間等の公告がなされます。
3か月の公告期間内に所在等不明共有者であるC氏が異議の届出をして所在等が判明した場合、裁判の申立ては却下されます。
時価相当額の金銭を供託する
3か月以上の異議届出期間が経過すると、所在等不明共有者の持分を含めて譲渡ができる可能性が高くなります。
この段階ではまだ購入者からの売買対価は受け取っていないものの、C氏の共有持分の時価相当額の金銭を法務局へ納付しなければなりません。
供託すべき具体的な金額は裁判所が決定しますが、この決定においては第三者に売却する際に見込まれる売却額等が考慮されます。
取得の裁判
裁判が確定し、C氏の共有持分を譲渡する権限がA氏に対して付与されます。
これによって、C氏の所在等が分からなくてもA氏とB氏のみの協力によってその不動産の全体を売却することが可能となります。
土地全体を売却する
所在等不明者以外の共有者全員(A氏とB氏)が協力し、その不動産全体を第三者に対して売却します。
その不動産を誰に対していくらで譲渡をするのかについては裁判所が関与するところではなく、A氏とB氏の判断によって行います。
共有持分を買い取りたい場合のポイント
共有持分の買取を成功させるには、どのような点に注意すればよいでしょうか?
共有持分の買取や取得を成功させるための主なポイントは次のとおりです。
- 証拠を残すことを意識する
- 無償で取得できるわけではないことを知っておく
- 不動産法務に強い弁護士に相談する
証拠を残すことを意識する
裁判上で共有持分を強制的に買い取りたい場合は、証拠が何より重要となります。
そのため、自身が立て替えた管理費を共有者に請求する場合には内容証明郵便とするなど、証拠の確保に努めてください。
内容証明郵便とは、いついかなる内容の郵便が誰から誰に送付されたのかを、日本郵便株式会社が証明する制度です。
無償で取得できるわけではないことを知っておく
共有者の持分を取得する制度はいずれも「買取」制度であり、共有者の持分を無償で取得できるわけではありません。
原則として、取得する共有持分の時価相当額の支払いや供託が必要となることを理解しておきましょう。
併せて、支払いが必要となる価格についてもあらかじめ確認したうえで、心づもりしておくことをおすすめします。
不動産法務に強い弁護士に相談する
共有持分については、所有者不明土地の解消へ向けた法整備の一環で新たに誕生した制度や改正された点も少なくありません。
そのため、共有持分の買取は不動産法務に強い弁護士へご相談ください。
不動産法務を多く手掛けている弁護士へ相談することで、現状の課題に合わせて最適な解決策を提案してくれることでしょう。
まとめ
共有持分の買取請求とは、その共有不動産に関する管理費を1年以上滞納した共有者の持分を強制的に買い取る制度のことです。
所有者不明土地の解消へ向けた一連の改正によって、所在が不明となった共有者の持分を買い取る「所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度」や、連絡が取れる共有者の持分とともに所在が不明となった共有者の持分を第三者に譲渡することができる「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度」などが創設されています。
この一連の改正によって、共有持分に関する規律も多く整備され、解決が図りやすくなっています。
以前は解決が難しかった問題であっても、現在では解決を図ることができることもあるため、共有持分でお困りの際には弁護士へご相談ください。
たきざわ法律事務所では、共有持分など不動産にまつわるトラブル解決に力を入れています。
不動産の共有持分を買い取りたい場合など共有持分についてお悩みの際には、ぜひたきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。