【2023】所有者不明土地の時効取得はできる?要件と併せて解説

所有者不明土地の時効取得

所有者不明土地とは、その土地の現在の所有者と容易に連絡がとれない土地のことであり、住所変更登記や相続登記の放置などによって誕生します。

取得したい土地が所有者不明土地であると、その土地の所有者と売買などの交渉をすることができません。

では、所有者不明土地を時効取得することはできるのでしょうか?

今回は、所有者不明土地の時効取得について弁護士が詳しく解説します。

目次

所有者不明土地の概要

まずは、所有者不明土地の概要について解説します。

所有者不明土地とは

所有者不明土地とは、その土地の現在の所有者と容易に連絡が取れない土地です。

土地の情報はすべて法務局で登記されており、原則として所有者の氏名と住所も登記されています。

そのため、本来はその土地の全部事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せてそこに記載されている所有者宛に手紙を送ることなどで、所有者と連絡が取れるはずです。

しかし、全部事項証明書に記載の所有者情報が最新でない場合があり、多少調査をしたのみでは現在の所有者にたどりつけないケースが多発しています。

このような土地を所有者不明土地といいます。

所有者不明土地となる主な原因

所有者不明土地はなぜ生まれてしまうのでしょうか?

所有者不明土地が誕生する主な原因は次のとおりです。

  • 住所変更登記の放置
  • 相続登記の放置

住所変更登記の放置

1つ目は、土地の所有者が住所を移転したにもかかわらず、その情報を登記しないことによるものです。

土地の名義人が引っ越しをして市区町村役場で住所変更の手続きをしても、これが自動的に登記情報に反映されるわけではありません。

登記上の所有者住所を変えるには、自ら住所変更登記の申請をすることが必要です。

しかし、この登記は義務ではなく罰則もなかったことから、住所変更登記が放置されるケースが散見されています。

これを受けて住所変更登記を義務化する改正がされており、2026年4月までに施行される予定となりました。

改正法の施行後に正当な理由なく住所移転から2年以内に住所変更登記を申請しなかった場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。

相続登記の放置

2つ目は、土地の名義人が亡くなったにもかかわらず、相続人などへの名義変更(「相続登記」といいます)をしないことによるものです。

土地の名義人が亡くなったからといって、土地の名義が自動的に相続人などへと変わるわけではありません。

土地の名義を相続人などへと変えるには、相続人などが法務局に相続登記の申請をする必要があります。

しかし、これまで相続登記は義務ではなく罰則もなかったことから、相続登記が放置されるケースが少なくありませんでした。

これを受けて相続登記を義務化する改正がされており、2024年4月1日からの施行が決まっています。

改正法の施行後は、正当な理由がないのに相続によって土地の所有権を取得したことを知ったときから3年以内に相続登記を申請しなかった場合、10万円以下の過料の対象となります。

所有者不明土地を時効取得することは可能?

時効取得とは、一定の要件を満たすことで、他人の物を占有した者がその物の所有権を取得することです。

一定期間放置したからといって時効によって土地の権利を失うのは、所有者にとって酷であると感じるかもしれません。

しかし、法は本来の所有者が権利を主張しないのであれば、この「権利の上に眠る者」ではなく、長年占有してきたという事実関係のほうを保護しようと考えています。

所有者不明土地についても、次で解説をする要件を満たす場合、時効取得をする余地があります。

所有者不明土地を時効取得する要件

所有社不明土地を時効取得するための要件は次のとおりです(民法162条)。

  • 占有者が所有の意思を持っていること
  • 平穏かつ公然と占有をしていること
  • 占有開始から10年または20年が経過したこと
  • 時効を援用すること

占有者が所有の意思を持っていること

1つ目は、所有者不明土地を時効取得しようとしている占有者が、所有の意思を持っていることです。

占有とは、自己のためにする意思で、物を所持する状態を指します。

つまり、その土地を自分のものとして実際に使っていることが必要です。

平穏かつ公然と占有をしていること

2つ目は、平穏かつ公然と占有していることです。

暴力的な手段に訴えて土地を占有したり、占有の事実を隠したりしている場合にはこの要件を満たしません。

占有開始から10年または20年が経過したこと

3つ目は、占有開始から一定期間が経過していることです。

この一定期間とは、土地の占有を開始した時点で自己に所有権があるものと信じ、かつこれを信じるについて過失がない(「善意無過失」といいます)場合には10年です。

一方、これ以外の場合(土地の占有を開始した時点で自己に所有権がないことを知っていたか、知らなったことに過失がある場合)は、20年とされています。

時効を援用すること

時効による利益は、所定の期間(10年ないしは20年)を過ぎたからといって、直ちに享受できるものではありません。

時効の利益を受けるには、「時効の援用」をすることが必要です(同145条)。

時効の援用とは、時効によって利益を受ける旨を相手方に対して意思表示することを指します。

一般的には、相手に対して内容証明郵便を送るなどして通知します。

ただし、その土地が所有者不明土地である場合は、土地の所有者に対して直接時効の援用を通知する文書を送ることはできません。

そのため、ある程度相手を捜索し、それでも見つからない場合には「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立て、この不在者財産管理人宛に時効の援用をするなどの対応が必要となります。

不在者財産管理人とは、不在者のために財産を管理することを職務とする者です。

なお、不在者財産管理人は「この所有者不明土地の不在者財産管理人」など財産ごとに選任されるものではなく、「この所有者不明土地の所有者であるA氏」など人単位で選任されるものです。

所有者不明土地の時効取得が難しいケース

どのような場合であっても、長年その土地を使ってさえいれば時効取得が認められるわけではありません。

次の場合などでは、所有者不明土地の時効取得は困難です。

  • 土地を賃借している場合
  • 平穏ではない占有である場合

土地を賃借している場合

その所有者不明土地を賃借しており定期的に賃料を支払っている場合は、時効取得は困難だと考えられます。

なぜなら、賃料を支払っている以上は「借りている」つもりで占有しているのであり、所有の意思を持った占有とはいえないためです。

平穏ではない占有である場合

平穏ではない行為によって土地を占有している場合は、時効取得の要件を満たしません。

たとえば、所有者などを脅迫したり暴力に訴えたりして土地を占有している場合などは、平穏な占有とはいえないでしょう。

所有者不明土地を時効取得するポイント

所有者不明土地を時効取得するための主なポイントは次のとおりです。

  • 所有者不明土地問題に詳しい弁護士に相談する
  • 他の解決方法も検討する

所有者不明土地問題に詳しい弁護士に相談する

所有者不明土地には、所有者不明土地であるがゆえの論点も多く、容易に解決できるものではありません。

そのため、所有者不明土地を時効取得したいとお考えの際は、所有者不明土地問題の解決に力を入れている弁護士へ相談することをおすすめします。

所有者不明土地問題に詳しい弁護士は、たとえ時効取得が難しい場合であっても他の解決方法を模索してくれる可能性が高いでしょう。

他の解決方法も検討する

所有者不明土地を時効取得しようにも、要件を満たせず時効取得が難しい場合もあるでしょう。

そもそも自身が長く占有していた土地でさえない場合は、時効取得をする余地はありません。

しかし、所有者不明土地問題の解消へ向けた一連の改正により、他の解決法も検討できることとなっています。

所有者不明土地を取得したい場合は、時効取得のほか次の方法も検討するとよいでしょう。

  • 不在者財産管理人選任の申立て+買取
  • 所有者不明土地管理人選任の申立て+買取

不在者財産管理人選任の申立て+買取

1つ目は、不在者財産管理人の選任を申し立て、その不在者財産管理人から所有者不明土地を購入する方法です。

先ほども触れたように、不在者財産管理人とは所在が不明となっている者の財産を管理する役割を持つ人です。

不在者財産管理人を選任してもらうには、家庭裁判所へ選任の申し立てをしなければなりません。

無事に不在者財産管理人が選任されたら、その不在者財産管理人から所有者不明土地を購入することが考えられます。

ただし、不在者財産管理人の選任申立てをすることができるのは利害関係人のみであり、単にその土地を買いたいというだけでは利害関係人にあたらない可能性があります。

また、不在者財産管理人は「財産単位」ではなく「人単位」で選任されるものであることから、不在者財産管理人が行うべき役割が多く、予納金が高額(30万円から60万円程度)となる傾向にあります。

予納金とは、不在者財産管理人が不在者の財産を管理するために必要な費用として家庭裁判所へ納める金銭です。

これらの点から、不在者財産管理人制度の活用はハードルが高いかもしれません。

ただし、従来はたとえ管理すべき財産がその所有者不明土地しかない場合であっても、土地の売却などによって金銭を受け取った場合は、引き続きその金銭を不在者財産管理人が管理し続けなければなりませんでした。

改正によって新たに金銭の供託が認められることになったことから、土地の売却で受け取った金銭を供託し公告をすることで、職務を終了させることが可能となっています。

この点では、制度を活用するハードルが少し下がったといえるでしょう。

所有者不明土地管理人選任の申立て+買取

2つ目は、改正で新たに誕生した所有者不明土地管理人の選任を申し立て、その所有者不明土地管理人から土地を購入する方法です。

先ほど解説したように、不在者財産管理人は「人」単位の財産管理制度であり、使い勝手がよくありません。

そこで新たに、土地や建物の管理に特化した所有者不明土地管理人制度が誕生しました。

所有者不明土地管理人とは、その名のとおり、特定の所有者不明土地に特化した管理人です。

所有者不明土地管理人は土地の保存や利用などのほか、裁判所の許可を得てその土地の処分(売却や建物の取壊しなど)をすることも認められています。

そのため、所有者不明土地管理人の選任を受け、その管理人から所有者不明土地を購入することが選択肢の1つとなるでしょう。

なお、購入対価は所有者不明土地管理人が供託し、公告することとなります。

ただし、所有者不明土地管理人の選任申立権者が利害関係人に限られている点は不在者財産管理人と同様です。

そのため、単にその土地を買いたいというだけでは利害関係人にあたらず、選任の申し立てが難しい可能性はあります。

まとめ

時効取得とは、一定の要件を満たすことで他者名義の土地の所有権を取得することです。

その土地が所有者不明土地であっても、時効取得の要件を満たす場合は時効取得をする余地があります。

ただし、時効の援用にあたっては、不在者財産管理人の選任を申し立てる必要がある点に注意をしなければなりません。

一方、時効取得の要件を満たしていない場合は、その所有者不明土地の買い取りを検討することとなります。

ただし、土地を買い取ろうにも、所有者不明土地であれば売買について交渉をする相手が存在しません。

そこで、先に不在者財産管理人や所有者不明土地管理人の選任を申し立て、そのうえでこれらの者と売買契約を成立させることとなるでしょう。

所有者不明土地の解消へ向けて、さまざまな法令が改正されています。

そのため、これまでは解決が難しかった問題も、改正法のもとでは解決ができるかもしれません。

たきざわ法律事務所には不動産法務に強い弁護士が在籍しており、特に所有者不明土地問題の解決に力を入れています。

所有者不明土地の時効取得をご希望の際やその他所有者不明土地に関して困りごとが生じている際は、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。

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この記事を書いた人

大手企業法務事務所にて勤務後たきざわ法律事務所を開設。多くの企業が抱える、①不動産案件(不動産事業者・不動産オーナー向け)、②労務トラブル、③IT・知財(著作権・不正競争防止法等)を専門とする。「攻めの法務戦略」により企業の利益を最大化するリーガルサービスを提供する。「堅苦しい」「フットワークが重い」そんな弁護士のイメージを根本から崩し、企業経営に寄り添った提案をすることをモットーとする。不動産オーナー、不動産事業者向けのYouTubeチャンネル「不動産価値向上チャンネル」にて情報配信も行う。

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