所有者不明土地の増加が社会問題となっています。所有者不明土地とは、住所移転の登記や相続登記が放置されたことなどによって、現在の権利者がわからなくなってしまった土地の総称です。
では、所有者不明土地の所有者調査はどのように進めればよいのでしょうか?今回は、所有者不明土地問題の解決法や相談先などについて詳しく解説します。
所有者不明土地とは
すべての土地所有者の氏名と住所は、法務局に登録(登記)されています。そして、登記された事項を証明する全部事項証明書(登記簿謄本)は、全国の法務局から誰でも取得することが可能です。
そのため、その土地の全部事項証明書を取得してそこに掲載されている所有者住所を訪ねたり手紙を送ったりすれば、土地所有者と連絡が取れるはずでした。
しかし、土地所有者が引っ越しをしたり登記上の名義人が亡くなったりしても、登記しないまま放置されるケースが少なくありません。この要因の1つは、たとえ住所変更登記や相続登記をしなくても罰則の適用がなかったことでしょう。そのため、比較的売却価値の低い郊外の土地や空き家などを中心に、登記情報が古いままで放置されるケースが多発しています。
このような理由から所有者と容易に連絡が取れず、現在の権利者が誰であるのかわからなくなってしまった土地を「所有者不明土地」といいます。
これらの問題に対応するため、2024年4月1日から相続登記が義務化されることが決まっているほか、2026年4月までには住所変更登記も義務化される予定です。これにより、今後所有者不明土地の発生が抑制される効果が期待されています。
所有者不明土地の存在で困る主なケース
所有者不明土地が存在すると、どのような困り事が生じる可能性があるのでしょうか?主に生じ得る具体的な問題やトラブルは次のとおりです。
- 隣地が所有者不明土地で掘削の承諾が受けられない
- 災害時の復興の妨げになる
- その土地を買いたいが売買の交渉できない
- 土地の再開発が進められない
- 管理不全から近隣に迷惑がかかる
- 土地共有者の所在が不明で土地の管理や処分ができない
隣地が所有者不明土地で掘削の承諾が受けられない
新たに建物を建築するには、建物に上下水道やガスなどのライフラインを引き込まなければなりません。しかし、地中に埋まっている配管の配置によっては、ライフラインを引き込むために隣地を掘削せざるを得ない場合があるでしょう。
従来、隣地の掘削について民法に明文の規定がなく、掘削には隣地所有者の承諾が必要であると解されていたため、隣地が所有者不明土地の場合、事実上掘削が困難となっていました。掘削対象となる土地所有者からの承諾書がない以上、施工をしないとの取り扱いが一般的であったためです。
なお、民法改正によりライフラインを引き込むための掘削は権利であることが明文化され、隣地所有者の承諾までは必要なく、通知でよいこととされました。これにより、通知の相手方が所在不明である場合であっても、簡易裁判所の公示による意思表示が可能となっています。
参照元:民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について(法務省)
災害時の復興の妨げになる
所有者不明土地の存在は、災害復興の妨げとなります。たとえば、国が復興事業を進めようにも、その地に所有者不明土地があるとその土地の収用に関する協議ができず、使用の承諾も得ようにも、誰に承諾を得てよいのかわかりません。
戸籍謄本などを辿って現在の所有者にたどり着ける場合もありますが、これには相当な時間を要します。また、相続が何代にもわたって繰り返されていると関係者が非常に多数にのぼる場合もあり、権利者全員に連絡を取ることが事実上困難となる可能性もあるでしょう。
東日本大震災でこの問題が顕在化したことがきっかけとなり、国が所有者不明土地への対策に本腰が入れられることとなりました。
その土地を買いたいが売買の交渉できない
所有者不明土地の立地によっては、その土地を買いたいと希望する人がいる場合もあるでしょう。しかし、所有者が不明である以上、そもそも売買の交渉をすべき相手がわかりません。
また、そのような土地だと固定資産税などの徴収も見込めず、市区町村にとっても損失です。
土地の再開発が進められない
デベロッパーが付近一帯を再開発しようとしたり国や都道府県、市区町村が道路を建設したりしようにも、そのエリアに所有者不明土地があると計画の進行が困難となります。なぜなら、土地の所有者が不明の場合、その用地買収の交渉をする相手が不明であるためです。
そのため、所有者不明土地は地域の再開発の妨げともなります。
管理不全から近隣に迷惑がかかる
所有者不明土地は、管理不全となっていることが少なくありません。そのため、土地上の空き家が害獣の棲み処となったり、草木が生い茂ることで害虫が大量に発生したりする可能性があります。
しかし、所有者が不明である場合、これを法律上適正に管理することは困難であり、隣地所有者が多大な迷惑を被ることとなるでしょう。この点も、所有者不明土地がもたらす問題の1つです。
ただし、民法の改正によって、個々の土地や建物の管理に特化した財産管理制度が創設されています。また、裁判所に選任された管理人が裁判所の許可を得ることで、所有者不明土地の売却等をすることも可能となりました。
土地共有者の所在が不明で土地の管理や処分ができない
土地全体の所有者が所在不明となる場合もあれば、複数人で共有する土地のうち一部の共有者の所在が不明となる場合もあります。共有している土地の管理や変更については、次の合意により決めなければなりません。
- 保存行為(修繕など):個々の共有者が単独で可能
- 管理行為(軽微な変更や5年を超えない土地の賃貸など):共有持分の過半数を持つ者の同意が必要
- 変更行為(形状・効用の著しい変更や5年を超える土地の賃貸など):共有者全員の同意が必要
しかし、共有者の一部が所在不明であると必要な合意が得られず、管理行為や変更行為が困難となります。また、共有している土地の全体を売却しようにも、一部の所有者が所在不明だと困難でしょう。
ただし、民法改正によって一部の共有者が不明であっても土地を売却したり、他の共有者が所在不明である共有者の持分を取得したりできる制度が創設されています。
所有者不明土地の所有者調査は誰に相談できる?
所有者不明土地に関してお困りの際や、所有者調査を希望する場合は誰に相談すればよいのでしょうか?所有者不明土地に関する主な相談先は次のとおりです。
- 司法書士
- 弁護士
司法書士
司法書士は、不動産登記などの専門家です。たとえば、故人名義となっている土地があるものの、相続人の一部が所在不明で不動産の名義変更が進められない場合などは、司法書士へ相談することで戸籍調査などをしてもらえる可能性があるでしょう。
弁護士
所有者不明土地に関して争いが生じている場合や裁判手続きに発展する可能性がある場合などには、弁護士へ相談や調査の依頼をしてください。
たとえば、次の場合などには弁護士へ相談することで所有者不明土地の調査が実現できたり、所有者不明土地にまつわる問題が解決できたりする可能性があるでしょう。
- 故人名義となっている不動産の名義変更をしたいが、一部の相続人が所在不明である場合(この場合には、司法書士への依頼も可能)
- 共有者が所在不明であり、自己の権利を行使するうえで調査をしたい場合
- 隣地が所在不明であり、自己の権利をするうえで調査をしたい場合
- 所有者不明土地や共有不動産に関してトラブルが生じている場合
- 所有者不明土地や共有不動産について解決の糸口を見つけたい場合
また、震災復興などにあたっての調査でも弁護士や司法書士への依頼が可能ですが、通常は個々の司法書士や弁護士ではなく司法書士会や弁護士会に依頼されるケースが多いようです。
所有者不明土地は必ず所有者調査が必要?
所有者不明土地に困ったら、必ず所有者の調査が必要となるのでしょうか?
所有者調査をしなくても解決できるケースがある
所有者不明土地問題の解決で所有者調査をどこまでするのかは、ケースバイケースです。
たとえば、ライフライン設置のための掘削では必ずしも隣地所有者の戸籍などまで遡って現在の権利者を見つけ出すことまでは求められないでしょう。明らかに所有者がおらず、土地の全部事項証明書に記載の住所宛に連絡を取っても連絡がつかいない場合、簡易裁判所の公示による意思表示のみで対応できる可能性が高いためです。
また、隣地から自分の土地に枝が越境していた場合、従来は原則として自分で切除することはできず、隣地所有者が対応しない場合にはその都度強制執行を申し立てるほかありませんでした。こちらも、竹木の所有者を知ることができない場合や、所有者の所在を知ることができないときには、枝を自ら切り取ることができるよう改正されているため詳細な所有者調査までを行う必要はないでしょう。
さらに、共有についても改正がなされています。共有物に変更を加える行為であっても、形状や効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定することができることとなりました。
併せて、一定期間(建物:3年、土地:5年)を超えない期間の賃借権等の設定も、持分の過半数で決定することができることとされています。これにより、所在が不明の共有者の持分が半数未満の場合、あえてこの所在不明である共有者の調査をしなくとも、これらの行為の実現が可能となりました。
このように、行おうとする行為の内容や状況によっては、あえて所在不明者の調査をしなくとも実現できる可能性があります。
所有者不明土地で困ったら弁護士にご相談ください
所有者不明土地は社会的に問題視されており、近年多くの制度が創設されたり改正されたりしています。また、このうちの多くは2023年4月1日からの施行であり、施行からさほど日が経っているわけではありません。
そのため、少し前には解決が困難であった事例でも、改正や創設された制度を活用することで解決できる可能性があります。
しかし、これらについてわかりやすく詳細に解説しているウェブサイトはまださほど多くなく、色々と調べても今お困りのケースに当てはめられるかどうかわからない場合や、実際にどのように進めればよいのかよくわからない場合も少なくないでしょう。
そのため、所有者不明土地の調査でお困りの際や、顧客や市民から相談を受けて対応に苦慮している際などには、弁護士へご相談ください。
たきざわ法律事務所では、所有者不明土地にまつわる所有者調査など、解決へ向けたサポートに力を入れています。所有者不明土地に関してお困りの際には、たきざわ法律事務所までご相談ください。
まとめ
所有者不明土地とは、住所変更登記や相続登記などがされていないことで、現在の権利者と容易に連絡が取れない状態の土地です。所有者不明土地が存在すると災害復興や再開発の妨げになるほか、建設時のライフライン引き込みの妨げとなったり管理不全から近隣の土地所有者に迷惑がかかったりする可能性があります。
所有者不明土地の所有者調査は、調査の目的や状況に応じて司法書士や弁護士などに依頼することが可能です。
ただし、所有者不明土地についてお困りの事情によっては、詳細な所有者調査までは必要ないかもしれません。所有者不明土地に関しては社会問題となっており、近年さまざまな改正や制度創設がなされています。
これらの制度を活用することで、これまでは解決が困難であった問題が解決できる可能性も高いでしょう。そのため、所有者不明土地に関してお困りの際や顧客や市民などから所有者不明土地に関する相談を受けてお困りの際には、不動産法務に強い弁護士へご相談ください。
たきざわ法律事務所は所有者不明土地問題の所有者調査やトラブル解決に力を入れており、これまでも数多くのトラブルを解決してきました。
所有者不明土地の調査をご希望の際や所有者不明土地に関するトラブルでお困りの際には、たきざわ法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。お困りの内容や状況に応じて、最適なリーガルサポートを提供いたします。