【2023】共有持分は売却可能?共有不動産の売却方法とトラブル予防策を弁護士が解説

共有持分は売却可能

不動産の共有持分を有している場合、この共有持分のみを売却することは可能です。

しかし、この場合には不動産の全体を売却するより、売買価格が安くなる可能性が高いでしょう。そのため、他の共有者に対して共有持分を売ることや、他の共有者と協力して不動産全体を売却することを検討することも1つの方法です。

今回は、共有持分の売却について詳しく解説します。

目次

不動産の共有持分とは

不動産の共有持ち分とは、不動産に対して複数の所有者がそれぞれ持つ権利の割合のことです。

土地や建物などの不動産は1人で所有するのみならず、たとえばA氏、B氏、C氏など複数人が単独で所有することも可能です。この3人がそれぞれ3分の1ずつの対価を出し合ってX土地を買った場合、X土地はA氏、B氏、C氏による3分の1ずつの共有となります。この場合、A氏、B氏、C氏はそれぞれ、X土地の共有持分を有している状態です。

勘違いされることもありますが、土地の3分の1の共有持分を持っている者は、その土地の3分の1部分の面積しか使えないわけではありません。このX土地が150㎡である場合、A氏、B氏、C氏それぞれが50㎡部分を持っているわけではないということです。

X土地の共有者であるA氏、B氏、C氏はそれぞれ、150㎡あるX土地の全面を使うことが可能できます。イメージとしては、1か月30日のうちA氏、B氏、C氏がそれぞれ10日ずつ、X土地の全体を使用できると考えるとでしょう。

ただし、実際には共有者の一部(たとえば、A氏)が単独で使用している場合も少なくありません。そのような場合には、別段の合意がある場合を除き、A氏は他の共有者であるB氏やC氏に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。

不動産の共有持分が生まれる主な原因

そもそもなぜ、不動産の共有持分が生まれるのでしょうか?不動産が共有となる主な原因は次のとおりです。

  • 遺産分割
  • 不動産の共同購入
  • 不動産の共有持分の贈与
  • 私道の共有持分の取得

遺産分割

1つ目は、遺産分割です。

たとえば、土地を持っていた父が亡くなり、長男、長女、二男の3名が相続人である場合、この土地はいったんこの3名による共有となります。しかし、このままでは遺産の使い勝手がよくありません。

そこで、「A土地は長男が相続し、B土地は長女が相続し、預金は二男が相続する」など、遺産分けを行うことが一般的です。この遺産分けの話し合いを「遺産分割協議」といいます。

しかし、このようにすんなり遺産が分けられるケースばかりではありません。たとえば、父の主な遺産がA土地しかない場合には、遺産の現物を兄弟間で平等に分けることは困難です。この場合には、次の方法等を検討することになるでしょう。

  • 換価分割:唯一の遺産であるA土地を売却して、この対価を分ける方法
  • 代償分割:唯一の遺産であるA土地を長男など一部相続人が相続し、長男から長女と二男へA土地の3分の1にあたる金銭(代償金)を支払う方法

しかし、たとえば長男が今後もA土地を使いたいなどの事情がある場合、換価分割は避けたいことでしょう。一方、長男に代償金を支払うだけの資力がなければ、代償分割の選択も困難です。

そこで、苦肉の策として土地を長男、長女、二男が3分の1ずつの割合で共有する「共有分割」なされる場合があります。

また、そもそもこのような検討さえされることなく、何ら手続きをしないまま父名義のままで不動産が放置されるケースも少なくありません。この場合には、名義こそ父のままであるものの、実質的には長男、長女、二男による3分の1ずつの共有となります。

不動産の共同購入

複数人でお金を出し合って不動産を購入することで、不動産が共有となる場合もあります。

たとえば、A氏、B氏、C氏の3人がそれぞれ3分の1ずつの対価を出し合ってX土地を買った場合、X土地はA氏、B氏、C氏による3分の1ずつの共有となります。

不動産の共有持分の贈与

不動産を単独で所有している人はその不動産の全部を贈与することができる一方で、一部の持分のみを贈与することも可能です。

たとえば、X土地を単独で所有していた父が、このうち2分の1の持分を長男に贈与することで、X土地は父と長男の2分の1ずつによる共有となります。

私道の共有持分の取得

私道とは、国や都道府県、市区町村ではなく、一般個人や一般企業が所有する道路のことです。購入した土地の位置関係により、その土地とセットで私道を取得することとなる場合があります。

たとえば、奥が行き止まりになった道沿いにA、B、C、Dという4件の分譲宅地が並んでおり、この前面道路である私道がA、B、C、Dそれぞれの所有者による共有となる場合などです。この場合には、他人と共有する土地を意図せず有することとなります。

不動産の共有持分は売却できる?

たとえばA氏、B氏、C氏が3分の1ずつの割合で共有するX土地がある場合において、A氏は自分の共有持分のみを売却することができるのでしょうか?順を追って解説します。

自分の共有持分だけを売却することは可能

法律上、共有者が自己の共有持分のみを売却することは可能です。また、売却にあたって他の共有者に承諾を得る必要もありません。

そのため、A氏はB氏やC氏の同意などを得ることなく、X土地のうちA氏の有する3分の1の持分のみを売却することが可能です。

共有持分だけの売却では売却額が安くなる傾向にある

自己の共有持分のみの売却が可能であるとはいえ、その購入者は限られます。

また、一般的には、土地全体を売却するのと比較して売却額が安くなるでしょう。なぜなら、A氏からX土地の3分の1の持分を購入した者は、その後その土地をB氏やC氏と共有することになるためです。持分のみの購入では、せっかく購入しても自分の自由にX土地を使うことはできません。

他の共有者への売却も選択肢の1つとなる

土地の共有持分を手放してお金に換えたい場合、他の共有者への売却が有力な選択肢となります。

例のケースでは、A氏は3分の1の共有持分を第三者に売るのではなく、B氏やC氏に売ることも検討するとよいでしょう。なぜなら、A氏にとっては第三者に売るより売買が成立する可能性が高く、より高値での売買に応じてもらえる可能性があるためです。

また、B氏やC氏にとっては自己の共有割合が増えて使い勝手がよくなるうえ、よく知らない第三者が共有者に入るリスクを避けることにつながります。

さらに、たとえばB氏がA氏の持分を買い取った後でC氏の持分も買い取ることができれば、B氏はこの土地を単独所有することになります。そのため、土地を自身の自由に使用することが可能となるほか、土地を貸したり売ったりする判断も単独で行うことが可能となるでしょう。

このように、他の共有者への売却は双方にとってメリットが小さくありません。そのため、いきなり第三者へ購入の話を持っていくのではなく、まずは他の共有者に打診することをおすすめします。

共有持分を持っている不動産全体を売却する方法

先ほど解説したように、土地の共有持分のみを第三者に売却する場合、全体の売却と比較して売却額が低くなりがちです。

また、他の共有者に打診をしても共有持分の購入に乗り気でない場合や、そもそも他の共有者が所在不明となっており購入の打診ができない場合など他の共有者への売却が難しい場合もあるでしょう。この場合には、自分の共有持分のみではなく土地全体の売却を検討することとなります。

では、共有している土地全体を売却するにはどのような方法があるのでしょうか?主な方法は次のとおりです。

  • 共有者全員で話し合って売却する
  • 他の共有者の共有持分を買い取ってから売却する
  • 所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度を活用する

ここでも、全体と売却したいX土地がA氏、B氏、C氏による3分の1ずつの共有となっている前提で解説します。

共有者全員で話し合って売却する

1つ目の方法は、共有者全員が話し合って売却を決めることです。

A氏、B氏、C氏が全員X土地を売却することに同意すれば、全員で足並みを揃えてX土地全体を売却することが可能となります。この場合、売却で得た対価も共有持分に応じてA氏、B氏、C氏がそれぞれ3分の1ずつ取得することが原則です。

なおこの場合は、売買の条件について意見がまとまらず、争いに発展する可能性を考慮しておかなければなりません。たとえば、A氏としてはX土地について「早く売りたいから3,000万円くらいで売れればよい」と考える一方で、B氏やC氏が「売ることは急がないから4,000万円以上でなければ売りたくない」と考えている場合などが挙げられます。

この場合には、改めてその土地の売却適正額を冷静に確認したうえで、弁護士や不動産会社の担当者など第三者のアドバイスを踏まえつつ、共有者間の意見をまとめる必要があります。

他の共有者の共有持分を買い取ってから売却する

もう1つの方法は、他の共有者の共有持分を買い取り、土地を単独所有としたうえで売却する方法です。

例のケースでは、まずA氏がB氏とC氏の共有持分を買い取ります。その後、A氏の単独所有となったX土地を、A氏が単独で売りに出すという流れです。

この場合には、1つ上のケースとは異なり、第三者への売買価格について3者間で意見をまとめる必要はありません。

一方、A氏が共有持分をB氏やC氏から買い取る際の対価について意見の相違が生じる可能性があるでしょう。この場合には、不動産評価の専門家である不動産鑑定士に土地を評価してもらったり弁護士に相談をしたりして、売買価格を取り決めることになります。

話し合いによる難しければ、裁判で解決することも1つの方法です。

所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度を活用する

共有者の一部が所在不明の場合、その共有者の持分を買い取ったり共有者の持分を含めて土地全体を譲渡したりすることは困難でした。

しかし、これが土地利用の妨げになる可能性があることから、民法の改正によって「所在等不明共有者の不動産の持分の取得」制度と「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡」制度が新設されています。それぞれの概要は、次のとおりです。

所在等不明共有者の不動産の持分の取得

「所在等不明共有者の不動産の持分の取得」とは、共有者が裁判所の決定を得ることで、所在等が不明となっている共有者の持分を取得することができる制度です。

ただし、無償で取得できるわけではなく、本来であればその所在不明等共有者に対して支払うべき対価を供託しなければなりません。所在等不明共有者は持分を取得した共有者に対する時価相当額請求権を有しますが、実際に権利者が現れた際には、この供託金から対価の支払いを受けることとなります。

たとえば、X土地の共有者であるA氏、B氏、C氏のうちC氏が所在不明である場合は、A氏やB氏が、C氏の共有持分の取得を裁判所に請求します。これが認められるとA氏とB氏の2人のみがこのX土地の共有者となるため、2人の合意のみによってこの土地を貸し出したり売却したりすることが可能となります。

所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡

「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡」とは、裁判所の決定によって、申立てをした共有者に所在等不明共有者の不動産の持分を譲渡する権限を付与する制度です。1つ上の制度とは異なり、所在等不明共有者の持分を申立人である共有者がいったん取得するのではなく、購入者である第三者に直接移転します。

たとえば、X土地の共有者であるA氏、B氏、C氏のうちC氏が所在不明である場合においてX土地全体をY氏に売却したい場合は、A氏やB氏が、C氏持分の譲渡権付与を裁判所に申し立てます。これが認められれば、A氏とB氏2名のみの協力で、X土地全体をY氏に売却することが可能です。なお、売却対価のうちC氏の持分に相当する部分については、供託しなければなりません。

共有不動産を売却することやその相手方まで決まっている場合には、1つ上の制度ではなくこちらの制度を使った方がスムーズでしょう。

参照元:民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について(法務省)

共有持分の売却によるトラブル予防策

共有持分の売却でトラブルを生じさせないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?主な予防策は次のとおりです。

  • 安易な不動産共有を行わない
  • 共有者同士の関係性を円満に保つ
  • あらかじめ弁護士へ相談する

安易な不動産共有を行わない

1つ目にして最大の対策は、安易な不動産共有を行わないことです。

不動産の共有は、後にトラブルの原因となることが少なくありません。たとえ今は親しい間柄であったとしても、いずれは相手にも相続が発生し、共有持分が共有者の子などへ引き継がれる可能性があります。そうなると、縁遠い者同士の共有となりかねません。

そのため、安易な共有は避け、共有をする場合には将来発生する相続のことまで考慮しておく必要があるでしょう。

共有者同士の関係性を円満に保つ

共有者間の関係性が悪いと、その不動産の管理や売却などについて話し合う際にトラブルとなる可能性が高くなります。そのため、すでに不動産の共有持分を有している場合は、他の共有者がと円満な関係を築くよう心がけましょう。

あらかじめ弁護士へ相談する

他の共有者と協力しての不動産売却や他の共有者の共有持分買取りなど他の共有者と話し合うべき事態が生じた際には、あらかじめ共有問題に詳しい弁護士へご相談ください。

あらかじめ相談しておくことで、話し合いの進め方を確認することができるうえ、話し合いが決裂した場合の対応を知っておくことで交渉を有利に進めやすくなるでしょう。

たきざわ法律事務所では、共有トラブルの解決に力を入れています。お困りの際には、たきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。

まとめ

不動産の共有持分のみを、第三者に売却することは可能です。

しかし、共有持分を買い取ってくれる第三者が見つかる可能性は低いうえ、たとえ買い取ってもらえてもよい条件での売却はほとんど期待できません。第三者からすると、共有持分のみを買い取ったところで使い道の選択肢が限られるためです。

そのため、他の共有者に対して共有持分を売却することや、反対に他の共有者の共有持分を買い取って不動産全体として売却することなどの検討をおすすめします。

とはいえ、他の共有者との交渉がスムーズにまとまるとは限りません。中には、共有者が所在不明となっている場合もあるでしょう。そのような場合であっても、弁護士へ相談することで解決できる可能性があります。

たきざわ法律事務所では、不動産の共有トラブルの解決に力を入れており、これまでも多くのトラブルを解決してきました。不動産の共有でお困りの際には、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。

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この記事を書いた人

大手企業法務事務所にて勤務後たきざわ法律事務所を開設。多くの企業が抱える、①不動産案件(不動産事業者・不動産オーナー向け)、②労務トラブル、③IT・知財(著作権・不正競争防止法等)を専門とする。「攻めの法務戦略」により企業の利益を最大化するリーガルサービスを提供する。「堅苦しい」「フットワークが重い」そんな弁護士のイメージを根本から崩し、企業経営に寄り添った提案をすることをモットーとする。不動産オーナー、不動産事業者向けのYouTubeチャンネル「不動産価値向上チャンネル」にて情報配信も行う。

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