【令和5年4月改正】共有持分の買取とは?改正ポイントを踏まえて弁護士が解説

共有持分買取業者のトラブル

昨今、所有者不明土地の解消や予防へ向けて多くの改正がなされました。その一つに、共有持分の買い取りに関する改正があります。

では、そもそも不動産共有持分だけの買い取りは可能なのでしょうか?また、共有持分の買い取りについては、どのような改正がなされたのでしょうか?

今回は、共有持分の買い取りについて弁護士がくわしく解説します。

目次

不動産の共有持分とは

不動産の共有持分とは、「2分の1」や「3分の1」など、不動産のうち一部の持分のことです。土地や建物などの不動産はある人が1人で所有することもできる一方で、複数人が共有することもできます。

たとえば、A氏、B氏、C氏の3名がそれぞれ3分の1ずつの割合で、ある土地や建物を共有している場合などがこれに該当します。不動産が共有となる原因はさまざまですが、たとえば複数人で資金を出し合って不動産を購入することのほか、親の不動産を複数人が共同で相続することなどが挙げられます。

共有の不動産全体を売却するには、共有者全員が協力して売却しなければなりません。

共有持分だけの買取は可能?

共有不動産を買い取ろうにも、一部の共有者が売却に応じない場合もあると思います。では、不動産の共有持分だけを買い取ることはできるのでしょうか?

ここでは、A氏、B氏、C氏がそれぞれ3分の1ずつの共有持分を有する不動産について、A氏とB氏だけが売却を希望しているケースを前提に解説します。

法律上、共有持分だけの買い取りはできる

法律上、共有持分だけを買い取ることは可能です。たとえば、C氏が売却に同意しない場合、A氏とB氏の共有持分だけを買い取ることができます。

共有持分は誰が買い取る?

A氏とB氏の共有持分だけを第三者であるXが買い取っても、Xはせっかく買った不動産を自由に使うことができません。なぜなら、購入後はC氏3分の1、X3分の2での共有状態となるためです。

では、不動産の共有持分は誰が買い取るのでしょうか?一般的には、次の2パターンです。

他の共有者

1つ目は、他の共有者です。

例の場合には、A氏とB氏の共有持分を、C氏に売却するということです。共有持分を第三者が買い取る場合とは異なり、他の共有者であるC氏が共有持分を買い取ることで、不動産がC氏の単独所有となります。

A氏とB氏は共有持分を売却できるほか、C氏はその後不動産全体を自由に使ったり自由に売却したりできるため、まずはこの形を目指すことが多いでしょう。

共有持分の買い取りを専門的に行う会社

2つ目は、不動産の共有持分の買い取りを専門的に行う会社です。

このような会社は、共有持分を買い取った後で他の共有者から残った持分を取得するノウハウなどを有しています。他の共有者と連絡が取れない場合や、売却を希望する共有者にとって他の共有者と連絡を取りたくない事情がある場合などには、この方法が選択肢の一つとなります。

共有持分買取にまつわるよくあるトラブルとデメリット

不動産全体を売却する場合と比較して、不動産の共有持分だけを第三者に売却することにはどのようなデメリットがあるのでしょうか?ここでは、不動産の共有持分を有している者の立場から、主なデメリットと想定されるトラブルを紹介します。

買取価格が非常に低廉となる傾向にある

共有持分の買い取りでは、買取価格が非常に低廉となる傾向にあります。買取価格は、必ずしも不動産全体の時価に共有持分を乗じた価格とはならず、共有価格の半額以下となることもありえます。

なぜなら、先ほど解説したように、共有持分だけを買い取った第三者は、せっかく買った不動産を自由に使うことができないためです。また、残った共有者とのトラブルに巻き込まれる可能性もあります。

そのため、共有持分だけの買い取りは、不動産を高く売りたい場合に適した方法ではありません。

共有持分を買い取った相手から強引な買取請求がなされる可能性がある

共有持分を買い取った相手から、残った相手に対して強引な買取請求がなされる可能性があります。共有持分を買い取った相手(共有持分買取会社など)は、最終的には完全な所有権を確保することを目指すことが一般的です。

そこで、ほとんどの会社は次で解説する共有物分割請求など、適法な手段での取得を目指します。

ただし、中には共有持分を有していることを理由に無断で敷地内に入り込んだり、昼夜を問わず電話をかけたりするなど、買取のために強引な手段に出る会社もないわけではありません。もちろん、たとえ共有者であっても住居や住居の敷地に無断で侵入する行為は違法である可能性が高いので、お困りの際は警察や弁護士へご相談ください。

共有持分を買い取った相手から共有物分割請求がなされる可能性がある

共有持分を第三者が買い取る場合、当然ながらボランティアで行っているわけではありません。一般的には、他の共有者からも持分を取得し、不動産の完全な所有権を取得したうえで売却したり賃貸したりすることで利益を得ることを目的としています。

そのため、共有持分を買い取った会社から、残った共有者に対して共有物分割請求がなされる可能性があります。

共有物分割請求とは、文字通り共有となっている不動産の分割(共有の解消)を請求することです。具体的には、共有持分を取得した会社から、残った共有持分の買い取りを持ちかけられることが一般的です。

共有物分割請求は、まず当事者同士の話し合いによって行われますが、話し合いがまとまらない場合は、調停や訴訟を提起される可能性が高いでしょう。

【令和5年4月施行】共有持分のある不動産全体を売却する方法

先ほど解説したとおり、共有持分だけの売却にはデメリットやリスクがあります。そのため、共有持分を有する者としては共有持分だけを売るのではなく、できるだけ不動産全体での売却を目指したいことでしょう。

では、共有となっている不動産全体を売却するには、どのような方法があるのでしょうか?ここでは、令和5年4月に施行された改正法を踏まえ、共有不動産全体を売却する方法を4つ解説します。なお、ABCの3名が、3分の1ずつの持分で不動産を共有していることを前提とします。

他の共有者と協力して全体を売却する

1つ目は、共有者全員が協力して売却する方法です。共有者全員であるABCが協力することで、不動産全体を売却することが可能となります。

他の共有者から持分を買い取ったうえで全体を売却する

2つ目は、他の共有者から持分を買い取ったうえで、不動産全体を売却する方法です。たとえば、AがBとCの持分を買い取ったうえで、Aの単独所有となった不動産をAが一人で売却する場合などがこれに該当します。

全員で協力して売却する場合とは異なり、単独所有となった不動産はAが一人で行うことができるため、売却条件や売却のタイミングなどはAが自由に決められます。

【改正】所在等不明共有者の共有持分の取得制度を活用する

3つ目は、「所在等不明共有者の共有持分の取得制度」を活用する方法です。この制度は、改正によって新たに誕生しました。

共有している不動産を売却したいにも関わらず、共有者(たとえば、C)が所在不明である場合、これまでも判決によって共有物分割をする方法はありました。しかし、この方法はすべての共有者を当事者として訴える必要があるなど、手続き上の負担が少なくありません。

新たに創設された所在等不明共有者の共有持分の取得制度では、裁判所の決定を得ることで、所在等不明共有者の不動産の持分を取得することができます。

たとえば、この手続きを使うことによって、AやBが所在不明であるCの共有持分を取得できるということです。その後は、AとBだけの判断で、不動産全体の売却を進めることができます。

なお、AやBがCの共有持分を取得するにあたっては、取得する持分の時価相当額を供託しなければなりません。

【改正】所在等不明共有者の共有持分の譲渡制度を活用する

4つ目は、「所在等不明共有者の共有持分の譲渡制度」を活用する方法です。この制度も、改正で新たに誕生しました。

これは、一つ上の「所在等不明共有者の共有持分の取得制度」とは異なり、所在不明であるCの持分をいったんAやBが取得するのではなく、所在不明であるCの共有持分を含めた不動産全体を、AとBだけの判断で売却できる制度です。

C不動産の売却先がすでに決まっているのであれば、購入者に直接名義変更ができるこちらの制度を選択することとなります。

共有持分が買取業者に売られた場合の対応方法

他の共有者が不動産の共有持分を買取業者に売ってしまった場合、どのように対応すればよいのでしょうか?ケースごとに解説します。

共有持分を手放したくない場合

共有持分を手放したくない場合は、不動産の共有持分を取得した買取業者から、共有持分を買い戻すことを目指します。

不当に高額な対価を請求されるなど交渉による買い取りが難しい場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起して解決を図ります。買取業者と自分で交渉することは容易ではないため、早期に弁護士へご相談ください。

共有持分を手放してもよい場合

共有持分を手放してもよい場合は、買取業者からの買取請求に応じることが有力な選択肢となります。

ただし、買取業者が提示する価格が、必ずしも正当な価格であるとは限りません。後悔しないためにも、買取業者の言い値で売却に応じるのではなく、相場を確認したうえで価格交渉をすることをおすすめします。

弁護士など外部の専門家に相談し、必要に応じて交渉の場に立ち会ってもらうことも検討するとよいでしょう。

不動産の共有持分を買い取る流れ

他の共有者が買取会社に共有持分を売ってしまうリスクを避けるため、共有不動産を使用している共有者は、他の共有者の持分を買い取っておくことをおすすめします。最後に、他の共有者の共有持分を買い取る流れを解説します。

他の共有者と話し合う

はじめに、他の共有者と話し合い、買取の交渉をします。この段階で、非常に低い買取価格を提示すれば、相手方が気分を害して交渉が難航してしまうかもしれません。

その不動産を今後も使用したいのであれば、あらかじめ正当な価格を調べたうえで、多少高めの価格を提示することも検討するとよいでしょう。

弁護士へ相談する

交渉がまとまらない場合や、他の共有者と連絡が取れない事情がある場合などには、不動産法務に強い弁護士へ相談します。弁護士へ相談することでその後の方向性が把握しやすくなるほか、依頼した場合は交渉や裁判手続きを任せることも可能となります。

共有物分割請求訴訟や所在等不明共有者の共有持分の取得制度などで解決をはかる

弁護士へ相談したうえで、そのケースに応じた具体的な解決手段を講じます。

たとえば、相手が法外な価格を提示するなどして交渉がまとまらない場合は「共有物分割請求訴訟」の提起、他の共有者が所在不明であれば「所在等不明共有者の共有持分の取得制度」の活用などです。

まとめ

不動産の共有持分の買い取りについて解説しました。

不動産は、共有持分だけであっても売買することができます。ただし、共有持分だけを買い取っても自由に使うことはできないため、売却先は他の共有者か、共有持分買取会社となることが一般的です。

第三者に対して共有持分を売却した場合、売却価格は低廉となる傾向にあります。また、持分を取得した買取会社から、残った共有者に強引な買取請求がなされてトラブルとなる可能性も否定できません。

不動産の共有持分の解消には、さまざまな手段があります。これまでであれば解決が難しかったケースでも、改正後の法令に照らせば活路が見いだせるかもしれません。

共有持分の買取や売却でお困りの際は、たきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。たきざわ法律事務所では不動産法務に力を入れており、共有持分にまつわるトラブルについても多くの解決実績がございます。

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この記事を書いた人

大手企業法務事務所にて勤務後たきざわ法律事務所を開設。多くの企業が抱える、①不動産案件(不動産事業者・不動産オーナー向け)、②労務トラブル、③IT・知財(著作権・不正競争防止法等)を専門とする。「攻めの法務戦略」により企業の利益を最大化するリーガルサービスを提供する。「堅苦しい」「フットワークが重い」そんな弁護士のイメージを根本から崩し、企業経営に寄り添った提案をすることをモットーとする。不動産オーナー、不動産事業者向けのYouTubeチャンネル「不動産価値向上チャンネル」にて情報配信も行う。

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