所有者不明土地とは?新制度を弁護士がわかりやすく解説

所有者不明土地

所有者不明土地の増加が社会問題となっています。所有者不明土地があると雑草が生い茂るなどして近隣住民が迷惑を被る可能性があるほか、災害復旧の妨げとなる可能性があります。

これを受け、所有者不明土地を増やさないための制度や所有者不明土地の利活用をしやすくするための制度などが創設されました。今回は、所有者不明土地の概要や所有者不明土地に関連して創設された施策などについて弁護士がわかりやすく解説します。

目次

所有者不明土地とは

所有者不明土地とはどのようなものを指すのでしょうか?初めに、所有者不明土地の概要を解説します。

所有者不明土地とは何か

所有者不明土地とは、所有者と容易に連絡を取ることができない土地の総称です。

前提として、土地所有者の氏名と住所は登記されています。そのため、その土地に関して伝えたいことが生じた際や、その土地に関して協議すべき事項が生じた際などは、その土地の全部事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せて所有者の住所氏名を確認し、そこに書状を送ったり訪ねたりすることで所有者と連絡が取れることが一般的です。

しかし、登記されている情報はその所有者が引っ越したり亡くなったりしても、自動的に書き換えられるわけではありません。また、たとえ住所変更や相続人への名義変更登記(「相続登記」といいます)などをしなくても罰則の適用などはありませんでした。

そのため、空き家の敷地や比較的価値の低い郊外の土地などを中心に、住所変更登記や相続登記などが放置されるケースが多発しています。このようなケースでは、全部事項証明書を取り寄せてそこに記載されている住所氏名宛に連絡をしても、土地所有者と連絡を取ることができません。このような土地を所有者不明土地といいます。

所有者不明土地は何が問題?

所有者不明土地から発生する問題は、非常に多岐にわたります。もっとも問題視されるのは、災害時の復興です。

復興事業を進めようにも、その地に所有者不明土地があると所有者との間で用地取得に関する協議をすることさえ困難となり、復興計画を変更せざるを得ない可能性があります。

また、国や県などが用地を取得して道路の建設などをしようにも、対象地に所有者不明土地があれば推し進めることが困難であり、計画を変更せざるを得ない事態となりかねません。

さらに、所有者不明土地は管理不全に陥っていることが多く、荒廃した建物が野生動物の棲み処となったり草木が生い茂り害虫が大量発生したりして近隣に迷惑が生じます。このような状況だと、隣地所有者が自身の土地を売ろうにも隣が所有者不明土地であれば買い手から敬遠される可能性もあるでしょう。

このように、所有者不明土地の存在は災害復興やまちづくりに多大な影響が及ぶほか、近隣住民が被る迷惑も無視できるものではありません。

所有者不明土地が生まれる主な原因

所有者不明土地はなぜ生まれるのでしょうか?先ほどの解説と重複する部分もありますが、改めてまとめて解説します。

  • 住所変更登記の放置
  • 相続登記の放置

住所変更登記の放置

1つ目の原因は、住所変更登記の放置です。登記された所有者住所に変更が生じても、変更に関する登記をしないことで、所有者の現在の住所がわからなくなります。

相続登記の放置

最大の原因とされているのは、相続登記の放置です。

登記された名義人が亡くなっても、その名義が自動的に相続人などへ変更されるわけではありません。土地の相続人などの名義に変えるためには、相続人全員が遺産分割の話し合い(「遺産分割協議」といいます)をして、その土地を誰が相続するのかを決めたうえで、登記申請を行います。

実際に相続人が居住中であるなど今後も使う予定がある不動産や、価値の高い都心の不動産などの場合、相続登記を済ませることが多いでしょう。なぜなら、登記をしないといざというときに自分の権利が主張できずトラブルとなる可能性があるほか、故人名義のままでは不動産を売ったり担保に入れたりすることもできないためです。

一方、たとえば亡くなった人(「被相続人」といいます)が先祖から受け継いだ価値の低い田舎の土地や山林などは、相続人にとっては有益であるどころか、管理の手間がかかるとして敬遠する可能性があります。

そのため、「押し付け合い」から相続争いとなるリスクを避けるため、遺産分割協議さえしないまま放置をしたり、引き継ぐ相続人までは決まっても費用や手間を厭い相続登記などをせず放置したりするケースが散見されています。中には、被相続人がその土地を所有していたことさえ知らず放置に至る場合もあるでしょう。

このような相続登記の放置が、所有者不明土地が生まれる大きな要因の1つであるとして指摘されています。

所有者不明土地対策で創設された主な制度

所有者不明土地対策で創設された主な制度は次のとおりです。それぞれの制度についてより詳しく知りたい場合や制度の活用をご検討の際には、たきざわ法律事務所までご相談ください。

  • 相続登記の義務化
  • 住所変更登記の義務化
  • 相続土地国庫帰属制度
  • 土地・建物に特化した財産管理制度
  • 共有制度の見直し
  • 遺産分割に関するルール

相続登記の義務化

2024年4月1日より、相続登記が義務化されます。

施行日以降は、相続により不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由がないにもかかわらず期限を超過した場合には、10万円以下の過料の適用対象となります。

なお、遺産分割協議がまとまらないことは3年を超えることの免責とはならないため注意が必要です。遺産分割協議が長引くなどして3年以内の相続登記が難しい場合には、「相続人申告登記」をすることで義務を果たしたこととなります。

相続人申告登記とは最終的なその不動産の取得者を登記するものではなく、自分が相続人の1人であることのみを申告的に登記する制度です。そのうえで、その後遺産分割協議が成立した場合には、成立から3年以内に改めて最終的な取得者に関する登記を申請することが求められます。

住所変更登記の義務化

2026年4月までには、住所変更登記が義務化されることとなっています。

改正後は、登記上の不動産所有者が住所を変更した場合、変更日から2年以内に住所変更登記の申請をしなければなりません。正当な理由がないのに義務に違反した場合には、5万円以下の過料の適用対象となります。

相続土地国庫帰属制度

2023年4月27日から、相続土地国庫帰属制度がスタートしています。相続土地国庫帰属制度とは、相続した「いらない土地」を国に引き取ってもらえる制度です。

これまでは不要な土地であっても、土地の所有権を単独で放棄する制度はありませんでした。今後は、たとえば遺産が自宅不動産と預貯金、不要なA土地である場合、このA土地のみを国庫に帰属させることが可能となります。

ただし、土地を国庫に帰属させるには一定の負担金を納める必要があるほか、建物が建っている土地など一定の土地は国庫に帰属させることができません。制度の利用をご検討の際には、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談ください。

土地・建物に特化した財産管理制度

土地・建物に特化した財産管理制度とは、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度です。

これまで存在した財産管理制度は、「人」単位でしかありませんでした。たとえば、A氏の所在が不明である場合において不在者管理人を選任した場合、A氏の所有する特定の土地建物のみではなく、A氏の財産をすべてまとめて管理する必要がありました。

一方、今回創設された土地・建物に特化した財産管理制度は、利害関係人が裁判所に申し立てることにより「その土地、その建物」のみを管理する管理人を選任することができる制度です。

また、裁判所の許可を得ることで、管理人は所有者不明土地の売却等もすることも可能になります。これにより、公共事業や民間取引の活性化にもつながるでしょう。

共有制度の見直し

土地全体の所有者が不明であるわけではなく、複数人で共有している土地の一部の共有者が所在不明となる場合もあります。共有となっている土地は、一部の共有者が単独で決められない事項も少なくありません。

たとえば、共有者の中から使用者を人に決めることなどの「管理行為」をするには、共有者が持つ持分の過半数による同意が必要です。また、共有である農地を宅地に造成するなどの変更行為では、共有者全員の同意を得なければなりません。

このような状況で一部の共有者の所在が不明になってしまうと、共有物でできることが非常に限られてしまいます。そこで改正により、一部の共有者が所在不明である場合は、他の共有者が裁判所に対し本人の同意に代わる決定を求められることとなりました。

また、裁判所の決定を得ることで、所在等が不明な共有者の持分を取得したりその持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりすることも可能です。

遺産分割に関するルール

被相続人に子が2人いる場合、2人の法定相続分は2分の1ずつです。

しかし、たとえば長男だけが生前贈与を受けていたり二男のみが長年被相続人の事業を無償で手伝ってきたりなど事情がある場合には、これらを加味して具体的な相続分を算定します。これらを「特別受益」や「寄与分」といいます。

しかし、相続が起きてから長期間が経過すると、特別受益や寄与分の証拠を揃えることは困難となるでしょう。そうなると争いがさらに長期化し、結果として土地の名義変更がされないままとなるおそれがあります。

そのため今回の改正により、被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、特別受益や寄与分を考慮しないこととされました。この改正は、2023年4月1日からすでに施行されています。

まとめ

所有者不明土地の存在は復興や公共事業の妨げとなる可能性があるほか、近隣の土地所有者にとって迷惑となる可能性があります。現時点で故人名義のままの土地を持っている場合、2024年4月1日に施行される相続登記の義務化に備え、早めに相続登記を済ませておきましょう。その土地が不要である場合、「相続土地国庫帰属制度」の利用も検討できます。

また、近隣に所有者不明土地がありお困りの際や、共有者が所在不明となってお困りの際には、新たな制度を使って解決できる可能性があります。

相続した土地の取り扱いにお困りの際やすでに発生した所有者不明土地についてお困り際などには、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。たきざわ法律事務所では土地トラブルの解決や予防に力を入れており、ご相談者様に寄り添った最適な解決プランをご提案致します。

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この記事を書いた人

大手企業法務事務所にて勤務後たきざわ法律事務所を開設。多くの企業が抱える、①不動産案件(不動産事業者・不動産オーナー向け)、②労務トラブル、③IT・知財(著作権・不正競争防止法等)を専門とする。「攻めの法務戦略」により企業の利益を最大化するリーガルサービスを提供する。「堅苦しい」「フットワークが重い」そんな弁護士のイメージを根本から崩し、企業経営に寄り添った提案をすることをモットーとする。不動産オーナー、不動産事業者向けのYouTubeチャンネル「不動産価値向上チャンネル」にて情報配信も行う。

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