たきざわ法律事務所

【2023/12施行】空家対策特別措置法の改正内容を弁護士がわかりやすく解説

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空家対策特別措置法が改正され、2023年12月に施行されました。

 

この空家対策特別措置法とはどのような法律なのでしょうか?

また、改正によってどのような点が変わったのでしょうか?

 

今回は、空家対策特別措置法の改正内容について、弁護士が詳しく解説します。

 

改正された「空家対策特別措置法」とは

 

空家対策特別措置法とは、正式名称を「空家等対策の推進に関する特別措置法」といい、空家等に関する施策の総合的かつ計画的な推進や、公共の福祉の増進と地域振興への寄与を目的とする法律です。

空家の増加が社会問題となっていることを受け、2014年11月27日に交付、2015年2月26日に施行されました。

 

空家対策特別措置法が改正された背景

 

今回、空家対策特別措置法が改正された背景には、使用目的のない空家が増加している現状があります。

使用目的のない空家は1998年に182万戸であったものの、その後2018年には349万戸へと急激に増加しました。

今後も増加の一途を辿り、2030年頃には470万戸程度になると推計されています。

 

参照元:空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(国土交通省)

 

そこで、一定の空家の除却(解体)の促進や、周囲に悪影響を及ぼす前の有効活用、適切な管理を総合的に強化する必要があることから、改正がされました。

空家対策特別措置法の改正法は、2023年12月13日に施行されています。

 

【2023年12月施行】空家対策特別措置法改正の概要

 

2023年12月13日に施行された空家対策特別措置法改正法では、どのような点が変更されたのでしょうか?

主な改正ポイントを4つ紹介します。

 

参照元:空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(国土交通省)

 

「空家等活用促進区域」の創設

 

1つ目は、「空家等活用促進区域」の創設です。

空家等活用促進区域とは、空家等の活用を特に促進する必要がある区域として、市区町村が定める区域です。

空家等活用促進区域では市区町村が活用指針を定め、次の許認可等を合理化・円滑化することが想定されています。

  • 接道規制の合理化

  • 用途規制の合理化

  • 市街化調整区域内の空家の用途変更

 

接道規制の合理化

建築基準法の規定により、原則として、敷地が2メートル以上一定の道路(幅員4メートル以上の道路)に接していないと、新たに建物を建築することができません。

一方で、既存の空家を活かしたリフォームやリノベーションは可能です。

 

これが、空家の除却等が進まなくなっている理由の一つとなっていると考えられます。

そこで、空家等活用促進区域においては安全確保策を前提に、前面道路の幅員が4メートル未満であっても建て替えや改築などが特例的に認定されることとなります。

 

用途規制の合理化

 

用途地域とは、その地域に建築する建物の用途を制限する規定です。

たとえば、いわゆる閑静な住宅街である第1種低層住居地域である場合、店舗などを建てることができません。

つまり、仮に空家を古民家カフェなどとしようにも、その空家がある場所の用途地域によってはこれが認められなかったということです。

 

そこで、空家等活用促進区域においては空家の利活用を促進するため、用途地域によって制限された用途であっても、指針に定めた一定の用途への変更が特例的に許可されることとなります。

指針は、市区町村が特定行政庁の同意を得て制定します。

 

参照元:用途地域による建築物の用途制限の概要(東京都都市整備局)

 

市街化調整区域内の空家の用途変更

 

市街化調整区域とは、市街化を抑制する地域です。

この地域に建てられる建物は厳しく制限されており、空家の用途を変更する際にも都道府県知事などによる許可が必要となります。

そのため、空家を店舗などに用途変更することも、容易ではありませんでした。

 

そこで、空家等活用促進区域においては空家の利活用が進むよう、用途変更許可の際に指針に沿った空家活用が進むよう知事が配慮することとされています。

 

参照元:みんなで進めるまちづくりの話(国土交通省)

 

官民連携の拡大

 

2つ目は、官民連携の拡大です。

 

市区町村がNPO法人や社団法人等を「指定空家等管理活用支援法人」として指定し、この指定空家等管理活用支援法人が次のことなどを行うことが想定されています。

  • 所有者や活用希望者への普及啓発・情報提供

  • 所有者に寄り添った相談対応、委託に基づく空家管理(市区町村が本人同意を得て法人に所有者情報を提供)

  • 委託を受けて所有者の探索

  • 市区町村に財産管理制度の利用を提案

 

また、電力会社等にある所有者情報を市区町村が提供要請し、これにより空家の所有者を円滑に把握する取り組みも検討されています。

 

特定空家への早期介入制度の創設

 

3つ目は、特定空家への早期介入制度の創設です。

 

特定空家とは、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」です(空家対策特別措置法2条2項)。

 

また、管理不全空家とは、適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれのある状態にある空家を指します(同13条1項)。

 

所有者に代わって建物の管理や処分を行う「管理不全建物管理人」の選任申立ては、民法の規定では利害関係人にのみ認められています。

の選任請求権を市区町村に認めることとなりました。

これにより、相続放棄された空家などへの対応がしやすくなります。

 

特定空家の除却等の円滑化

 

4つ目は、特定空家の除却などの円滑化です。

 

空家が危険な状態にある場合、従来から行政による代執行(所有者の代わりに空家を取り壊すこと)が認められています。

ただし、行政が代執行をするためには原則としてまず所有者などに対して相当の猶予期限を付けたうえで命令などを出す必要があり、すぐに代執行をすることはできませんでした。

 

改正により、屋根が崩落しかけており危険な状態であるなど緊急時においては命令などを不要とする「緊急代執行制度」が新たに創設されています。

代執行は行政が費用を負担してくれるのではなく、行政が建て替えた費用を後から所有者に対して請求する仕組みです。

 

この請求について、以前は所有者が不明であるなどの理由から略式での代執行を行う場合、差し押さえなどに先立って費用を所有者に負担させるための確定判決を取る必要があるとされており、手続きの負担が重くなっていました。

改正により、略式の代執行や緊急代執行の場合であっても所有者に対する請求後は直ちに強制執行をすることが可能となり、費用の回収が以前よりもスムーズとなります。

 

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空家に関連するその他の主な措置

 

国は空家の増加を問題視しており、今回の改正で設けられたもの以外にもさまざまな対策を講じています。

ここでは、空家に関連するその他の主な措置を3つ紹介します。

 

固定資産税の住宅用地特例の解除

 

住宅用地である場合は、固定資産税の課税標準(固定資産税を課すための評価額)が次のように軽減されています。

 

  • 200㎡以下の部分:6分の1に減額

  • 200㎡超の部分:3分の1に減額

 

つまり、建物がない更地と建物がある土地とでは、固定資産税に最大6倍の差が生じることとなります。

このことから、固定資産税の軽減措置の適用から外れて固定資産税が6倍(200㎡超の部分は3倍)になることを避けたい所有者が、老朽化した空家をあえて取り壊さずに残しているケースが散見されていました。

 

そこで、市区町村長から勧告を受けた特定空家や管理不全空家については固定資産税の住宅用地特例が解除され、たとえ建物が残っていても固定資産の軽減が受けられないこととされています。

これにより、老朽化した空家を放置することにインセンティブが働いてしまう事態を防ぎ、空家の土地壊しを促進する効果が期待されます。

 

相続空家の譲渡所得の3,000万円特別控除

 

不動産を売却して譲渡益が生じると、この譲渡益に対して譲渡所得税がかかります。

譲渡所得税は、原則として次の式で算定されます。

 

  • 課税譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

  • 譲渡所得税額=課税譲渡所得金額×税率

 

譲渡所得税は売却価格(収入金額)に対してそのまま課税されるのではなく、そこから取得費(その不動産の取得に要した費用など)を控除した残額が課税対象となるため、よほど急激に値上がりした不動産などない限り、さほど高額とならないことも少なくありません。

 

しかし、相続した空家などでは取得費がわかる資料が残っていないことも多く、この場合は「収入金額×5%」しか取得に計上できないこととされています。

そのため、結果的に譲渡所得税が高額となり、売却を控えて放置されるリスクが考えられます。

 

そこで、相続を機に空家となった建物やその敷地を売却する場合、一定の要件を満たすことで最大3,000万円の特別控除が受けられる特例が設けられています。

たとえ取得費のわかる資料が残っていなくても、この特例の適用を受けることで譲渡所得税を大きく抑えることが可能となります。

 

ただし、特例の適用を受けるためにはさまざまな要件を満たす必要があるため、売却前に税理士などの専門家へご相談ください。

 

フラット35地域連携型の金利引き下げ

 

フラット35地域連携型とは、住宅金融支援機構と地方公共団体の連携による住宅ローンの融資制度です。

このフラット35地域連携型では空家の取得や改修を対象とした住宅ローンの金利引下げを行っています。

具体的には一定の要件を満たした場合、当初10年間の金利が0.25%引き下げられます。

 

管理不全空家を生まないための対策

 

管理不全空家を生んでしまわないためには、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

最後に、管理不全空家を生じさせないための対策を3つ紹介します。

 

相続登記を放置しない

 

1つ目は、相続登記を放置しないことです。

 

相続登記とは、故人名義の不動産を、相続人など存命の人の名義へと変える手続きです。

相続登記を放置すると、時間が経つことで相続人が死亡したり認知症となったりして、関係者が増えていく傾向にあります。

 

結果的に相続登記のハードルが高くなり、相続登記が事実上困難な状態となりかねません。

これにより、空家に関する責任の所在があいまいとなって誰も管理しなくなり、管理不全空家となるリスクがあります。

 

このような事態を避けるため、相続が起きたらできるだけ早期に相続登記を済ませておくようにしてください。

 

早期の売却を検討する

 

2つ目は、空家となった時点で早期の売却を検討することです。

 

一般的に、建物は使用しない期間が長くなるほど劣化が進行します。

「いつか使うかも」などといって漫然と所有し続けているとその期間にも劣化が進み、大きく手を入れなければ使えない状態となる可能性が否定できません。

 

そのような建物は、いずれ所有者も高齢となって管理が難しくなり、管理不全空家となるおそれがあります。

このような事態を避けるため、空家を所有することとなった場合は、早期の売却を検討するようにしてください。

 

弁護士へ相談する

 

3つ目は、空家の活用や売却について何らかのハードルがある場合、早期に弁護士へ相談することです。

 

一人で長期間悩んでいて解決できなかった問題でも、不動産法務に詳しい弁護士へ相談することで解決の糸口が見つかるかもしれません。

早期に弁護士へ相談して問題の解決を図ることで、管理不全空家となる事態を防ぎやすくなります。

 

最適解を提案します

 

 

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まとめ

 

空家の増加が社会問題となるなか、空家対策特別措置法の改正法が2023年12月に施行されました。

 

改正法では、空家を活用しやすくなる制度や自治体が早期に介入しやすくなる制度、代執行の円滑化を図る制度などが創設されています。

所有している建物が管理不全空家や特定空家となると周囲に迷惑をかける恐れがあるほか、固定資産税の軽減措置の適用対象から外れたり代執行による解体されたりする可能性があります。

 

そのような事態を防ぐため、空家は早期に売却したり適切に相続登記をしたりして、管理不全空家の発生を防ぎましょう。

空家の相続登記や売却において何らかのハードルがある場合は、弁護士へ相談して解決を図るとよいでしょう。

 

たきざわ法律事務所では不動産法務に力を入れており、空家にまつわる解決事例も数多く蓄積しています。

空家の活用や家の相続などでお困りの際は、たきざわ法律事務所まで、まずはお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

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