たきざわ法律事務所

YouTubeの字幕は言語の著作物か?

1.はじめに

動画配信・閲覧サービスで動画の内容を紹介するテロップ(字幕)の文面をブログサイトに無断で転載する行為が、著作権の侵害に当たるかどうかが争われた発信者情報開示請求訴訟(以下、「本件」)で、大阪地裁は字幕を「言語の著作物」と認定し、著作権を侵害する判決を言い渡しました。
判決文
別紙
本コラムでは、本件の論点のうち、著作権侵害の該当有無に関する部分について詳細を解説します。

2.言語の著作物について

本題に入る前に、今回問題となった「言語の著作物」について簡単に説明したいと思います。
「言語の著作物」は、思想又は感情が言語若しくはそれに類する表現手段により表現された著作物をいいます。著作権法上は、小説・脚本・論文・講演の4つが例示されています(著作権法10条1号)が、この他にも、詩・短歌・俳句等も言語の著作物になり得ます。言語の著作物であるためには、必ずしも文書として有形的に作成されている必要はなく、スピーチや講演のように口頭で無形的に作成されるものも言語の著作物になり得ます。このように、言語の著作物には多種多様なものが含まれ、その範囲は非常に広いものとされています。
以下では、その中で論点となるものについて紹介していきます。

● キャッチフレーズ・標語・スローガン
これらの短い文章は、不可避的表現あるいはありふれた表現として創作性が否定される傾向にあります。しかし、優れた俳句のように短い文章であっても創作性が肯定されるケースもあるので、単に短いという理由だけでは創作性を否定することはできず、それに準じた創作的表現があれば著作物になり得ます。

● 新聞記事
著作権法では、「事実の伝達に過ぎない雑報及び時事の報道」は言語の著作物に該当しないと規定されています(著作権法10条2項)。その意味するところは、死亡記事や人事異動記事等のように誰が書いても同じになる事実の忠実な報道は、思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)とはいえないということです。
本規定との関係で、上記の報道の一種である新聞記事の著作物性も問題となります。

①新聞紙面に掲載される個々の記事
新聞紙面に掲載される個々の記事については、通常は、創作者である新聞記者の個性が発揮されているとして著作物性を有するものと解されています。

②新聞記事の見出し
新聞記事の見出しについては、その性質上、表現の選択の幅が狭く、創作性を獲得することは困難であることから著作物性を有しないものが殆どであると解されています。

③新聞紙面の構成
新聞紙面の構成については、紙面に盛り込む素材を選択し、配列し、創作的に表現したものであるので編集著作物(著作権法12条1項)になり得るとされています。

● 歴史的事実・現代の社会事実・自然界の事実に関する文章等
こうした事実は、誰でも利用可能なものであって、独占適応性に乏しいことから著作権法の保護対象とはなりません。ただし、著作権法の保護対象から除かれるのは、あくまでもこれらの事実であって、これを具体的に表現したものであれば著作物になり得ます。例えば、事実について述べた文章であっても、表現された結果、創作者の個性が現れていれば言語の著作物になります。

【参考文献】
岡村久道「著作権法 第5版」(2021、民事法研究会)53〜55頁
高林龍「標準著作権法 第4版」(2019、有斐閣)33〜40頁
中山信弘「著作権法 第3版」(2020、有斐閣)95〜98頁
作花文雄「詳解著作権法 第5版」(2018、ぎょうせい)85頁

では、これらのことを踏まえたうえで本件の判決内容を見ていきましょう。

3.事案の概要

本件は、氏名不詳者(以下、「本件投稿者」)が、原告の創作した動画テロップ(以下、「本件テロップ」)を、被告の管理するサーバーを通じて、ブログサイトに無断転載したとして、著作権侵害を理由に、被告に対しプロバイダ責任制限法※ 4条に基づく各種情報の開示を求めた事案(本件は著作権侵害訴訟ではなく、発信者情報開示請求訴訟)です。

※プロバイダ責任制限法
正式には、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」をいいます。この法律は、特定電気通信による情報の流通(掲示板、SNSの書き込み等)によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等)の損害賠償責任が免責される要件を明確化すると共に、プロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利を定めたものです。

● 原告
動画配信・閲覧サービスにおいて、「感動アニマルズ」との名称の動画チャンネル(以下、「本件チャンネル」)を運営し、配信を行う者。

原告は、令和2年6月5日、本件チャンネルに「幼いライオンを救った男性。 野生に戻した1年後の再会に涙が溢れる【感動】 」と題する動画(以下、「本件動画」)を投稿し、公開しました。
本件動画は、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー、BGM、本件テロップ及びこれを朗読したナレーションによって構成されています。

● 本件投稿者
本件投稿者は、令和2年7月27日、「人生を楽しむブログメディア楽蔵 -raku-zo-【らくぞー/ラクゾー】」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)に別紙投稿記事目録記載の記事(以下、「本件記事」)を投稿しました(以下「本件投稿」という。)。

● 被告
電気通信事業等を目的とする株式会社

4.主な争点

● 本件テロップの著作物性の有無
著作物性の有無は、以下の4要件を満たすか否かにより判断されます。4要件全て満たせば著作物性は肯定され、一つでも欠けば著作物性は否定されます。
1) 思想又は感情を含むこと
2) 創作的であること
3) 表現したものであること
4) 文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものであること

詳しくはこちらのコラム を参照下さい。

● 著作権侵害の成否
著作権侵害の成否は、A:依拠性とB:同一性・類似性により判断されます。
A. 依拠性
依拠性は、類似の程度や創作性の高低等をもとに総合的に判断されます。

B. 同一性・類似
同一性・類似性は、両作品を比較して被告作品から原告作品の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか否かににより判断されます。

詳しくはこちらのコラム を参照下さい。

5.裁判所の判断

● 本件テロップの著作物性の有無
裁判所は、つぎの1)〜3)を根拠に、本件テロップは、作成者である原告の思想及び感情を創作的に表現したものであるから「言語の著作物」に該当すると判示しました。

     1) 本件テロップは、本件動画の内容を正しく把握するという意味で、本件動画の他の構成部分と比較して重要な役割を担っていること
2) 本件テロップの内容は、動画内で起こる一連の出来事に関し、推察される各主体の心情等を交えて叙述したものであること
3) 本件テロップは、動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体や表現の手法等を選択すると共に、構成や分量等を工夫して  作成されたものであること

 

● 著作権侵害の成否
裁判所は、著作権侵害の成否を判断するにあたり、本件テロップと本件記事の各内容との比較を行いました。その結果、本件記事は記事中に本件動画が埋め込まれていることや、本件テロップと完全に一致する表現が多数含まれていると指摘しました。他方で、形式上の微細な相違部分といえない相違部分も存在するとしましたが、これらの相違部分についても、本件テロップの表現の僅かな修正・要約・前後の入れ替え等にとどまり、実質的にはほぼ同一の内容を表現したものであるとしました。
これらのことに鑑みて、本件記事は本件テロップに依拠したものであり、本件テロップの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められることから、本件投稿は原告の本件テロップに係る複製権又は翻案権を侵害すると結論付けました。
なお、原告の発信者情報開示請求も認容されています。

6.さいごに
動画のテロップが著作物として認められ、著作権侵害が肯定された判決について解説しました。別紙に掲載されている本件記事を見ていただくとわかるかと思いますが、本件記事は、(本件動画を紹介するというたてつけですが、)本件テロップに類似する文章と本件動画のキャプチャ画像を掲載しており、実質本件動画をそのまま記事化したものといえます。このようなケースでは、著作権侵害が肯定される可能性は高いと考えられます。
動画をそのまま転載する形式でなかったとしても、第三者の著作物を無断で利用する際には、今回のように著作権侵害になるリスクがあることは理解しておくべきでしょう。
一方で、テロップが全て言語の著作物として保護されるわけではないと思われますし、著作権侵害についても、記事の内容とテロップの相違点が大きい場合には、著作権侵害が否定されるケースもあるのではないかと思われます。
このあたりはケースバイケースになりますので、お困りの方は是非弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
 

 

 

 

 

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サンカラ

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