たきざわ法律事務所

著作物とは

この記事を書いた弁護士は…

 

はじめに

前回の最後の方で、知的財産法は「産業の発達」を目的とする「産業財産権法」と、「文化の発展」を目的とする「著作権法」との2つに大別されるとお話ししましたが、第二回以降は、そのうち文化の発展を目的とする「著作権法」について、それぞれテーマを設定し、数回に分けてコラムを掲載していきたいと思います。

 

そして、第二回の今回のテーマは著作権法上の保護対象である「著作物」です。

 

ここで、本題に入る前に、今回のテーマを「著作物」とした理由について説明します。

 

著作物を創作したときに「著作権」という権利が発生することは前回もお話ししましたが、この著作権という権利は、ざっくり言うと、著作権をもっている人(著作権者)が他人に著作物を無断で利用されない権利を意味します。言い換えると、他人に著作物を無断で利用された場合に、著作権者が文句を言うことができる権利になります。

 

このことから、著作権はあくまでも著作物に関してのみ主張することのできる権利で、著作物でないものに関しては主張することはできないということが分かります。つまり、あるものが著作物であるか否かは、著作権を主張することができるか否かに直結する問題なのです。そういった意味で、著作物とは一体何かということをきちんと理解することは非常に重要です。

 

そこで、著作権法についての第一弾となる今回は、著作権法における保護対象である「著作物」をテーマに設定し、条文上の定義や例示から実際の具体例までみていくことで、世の中にある沢山の情報から著作物を見分ける力を身につけていただきたいと思います!

著作物の定義

少し前置きが長くなりましたが、早速、著作権法における「著作物」の定義から見ていきましょう。

 

著作権法2条1項1号で著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するのもの」と定義されています。

 

条文の字面だけみるとやや難解かもしれませんが、この条文は以下の(A)~(D)の構成要素に分解して理解することができます(図1)。

 

つまり、この(A)~(D)の構成要素はそれぞれ著作物に該当するための要件(著作物性の要件)であって、この4要件全てを満たしてはじめて著作物として認められることになります。逆に言うと、この4要件のうち一つでも満たさない場合は、著作物とはいえず著作権法で保護されません。

 

それでは、(A)~(D)の構成要素についてそれぞれ具体的に見ていきましょう。

 

図1著作物の定義

(A) 思想又は感情を含むこと

まず、著作物は「思想又は感情」を含んでいなければいけません。

 

「思想又は感情」は、特に思想と感情を区別する必要はなく、“人間の精神活動全般”を意味すると解されています。

 

このことから、人間以外のもの、たとえばチンパンジーが勝手に描いた絵は著作物にならないことになります。ただし、人がチンパンジーに筆とキャンバスを与え、指示をして描かせた結果のものであるとするならば、著作物であるとも解せられます。

 

では、ここでクイズです。

 東京都八王子市にある多摩動物園のホームページに記載されている「現在飼育している動物は、300種を超えます。」という文は著作物といえるでしょうか?

 

答えはNOです。その理由ですが、これは人が創作した文ではありますが、それ自体は単なる事実を述べたものに過ぎず、創作者の思想や感情を一切含んでいないからです。

 

したがって、著作物に該当しないこの文は誰でも自由に利用することができます。

 

このように、本要件は単なる事実やデータそれ自体を、著作物の概念から除外して保護の対象外とする機能をもっています。

(B) 創作的であること

つぎに、著作物は、「創作的に」表現したものでなければいけません。これを創作性といいます。

 

「創作性」の概念については、従来は必ずしも高度なもの・独創性や芸術性のあるものである必要はなく、創作者の何らかの個性が表現さていることで足りるとされてきました(東京高判昭和62.2.19「当落予想表事件」)。

 

しかし近年、著作物の種類の多様化に伴い、権利者へのインセンティブと他者の情報の利用の自由との調和点を探るという観点から、「表現の選択の幅」と捉えるべきという見解が有力となってきています。つまり、なんらかの個性が表れている場合であっても、表現方法に選択の幅がない場合は、著作物として認められません。

 

では、ここでまたクイズです。

 2020年上半期インスタ流行語対象にノミネートされた「ぴえん超えてぱおん」という流行語は創作性があるといえるでしょうか?

※ちなみに、「ぴえん」は可愛らしく泣いている様をいい、「ぴえん」の上位互換でさらに強調したい時に使うのが「ぱおん」です。つまり、「ぴえん超えてぱおん」はより激しく泣いている様を表現したものになります。

確かに、この流行語は使うシチュエーションによって価値が生みだされるものではありますが、このような短いフレーズは、表現の幅に制約があり、誰が表現しても同じようになることから、創作性があるとはいえません。

(C)表現したものであること

つづいて、著作物といえるためには「表現したもの」でなければいけません。

つまり、頭の中で作品のイメージ、言い換えると思想・感情をどういった形で表現するかについて「アイディア」としてあれこれ膨らませていただけではダメで、それを現実に文章やイラスト、楽曲、映像といった形で外部に「表現」してはじめて著作物としての資格を得ることができることになります。

なお、著作物は表現したものでなければならないということの帰結として、ある抽象的な思想・感情やアイディアを文章やイラスト等として具体的に表現した場合、著作物として保護されるのはあくまでも文章やイラスト等といった具体的な「表現」であって、その表現の元になっている抽象的な思想・感情やアイディアは著作物として保護されません。

このように、本要件はアイデア等の思想・感情そのものを保護対象から排除する機能をもっています。

(D)文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものであること

最後の要件は「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」であることです。

本要件は高度な芸術的・学問的価値や経済的価値を要求しているものではなく、著作者の知的活動の現れであるか否かを求めているに過ぎません。

したがって、どんなに技術的、実用的に優れた作品であってもそれが文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属さない工業製品(実用品)であれば、著作物とは言えないということになります。

一般の著作物&特殊な著作物

一般の著作物

前章では、著作物の定義についてざっくりみてきましたが、まだまだ著作物というもののイメージが湧かないという人も多いのではないでしょうか?

そこで、これをさらに明確にするため、著作権法では、次の表1に掲げる著作物の種類を例示しています(10条1項各号)。

表1 著作物の例示(10条1項各号)

ただし、これはあくまでも著作物性の4要件(前章参照)全てをクリアしていることが前提となります。言語の著作物を例にすると、ブログの本文は言語の著作物ですが、ブログのタイトルについては、表現方法の選択の幅が狭いという理由で要件(B)を満たさないことから、言語の著作物とはいえないということになります。同様に、写真の著作物ですと、インスタグラムにアップされているような、工夫を凝らして撮影された、いわゆる”映え”写真と呼ばれるものは写真の著作物ですが、ゲームセンター等に設置されているプリントシール機で撮影されたプリクラは機械による自動撮影であって、要件(A)を満たさないことから、写真の著作物とはいえません。

また、表1では計9種の著作物の種類を例示していますが、その性質上複数にまたがるような著作物も存在します。たとえば、作詞家によって創作される歌詞は言語の著作物と音楽の著作物の二面性を有します。

なお、表1に関してはあくまでも著作物の種類の”例示”に過ぎないので、いずれにも含まれないからといって、必ずしも著作物として認められないというわけではありません。

特殊な著作物

さらに、著作権法では、10条に規定される著作物の種類とは別に「特殊な著作物」として二次的著作物(11条)、編集著作物(12条)、及びデータベースの著作物(12条の2)について規定を置いています。

では、この3種類についてもさくっとみていきましょう。

二次的著作物

二次的著作物とは、基となる著作物(原著作物)に変更等を加えて、新たに創作された別の著作物をいいます。

著作権法では「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作された著作物をいう。」と定義されています(2条1項11号)。

その具体例として、翻訳された書籍、小説を映画化したもの、既存の楽曲を編曲したものが挙げられます。

編集著作物

著作権法では、「編集物(データベースに該当するものを除く)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定められています(12条1項)。

その具体例として、新聞、雑誌、百科事典、詩集、論文集等の編集物が挙げられます。

データベースの著作物

著作権法では、「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定められています(12条の2の1項)。

つまり、情報の集合体で、その情報をパソコン等で検索できるように体系的に構成されたものを指します。

その具体例として、百科事典、新聞、雑誌、詩集等の編集物で、パソコン等で検索できるものが挙げられます。

具体例〜実際の裁判例から〜

さて、ここまで著作物の条文上の定義や例示についてみてきましたが、ここからはさらに応用編として、実際の裁判において著作物として認められたものとそうでないものとをみていくことで、著作物性のイメージを掴んでいただきたいと思います。

なお、画像はすべて裁判所HPからの引用となります。

著作物だと裁判所が判断した表現

《短文、キャッチフレーズ、あいさつ文等》

「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」(交通標語。東京地判平成13.5.30「交通標語事件」)
「朝めざましに驚くばかり」「志賀直哉もガーナチョコレートを食べたい」(古文単語の語呂合わせ。東京地判平成11.1.29「古文単語語呂合わせ事件」)
「あたたかいご声援をありがとう。昨今の日本経済の下でギアマガジンは、新しい編集コンセプトで再出発を余儀なくされました。皆様のアンケートでも新しいコンセプトの商品情報誌をというご意見をたくさんいただいております。ギアマガジンが再び店頭に並ぶことをご期待いただき、今号が最終号となります。長い間のご愛読、ありがとうございました。」(雑誌の休刊挨拶。東京地判平成7.12.18「ラストメッセージ in 最終号事件」)

商品写真

(東京地判平成27.1.29「IKEA事件」)

ピクトグラム

(大阪地判平成27.9.24「ピクトグラム事件」)

商業広告

(大阪地判昭和60.3.29「商業広告事件」)

地図

(東京地判平成13.1.23「ふぃーるどわーく多摩事件」)

家具(幼児用イス)

(知財高判平成27.4.14「TRIPP TRAPP事件」)

書道家の広告用の書

(大阪地判平成11.9.21「装飾文字『趣』事件」)

著作物でないと裁判所が判断した表現

短文、あいさつ文等

  • 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ英語がどんどん好きになる
  • ある日突然、英語が口から飛び出した!

(英会話教材のキャッチフレーズ。東京地判平成27.3.20「スピードラーニング事件」)

 

  • 「ゆううつな井伏氏」「坂下かしこい」「ナオコがやはり一番サ!」「不吉なコーヒーUCC。立派なコーヒーUCC」(古文単語の語呂合わせ。東京地判平成11.1.29「古文単語語呂合わせ事件」)

 

  • 「マナー知らず大学教授 マナー本海賊版作り販売」(記事の見出し。知財高判平成17.10.6「YOL事件」)

 

  • 「いつも『なかよしデラックス』をご愛読いただきましてありがとうございます。『なかデラ』の愛称で15年間にわたって、みなさまのご声援をいただいてまいりましたが、この号をもちまして、ひとまず休刊させていただくこととなりました。今後は増刊『るんるん』をよりいっそう充実した雑誌に育てていきたいと考えております。『なかよし』本誌とともにご愛読くださいますようお願い申し上げます。なかよし編集部」(雑誌休刊挨拶。東京地判平成7.12.18「ラストメッセージ in 最終号事件」)

 

コンタクトレンズのチラシ

(大阪地判平成31.1.24「コンタクトレンズ販売チラシ事件」)

 

ビジネスモデル図

(東京地判平23.4.10「バイナリーオートシステム事件」)

 

地図

(東京地判平成13.1.23「ふぃーるどわーく多摩事件」)

 

ゴルフシャフトのデザイン

(知財高裁平成28.12.21「ゴルフシャフトデザイン事件」)

 

ロゴマーク

(東京高判平成8.1.25「『Asahi』ロゴマーク事件」

 

書体

(東京地判平成5.4.28「岩田書体事件」)

 

建築物

(大阪高判平成16.9.29「グルニエ・ダイン事件」)

最後に

今回のコラムでは、「著作物とは何か?」について解説してみました。少し難しかったかもしれませんが、思った以上にみなさんの身の回りにあるものが著作物だらけであることがお分かりいただけましたでしょうか。第三者が保有するコンテンツを利用する際にも、「これが著作物かどうか」を理解できているとスムーズにコンテンツを利用することができます。

 

一方で、裁判例を見ていただくとわかるように「著作物」と「著作物じゃないもの」の境目は非常にあいまいです。迷うようなケースが出てきた場合には、是非専門家にご相談ください。
たきざわ法律事務所では、弊所をご利用いただいているお客様の申請の際にお力になれるよう、日々最新の情報を収集しメールマガジン等でもご共有させていただいております

 

次回は、「この著作物に対して権利者は具体的にどのような権利を持っているのか」について解説していきます。

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…