不動産投資は「節税」になる?ならない?仕組みと効果をわかりやすく解説
不動産投資が節税になると言われることがありますが、それはなぜでしょうか?今回は、不動産投資が節税となる仕組みや不動産投資による節税の注意点などについて詳しく解説します。
不動産投資で所得税が節税できる仕組み
はじめに、不動産投資による所得税の節税について解説していきましょう。
所得税とは、毎年1月1日から12月31日までの所得(儲け)に対してかかる税金です。所得はその性質から「給与所得」「事業所得」「一時所得」など10種類に分類され、それぞれについて異なる計算方法が定められています。
不動産投資による所得は通常、このうち「不動産所得」に該当します。
減価償却費が経費になる
不動産所得は、次のように計算します。
不動産所得の金額=総収入金額-必要経費
「総収入金額」とは、その不動産から得られる賃料などです。
一方、「必要経費」とは賃料などの収入を得るためにかかった費用であり、たとえば次のものが該当します。
固定資産税
損害保険料
減価償却費
修繕費
自分や家族で使うための建物であっても、収益を得るための投資用不動産であっても、資産となる点は同様です。しかし、自分や家族で使うための建物の購入費は、経費にすることはできません。
一方で、収益不動産のうち建物の購入費は減価償却の対象となり、毎年の経費として計上できます。減価償却とは、不動産のうち建物部分の経過年数にともない、分割して費用を計上する仕組みです。
たとえば、建物部分を3,000万円で購入した場合、この3,000万円を一括でその年の経費にしてしまうことには違和感があるのではないでしょうか?建物は購入後数十年にわたって存在し、毎年の収益を得るために必要となるためです。
そのため、建物など数年以上にわたって利用価値のある資産は、購入費を一括で経費にするのではなく、建物の価値低下と連動するように、数年にわたって少しずつ経費にしていくこととなっています。これが、減価償却です。
経費が増えればそれだけ所得が減ることとなり、所得税を減らすことが可能です。こうした点から、収益不動産が節税になるといわれる場合があります。
赤字になれば損益通算できる
所得は原則として、それぞれの種類ごとに計算をします。しかし、一部の所得で生じた赤字は、他の所得の黒字からマイナスすることが可能です。これを、「損益通算」といいます。
不動産所得は、損益通算が可能な所得の一つです。そのため、たとえば他に「給与所得」のある人が不動産投資で赤字になった場合、不動産投資による「不動産所得」の赤字を給与所得の黒字から差し引き、給与からの源泉徴収で納めすぎた税金の還付を受けることができます。
ただし、土地の購入にかかった借入金の利子分は損益通算の対象とならないとか、令和3年以後の各年において国外中古建物の不動産所得を有する場合の損失については損益通算の対象とならない、などのルールがあり、すべての赤字が他の所得から差し引けるわけではないことには注意が必要です。
不動産投資で相続税が節税できる仕組み
次に、相続税の節税について解説します。
相続税とは、亡くなった人(「被相続人」といいます)が亡くなった時点で持っていた財産などに対してかかる税金です。原則として、被相続人の持っていた財産のボリュームが多ければ多いほど、相続税は高くなります。
不動産投資によって相続税が節税できるといわれることがありますが、その理由は次のとおりです。
預貯金とマンションではマンションのほうが評価が低い
預貯金であってもマンションであっても、被相続人が亡くなった時点で持っていた財産は、原則としてすべて相続税の対象となります。
しかし、5,000万円で購入したマンションが、相続税の計算上5,000万円で評価されることはほとんどありません。築年数や購入時期などにもよりますが、おおむね購入価格の7割程度以下で評価されることが多いでしょう。
そのため、預貯金のままで財産を保有しているよりも、預貯金を使ってマンションを取得したほうが、相続税が安くなりやすいといえます。
マンションの評価額は年々減少する
建物は、建てた時から年々劣化していきます。そのため、マンションのうち建物部分の評価額は、年々低下することが一般的です。
こうしたことから、マンションの購入から年数が経過すれば経過するほど相続税計算上の評価額が下がり、相続税も安くなる傾向にあります。
賃貸マンションはさらに低く評価される
たとえ自己の居住用などのマンションであったとしても、先ほど記載したとおり、購入金額そのままで評価されることはほとんどありません。
これに加え、そのマンションを他者へ賃貸している場合には、さらに評価額が減額されます。他者へ貸している以上、自由な利用が制限されているためです。
自用の場合と比べた場合の賃貸マンションの具体的な計算方法は、マンションの敷地である土地と建物部分のそれぞれで次のとおりです。
- 土地:自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合(※1)
- 建物:自用建物としての価額-自用建物としての価額×借家権割合(※2)
借家権割合は、日本のほとんどの地域で30%です。借地権割合は地域によって異なり30%から90%のうち10%刻みで定められていますが、50%または60%の地域が多く、都心に行くにしたがって割合が高くなる傾向にあります。
不動産のある地域の借地権割合を知りたい場合には、国税庁が公表している路線価図で確認することが可能です。
ローンを組めば債務控除の対象になる
不動産投資をする際には、全額をキャッシュで購入するのではなく、ローンを組むことが少なくないでしょう。相続が起きた時点でローン残高が残っていた場合には、残ったローンの金額分をプラスの相続財産総額から控除して相続税を計算することが可能です。
これにより、さらに相続税が抑えられることとなります。
不動産投資による節税の注意点:維持管理編
ここまでお伝えしたとおり、確かに不動産投資を活用すれば所得税や相続税が節税できる可能性が高いでしょう。しかし、そうであるからといって安易に不動産投資を始めることはおすすめできません。
なぜなら、不動産投資による節税には、注意点やデメリットも少なくないためです。まずは、維持管理に関する注意点について解説します。
赤字になれば節税にはなるが資産の目減りにつながる
不動産投資による収支が赤字となれば、他の所得などとの損益通算をすることで、確かに税金を減らすことは可能です。しかし、赤字が出るということは、そもそも投資自体がうまくいっていない可能性が高いといえます。
通常、生じた損失以上に税金が減ることはありません。赤字で節税ができているということはそれ以上に資産が目減りしているということを意識しておきましょう。
修繕などで出費がかさむことがある
たとえ投資のためであったとしても不動産を所有している以上は、適宜、必要な修繕などをおこなわなければなりません。不動産が老朽化していくにしたがって設備も古くなっていくことから、修繕の頻度やかかる費用が高くなっていくでしょう。
修繕費がかさめば、赤字となる可能性があります。
入居者などとのトラブル対応が必要になることがある
投資した不動産を自ら管理する場合には、家賃の滞納など入居者とのトラブルにも対応していかなければなりません。また、管理を管理会社などへ委託すれば、当然その分の費用もかかります。
不動産投資は単なるお金の話ではなく、その先には入居者が存在しますので、このことを決して忘れないようにしましょう。
極端な節税は否認されることがある
過度な節税目的で不動産投資をおこなっていると判断されれば、税務署から否認される可能性があります。中でも、「別荘等のように主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係る赤字が」損益通算の対象にならないことは、タックスアンサーにも明記されています。
たとえば、自分や家族が趣味で利用するための別荘などを短期間だけ他者へ賃貸し、少額の不動産収入を得ることで減価償却費や保険料などを経費に入れて大きな赤字を出し、これを給与所得などから差し引くことなどはできないということです。
不動産投資は本来、資産を増やす目的でおこなうものです。節税をメインの目的としておこなう不動産投資は自然ではなく、税務上なんらかの問題をはらんでいる可能性が高いため、注意しましょう。
不動産投資による節税の注意点:相続編
不動産投資で節税ができたとしても、相続時にトラブルの原因となる可能性があります。このような理由から、不動産投資を始める際には、ぜひお子さまなど亡くなった後で投資用不動産を引き継ぐ予定の方の意見を参考にすると良いでしょう。
ここでは、不動産投資によって相続時に起きるトラブルを3つ紹介します。
相続税の支払いに困ることがある
相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に納付しなければなりません。また、現金一括払いが原則です。
分割払いである「延納」や、モノで納める「物納」も制度としては存在しますが、要件が厳しいうえ、担保の提供が求められるなど制約が多いことから、安易に選択できるものではありません。
不動産投資によって相続税額は減らすことができたとしても、預貯金など金融資産のほとんどを不動産に変えてしまっている場合には、相続人が納税資金を準備できない可能性があります。
結果的に相続人がお金に困ってしまったり、納税に間に合うように不動産を安く売却せざるを得ないような状態が生じてしまったりしては、何のために不動産投資をしたのか本末転倒ではないでしょうか。
遺産分割がまとまりにくくなる場合がある
不動産投資をおこない財産の大半が不動産になってしまうことで、相続人間での遺産分割が難しくなる可能性があります。
たとえば、相続人が長男と二男の2名いるにもかかわらず、遺産が評価額5,000万円程度の投資用不動産と評価額1,000万円程度の自宅不動産、500万円程度の預貯金のみであれば、均等に分けることは困難です。
相続人全員が同意をすれば、必ずしも法律で決まった相続分どおりに分けなければならないわけではありません。しかし、それぞれの相続人が法定相続分までは主張する権利があります。
当人同士で話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所での話し合いである調停や、裁判所が最終判断をくだす審判へと移行することとなるでしょう。
仮に、不動産へ投資などせず預貯金のままのこしておけば、容易に遺産分割ができたかもしれません。たとえ相続税が安くなったとしても、投資用不動産が相続争いの原因となってしまっては非常に残念です。
相続人が負担に感じる場合がある
不動産投資をするということは、不動産経営をするということです。老朽化すれば修繕をする必要があるほか、入居者とのやり取りもしなければなりません。
さらに、老朽化が進めば思うように入居者が集まらなかったり賃料を大きく減額せざるを得なかったりすることも多く、ローンの返済に困ってしまう可能性もあります。
それでも不動産投資をしたいと考える人もいる一方で、相続人としては多少相続税が高くなったとしても、このようなことで煩わされたくないと感じる場合もあるでしょう。良かれと思って投資用不動産をのこしても、相続人からすれば負担である可能性もあるのです。
まとめ
不動産投資は、所得税や相続税の節税につながる可能性があります。特に、相続税では節税効果も大きく、節税シミュレーションなどをもとに投資を勧められる場合もあることでしょう。
しかし、節税のためだけに不動産投資をおこなうことはおすすめできません。先ほどお伝えしたように、不動産投資にはさまざまなリスクやデメリットがあるためです。
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