【2024】私道の共有持分でよくあるトラブルと対処法を弁護士がわかりやすく解説
私道とは、国や地方公共団体ではなく、一般個人や民間企業が所有している道路です。私道は誰か1人が単独で所有している場合もありますが、複数人の共有となっている場合も少なくありません。
しかし、私道の共有は、トラブルのリスクをはらんでいます。では、私道の共有持分にまつわるトラブルには、どのようなものがあるのでしょうか?また、万が一トラブルとなってしまった場合には、どのように対処すれば良いのでしょうか?
今回は、私道の共有持分にまつわるよくあるトラブルや対処法などについてくわしく解説します。
目次
私道とは
土地の前面道路など日常的に通行する道が私道である場合には、さまざまなトラブルに発展する可能性があります。
では、そもそも私道とはどのようなものを指すのでしょうか?はじめに、私道と公道の違いなどについて解説していきましょう。
私道と公道の違い
公道とは、国や都道府県、市区町村が所有者である道路です。公道の修繕や維持管理は所有者である国や地方公共団体が行い、これらにかかる費用も所有者である国や地方公共団体が負担します。
多くの車が通行する幹線道路などは、公道であることがほとんどでしょう。公道は、原則として誰でも自由に通行することが可能です。また、一部の有料道路などを除き、通行に費用もかかりません。
一方、私道とは、国や地方公共団体ではなく、一般個人や民間企業が所有者である道のことです。個人の持ち物であるため、修繕や維持管理にかかる費用も、原則として所有者である個人や民間企業が行います。
あくまでも個人の持ち物である以上、他人が勝手に通行することはできません。他者が所有する私道を通行するためには、次のような法的根拠が必要です。
公道に至るための通行権が生じている:いわゆる袋地の所有者が、公道に出るために他者の土地を通行する権利。民法の規定により、自動的に発生する
通行地役権が付されている:ある土地(「要役地」といいます)が、他者の土地(「承役地」といいます)を通行する権利。土地に附属した権利であるため、要役地や承役地の所有者が変わっても引き継がれる。登記されることが多い
契約を締結している:私道所有者と、私道の通行に関する契約を締結していること。契約当事者間にのみ効力が生じるため、土地の所有者が変わったら原則として引き継がれない
また、私道であってもその私道が建築基準法上の道路に指定されている場合には、原則として、公道と同じように自由に通行することが可能です。
私道と公道の見分け方
ある道路が私道であるのか公道であるのかは、現地を見てもわからないことが一般的です。例外的に、「この先私道につき通り抜けを禁ずる」などの看板があれば、私道であることが推測できる程度でしょう。
ある道路が私道か公道かを確認するためには、法務局でその道の全部事項証明書(登記簿謄本)を取得することが必要です。全部事項証明書には土地の所有者情報が掲載されているため、この所有者の欄に一般個人の氏名や民間企業名などが書かれていれば、私道であることが分かります。
一方、所有者の欄に「〇〇市」や「〇〇県」などと書かれていれば、そこは公道です。
なお、全部事項証明書を取得するためには、取得する土地の地番(住宅敷地の場合にはたまたま住所と同じこともあるものの、住所とは違います)が判明していなければなりません。しかし、道路の地番が判明しているケースは、さほど多くないでしょう。
そのため、全部事項証明書を請求する前に、私道の地番を調べることが必要です。
道路の地番を調べるには、法務局でその場所の「公図」を取得します。公図とは、土地の位置や形状を示した地図です。
公図は1筆の土地ごとに作成されるものではなく原則として周辺の土地がまとめて掲載されるため、調べたい道路付近に隣接する地番の分かっている土地の公図を取得することで、道路も一緒に掲載されたものの交付が受けられることが多いでしょう。
公図には地番が掲載されているため、道の公図を取得することで、道の地番を知ることが可能です。
ただし、その道が公道であれば、そこに地番が付されていない場合も少なくありません。そのため、公図を取っても道となっている土地に地番が付されていない場合には、そこは公道であると考えて間違いないでしょう。
私道共有の2パターン
共有私道といわれるものには、主に「共同所有型」と「相互持合型」の2つが存在します。それぞれの特徴は、次のとおりです。
ここでは、奥が行き止まりとなっている私道があり、この私道沿いにA、B、C、Dがそれぞれ所有する土地があるとの前提で解説します。
共同所有型
共同所有型の私道とは、私道となっている1筆の土地を、複数人で共有している私道のことです。
たとえば、1筆の私道についてA、B、C、Dがそれぞれ4分の1ずつ共有持分を有している場合などがこれに該当します。この場合には、私道となっている土地の全部事項証明書を取得すると、A、B、C、Dの氏名がすべて掲載されています。
相互持合型
相互持合型の私道とは、それぞれが単独所有する私道が組み合わさって、1本の道になっているタイプの私道です。
実際の私道を見ても、地番の境目に線が引いてあるわけではありません。そのため、現地では、1本の私道に見えることでしょう。
しかし、公図を確認すると、その私道が複数の地番からなっていることがわかります。そして、たとえばAが所有する土地の前面にある部分の私道はAの所有、Bが所有する土地の前面にある部分の私道はBの所有、というように、それぞれが所有する私道がパズルのように組み合わさっているのが、相互持合型私道の特徴です。
共有持分の私道のよくあるトラブル:共同所有型
共有私道でよくあるトラブルは、共同所有型と相互持合型とで異なります。共同所有型私道でよくあるトラブルは、次のとおりです。
共有者同士で管理方針がまとまらない
私道に限らず、何かを共同所有している場合において、意思決定をするためのルールは次のとおりです。
保存行為(軽微な修繕など):各共有者が単独で可能
管理行為(改良など):持分で過半数の同意が必要
変更行為(売却など):共有者全員の同意が必要
たとえば、日常的な清掃や軽微な修繕行為などは保存行為に該当するため、各共有者が単独で行うことが可能です。一方、砂利敷きとなっていた私道を新たにアスファルト舗装するようなケースは管理行為に該当する場合が多く、共有持分の過半数を持つ者の同意が必要となります。
つまり、仮にA、B、C、Dの4名がそれぞれ4分の1の共有持分を有している場合において、私道の管理行為をするためには、これらのうち少なくとも3名が同意する必要があるということです。また、たとえABCの3名がアスファルト舗装をすることに合意したとしても、Dが費用のかかることを理由に反対しているのであれば、Dは舗装費用の支払いを拒むかもしれません。
このように、管理方針について意見が大きく食い違えば、トラブルになる可能性があるでしょう。
共有者が管理費用を支払わない
共有物の管理や修繕などにかかる費用は、共有持分に応じて各共有者が負担することが原則です。しかし、共有者の一部が、管理費用を滞納するなどのトラブルが想定されます。
特に、元々その土地に家を建てて住んでいたBが亡くなって別の場所に住んでいる親族が相続した場合などに、このリスクが高くなるでしょう。
なお、共有者が1年以内に費用負担の義務を履行しないときは、他の共有者が相当の償金を支払うことによって、その者の持分を取得することができるとの規定が存在します。
共有者が行方不明
相続登記や住所移転の登記がされないままで放置され、現在の権利者が分からなくなってしまった「所有者不明土地」の増加が社会問題となっています。
これは、私道も例外ではありません。
たとえば、沿道の土地所有者であり、私道の共有持分も有しているA氏の姿が見えなくなり、その後親族が訪れている形跡もないような事態もあるでしょう。
この場合には、A氏から私道の管理などに必要な負担金を支払ってもらうことが困難となります。
また、仮にA氏が共有持分の半数以上を有していた場合には、A氏が行方不明である限り過半数の同意を得ることができず、管理行為を行うことができません。
なお、共有に関する民法の規定が大きく改正され、改正後は共有者が所在不明となった場合の対応がしやすくなります。
この改正は2023年(令和5年)4月1日より施行されることとなっていますが、お困りの際には改正前から弁護士へ相談しておくとよいでしょう。
共有持分の私道のよくあるトラブル:相互持合型
私道が相互持合型となっている場合におけるよくあるトラブル事例は、次のとおりです。
私道所有者が通行を妨げている
相互持合型の場合には、私道となっているそれぞれの土地は、各所有者の単独所有です。そのため、私道所有者が、自身が所有している私道の通行を妨げる可能性があります。
たとえば、奥が行き止まりとなっている私道のうちもっとも手前の私道を有しているD氏が車での私道通行を妨げるポールなどを設置した場合、それより奥の土地を所有しているABCは車を自宅に停められず、非常に困った事態となるでしょう。
インフラ引き込みのための掘削が許可されない
建物を新築する場合などには、水道やガスなど生活インフラを引き込む工事が必要となります。これに伴い、道路を掘削する必要が生じることが少なくありません。
この場合であっても、自己が有する私道のみを掘削するのであれば、大きな問題は生じないでしょう。一方、埋設されているインフラ配管の配置などによっては、他者が所有している部分の私道を掘削する必要性が生じる場合があります。
この場合には、掘削する地点の私道所有者から掘削の承諾を得なければなりません。そこで、私道所有者が掘削の承諾をしないというトラブルや、法外な承諾料を請求されるトラブルに発展する可能性があります。
承諾掘削料の目安は数万円から数十万円ですが、あまりにも高額である場合には弁護士へ相談してください。交渉や訴訟などによって、減額できる可能性があるためです。
私道の共有持分でトラブルとなった場合の対処法
私道の共有持分に関してトラブルとなってしまった場合には、どのよう対応すれば良いのでしょうか?主な対処方法は、次のとおりです。
誠実に話し合う
私道の共有持分に関連してトラブルが生じた場合には、まずは当事者間で誠実に話し合いましょう。私道の共有者同士は近隣に居住していることも多く、訴訟などにまで発展してしまえば、今後気まずい思いをしてしまう可能性があるためです。
しかし、誠実に話し合うといっても、どのように話を進めて良いのかわからないという場合も多いかと思います。その場合には、この段階から弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、仮に調停などに発展する可能性も踏まえて話し合いの進め方などのアドバイスを受けられるため、安心して話し合いにのぞむことが可能となります。
弁護士へ相談する
当事者間の話し合いで解決ができない場合には、弁護士へご相談ください。弁護士へ依頼することで、弁護士が相手方と代理で交渉することが可能となります。
弁護士が話し合いを代理することで相手が無謀な要求を取り下げる可能性があるほか、今後の調停や訴訟を見据えて慎重に交渉を進めることが可能となるでしょう。
調停や訴訟を利用する
弁護士が代理交渉をしてもなお解決が図れない場合には、調停や訴訟へと移行します。調停とは、裁判所で行う話し合いです。裁判所の調停委員が双方から事情を聞くことで、トラブルの落としどころをさぐります。
一方、訴訟とは、諸般の事情を考慮のうえ、裁判所が決断を下す手続きです。
私道の共有持分でトラブルにならないための予防策
私道の共有持分でトラブルになってしまうことは、誰しも避けたいことかと思います。では、私道の共有持分にまつわるトラブルを回避するために、どのような予防策を取れば良いのでしょうか?
主な予防策は、次のとおりです。
土地購入前に道路の権利関係をよく確認しておく
まだ私道が関連する土地を購入する前なのであれば、私道トラブルに発展しそうな土地の購入などを見送ることも一つです。そのため、土地の購入や長期的な賃借などを検討している場合には、あらかじめ前面道路など日常的に使用することになりそうな道路の権利関係を調べておくことをおすすめします。
また、私道が関係する土地なのであれば、私道にまつわる過去のトラブルや懸念事項などついて、周辺住民などに聞き込みをしておくと良いでしょう。
近隣住民と良好な関係を保つ
私道にまつわるトラブルは、近隣トラブルから発展する場合も少なくありません。私道の共有者は、近隣住民などであることが少なくないためです。
そのため、日ごろから近隣の住民と良好な関係を築いておくことで、いざトラブルの種が生じても、大きな問題に発展する前に解決できる可能性が高くなるでしょう。
あらかじめ通行や掘削などの取り決めをして書面化しておく
私道の共有持分を持つ場合や使用する土地の前面道路が相互持合型の私道となっている場合などには、あらかじめ他の共有者などと私道に関する取り決めを交わし、書面化しておくと良いでしょう。
取り決めの内容は、たとえば通行に関することや、掘削に関することなどです。定めておくべき事項は私道の状況や権利関係などによって異なりますので、弁護士へ相談のうえ話し合いをまとめていくことをおすすめします。
まとめ
私道の共有持分は、しばしばトラブルの原因となります。購入などをしようとする土地に私道の共有持分が絡んでいる場合には、購入を慎重に検討した方が良いでしょう。
また、すでに私道の共有持分を有している場合には、後のトラブル予防のため、取り決めを書面化しておくなどの対策をおすすめします。
たきざわ法律事務所では、私道に関するトラブル解決に力を入れており、これまでも多くのトラブルを解決に導いてまいりました。私道の共有持分にまつわるトラブルでお困りの際には、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。