【2022】共有不動産を売却するための手続きは?改正法についても弁護士が解説
共有不動産を所有している場合において、この不動産全体を売却するためには、原則として共有者全員の合意が必要です。では、共有者の一部が所在不明となっている場合などには、不動産を売却する手立てはないのでしょうか?
今回は、令和5年(2023年)4月1日から施行される改正法を踏まえ、共有不動産を売却する手続きについてくわしく解説します。
目次
共有不動産とは
共有不動産とは、複数人で所有している土地や建物のことです。共有について、民法では、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と規定しています。
誤解の多いところですが、たとえば150㎡の土地をA、B、C3人が3分の1ずつの持分で共有している場合、それぞれが50㎡部分の権利を持っているわけではありません。A、B、Cそれぞれが150㎡の土地全体を、3分の1ずつ使用する権利を持っているということです。
土地を50㎡ずつ持っているというよりは、1年365日のうち1人あたり約121日ずつこの土地全体を利用できる権利があるというイメージが近いでしょう。また、この土地を月30万円の賃料で貸している場合には、A、B、Cそれぞれが10万円を受け取る権利があるということです。
共有不動産が生まれる理由
共有不動産は、ときにさまざまなトラブルの原因となります。
では、共有不動産はなぜ生まれてしまうのでしょうか?不動産が共有となる主な原因は、次の2つです。
不動産の共同購入
共有不動産が生まれる1つ目の原因は、不動産の共同購入です。夫婦で購入する場合のほか、親しい友人や親族同士で購入する場合などがあります。
しかし、特に友人や親族同士での購入は、後のトラブルの原因となりかねません。たとえば、共有者の一部と連絡が取れなくなり不動産の利活用に支障が出る場合や、共有者の一部の経済状況が変わったことで、共有持分を高額で買い取るよう他の共有者に請求する場合などが考えられます。
また、一部の共有者がその共有不動産を売りたいと考えていても他の共有者が売却に同意しなければ不動産全体を売ることができず、この点で争いとなる可能性もあるでしょう。
さらに、共有者の一部が亡くなりその子や配偶者などが相続すれば少し縁遠い人同士での共有となり、さらに意見の取りまとめが難しくなる可能性が高くなります。
相続
共有不動産が生まれるもう1つの原因は、相続です。
前提として、相続人の全員が納得するのであれば、遺産はどのように分けても構いません。
たとえば、長男、二男、長女の3名が相続人であるからといって必ずしも遺産を3分の1ずつにしなければならないわけではなく、3名とも納得するのであれば、たとえば二男が全財産を相続しても良いわけです。
しかし、相続人がそれぞれ自分の相続分を主張する場合において、主な遺産が不動産しかないような場合には、遺産分割は困難となります。1人だけが主な遺産である不動産を相続することは、他の相続人が納得しないためです。
また、不動産を取得した相続人に、その代わりとして他の相続人に支払うだけの金銭があれば良いのですが、それだけのお金が用意できない場合も多いでしょう。
このような場合に、苦肉の策として、不動産を相続人同士の共有にする場合があります。
これが、共有不動産が生まれる原因の1つです。
また、名義人の相続が起きた後、遺産分割協議さえしないままで不動産が放置されているケースも少なくありません。この場合には登記簿上の名義人こそ亡くなった人(「被相続人」といいます)のままであるものの、実質的には相続人全員での共有状態となっています。
共有不動産を売却する基本の方法
共有名義となっている不動産を売却したい場合、どのような方法をとれば良いのでしょうか?基本の考え方は、次のとおりです。
共有者全員の合意で売却する
共有不動産の全体を売却するためには、共有者全員の合意で売却する必要があります。たとえ1人でも売却に同意しない人がいれば、その人を無視して不動産全体を売却することはできません。
これは、たとえ100分の99の共有持分を持つ人が売却したいと考えており、100分の1のみの持分を持つ人が売却を拒否している場合も同様です。多数決や持分割合の多い人の独断などで決められるわけではありませんので、注意しましょう。
自分の持分だけを売却する
共有者の一部に売却を拒否する人や、行方不明で売却の意思を確認できない人などがいる場合であっても、自分の持分だけを売却することは可能です。
たとえば、A、B、Cの3名が3分の1ずつの共有持分を有する場合において、Cが売却を拒否している場合には、AとBの持分(全体の3分の2の共有持分)のみを売却することができます。
しかし、AとBの共有持分のみを購入したとしても、引き続きCの持分は残ります。そのため、買い手が自由な利用や転売をすることは困難でしょう。
こうした理由からそもそも買い手が見つからないリスクがあり、仮に買い手が見つかったとしても、不動産全体を売却する場合と比較して売買価値が低くなりやすい傾向にあります。
なお、例で挙げたCが売却を拒否しているのではなく所在不明で連絡が取れない状態にある場合などには、改正により誕生した制度で活路が見いだせるでしょう。これについては、この先でくわしく解説します。
改正で誕生する制度①:所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度
所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度とは、行方不明となっている共有者(「所在等不明共有者」といいます)の持分を、他の共有者が買い取る制度です。
この制度を利用することで、所在等不明共有者と連絡が取れないままであっても、不動産全体の売却などが可能となります。
制度が誕生した背景
所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得する手立てが、これまで一切なかったわけではありません。以前から存在する制度に、「裁判所の判決による共有物分割」があります。
しかし、この制度は使い勝手の悪さが指摘されていました。そこで、これらの問題点を克服する所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度が新たに誕生しています。
裁判所の判決による共有物分割の主な問題点は、次のとおりです。
他の共有者が所在等不明共有者の持分を取得できるとは限らない
裁判所の判決による共有物分割は、不動産など共有物の共有状態を解消することを目的としています。この手続きを利用した場合における共有状態の解決方法は、主に次の3パターンです。
現物分割:広い土地を分筆して分ける方法です。たとえば、3分の1ずつの共有となっている600㎡の土地を200㎡ごとの3筆の土地に分けて、もとの共有者それぞれに割り振ることなどです
競売分割:土地を競売にかけ、その代金を共有持分に応じて分ける方法です
代償分割:他の共有者が所在等不明共有者の持分を買い取る方法です
これらのいずれの方法で分割をするのかは裁判所が判断することとされており、必ずしも裁判を申し立てた他の共有者の希望が反映されるとは限りません。
そのため、申立人としては所在等不明共有者の持分を買い取り、その後ゆっくり不動産全体の売却先を探そうと意図していたにもかかわらず、意に添わず競売にかけられてしまう可能性などがあります。なお、競売により売却した場合には通常の売却と比べて、売却額が低くなることが一般的です。
ただし、この制度にも改正が入っており、令和5年(2023年)4月1日の改正法施行後は競売分割がとられるケースは限定的となります。なぜなら、改正により、競売分割は現物分割や賠償分割のいずれもできない場合やこれらの措置をとることで共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合に限定して行うものとされたためです。
全ての共有者を当事者として訴えを提起しなければならない
裁判所の判決による共有物分割をするためには、すべての共有者を当事者として訴えを提起しなければなりません。
そのため、手続き上の負担は小さくないことが問題視されていました。
制度の概要
改正で新たに誕生する所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度とは、他の共有者が裁判所へ申し立てることにより、所在等不明共有者の共有持分を買い取る制度です。
所在等不明共有者の持分を買い取ることで所在等不明共有者が共有者ではなくなるため、その後その不動産の大規模修繕や賃貸、売却などをするにあたって、所在等不明者の同意などを得る必要がなくなります。
つまり、A、B、Cの3名が3分の1ずつの共有持分を有しておりCが所在不明となっている場合において、この制度を使ってAがCの持分を買い取れば、その後はAとBのみの合意でこの不動産の売却などが可能になるということです。
なお、次で解説をする所在等不明共有者の不動産の持分の「譲渡」制度とは異なり必ずしも譲渡を前提としないため、今後その不動産を売却するかどうかまだ決めていない場合や、売却先などは今後ゆっくり検討していきたいという場合などにも使うことができます。
制度利用の要件
所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度を利用するための主な要件は、次のとおりです。
申立人において登記簿や住民票などで必要な調査をして、裁判所において共有者の所在等が不明であると認められること
不動産の名義人が亡くなったことで自動的に共有となっている遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過していること
必要な調査の範囲については、状況によって異なりますので、弁護士へご相談ください。
手続きの流れ
所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度を利用するための主な流れは、次のとおりです。
A、B、Cの3名が3分の1ずつの共有持分を有しており、Cが所在不明となっている場合において、AがCの共有持分を取得しようとしている場合を前提に解説します。
1. 調査:Aが弁護士に相談するなどして、Cの所在等が不明であると言えるための調査(登記簿や住民票など)を行います
2. 申立て:Aが不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立て、Cの所在等不明についての証拠を提出します
3. 異議届出期間の公告など:3ヶ月以上の異議届出期間などの公告と、登記簿上の共有者への通知がなされます
4. 供託:共有不動産の時価相当額のうち、Cの持分に相当する部分の金銭を供託します。具体的な金額は、裁判所が決定します
5. 取得:裁判が確定し、AがCの持分を取得します
これにより、この不動産はAとBのみの共有となりますので、この2名が合意することで賃貸や売却などが可能となります。
なお、こちらの制度は売却を前提としているわけではありませんので、特に賃貸や売却などをしなくても構いません。
いつから使える?
所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度は、令和5年(2023年)4月1日に施行されます。
この制度を利用して所在不明となっている共有者の持分を取得したい場合には、早めに弁護士へ相談するなど準備を進めておくとよいでしょう。
改正で誕生する制度②:所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度
所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度は、他の共有者が所在等不明共有者の共有持分を含めて売却するための制度です。
では、くわしく見ていきましょう。
制度の概要
所在等不明共有者の不動産の持分の「譲渡」制度を使うことで、他の共有者が、所在等不明共有者の持分を含めて不動産全体を譲渡することが可能となります。
1つ上で紹介した所在等不明共有者の不動産の持分の「取得」制度とは異なり、いったん申立人である他の共有者の名義とすることなく、そのまま第三者に売却する点が特徴です。
他の共有者への名義変更を介さないため、登記費用や手間の削減となります。
そのため、すでにその不動産の売却が決まっている場合には、こちらの制度を選択するとよいでしょう。
制度利用の要件
所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度を利用するための主な要件は、次のとおりです。
申立人において登記簿や住民票などで必要な調査をして、裁判所において共有者の所在等が不明であると認められること
不動産の名義人が亡くなったことで自動的に共有となっている遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過していること
所在等不明共有者以外の共有者全員が、持分の全部を譲渡すること
必要な調査の範囲については、状況によって異なりますので、弁護士へご相談ください。
手続きの流れ
所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度を利用して不動産を売却するまでの基本的な流れは、次のとおりです。A、B、Cの3名が3分の1ずつの共有持分を有しており、Cが所在不明となっている場合において、Aが申立てをする前提で解説します。
1. 調査:Aが弁護士に相談するなどして、Cの所在等が不明であると言えるための調査(登記簿や住民票など)を行います
2. 申立て:Aが不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立て、Cの所在等不明についての証拠を提出します
3. 異議届出期間の公告:3ヶ月以上の異議届出期間の公告がなされます
4. 供託:不動産の時価相当額のうちCの持分相当額を供託します。時価の算定にあたっては、第三者に売却する際に見込まれる売却額などが考慮されます
5. 譲渡権限付与の裁判:Cの共有持分を譲渡する権限をAに付与する裁判がなされます
これにより、AとBのみの合意で、Cの持分を含めた不動産全体を譲渡(売却)することが可能となります。その後、その不動産を誰にいくらで譲渡するのかはAとBのみで決めることができますが、裁判の効力発生時から原則として2ヶ月以内に譲渡しなければなりません。
ただし、裁判所の許可を得て期間を伸長してもらうことは可能です。
いつから使える?
所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度は、令和5年(2023年)4月1日に施行されます。この制度を利用して共有不動s名を売却したい場合には、早めに弁護士へ相談するなど準備を進めておくと良いでしょう。
まとめ
共有者の一部が所在不明となっている場合、これまではその不動産を売却することは困難でした。しかし、令和5年(2023年)4月1日から所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度や所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度がスタートすることで、共有者が所在不明となっている土地の売却などがしやすくなります。
制度を利用して共有不動産の売却をしたいとお考えの際には、ぜひ不動産法務にくわしい「たきざわ法律事務所」まで、お気軽にご相談ください。ご相談は改正法の施行前であっても可能ですので、お早めのご相談をおすすめします。