【2023】不動産特定共同事業法とは?弁護士がわかりやすく解説
不動産特定共同事業法とは、不動産クラウドファンディングなど「不動産特定共同事業」の発展と投資家の保護を目的とした法律です。
1994年(平成6年)の制定以来数度にわたる改正がなされています。
特に2011年(平成29年)と2013年(平成31年)の法改正では大きな規制緩和がなされ、不動産クラウドファンディングへの参入ハードルが引き下げられました。
今回は、不動産特定共同事業法についてわかりやすく解説します。
目次
不動産特定共同事業法とは
不動産特定共同事業法とは、「不動産特定共同事業を営む者について許可等の制度を実施して、その業務の遂行に当たっての責務等を明らかにし、及び事業参加者が受けることのある損害を防止するため必要な措置を講ずることにより、その業務の適正な運営を確保し、もって事業参加者の利益の保護を図るとともに、不動産特定共同事業の健全な発達に寄与することを目的」とする法律です(不動産特定共同事業法1条)。
つまり、この法律の究極の目的は、次の2点です。
事業参加者(投資家)の利益の保護を図ること
不動産特定共同事業の健全な発達に寄与すること
これらの目的を達成するために、一定の業務について許可などが必要であることや事業者の責務を定めています。
そして、この法律で規制の対象となっている「不動産特定共同事業」とは、次のいずれかに該当する事業を指します(同2条4項)。
不動産特定共同事業契約を締結してその不動産特定共同事業契約に基づいて営まれる不動産取引から生ずる収益や利益の分配を行う行為(一定のものに限る)
不動産特定共同事業契約の締結の代理または媒介をする行為(「4」に該当するものなど一定のものを除く)
特例事業者の委託を受けてその特例事業者が当事者である不動産特定共同事業契約に基づいて営まれる不動産取引に係る業務を行う行為
特例事業者が当事者である不動産特定共同事業契約の締結の代理または媒介をする行為
そして、「不動産特定共同事業契約」とは、次に掲げる契約などのうち、投資家保護が図られている一定のものを除いたものを指します(同3項)。
各当事者が出資を行い、その出資による共同の事業としてそのうちの1人又は数人の者にその業務の執行を委任して不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約
当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため出資を行い、相手方がその出資された財産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる利益の分配を行うことを約する契約
当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため自らの共有に属する不動産の賃貸をし、またはその賃貸の委任をし、相手方が当該不動産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約
つまり、投資家から集めたお金で不動産取引や賃貸を行って、これにより得た収益を投資家に分配する事業のうち一定のものが「不動産特定共同事業契約」です。
たとえば、不動産クラウドファンディングや不動産小口化商品の販売などがこれに該当します。
そして、不動産クラウドファンディングや不動産小口化商品を組成して運営をすることやこの小口化商品を販売することを「不動産特定共同事業」といい、これが不動産特定共同事業法の規制対象とされています。
不動産特定共同事業には次の3つがある
不動産特定共同事業には、次の3つの形態があります。
それぞれの概要と主な特徴は次のとおりです。
任意組合型
匿名組合型
賃貸委任契約型
任意組合型
不動産特定共同事業2条3項1号に規定する「各当事者が出資を行い、その出資による共同の事業として、そのうちの1人又は数人の者にその業務の執行を委任して不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約」を任意組合型といいます。
任意組合とは、複数の個人や法人が出資を行って特定の事業を共同で運営することを目的とする契約であり、「民法上の組合」などと呼ばれることもあります。
任意組合の業務執行は組合員(つまり、投資家)が行いますが、一部の組合員などに委任することが可能です。
そのため、不動産特定共同事業ではその組合の代表者である事業者が委任を受け、事業(不動産取引)を営みます。
任意組合型の場合、投資対象である不動産の名義は出資者となります。
匿名組合型
不動産特定共同事業2条3項2号に規定する「当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため出資を行い、相手方がその出資された財産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる利益の分配を行うことを約する契約」を匿名組合型といいます。
匿名組合とは、当事者の一方が相手方の営業のために出資して、その営業から生ずる利益を分配することを約することによってその効力を生ずる契約です。
匿名組合では、不動産取引にあたって出資者(投資家)の氏名は表に出ず、「匿名組合」との名称はこの点が由来となっています。
匿名組合の業務執行は事業者が行い、投資家は業務執行に関与しません。
匿名組合型の場合、投資対象である不動産の名義は事業者となります。
賃貸委任契約型
不動産特定共同事業2条3項3号に規定する「当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため自らの共有に属する不動産の賃貸をし、またはその賃貸の委任をし、相手方が当該不動産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約」を賃貸委任管理型といいます。
賃貸委任契約型とは、出資者(投資家)が共同で購入した不動産を事業者に賃貸し、事業者がこれを転貸するなどして収益を上げる事業形態です。
賃貸委任契約型の場合、投資対象である不動産の名義は事業者となります。
不動産特定共同事業者の種別と許可要件
誰もが不動産特定共同事業を自由に営めるとなれば、投資家が不測の損害を被ってしまうかもしれません。
そのため、不動産特定共同事業を営むには原則として許可が必要とされています。
許可の種類と許可要件はそれぞれ次のとおりです。
不動産特定共同事業者の種類
不動産特定共同事業者は、不動産特定共同事業法によって次の4つに分類されています。
事業内容 | 必要な資本金 | |
---|---|---|
第1号事業者 | 不動産特定共同事業契約を締結し、契約に基づいて運営される不動産取引から得られる利益等の分配を行う事業 | 1億円 |
第2号事業者 | 不動産特定共同事業契約締結の代理または媒介をする事業 | 1,000万円 |
第3号事業者 | 特例事業者の委託を受け、不動産特定共同事業契約に基づいて運営される不動産取引に係る業務を行う事業 | 5,000万円 |
第4号事業者 | 特例事業者が当事者となる不動産特定共同事業契約締結の代理・媒介をする事業者 | 1,000万円 |
これらのほか、投資総額1億円以下である小規模な事業を営むための「小規模不動産特定共同事業」があります。
不動産特定共同事業法の主な許可要件
不動産特定共同事業法の許可を受けるには、事業者の分類ごとに設定されている資本金の要件のほか、次の要件などを満たす必要があります。
宅地建物取引業者免許を受けていること
事務所ごとに最低1名の業務管理者を配置していること(宅地建物取引士であり、かつ不動産特定共同事業の業務において3年以上の実務経験を有する者などの要件あり)
適正な業務運営ができる人材の確保、人員配置、法令遵守体制が整っていること
不動産特定共同事業を営むための必要な財産的基礎があること
一般投資家を対象とする場合は基準を満たす不動産特定共同事業契約約款があること
一定の欠格要件(あてはまったら許可が受けられない要件)に該当しないこと
具体的な要件については、許可申請先となる行政機関(地方整備局または都道府県)または弁護士などの専門家へご相談ください。
話題の「不動産クラウドファンディング」とは
近年、不動産クラウドファンディングが話題となっています。
不動産クラウドファンディングとは、投資家から集めた資金で不動産を購入したり運用したりする事業のうち、インターネット上で小口の投資を集める手法を指します。
従来の不動産投資や不動産小口化商品よりも少額で投資できる傾向にあり、投資家1人あたりの出資額は数万円程度であることも少なくありません。
また、投資の募集にインターネットを用いる点も大きな特徴の1つです。
不動産クラウドファンディングと不動産共同事業法の関係
不動産クラウドファンディングが活性化していることには、不動産特定共同事業法の改正が影響しています。
不動産特定共同事業法について次の改正がされたことにより、不動産クラウドファンディングが立ち上げやすくなりました。
不動産クラウドファンディングに関連する最近の改正ポイントは次のとおりです。
登録制の「小規模不動産特定共同事業」が追加された
書類のオンライン交付等が認められた
不動産特定共同事業への新設法人の参入要件が見直された
登録制の「小規模不動産特定共同事業」が追加された
不動産特定共同事業法の2017年(平成29年)の改正によって、登録制の「小規模不動産特定共同事業」が新設されました。
小規模不動産特定共同事業とは、投資家1人あたりの出資額が100万円を超えず、出資総額が1億円を超えない不動産特定共同事業契約を行う事業を指します(同2条6項、不動産特定共同事業法施行令2条)。
小規模不動産特定共同事業には次の2種類が設けられており、それぞれ資本金要件が緩和されています。
事業内容 | 必要な資本金 | |
---|---|---|
小規模第1号事業者 | 「第1号事業者」と同じ | 1,000万円 |
小規模第2号事業者 | 「第3号事業者」と同じ | 1,000万円 |
不動産クラウドファンディングの多くは「投資家1人あたりの出資額が100万円を超えず、出資総額が1億円を超えない」ものであり、小規模不動産特定共同事業の登録によって営めることが多いでしょう。
なお、登録は5年ごとの更新制となっています。
書類のオンライン交付等が認められた
不動産特定共同事業法の2017(平成29年)の改正によって、不動産クラウドファンディングが「電子取引業務」として新たに定義されました。
これに伴い、契約の成立前の書面や成立時の書面をデジタルで交付することが認められ、オンラインで手続きを完結させることが可能となっています。
不動産クラウドファンディングが一層運用しやすくなり、投資家にとっても手続きの手間が大きく軽減することとなりました。
不動産特定共同事業への新設法人の参入要件が見直された
不動産特定共同事業の許可や登録を申請するには、直前3期分の計算書類の提出が必要とされています。
しかし、設立から3年を経過しておらず直前3期分の計算書類が用意できない事業者の取り扱いについては言及がなく、設立後3期を経過していない新設法人は事実上参入することができませんでした。
2019年(平成31年)の改正に伴い「不動産特定共同事業の監督に当たっての留意事項について」が整備され、一定の条件を満たす場合は直前3期分の計算書類の提出ができない事業者であっても、不動産クラウドファンディングへの新規参入が認められることとなっています。
これにより、不動産クラウドファンディングを営む事業者の裾野がさらに広がることとなりました。
不動産特定共同事業法による不動産クラウドファンディングを始める手順
不動産特定共同事業法による不動産クラウドファンディングを新たに始めたい場合は、どのような手順をとればよいのでしょうか?
不動産クラウドファンディングへ参入する基本的な流れと手順は次のとおりです。
事業の青写真を検討する
弁護士へ相談する
必要な許可や登録を洗い出す
必要な許可や免許の申請をする
事業の青写真を検討する
はじめに、行おうとしている不動産クラウドファンディング事業の青写真を検討します。
単に「儲かりそうなのでやってみたい」という程度のイメージで何ら具体的な画がないと、弁護士もアドバイスのしようがないためです。
不動産クラウドファンディングの組成は、投資ではなく事業です。
そのため、少なくとも投資する物件をどのように探すのか、物件の購入金額はどの程度を想定しているのか、投資家をどのように募るのか、自社がどのように収益を上げる予定であるのかなどは検討しておくことをおすすめします。
弁護士へ相談する
描いた青写真をもとに、不動産法務に詳しい弁護士へ相談します。
ただし、不動産特定共同事業法はさほどメジャーな法令ではなく、すべての弁護士が精通しているものではありません。
そのため、不動産法務や不動産クラウドファンディングに力を入れている弁護士を選んで相談するようにしてください。
弁護士へ相談することで、描いた青写真が法的に実現可能かどうかの見通しが立てやすくなるほか、実現へ向けて検討し直すべきことや追加で検討すべきこと、今後行うべきことなどが明確となります。
必要な許可や登録を洗い出す
先ほど解説したように、不動産クラウドファンディングを行うには、原則として不動産特定共同事業法に基づく許可や登録が必要となります。
行いたい不動産クラウドファンディング事業の内容を踏まえ、申請すべき許可や登録を洗い出してください。
併せて、要件や必要書類、スケジュールなどの確認を行います。
必要な許可や免許の申請をする
必要な許可や登録を洗い出したら、必要書類を用意して申請を行います。
ただし、自分で不動産特定共同事業法に基づく許可や登録の申請を行うハードルは低くありません。
そのため、弁護士などの専門家に手続きについてもサポートを受けるようにしてください。
まとめ
不動産特定共同事業法は、不動産クラウドファンディングなど「不動産特定共同事業」の発展と投資家の保護を目的とした法律です。
2017年(平成29年)の改正により規制緩和が行われ、不動産クラウドファンディングへの参入がしやすくなっています。
さらに、2019年(平成31年)の改正によって、設立から3期を経過していない新設法人であっても算入しやすくなりました。
とはいえ、不動産クラウドファンディングを行うには登録などを受ける必要があるほか、法令やガイドラインを十分に理解しておかなければなりません。
そのため、不動産特定共同事業法など不動産法務に詳しい弁護士のサポートを受けながら事業の準備を進めるようにしてください。
たきざわ法律事務所では、不動産特定共同事業法や関連するガイドラインを熟知したうえで不動産クラウドファンディングに取り組みたい事業者様をサポートしています。
不動産クラウドファンディングへの参入をご検討の際には、ぜひたきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。