たきざわ法律事務所

Twitterスクショ事件

1.はじめに

Twitter上で他人のツイートのスクリーンショット画像を添付してツイートする行為が著作権侵害にあたるかが争われた訴訟(以下、「本件」)で、東京地裁は、スクリーンショットによるツイートの引用は著作権法で定められた正当な引用とはいえないとして、著作権侵害にあたるとの判決を下しました。

本コラムでは、こちらの判決文 の内容を解説していきます。

 

【用語の説明】
● ツイート
Twitterに投稿されるごく短い文章(140文字以内)、画像、動画等のこと。

● リツイート(RT)
自分又は他人のツイートを再度ツイートする機能のこと。

● 引用ツイート
リツイートしたいツイートをそのまま引用し、それにコメントを追加してツイートする機能のこと。

 

2.本件事案の概要

本件は、Twitter上で投稿者1及び投稿者2が、原告のツイートのスクリーンショット画像を添付したツイートをしたことで、原告の著作権が侵害されたとして、原告が被告に対し発信者情報開示請求を行った事案です。

 

【登場人物】

● 原告
原告は、自らの氏名をアカウント名とし、自らの顔写真をプロフィール画像とするTwitterアカウントを有する者です。
原告は、Twitterにおいて別紙原告投稿目録記載の各投稿(以下、「原告投稿1」ないし「原告投稿4」)を行いました。

● 被告
被告は、電気通信事業を目的とする株式会社です。

● 投稿者1
投稿者1は、Twitterにおいて「A」というユーザー名のアカウントを開設しており、令和3年3月18日に別紙投稿記事目録1記載の投稿(以下、「本件投稿1」)をしました。本件投稿1には、原告投稿1のスクリーンショット画像が添付されていました。

● 投稿者2
投稿者2は、Twitterにおいて「B」というユーザー名のアカウントを開設し、令和3年3月19日から同月21日までの間、別紙投稿記事目録2ないし4記載の投稿(以下、「本件投稿2」ないし「本件投稿4」)を行いました。本件投稿2には原告投稿2のスクリ ーンショット画像が、本件投稿3には原告投稿2ないし4のスクリーンショット画像が、本件投稿4には原告投稿3のスクリーンショット画像がそれぞれ添付されていました。

 

3.主な争点

● 3.1.原告各投稿の著作物性

著作物性の有無は、以下の4要件を満たすか否かにより判断されます。

 

  1. 思想又は感情を含むこと
  2. 創作的であること
  3. 表現したものであること
  4. 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること

 

著作物性の判断についての詳細はこちらのコラム を参照下さい。

● 3.2.引用の成否

著作権法で規定される正当な引用に該当するか否かは、以下の4要件を満たすか否かにより判断されます。(なお、引用の要件の考え方については複数の説があり、下記は通説と考えられるものを記載しています。本件も下記要件とは一致していないと思われる部分があります。)

1) 公表された著作物であること(公表要件)
2) 「引用」といえるものであること (引用要件)
➔ 「引用」に該当するか否かは、最高裁判決(最判S55.3.28 「モンタージュ写真事件」)より「明瞭区分性」と「主従関係」の要件を満たすか否かにより判断されると解されています。
3) 公正な慣行に合致すること(公正慣行要件)
➔ 「公正な慣行」は、各業界あるいは著作物によって異なり得るとされています。
4) 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること(正当範囲要件)
➔ 引用の目的によってその範囲は異なります。たとえば、短歌や俳句のように短い著作物はその全部を引用することが認められています。

引用についての詳細はこちらのコラム を参照下さい。

4.裁判所の判断

● 4.1.原告各投稿の著作物性

4.1.1.原告投稿1について

原告投稿1:
「こないだ発信者情報開示した維新信者8人のログインIPとタイムスタンプが開示された NTTドコモ 2人 KDDI 3人 ソフトバンク 2人 楽 天モバイル 1人 こんな内訳だった。KDDIが3人で多数派なのがありがたい。ソフトバンクが2人いるのがウザい しかし楽天モバイルは初めてだな。どんな対応するか?」

(判決からの引用のため、実際の投稿に含まれているアカウント名等は加工してあります。以下同じ。)

原告投稿1は、140文字以内という文字数制限の中で、発信者情報開示の仮処分手続を経て、著作権侵害と思われる通信に係る経由プロバイダが明らかになったという事実に対する感想を口語的な言葉により端的に表現したものであって、その構成には原告の工夫が見られ、また、表現内容においても原告の個性が現れていることから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものに当たるとして、言語の著作物であると認定しました。

 

4.1.2.原告投稿2について

原告投稿2:
「@B @C @D >あたかものんきゃりあさんがそういった人たちと同じよう 「あたかも」じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと「全く同じ」だって言ってるんだよ。
結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃねーか。お前も含めてな。」

 

原告投稿2は、140文字以内という文字数制限の中で、意見が合わない他のユーザーに対して短い文の連続によりその意見を明確に修正した上、高圧的な表現で同人を罵倒するものであって、その構成には原告の工夫が見られ、また、表現内容においても原告の個性が現れていることから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものに当たるとして、言語の著作物であると認定しました。

 

4.1.3.原告投稿3について

原告投稿3:
「去年の今頃、「@E 」とかいう高校3年生の維新信者に絡まれて勝手にブロックされて「何したいんだ、このガキ?」って事が さっき、あのガキのツイートが目に入ったんだけど受験に失敗して浪人する わ都構想は否決されるわで散々な1年だった様だ 「ざまあ」以外の感想が浮かばない(笑)」

 

原告投稿3は、140文字以内という文字数制限の中で、かつてTwitter上で特定のユーザーとトラブルとなった経緯等を端的に紹介した上で、当該ユーザーが不幸に見舞われたことを「ざまあ」の三文字で嘲笑するものであり、その構成には原告の工夫が見られ、また、表現内容においても原告の個性が現れていることから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものに当たるとして、言語の著作物であると認定しました。

 

4.1.4.原告投稿4について

原告投稿4:
「@C アナタって僕にもう訴訟を起こされてアウトなのに全く危機感無くて心の底からバカだと思いますけど、全く心配はしません。アナタの自業自得ですから。」

 

原告投稿4は、140文字という文字数制限の中、原告に訴訟を提起されたにもかかわらず危機感がないと思われる特定のユーザーの状況等につき、「アナタ」「アウト」「バカ」「自業自得」という簡潔な表現をリズム良く使用して嘲笑するものであり、その構成には原告の工夫が見られ、また、表現内容においても原告の個性が現れていることから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものに当たるとして、言語の著作物であると認定しました。

 

● 4.2.引用の成否

Twitter社の利用規約 では、Twitter上のコンテンツの複製、修正、これに基づく二次的著作物の作成、配信等をする場合には、Twitter社が提供するインターフェース及び手順を使用しなければならないとしています。このため、Twitter上で他人のコンテンツを引用するには、Twitter社が提供する「引用ツイート」と呼ばれる公式機能を使用する必要があります。
本件各投稿においては、引用ツイートの機能を使用することなく、スクリーンショットにより原告各投稿を複製した上でツイートがされていることから、Twitter社の利用規約に違反すると認定し、そのうえで、このような利用規約に違反する方法による引用は、32条1項の「公正な慣行に合致するもの」とは認められないとしました。
また、本件各投稿とこれに占める原告各投稿のスクリーンショット画像を比較したところ、スクリーンショット画像が量的にも質的にも明らかに主たる部分を構成することから、これを引用することが、「引用の目的上正当な範囲内である」と認めることはできないとしました。
以上のことから、引用要件を充足しない本件各投稿は適法な引用とはいえないと判示しました。

 

※公開されている判決文からはTwitter社の利用規約の該当箇所が不明ですが、以下が該当箇所と思われます。

ユーザーは、本サービスまたは本サービス上のコンテンツの複製、修正、これに基づいた二次的著作物の作成、配信、販売、移転、公の展示、公の実演、送信、または他の形での使用を望む場合には、Twitterサービス、本規約またはhttps://developer.twitter.com/ja/developer-termsに定める条件により認められる場合を除いて、当社が提供するインターフェースおよび手順を使用しなければなりません。
Twitterサービス利用規約(https://twitter.com/ja/tos)より

5.判決内容に関する若干のコメント

本件の争点のうち、著作物性の認定については、(ツイート内容そのものの是非は置いておいて)そこまで違和感は感じません。
引用の成否については、いくつか気になる点があります。
まず、正当範囲要件の該当性について、主従関係の観点から判断をしているように思われる点です。これは、「3.2.引用の成否」で記載した「2)引用要件」を「4)正当範囲要件」に入れ込んで判断しているように見受けられます。ただ、このような説もあるため、これ自体に大きな違和感は感じません。(本件は、そもそも主従関係を満たすのが難しい事案だと思われます。)
次に、公正慣行要件について、規約違反であることを根拠に公正慣行要件の該当性を否定している点です。他人のツイートのスクリーンショット画像を添付してツイートする行為は、確かに規約違反ではありますが、Twitter上では日常的に利用される方法です。他人にメンションしない形式で他人のツイートについて言及したい場合や削除済みのツイートに関して言及したい場合、ブロックされた相手方のツイートに関して言及したい場合等によく利用されています。このような慣行を踏まえずに、規約違反であることを根拠に公正慣行要件の該当性を否定したことには違和感を覚えます。

6.さいごに

本コラムでは、他人のツイートのスクリーンショット画像を添付してツイートする行為が著作権侵害にあたる旨の判決について解説しました。本件の判決からわかることは、著作権法上の「引用」は、一般人の考える「引用」よりもハードルが高いということです。「出典さえ明示されていれば引用に該当する」と誤解している方も多いかと思います。
「5.判決内容に関する若干のコメント」にて言及しましたが、本件の判決は、一部違和感のある部分があります。ここが高裁でどのように判断されるのか個人的には気になるところではありますが、「引用」のハードルが高いことを改めて示した判決ともいえるかもしれません。
このように他人の著作物を引用して利用する場合には、適法な引用となっているのかの法的な検討が必要不可欠です。引用の適法性について迷う場合には、是非とも弁護士にご相談ください。
 

 

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…

 

サンカラ

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