たきざわ法律事務所

他人の著作物を許諾がなくても利用できる場合とは?引用ならOK?

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1. はじめに

前回から3回に渡って著作権法上の権利制限規定に関する解説をしています。その第2回目となる今回は、以下の規定について解説していきたいと思います。

 

  • 付随対象著作物の利用(30条の2)
  • 検討の過程における利用(30条の3)
  • 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(30条の4)
  • 引用(32条1項)
  • 官公庁広報資料等の転載(32条2項)

2. 付随対象著作物の利用(30条の2) ※令和2年改正

 

いわゆる「写り込み」に関する権利制限規定と呼ばれるもので、①写真の撮影等の複製行為や複製を伴わない伝達行為(例:スクリーンショット、生配信、CG化)をするにあたり、意図せず他人の著作物が写り込んだ場合や、②その写り込んだ著作物を利用する場合に、著作権の効力が及ばないとした規定です。

 

①30条の2第1項

写真の撮影、録音、録画、放送その他の複製又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下、「複製伝達行為」)をするにあたって、その対象とする事物等に付随して対象となる著作物(以下、「付随対象著作物」)で、軽微な構成部分となるものは、正当な範囲内において、著作権者の利益を不当に害さない場合に限り、複製伝達行為に伴う利用をすることができます。

 

具体的には、以下のようなケースが対象となります。

  • 写真を撮影したところ、意図せず背景に小さく絵画が写り込んだ場合
  • SNSの投稿をスクリーンショットしたところ、意図せず背景にアニメキャラクターを用いたアイコンの小さなキャラクター画像が写り込んだ場合

②30条の2第2項

また、前項の規定により利用された付随対象著作物は、複製伝達行為によって作成又は伝達されるもの(以下、「作成伝達物」)の利用に伴って、利用することもできます。

 

これにより、例えば、先ほどの具体例での絵画が背景に小さく写り込んだ写真や、アニメキャラクターのアイコンが背景に小さく写り込んだ画像をSNSやブログ等に掲載することもできます。

 

※なお、本条については、以前の記事「【10月施行】改正著作権法のポイント」でより詳細に解説しているので是非ご参照下さい。

3. 検討の過程における利用(30条の3)

著作権者の許諾を得て又は裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、著作物の利用についての検討過程(許諾を得る又は裁定を受ける過程を含む)での利用に必要と認められる限度において、また著作権者の利益を不当に害さない限り著作物を利用できます(30条の3)。

 

これにより、例えば、

  • 著作権者から許諾を取得する前に、漫画キャラクター商品の開発を検討するために当該キャラクター画像を企画書等に掲載する行為
  • 著作権者から許諾を取得する前に、映像に入れるべきBGMの選択を検討するために音楽著作物を録音する行為

については、著作権者の許諾なしに行うことができます。

 

4. 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(30条の4)

著作物は、①技術の開発等のための試験の用に供する場合、②情報解析の用に供する場合、③人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、また著作権者の利益を不当に害さない限り利用することができます(30条の4)。

 

ここで、ある行為が本条に規定する「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目的とする行為に該当するか否かは、本条の立法趣旨及び享受の一般的な語義を踏まえ、著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなります。

 

したがって、例えば

  • 人工知能の開発に関し人工知能が学習するためのデータの収集行為、人工知能の開発を行う第三者への学習用データの提供行為
  • プログラムの著作物のリバース・エンジニアリング
  • 美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為や複製に適した和紙を開発するために美術品を試験的に複製する行為
  • 日本語の表記の在り方に関する研究の過程においてある単語の送り仮名等の表記の方法の変遷を調査するために、特定の単語の表記の仕方に着目した研究の素材として著作物を複製する行為
  • 特定の場所を撮影した写真などの著作物から当該場所の3DCG映像を作成するために著作物を複製する行為
  • 書籍や資料などの全文をキーワード検索して、キーワードが用いられている書籍や資料のタイトルや著者名・作成者名などの検索結果を表示するために書籍や資料等を複製する行為

については、著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないものと考えられることから、「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目的としない行為であると考えられます。(文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第30条の4,第47条の4及び第47条の5関係)」参照)

 

5. 引用(32条)

公表された著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であれば引用して利用することができます(32条1項)。

 

本条によって著作物の引用が適法となる要件は4つあります。以下、自己の作品に他者の作品を引用として利用する場合を想定して解説していきます。

①公表された著作物(4条)であること(公表要件)

他者の作品 (引用されて利用される側の著作物)は、“公表著作物(4条)”に限られます。非公開の著作物は本条の対象にはなりません。

ただし、著作物の種類に限定はなく、自己の作品(引用して利用する側の著作物)は同一種類の著作物である必要もなければ、著作物でなくてもよいとされています。

②「引用」といえるものであること (引用要件)

まず、どのような行為がそもそも引用に該当するかについて、著作権法上の明文規定はありません。

しかし、この点については、最高裁判決から次の(I)(II)を満たすことが必要であると解されます(最判S55.3.28 「モンタージュ写真事件」)。

 

(I)引用を含む著作物の表現形式上、自己の作品(引用して利用する側の著作物)と、他者の作品(引用されて利用される側の著作物)とを明瞭に区別して認識することができること(明瞭区別性)

(II)両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められること(主従関係)

 

したがって、他者の作品を引用して利用するにあたって、自己の創作にかかる部分と他者の創作に係る部分が明瞭に区別できなかったり、あるいは前者が後者よりも従たる地位を占めたりする場合には、引用とはなりません。

③公正な慣行に合致すること(公正慣行要件)

引用が適法であるためには、公正な慣行に合致していなければなりません。

どのような引用が公正慣行要件を満たすかについては、業界や著作物の種類によって異なるのでケースバイケースではありますが、他者の作品である既存の著作物を活用した新たな表現活動を保護・支援する必要性と引用により他者(著作権者)が被る経済的打撃の程度を相関的に判断することが求められます。

④報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること(正当範囲要件)

引用が適法であるためには、引用の目的上「正当な範囲内」でなければなりません。

ここで、引用が正当な範囲かどうかは、文字通り「報道、批評、研究その他の引用の目的」に鑑み判断されます。具体的には、自己の作品に占める引用に供されない部分と引用に供される部分の関係を自己の作品の作成目的を考慮した上で評価されます。

 

※なお、引用をする場合は、合理的と認められる方法及び程度により、出所を明示しなければなりません(48条1項1号)。出所明示を怠った場合、罰金刑に処される可能性があるからです(122条)。

 

6. 官公庁広報資料等の転載(32条2項)

国、地方公共団体、独立行政法人、地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これに類する著作物は、転載を禁止する旨の表示がない場合に限り、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができます(32条2項)。

具体的には、国や地方公共団体の発行する白書や行政PR用の広報資料、調査統計資料等が対象となります。

 

※なお、前項と同じくこれらを転載する場合は、出所の明示が必要となります(48条1項1号、122条)。

 

他人の著作物を許諾がなくても利用できる場合とは?引用ならOK?

今回は、権利制限規定の第2回目として「付随対象著作物の利用」「検討の過程における利用」「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」「引用」「官公庁広報資料等の転載」の5つの権利制限規定について解説しました。

これらの権利制限規定は、一般的なイメージとは異なる部分があるかもしれません。例えば「引用」であれば、「他者の著作物を利用する場合にとりあえず出典を明示しておけば引用になるのでOK」であったり、「無断引用は法的にNG」といった誤解がネット上でもよく見られます。

このような誤解を鵜呑みにしないためにも、正しい知識を理解しておく必要があるかと思います。
 

 

 

 

 

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