著作物を利用するための手続き(利用許諾と権利譲渡)
1. はじめに
著作権には様々な種類があることについては既に説明しましたが、権利が及ぶ態様で著作物等を利用する場合は、権利保護期間が切れていたり、制限規定が適用される場合を除き、利用許諾等の権利処理が必要となります。
2. 権利処理の判断手順
利用許諾等が必要かどうかについては、次の手順にしたがって調べる必要があります。
※わかりやすさを重視して、一部細かい判断フローを省略しています。(例えば、著作者人格権に関する権利処理や著作隣接権に関する権利処理は上記に含まれていません。)
3. 権利譲渡と利用許諾
上記の判断手順により著作物の利用者が権利処理を要する場合、主要な処理方法としては著作権(財産権)の譲渡 (61条1項)と著作物の利用許諾 (63条)があります。著作隣接権(財産権)の場合も同様です。(103条で61条1項・63条準用)。
以下では著作権(財産権)の譲渡と著作物の利用許諾の主要な相違点について説明します。
- 著作権(財産権)の譲渡の場合
著作権(財産権)の譲渡では譲渡によって譲受人が新たな著作権者となります。このため、譲受人は自ら著作物を利用し得るだけでなく、他人に著作権を譲渡したり利用許諾したりすることもできます。また、侵害者に対しては差止請求等の権利行使をすることもできます。
- 著作物の利用許諾の場合
一方で、著作物の利用許諾の場合は著作権者の元に権利が留まった状態で利用の許諾をされたに過ぎないため、許諾を受けた者(ライセンシー)は、 その範囲内で自らその著作物を利用することはできても、他人に対して著作権を譲渡したり、利用許諾(特約があれば可能)したりすることはできません。また、侵害者に対しても原則として自ら権利行使をすることはできません。なお、令和2年の改正によって、著作権者が別の第三者に著作権を譲渡した場合でも、許諾を受けた者はその第三者に対抗できる(利用し続けることが可能となる)制度が施行されています。詳細は令和2年改正のコラムをご参照ください。
4. 著作権(財産権)の譲渡契約
著作権(財産権)が譲渡されると、譲受人は著作物を自由に利用したり、他人の利用を了解することができるようになることは既に説明しましたが、そうなると逆に譲渡人は著作者であっても譲受人(著作権者)の了解を得られないとその著作物を利用することができなくなりますし、類似した著作物を作成することも制約される可能性があります。このため、著作権(財産権)を譲渡する場合は、より慎重に行う必要があります。
著作権(財産権)の譲渡は、口頭の合意のみでも契約として成立しますが、種々のトラブルを避けるために契約書を作成することが望ましいです。そこで、以下では契約書を作成する際に留意すべき事項を解説します。
- 譲渡対象の特定
著作権(財産権)は、全部譲渡はもちろん、支分権、期限、地域といったものを区切って一部譲渡することも可能です(61条1項)。このため、譲渡契約では譲渡する著作権(財産権)の範囲を明確化しておくことが求められます。一部譲渡を受ける場合には、必要な支分権等に漏れがないか、注意する必要があります。例えば、ある写真の著作物に係る複製権の譲渡を受けただけでは、写真のコピー(複製)はできても、その写真をSNS等にアップロード(送信可能化)することはできません。
- 二次的著作物に関する権利(27条・28条)の明記
このように一部譲渡の場合は、譲渡の対象となる支分権を明記する必要があるのですが、全部譲渡の場合であっても、二次的著作物に関する権利(27条・28条)に限ってはきちんとその旨を明記しなければいけません。これは、著作者保護の観点から、
「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」
と規定されているからです(61条2項)。例えば、あるイラストに係る著作権をイラストレーター甲から広告会社乙に譲渡するのに、単に「すべての著作権を甲から乙に譲渡する」と契約書に記載したとしても、27条又は28条に規定する権利は乙に移転されず甲がそのまま持ち続けるという推定が働きます。このため、こうした権利を譲渡の対象に加えるのであれば、契約書において以下のように記載する必要があります。
【すべての著作権を譲渡する場合の規定例】
ただし、これはあくまでも推定規定にすぎないので、譲渡の対象として27条又は28条に規定する権利を明記していなかった場合であっても、契約の目的、契約当事者の地位、著作権譲渡の対価その他事情によって本項の推定が覆されることはあります(参考判例:知財高判H18.8.31「振動制御システムK2事件」、大阪高判H23.3.31「ひこにゃん事件」)。
とはいえ、こうした記載をしなかったばかりに予期せぬトラブルに巻き込まれてしまったという事態にならないよう、契約書を作成する際には十分に注意しなければいけません。
- 人格権(著作者人格権、実演家人格権)についての規定
著作者人格権や実演家人格権は著作者又は実演家の一身に専属するので、著作物等の利用の方法によっては、著作者人格権等に関してトラブルが生じることがあります。
実際にトラブルとなった例として有名なのが前述の「ひこにゃん事件」です。ひこにゃん事件では、契約書中に27条又は28条に規定する権利の特掲がなかったのみならず、著作者人格権についての取り決めもされていませんでした。
したがって、こうしたトラブルを避けるために必要に応じて著作者人格権等についてもきちんと規定しておきましょう。一般的には、実務上は著作者人格権等の不行使特約を設けることが多いです。
5. 著作物の利用許諾
著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができます(63条1項)。 これは、通常は著作物の利用許諾契約により行われます。利用許諾も、著作権譲渡の場合と同様に契約書を作成することが望ましいです。そこで、以下では契約書を作成する際に留意すべき事項を解説します。
- 許諾対象の特定
利用許諾契約でも、許諾対象となる著作物の特定が必要です。特定方法は譲渡契約の場合と同様です。
- 人格権(著作者人格権、実演家人格権)についての規定
利用許諾契約でも、譲渡契約の場合と同様に必要に応じて著作者人格権等についても規定する必要があります。
- 独占的or非独占的利用許諾の選択
利用許諾契約には、独占的な利用許諾契約と非独占的な利用許諾契約があります。独占的利用許諾契約とは、著作権者が、その利用者以外の者に対しては利用の了解を与えてはいけないという義務を負う契約であり、非独占的利用許諾契約とは、そのような義務を負わない契約です。特に規定されていないときは、原則として非独占的利用許諾契約となります。
例えば、定額制動画配信サービスを運営する甲社が、あるドラマの有料インターネット配信を計画しており、同じドラマを競合する乙社が配信しては困るような場合に、ドラマの著作権者丙との間で独占的利用許諾契約を結ぶことが想定されます。また、独占的利用許諾契約の場合には、著作権者自身が利用することを認める場合と認めない場合がありますので、著作権者自身の利用も認めない場合はその旨規定する必要があります。
- 再許諾の可否
利用許諾契約は、通常、契約当事者に対して著作物の利用を認めるものであり、ライセンシーが第三者の利用についての了解を与えることまで認めるものではありません。そのため、ライセンシーが第三者の利用に了解を与える必要がある場合には、契約書にその旨規定しておくことが必要です。
- 使用料の支払い
著作物の利用の対価として使用料が支払われるのか、支払われないのかを明記する必要があります。
使用料が支払われる場合は、金額、支払方法、支払時期等を明記する必要があります。使用料の定め方としては、大きく①定額を一括して支払う方式(定額方式)と ②利用した出来高に応じて支払う方式(ランニングロイヤルティ方式)との2つがあります。どちらの方式が適切なのかについては、それぞれの長所と短所を踏まえて個々のケースごとに決定する必要があります。
また、支払方法については、いつ支払うか、お金はどのように支払うか、税金の取扱いはどのようにするか等につき、取り決めておく必要があります。
6. さいごに
本コラムでは著作権の権利処理について解説しました。権利処理は普段実務をやっていない方にとっては、なじみが薄いと感じるかもしれませんが、日常的に行われているものでもあります。例えば、twitterの利用規約には、以下のように記載されています。
ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、投稿または表示することによって、当社が、既知のものか今後開発されるものかを問わず、あらゆる媒体または配信方法を使ってかかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配信するための、世界的かつ非独占的ライセンス(サブライセンスを許諾する権利と共に)を当社に対し無償で許諾することになります(明確化のために、これらの権利は、例えば、キュレーション、変形、翻訳を含むものとします)。このライセンスによって、ユーザーは、当社や他の利用者に対し、ご自身のツイートを世界中で閲覧可能とすることを承認することになります。ユーザーは、このライセンスには、Twitterが、コンテンツ利用に関する当社の条件に従うことを前提に、本サービスを提供、宣伝および向上させるための権利ならびに本サービスに対しまたは本サービスを介して送信されたコンテンツを他の媒体やサービスで配給、放送、配信、リツイート、プロモーションまたは公表することを目的として、その他の企業、組織または個人に提供する権利が含まれていることに同意するものとします。ユーザーが本サービスを介して送信、投稿、送信またはそれ以外で閲覧可能としたコンテンツに関して、Twitter、またはその他の企業、組織もしくは個人は、ユーザーに報酬を支払うことなく(ユーザーは、ユーザーによる本サービスの利用がコンテンツおよびコンテンツに関する権利の許諾に対する十分な対価であることに同意するものとします)、当該コンテンツを上記のように追加的に使用します。
Twitter, Inc.「Twitterサービス利用規約」https://twitter.com/ja/tos(2021/5/30閲覧)
少し長い内容になっていますが、要約すると、ユーザーの投稿内容は以下の条件でtwitter社に利用許諾されていることになります。
- 契約形態:利用許諾(権利自体はユーザーに留保)
- 許諾先:twitter社(+他のユーザーへの許諾も含まれるようにも読める)
- 許諾地域:全世界
- 許諾の対象となる権利:全て(twitter社に対しては、サブライセンス含め、twitter社は基本的に投稿内容を自由に利用できる権利が許諾される)
- 利用許諾の種類:非独占的利用許諾
- 使用料:無償
このように、皆さんの周りでも様々な権利処理が行われています。普段利用しているサービスの権利処理がどうなっているのかを一度皆さんも確認してみてください。