VTuberへの誹謗中傷に法的措置は可能?弁護士がわかりやすく解説
誰もが簡単に情報発信ができる便利な世の中になった反面、インターネット上での誹謗中傷が増加しています。
誹謗中傷はときに人の命を奪うこともあり、現代における大きな社会問題であるといえるでしょう。そして、誹謗中傷の対象となるのは、生身の人間のみではありません。近年、アバターをまとって活動する「VTuber」が誹謗中傷の被害に遭う場合もあります。
では、VTuberが誹謗中傷の被害に遭った場合、相手に対して法的措置をとることは可能なのでしょうか?今回は、VTuberが誹謗中傷された場合の対応についてくわしく解説します。
目次
VTuberへの誹謗中傷は少なくない
元々、VTuberとは3Dや2Dのアバターをまとって活動するYouTuberを指すことばです。しかし、最近ではYouTubeに限らずアバターを使って動画配信をする人をまとめてVTuberと称することが多いでしょう。
残念ながら、このVTuberに対する誹謗中傷は少なくありません。近年、VTuberである「勇気ちひろ」さんが「勇気ちひろの心は壊れた方が良い」「こいつは毒だ」など投稿する誹謗中傷の被害に遭ったことがニュースとなりました。
この事件では、加害者から120万円の支払いを受けるとの内容で示談が成立しています。
誹謗中傷に対して一般的にとり得る法的措置
一般的に、インターネット上で誹謗中傷の被害に遭った場合には、「刑事告訴」をすることと「損害賠償請求」をすることの2パターンの法的措置が検討できます。これらはいずれか一方のみを選択することもできますし、両方の法的措置をとっても構いません。それぞれの概要は、次のとおりです。
なお、いずれの法的措置をとる場合であっても、これらの前段階として相手が誰であるのか特定しておかなければなりません。そのため、まずは誹謗中傷の舞台となったサイトの運営者や接続に使用されたプロバイダなどに対して発信者情報開示請求を行い、相手を特定したうえでこれらの法的措置に進むのが一般的な流れです。
名誉毀損罪など刑事上の罪に問う
誹謗中傷に対してとり得る法的措置の一つ目は、相手に対して刑事上の責任を問うことです。インターネット上での誹謗中傷は、名誉毀損罪などに該当する可能性があります。
名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」該当する罪です。これを分解すると、名誉毀損罪の成立要件は次のようになります。
「公然と」であること:公の場でされた発言であること。他の人がいない密室での発言や1対1のダイレクトメールでの発言はこれに該当しない。
「事実を摘示」したこと:単なる抽象的な悪口ではなく、具体的な内容を述べること。なお、「真実」であることまでは求められない。
「人の名誉を毀損」したこと:相手の社会的地位を低下させること。なお、「人」には法人も含まれると解される。
このほかに、次の条件にすべてあてはまった場合には罰しないとされる、「違法性阻却事由」が存在します。違法性阻却事由の内容は、次のとおりです。
公共の利害に関する事実に係ること
その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること
事実の真否を判断し、真実であることの証明があったこと
この違法性阻却事由があるため、政治家の不祥事などを掲載した週刊誌などは、原則として名誉毀損罪に問われません。
そして、この名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」であり、被害者側が告訴をしなければ相手を罪に問うことができないとされています。そのため、相手を名誉毀損罪などで有罪としたい場合には、警察に対して告訴状を提出しなければなりません。
告訴状が受理された後の対応は警察や検察に委ねられることとなりますが、警察での捜査後事件が検察に送られ、検察が起訴を決めると刑事裁判が開始されるというのが一般的な流れです。この刑事裁判で相手の有罪・無罪が決まり、有罪となれば原則として相手に前科がつきます。
民事上の損害賠償請求をする
誹謗中傷に対してとり得る法的措置の2つ目は、相手に対して損害賠償請求をすることです。損害賠償請求とは、相手の書き込みによってこうむった損害や精神的苦痛を金銭で賠償してもらうよう請求することを指します。
損害賠償請求をする際には、まず弁護士を通して相手に直接請求をすることが一般的です。相手が反省してこの請求に応じた場合には、裁判に至ることなく解決となります。
一般的に、これを「示談」といい、冒頭で紹介をした「勇気ちひろ」さんのケースはこれに該当します。
一方、相手が請求に対して反論をしたり請求を無視したりする場合には、裁判上での請求に移行することとなるでしょう。裁判になれば損害賠償請求の妥当性などについて裁判所が判断し、請求が妥当であると認定されれば支払いの義務が確定します。
VTuberへの誹謗中傷に法的措置はとれる?
先ほどは、誹謗中傷に対する一般的な法的措置を解説しました。では、VTuberへの誹謗中傷に対しても同じように法的措置をとることができるのでしょうか?刑事と民事それぞれについて解説していきましょう。
なお、一口に「VTuber」といってもその活動内容はさまざまであり、一概にいえるものではありません。たとえば、あるキャラクターがほぼイコールで「中の人」である場合と、複数人のチームで一人のキャラクターを作り上げている場合などには、また違った判断がなされる可能性があるでしょう。
そのため、法的措置の可否について自己判断をして諦めるのではなく、実際に誹謗中傷の被害に遭っている場合には早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
VTuberへの誹謗中傷で名誉毀損罪は成立するか?
誹謗中傷の対象がVTuberである場合、一般的に相手を名誉毀損罪で刑事罰に問うことは困難でしょう。なぜなら、名誉毀損罪が成立するためには相手の社会的地位を低下させたことが要件の一つとなるところ、VTuberへの誹謗中傷ではこの要件を満たせない可能性が高いためです。
VTuberは、そのほとんどが匿名で活動しています。そのため、たとえばA田太郎氏が「中の人」を務めるVTuberの「Bちゃん」をいくら誹謗中傷したところで、A田太郎氏の社会的地位には一切影響しないでしょう。
ただし、VTuberの「Bちゃん」の「中の人」がA田太郎氏であることが広く知られているなど、「Bちゃん」への誹謗中傷がA田太郎氏の社会的地位の低下につながり得る場合には、名誉毀損罪に問える可能性があります。
VTuberへの誹謗中傷で損害賠償請求は可能か?
VTuberを誹謗中傷した場合、民事上の損害賠償請求は認められる可能性があります。なぜなら、一般的に民事のほうが刑事よりも保護の対象が広く、刑事では対象とされない「名誉感情」も保護の対象となり得るためです。
名誉感情とは、自分を大切に想う気持ちや自尊心などを指します。そのため、仮にVTuber「Bちゃん」の「中の人」がA田太郎氏であることが一般には知られていない状況であったとしても、「Bちゃん」を誹謗中傷することでA田太郎氏の名誉感情が傷付けられた場合には、これに対して損害賠償請求が認められる可能性があります。
VTuberが誹謗中傷に遭った場合の対応方法
VTuberが誹謗中傷の被害に遭った場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか?基本的な対応の流れは、次のとおりです。
誹謗中傷の記録を残す
VTuberがインターネット上で誹謗中傷の被害に遭ったら、まずはすぐにその証拠を残しましょう。たとえば、誹謗中傷をする投稿のスクリーンショットを撮影することなどが挙げられます。
スクリーンショットを撮影する際には、投稿の全容や前後関係、投稿の日時、投稿のURLなどを漏れなく記録してください。スマートフォンでのスクリーンショットではURLなどがすべて掲載されないことが多いため、パソコンでの撮影をおすすめします。
なお、投稿の内容によっては、できるだけすぐに投稿を消して欲しい場合もあるでしょう。しかし、焦って投稿の削除請求をすることはおすすめできません。
なぜなら、削除請求によって投稿が消えてしまえば仮にスクリーンショットに不備があっても追加で撮影することができず、証拠が消えてしまうためです。そのため、投稿の削除請求は弁護士へ相談してスクリーンショットを確認してもらい、削除請求についても弁護士へ相談してからにすべきでしょう。
また、相手に直接投稿を消すよう求めた場合には、誹謗中傷がエスカレートしてしまいかねません。そのため、相手に直接反論をしたり相手に直接削除を要請したりすることは控えた方が良いでしょう。
できるだけ早く弁護士へ相談する
投稿のスクリーンショットを撮影したら、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。なぜなら、誹謗中傷への法的措置は、時間との勝負であるといっても過言ではないためです。
インターネット上でのログはいつまでも保存されるわけではなく、一定期間が経過すると消えてしまいます。ログの保存期間はサイトによって異なりますが、おおむね3ヶ月から6ヶ月程度とされていることが多いでしょう。この期間が経過してしまうと、もはや相手を特定することは困難です。そのため、誹謗中傷をする投稿がなされたら、できるだけすぐに誹謗中傷問題にくわしい弁護士へ相談することをおすすめします。
誹謗中傷をした相手を特定する
VTuberへの誹謗中傷は、インターネット上で、匿名でなされることが多いでしょう。そして、誰であるのかわからない相手に対して法的措置をとることはできません。そのため、まずは誹謗中傷した人が誰であるのか、特定するための手続きが必要となります。
具体的にはまず、書き込みの舞台となったウェブサイトやTwitter社などのSNS管理者に対して、書き込んだ人の接続情報(IPアドレスやタイムスタンプなど)を開示するよう求めます。しかし、SNS管理者などが任意での情報開示に応じてくれることはほとんどありません。そこで、一般的には裁判上で情報の開示を請求することになるでしょう。
裁判所が発信者情報の開示が相当であると判断すれば、SNS運営者などに対して発信者情報の開示命令を発出します。これで、まずは投稿者のIPアドレスとタイムスタンプなどの情報が判明します。
しかし、これだけではまだ相手の特定には至っていません。次に、入手したIPアドレスなどの情報をもとに、NTTやKDDIなどのアクセスプロバイダに対して契約者情報の開示を求めます。
こちらも任意での開示には応じてもらえない可能性が高いため、裁判上で請求をすることが多いでしょう。これでようやく、相手が接続に使ったプロバイダの契約者情報(住所や氏名など)が判明します。
相手に対して損害賠償請求をする
相手が誰であるのかが判明したら、ようやく相手に対して損害賠償請求を行います。まずは相手に対して内容証明郵便など裁判外での請求を行い、相手がこれに応じない場合に裁判上での請求に移行する場合が多いでしょう。
まとめ
VTuberが誹謗中傷の被害に遭った場合、相手に対して損害賠償請求ができる可能性があります。
ただし、インターネット上での誹謗中傷の場合には、まず相手を特定することから一歩ずつ進める必要があります。これを自分で行うことは、容易ではありません。
また、インターネット上での誹謗中傷への法的措置は、時間との勝負であると言っても過言ではありません。そのため、誹謗中傷の被害に遭ったら、できるだけ早期に弁護士へ相談し、対応を進めることをおすすめします。
たきざわ法律事務所では誹謗中傷問題の解決に力を入れています。インターネット上での誹謗中傷被害でお困りの際には、たきざわ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。