【2021年1月施行】改正著作権法(ダウンロード違法化)
1. はじめに
以前のコラムでは、「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」(令和2年6月12日公布。以下「令和2年改正」)の中から、2020年10月1日施行の「リーチサイト対策」「写り込みに係る権利制限の対象範囲の拡大」「著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入」について解説しました。
そして、令和2年改正法第二回目となる今回のコラムでは、2021年1月1日施行の「侵害コンテンツのダウンロード違法化」(下記青字)について解説していこうと思います。
【令和2年改正の全体】
- インターネット上の海賊版対策の強化
- リーチサイト(侵害コンテンツへのリンク情報等を集約したウェブサイト)対策(2020年10月1日施行)
- 侵害コンテンツのダウンロード違法化(2021年1月1日施行)
- 著作物の円滑な利用を図るための措置
- 写り込みに係る権利制限の対象範囲の拡大(2020年10月1日施行)
- 行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法を追加)(2020年10月1日施行)
- 著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入(2020年10月1日施行)
- 著作権の適切な保護を図るための措置
- 著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化(2021年1月1日施行)
- 不正使用防止のためのアクセスコントロール技術に関する保護の強化(2021年1月1日施行)
- その他
- プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律)(公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日)
2. 侵害コンテンツのダウンロード違法化
2.1 改正の経緯
近年、インターネット上の海賊版による被害が深刻さを増してきています。10年以上前から海賊版による被害が顕著であった音楽・映像の分野に加え、漫画等の書籍に関しても巨大海賊版サイトが出現し、ユーザーのアクセスが集中したことで、順調に拡大しつつあった電子コミック市場の売上げが激減する等権利者の利益を著しく損なわせる事態となってきていると言われています。
これに対し、現行の著作権法では海賊版掲載者には、(A)著作物の違法アップロードを規制する規定(23条及び119条1項)で、海賊版をダウンロードするユーザーには、(B)違法アップロードされた著作物のダウンロードを規制する規定(30条1項3号及び119条3項)でそれぞれ対応してきました。
しかしながら、現行の(B)の規定については、その対象行為を制定当時に被害が特に顕在化・深刻化していた、デジタル方式での録音・録画に限定して規定したため、対象著作物も基本的には音楽・映像の著作物に限られており、漫画等の書籍については適用対象外でした。
そこで、このような実態に鑑み、令和2年改正では違法にアップロードされた著作物のダウンロード規制について、その対象著作物を音楽・映像から著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラム等)に拡大することとしました(30条1項4号・2項・119条3項2号・5項等)。
【海賊版対策の概略図】
※なお、違法化されるのは、あくまで意図的・積極的なダウンロード(複製)行為であり、単に、違法にアップロードされた著作物を視聴・閲覧する行為については違法とはなりません。
2.2 改正の概要
I. 令和2年改正の要旨
まず、今回の改正では、現行のデジタル方式での録音・録画の場合を対象とする著作権法30条1項3号に加え、新たにデジタル方式の録音・録画以外の複製の場合を対象とする30条1項4号と、その刑事罰を規定した119条3項2号が設定されました。
新設された録音・録画以外の複製の場合における規定(30条1項4号)は、「実効性確保」と「国民の正当な情報収集等の萎縮防止」のバランスを図る観点から、その規制対象を、違法にアップロードされた著作物であって、それを知りながらダウンロードする場合のみとするとともに、①漫画の1コマ~数コマ等「軽微なもの」、②二次創作等の二次的著作物(翻訳以外の方法により作成されたもの)、③「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」のダウンロードを規制対象から除外しています。また、刑事罰(119条3項2号)についても、特に悪質な行為に限定する観点から、有償著作物を反復・継続してダウンロードする場合に限定しています。
録音録画の複製の場合(30条1項3号関係)と録音録画以外の複製の場合(30条1項4号関係)を加えた形での変更概要を下記表にまとめてみました。
表.令和2年改正ダウンロード違法化に関する民事措置・刑事罰(変更概略表)
※主な変更点は下線部
Ⅱ. 録音・録画の場合とそれ以外の複製(令和2年改正)の場合の差異
一方で、現行の録音・録画の場合に関しての規定は改正前と変更されず、新設された録音・録画以外の複製の場合の規定は、録音・録画の場合と同等の保護を確保すべきことを前提とした上で、静止画・テキスト等の特性を踏まえて異なる要件も設けることとしました。
以下では、まず、録音・録画の場合と共通する要件の説明をし、続いて新設された録音・録画以外の複製の場合に特有な要件の説明をしていきたいと思います。
【録音・録画の場合と共通する要件】
➊違法にアップロードされた著作物であること
まず、共通する要件の一つ目は、対象著作物が違法にアップロードされた著作物でなければならないことです。これは「違法にアップロードされた著作物から便益を享受しようとすることは不適切であり、かつ、その後の違法ファイル・情報の更なる拡散の危険性を増加させることになる」との懸念から設けられたものです。
❷違法にアップロードされたことを“知りながら”ダウンロードする場合
二つ目は、違法にアップロードされたことを“知りながら”ダウンロードしている場合のみに適用されることです。これは「違法性の意識なく一般ユーザーが気軽に行うダウンロードに法的責任を負わせないで、インターネット利用の萎縮を避ける」趣旨で設けられたものです。
さらに、一般ユーザーの不安を取り除くために、令和2年改正では30条2項が新設され、「重過失により知らないでダウンロードした場合」はいずれも規制対象外となります。
❸有償著作物であること
三つ目は、刑事罰の場合には、対象著作物が有償著作物でなければならないことです。
刑事罰の対象範囲に関しては、被害実態を踏まえた海賊版対策に必要な範囲であり、かつ、刑事罰による抑止を行う必要性が高い悪質な行為に限定することが求められたため、録音・録画の場合と同様に現に被害が顕在化・深刻化している有償で提供・提示されている著作物等のダウンロードに限定しています。
【録音・録画以外の複製の場合に特有な要件】
①漫画の1コマ~数コマ等の“軽微なもの”な
これに対し、特有な要件の一つ目となるのが漫画の1コマ~数コマ等の“軽微なもの”は除外されることです。ここでいう「軽微なもの」は、著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度等に照らして判断されます(30条1項4号かっこ書)。
軽微なものに該当する場合とそうでない場合の例は下記になります。
OKな例:数十頁で構成される漫画の1コマ~数コマ、長文で構成される論文や新聞記事の数行等その著作物全体の分量から見てダウンロードされる分量がごく小さい場合、画質が低くそれ自体では鑑賞に堪えないような粗い画像をダウンロード した場合
NGな例:漫画の1話の半分程度、論文や新聞記事の半分程度のダウンロード
なお、実際に軽微ではないものを「軽微なもの」だと勘違いしてダウンロードした(NGな例をした)場合は違法とはなりません。
②二次創作等の二次的著作物(翻訳以外の方法により作成されたもの)
二つ目は、二次創作等の二次的著作物(翻訳以外の方法により作成されたもの)は対象から除外されることです。つまり、編曲・変形・翻案により創作された二次的著作物(この二次的著作物自体は適法にアップロードされたものである前提)をダウンロードしても、原著作者との関係では違法とはなりません。これは、二次創作によって原作の売上に悪影響を与えることは想定しづらいことや、実態として二次創作は黙認されている場合が多く、新たな若手クリエイターを育てる等コンテンツ産業の発展に重要な機能を果たしているとも考えられるためです。
ただし、翻訳によって作られた二次的著作物については、言語の差異を除けば、原著作物と同一の需要であると評価することができると考えられるので引続き規制対象となります。
③著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合
三つ目は、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合は、対象から除外されることです。
これは、ユーザー側に立証責任を負わせ、それとともに、「特別な事情」と明記することで居直り的な利用を確実に防止するために設けられたものです。
なお、ここでいう「特別な事情」は(A)著作物の種類・経済的価値等を踏まえた保護の必要性の程度と(B)ダウンロードの目的・必要性等を含めた態様の2つの要素によって判断されます。
具体的には、以下のような場合が「特別な事情」に該当するとされています。
例:詐欺集団の作成した詐欺マニュアル(著作物)が、被害者救済団体によって告発サイトに無断掲載(違法アップロード)されている 場合に、それを自分や家族を守る目的でダウンロードする場合
④反復継続性
四つ目は、刑事罰については、反復・継続してダウンロードする者だけが対象となるということです。
侵害コンテンツのダウンロードは一部の人間が繰り返し行う傾向があるとすれば、権利者の利益の実効的な利益保護にはこのような者され処罰すれば十分であると考えられます。また、これにより、正当な情報収集活動の過度な萎縮を避けることもできます。
Ⅲ. 写り込みに係る権利制限の対象範囲の拡大(30条の2)との関係
令和2年改正は、令和2年改正の第一回目で解説した写り込みに係る権利制限の対象範囲の拡大(30条の2)とセットになっています。30条の2の改正は必ずしもダウンロード違法化のためではないものの、正当なダウンロード行為への規制を避けるため重要な役割を担っています。すなわち、30条1項4号では安全装置として①の軽微なものの除外はありますが、これでは著作物を丸ごとダウンロードした場合(例えば、スクリーンショットで違法にアップロードされたアニメキャラのアイコンが写り込んでしまっているような場合)を除外することはできません。一方、③の著作権者の利益を不当に害しないと認められる場合による限定で、このようなものを除外することもできますが、30条の2ではより明確にスクリーンショット等を行う際の写り込みも著作権侵害とならない旨を規定しています。
3. さいごに
本コラムでは、2021年1月1施行の「侵害コンテンツのダウンロード違法化」について解説しました。令和2年改正のうち、「侵害コンテンツのダウンロード違法化」は実務というよりは日常生活に影響のある改正になっています。
日常的にインターネット上にある画像等のダウンロードを行う人も多いかと思いますので、思わぬところでユーザーが違法行為を行わないよう、ユーザー側の理解だけでなく、所轄官庁である文化庁側の啓発も求められるところです。
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