著作権にはどのような種類があるのか(著作権法解説第1回)
目次
はじめに
以前のコラム(https://takizawalaw.com/959/)では、著作権法の保護対象である「著作物」について条文上の定義から具体例まで解説しました。今回のコラムからは、著作物を創作したときに発生する「著作権(著作財産権)」について解説していきます。
著作権の内容
「著作権」とは、「著作権者が第三者に無断で著作物を利用されない権利」と以前のコラムでも説明しましたが、こちらの説明は実は少しだけ不正確なところがあります。それは、この説明があくまでも世間的に「著作権」と呼ばれている「狭義の著作権」の説明になるからです。ですから、「著作権」とは、正確には下図のように①著作物を創作した者(著作者)に与えられる財産権としての「狭義の著作権」と、②人格権としての「著作者人格権」、さらには、③著作物を伝達するのに創作的に関与した者に与えられる「著作隣接権」からなる権利の総称をいいます(なお、これは「狭義の著作権」と対比して「広義の著作権」とも呼ばれます。)。
つまり、私たちが普段「著作権」と呼んでいる「狭義の著作権」は、「著作財産権」と呼ばれるものと同義のものになります。
今回と次回のコラムではこれらの中でも「著作財産権」にファーカスを当て、その権利の内容の詳細についてみていきたいと思います。
著作財産権の内容
「著作財産権」とは、著作権者の財産的利益の保護を目的とする権利の総称をいいます。すなわち、著作権者はこの著作財産権を行使することで、許可を得ずに利用されたり、利益を奪われる事態を防止するとともに、契約により第三者に譲渡したり、ライセンス(利用許諾)したりすることで利用料を受け取る形により利益を得ることもできます。
また、著作財産権の内容については、著作物の種類により異なり、その利用態様に応じて権利の種類、内容が規定されています(なお、ここで規定されている各種権利は「支分権」と呼ばれたりします。) 。
今回のコラムでは、文字数の都合上、その中でも「複製権」「譲渡権」「貸与権」「頒布権」「二次的著作物創作権(翻案権等)」「二次的著作物利用権」の6つについて解説していこうと思います。残りの支分権については次回(第2回)のコラムで解説します。
(1)複製権(21条)
まず、はじめに著作財産権の中で最も基本的な権利である「複製権」について説明します。
複製権は、「無断で著作物をコピー(複製)されない権利」です。著作権のことを英語で「copyright」といいますが、このことからも複製権が最も基本的な権利であることが分かると思います。では、「複製」とは何を意味するのでしょうか。著作権法の条文による定義と、裁判による定義を見ていきましょう。
【著作権法上の定義】
著作権法における「複製」とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義されています(2条1項15号)。文字面だけでは分かりづらいと思いますが、具体的には、作品を模写する行為や、コピー機で複写する行為、スマホで写真撮影する行為、録音・録画する行為、ハードディクス・サーバーにデータ保存・蓄積する行為等、元となる著作物の創作的な表現を媒体に固定して再製する行為全般が該当します。
【裁判での定義】
これに対し、裁判では「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること」と判事されています(最判昭53.9.7「ワンレイニーナイトイン東京事件」)。
ここでいう再製とは、既存の著作物と同一又は類似のものを作成することをいうので、複製に該当するには①依拠性と②同一性・類似性の2つの要件が必要になります。そのため、例えば他人の著作物と同一性のある作品ができたとしても、それが他人の著作物に依拠することなく、独自に創作活動を行った結果のものであれば複製とはなりません。
(2) 譲渡権(26条の2)
つぎに、「譲渡権」について説明します。
譲渡権は「無断で著作物(映画の著作物を除く)の原作品又は複製物を譲渡により公衆に提供されない権利」です。映画の著作物については、(4)で説明する頒布権により処理されるため除かれます。
譲渡権は、通常の著作物の原作品とその複製物に対して認められます。ここでいう「原作品」は、美術の著作物であれば画家が描いた絵そのもののことをいい、「複製物」は、私たちが普段目にしている音楽CDや漫画本等の商品や、それをダビング等により複製したものをいいます。
また、譲渡権は著作物の公衆への譲渡に対して働く権利なので、公衆に該当しない「特定かつ少数の者(2条5項反対解釈)」への譲渡については権利は及びません。
したがって、譲渡権の対象となる行為の具体例としては海賊版等の違法に複製された音楽CDをフリマサイト等にて販売する行為があげられます。
その一方で、譲渡権には「消尽」という考え方が認められており、一度適法に譲渡された著作物に対しては、その後の譲渡には譲渡権が及ばないものとされています(26条の2 第2項)。そのため、例えば購入したものの不要になってしまった音楽CDを売却するような場合には、著作権者等の許諾を得る必要はありません。ただし、これはきちんと許諾を得て譲渡された商品に限られるため、違法に複製された音楽CDを売却するような場合には、引き続き譲渡権が働きます。
(3) 貸与権(26条の3)
つぎに「貸与権」について説明します。
貸与権は「無断で著作物(映画の著作物を除く)の複製物を貸与により公衆に提供されない権利」です。映画の著作物については(4)で説明する頒布権により処理されるため除かれます。
貸与権は、譲渡権と異なり、通常の著作物の“複製物”に対してのみ認められるため、原作品は対象になりません。これは、特に絵画等の場合、その原作品に貸与権を及ぼしたとしても、所有権との問題で権利の実体がなくなってしまうこと等の理由によるものです。
一方、貸与権も譲渡権と同様に公衆向けに行うときに働く権利なので、家族や友人間といった特定かつ少数の者の間での貸し借りであれば、貸与権の対象とはなりません。
しかしながら、例えばレンタル店が著作権者等からの許諾を得ることなく、顧客に対して有料で音楽CDを貸し出しているような場合は、複製物による公衆への貸与に該当するため、貸与権が働くことになります。なお、貸与権は譲渡権と異なり消尽の規定がないため、正規ルートで仕入れた音楽CDであっても、それを顧客に貸し出すには著作権者等からの許諾を得なければいけません。
(4) 頒布権(26条)
つぎに、「頒布権」について説明します。
頒布権は「無断で映画の著作物を複製してその複製物を公衆に頒布されない権利」です。
まず、頒布権の特質すべき点は、その対象が「映画の著作物」に限定されている点です(26条1項)。これは、映画の著作物(劇場用映画)が、他の著作物と比較してその製作に多額の費用と時間を要し、権利保護のニーズが高かったこと等が理由として考えられています。ただし、ここでいう「映画の著作物」は、劇場用映画に限られたものではなく、映画類似の著作物であるテレビ番組、CM、ビデオソフト、ゲームソフト等、物に固定された動画全般も含まれるとされています(2条3項)。
さらに、例外的に上記(2条3項)に該当しない著作物であっても映画の著作物において複製されている著作物(映画で用いられる音楽・美術等)については、頒布権が認められるとされています(26条2項)
一方、「頒布」の意味については、一般に複製物を公衆に譲渡又は貸与することをいいますが、映画の著作物の場合は、譲渡又は貸与する相手が公衆でない(特定かつ少数である)場合であっても、公の上映を目的としている場合には頒布に該当するとされています(2条1項19号)。つまり、映画DVDを不特定の者に対して譲渡する場合のみならず、バーやカフェ等の店内での上映を目的として個人に対して映画DVDを譲渡する場合も頒布に該当することになります。
なお、頒布権も貸与権と同様に消尽の規定が設けられていないため、原則的には消尽しないものと考えられています。しかしながら、例外的に、ゲームソフト(家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物)等のように公衆に提示することを目的としない複製物の譲渡行為については、市場における商品の円滑な流通を確保する等の観点から頒布権のうち譲渡についての権利は消尽するとされています(最判平14.4.25「家庭用中古ゲームソフト事件」)。
(5) 二次的著作物創作権(翻案権等)(27条)
つぎに、「二次的著作物創作権(翻案権等)」について説明します。
二次的著作物創作権(翻案権等)とは、「無断で二次的著作物を創作されない権利」をいいます。ここで、「二次的著作物」とは著作権法上、以下のように定義されています。
著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう(2条1項11号)
つまり、二次的著作物を創作する手段とは、「翻訳」「編曲」「変形」「翻案」の4通りであり、そのうちの翻案には「脚色」「映画化」「その他の翻案」が含まれるということになります(下表参照)。
翻訳 | 言語の著作物について、言語体系の異なる他の言葉で表現すること
例:英語書籍を日本語訳する行為 |
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編曲 | 音楽の著作物について、楽曲をアレンジして原曲に新たな付加価値をつけること
例:クラシックをジャズ調にアレンジする行為 |
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変形 | 次元を異にして表現することまたは表現形式を変更すること
例:絵画を彫刻にする行為、写真を絵画にする行為 |
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翻案 | 脚色 | 既存の著作物を演劇的な著作物に脚本する行為 |
映画化 | 小説やマンガ等の著作物をもとに映画の著作物を製作すること | |
その他の翻案 | 脚色や映画化以外で既存の著作物の内面的な形式を維持しつつ、外面的な形式を変更する行為(原作品の本質的特徴を直接感得できること) |
(6) 二次的著作物利用権(28条)
最後に「二次的著作物利用権」について説明します。
二次的著作物利用権は「原著作物の著作権者が自己の著作物が元になって創作された二次的著作物について無断で各種利用されない権利」です。二次的著作物の利用の際には、原著作物の表現の利用も伴うことから、二次的著作物の著作権者だけでなく、原著作物の著作権者も同様の権利を有することとされています。
そのため、例えば小説を原作としてできている映画(二次的著作物)をDVD化(複製)する場合、映画の著作権者に複製の許諾を求めると同時に、原作小説の著作権者からも複製の許諾を得なければいけません。
さいごに
今回のコラムでは、著作財産権の第1回目として「複製権」「譲渡権」「貸与権」「頒布権」「二次的著作物創作権(翻案権等)」「二次的著作物利用権」について解説しました。
特に「複製権」と「二次的著作物創作権(翻案権等)」の2つの権利に関しては、私たちは日頃から既存の著作物を参考にしながら新たな作品を創作することが多いため、注意を怠ると、これらの権利に抵触してしまう可能性があります。ですから、新たな作品を創作する際には、これらの権利に抵触しないように十分注意した上で作品内に作り手の個性が発揮されるよう心がける必要があります。