空き家を放置するとどうなる?弁護士がわかりやすく解説
相続や転居などにより、空き家を所有することとなる場合もあると思います。
では、空き家を放置すると、どうなるのでしょうか?
また、空き家を解体する際は、どのような点に注意する必要があるでしょうか?
今回は、空き家を所有するとどうなるのか、弁護士が詳しく解説します。
目次
空き家とは
一般的に、空き家とは誰も居住しておらず、使用もされていない建物を指します。
中でも、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家対策特別措置法」といいます)では、空き家を次のように定義しています(空家対策特別措置法2条1項)。
建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く
そのうえで、特に次の状態となっている空き家を、「特定空家等」と定義しています(同2項)。
そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等
さらに、「空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にある」空き家を、特定空家等予備軍として「管理不全空家等」と定義しています。
空き家を放置するとどうなる?
空き家を放置すると、どのようなリスクが生じるのでしょうか?
ここでは、空き家を放置することの一般的なリスクを4つ解説します。
野生動物繁殖や害虫増加の原因となる
空き家を放置すると、野生動物や害虫が増加する原因となります。
空き家の隙間から野生動物や害虫が侵入し、繁殖したり巣を作ったりするおそれがあるためです。
その結果、近隣住民に迷惑をかける事態となりかねません。
不法投棄や放火のリスクが高まる
空き家を放置すると、不法投棄がなされる可能性が生じます。
不法投棄をされたゴミがそのままとなっていると、さらに別の人に不法投棄をされるリスクが高くなります。
そのゴミに放火されるおそれもあり、周囲の安全を脅かす事態ともなりかねません。
地域の景観が悪化する
空き家を放置すると、時間の経過とともに劣化が進行します。
その結果、地域の景観が悪化し、周辺の地価に影響を及ぼす可能性があります。
倒壊して他者に迷惑をかけると損害賠償請求の対象となる
空き家は、長期間放置すると劣化が進行し、倒壊の危険が生じます。
空き家が倒壊したり屋根が崩れたりして通行人を巻き込んだり、自動車など他者の財物を傷付けたりすると、所有者に対して損害賠償請求がなされる可能性が高くなります。
所有者には家を適切に管理する責任があり、「今住んでいないから」などの理由によって損害賠償を免れることはできません。
空家対策特別措置法の空き家に該当するとどうなる?
空家対策特別措置法による特定空家等や管理不全空家等に該当すると、どうなるのでしょうか?
ここでは、空家対策特別措置法に関連する主な措置について解説します。
市町村から指導や助言がされる
空き家が特定空家等や管理不全空家等に該当すると、市町村から指導や助言がなされる可能性があります(同13条、22条)。
なされる可能性のある指導や助言の内容は、それぞれ次のとおりです。
特定空家等:除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を講じること
管理不全空家等:管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置を講じること
これらの指導や助言に従わない場合は、市町村から勧告が発せられます。
固定資産税が6倍に跳ね上がる
固定資産税とは、土地や建物の所有者に対して毎年課される税金です。
住宅用地については固定資産税の軽減措置が設けられており、固定資産税の課税標準が次のとおり軽減されています。
200㎡以下の部分:6分の1に軽減
200㎡超の部分:3分の1に軽減
ただし、市町村から勧告が発せられた管理不全空家等や特定空家等はこの特例が適用除外となり、固定資産税が6倍ないしは3倍に跳ね上がります(地方税法349条の3の2)。
以前は、たとえ老朽化していても建物さえ建っていれば、敷地にかかる固定資産税が6分の1(または3分の1)となっていました。
そのため、あえて空き家を遺していた場合もあるようです。
しかし、現在は勧告を受けた後は軽減の特例が受けられなくなることとされているため、速やかに除却などの対策を講じるとよいでしょう。
命令がされる
市町村からなされた勧告にも従わない場合、除却や修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう命令が下されます(空家対策特別措置法22条3項など)。
罰則の対象となる
市町村から除却や修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を講じるよう命じられたにもかかわらずこれに従わない場合は、50万円以下の過料に処される可能性があります(同30条1項)。
行政代執行がされる
空き家の所有者等が行政からの命令に従わない場合、行政代執行がなされる可能性があります(同22条9項)。
行政代執行とは、本来は所有者が行うべき行為を、行政が代わりに行うことを指します。
ここでは、「除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置」を市町村から命じられたにもかかわらず所有者等がこれを行わない場合において、市町村が代わりに「除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置」をすることを指します。
つまり、倒壊の危険がある空き家を解体するよう命じられたにもかかわらず所有者が解体などをしない場合、市町村が代わりに解体するということです。
また、代執行は所有者等が命令に従わない場合のみならず、災害その他非常の場合には、命令などを経ることなくなされることもあります。
なお、解体などの代執行に要した費用は行政が負担してくれるのではなく、いったん行政が立て替えるもののその後所有者から徴収されることとなるため、この点も誤解のないようご注意ください。
空き家を放置しないための対策
ここまで解説してきたように、空き家を放置するとさまざまな問題の原因となります。
では、空き家を放置しないためにはどのような対策を講じればよいのでしょうか?
ここでは、主な対策を4つ紹介します。
相続が起きたら早期に相続登記をする
1つ目は、相続が起きたら早めに相続登記をすることです。
相続登記とは、故人名義の土地や建物を存命の相続人などの名義へと変える手続きを指します。
不動産の所有者が亡くなったにもかかわらず故人名義となっている場合、そのままでは土地を売ることができません。
また、将来いざ相続登記を進めようとした際にもともとの相続人が亡くなったり認知症になったりする可能性が生じ、手続きがより困難となる可能性があります。
将来に問題を残し空き家を放置する原因とならないためにも、不動産の所有者が亡くなったら早期に相続登記を済ませておきましょう。
使用しない家は早期の売却を検討する
2つ目は、空き家を所有することとなった場合は、早期の売却を検討することです。
よほどの事態がない限り、所有を続けた空き家の価値が将来急激にあがることはないでしょう。
むしろ、時間の経過とともに建物の老朽化が進行し、価値が低下していくことが一般的です。
そのため、空き家を所有することとなった場合は、近い将来自分や家族が使用したり賃貸に出したりする具体的な予定がない限り、早期の売却を検討するとよいでしょう。
築古の空き家は解体する
3つ目は、空き家が築古でありそのまま売却するのが難しい状態である場合は建物をそのまま放置せず、早期に解体して更地とすることです。
空き家を解体することで、倒壊の危険などを避けることが可能となります。
一般的には、古い家が建っている土地よりも、更地の方が買主も見つかりやすくなります。
ただし、空き家の解体には注意しなければならないポイントもあります。
解体の注意点については、後ほど詳しく解説します。
トラブルがある場合は弁護士へ相談する
4つ目は、空き家に関してトラブルがある場合は、早期に弁護士へ相談することです。
空き家の相続登記をしたり売却したりしようにも、何らかのトラブルがハードルとなり手続きを進められない場合もあるでしょう。
その場合は、早期に弁護士へ相談するようにしてください。
自分で悩んで解決が難しいと考えていても、弁護士へ相談することで解決の糸口が見つかる可能性があるためです。
空き家を解体する場合の注意点
空き家を解体する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
ここでは、主な注意点を2つ紹介します。
解体すると固定資産税が高くなる可能性がある
先ほど解説したように、住宅の敷地には固定資産税が最大6分の1となる特例が適用されています。
建物を解体して特例の適用要件から外れてしまうと、翌年移行の固定資産税が高くなります。
そのため、売却を予定している場合は、あらかじめ不動産会社の担当者と相談して売却までにかかる期間の目安を確認したうえで、解体する時期を検討するとよいでしょう。
新しい建物が建てられない可能性がある
建物が建っている場所によっては、解体することで新たに建物が建てられなくなるかもしれません。
これはいわゆる「既存不適格」の問題です。
建築基準法の規定により、接道義務を満たしていない土地(敷地の間口が一定の道路に2メートル以上接していない土地)には、建物を建てることができません。
ただし、この規定が施行される以前から建っていた建物を壊すことまでは求められておらず、現在ある建物を使うことや、建物をリノベーションして使うことは可能とされています。
そのため、その空き家が接道義務を満たしていない敷地に建てられている場合、解体してしまうと原則として(隣地所有者に売るなどしない限り)二度と建物が建てられず、売却が困難となるリスクがあります。
このような事態を避けるため、先走って解体してしまう前に、弁護士などの専門家へあらかじめ相談するようにしてください。
なお、空家対策特別措置法の改正により、空家活用の重点的実施をする地域である「空家等活用促進区域」に指定された区域においては、接道義務が一部緩和されることとなりました。
空き家の放置に関するよくある疑問とその回答
最後に、空き家の放置にまつわるよくある質問とその回答を紹介します。
空き家は放棄できる?
空き家自体の所有権を放棄することはできません。
市区町村や団体などに寄付をすることで手放す余地はあるものの、相手方に受け取る義務があるわけではないため、受領を拒絶された場合にまで無理に押し付けることができるわけでもありません。
ただし、空き家を取り壊して更地とした場合において、その敷地が相続により取得したものである場合には、「相続土地国庫帰属制度」の活用によって手放すことができる可能性はあります。
相続土地国庫帰属制度の活用には要件があるほか費用もかかるため、活用を検討している際は、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談ください。
相続登記をしなければ相続人に責任はない?
このような誤解は少なくないものの、登記名義イコール権利者(義務者)ではありません。
たとえ名義が故人のままとなっていても、相続が発生している以上はその空き家や土地の権利義務は相続人に帰属しています。
そのため、空き家に関して費用が発生した際(空き家が倒壊してこれによりケガをした人から損害賠償請求をされた場合や、行政代執行をされた場合など)は、たとえ相続登記をしていなくても相続人が義務を負います。
登記をしていないからといって責任を免れることはできないことには注意が必要です。
まとめ
空き家を放置した場合にどうなるのかについて詳しく解説しました。
空き家を放置すると近隣住民に迷惑が及ぶ可能性があるほか、倒壊などで人をケガさせたり物を壊したりした場合は、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
また、空家対策特別措置法の規定によって固定資産税の特例措置から外れる可能性があるほか、代執行によって解体される可能性も否定できません。
空き家を放置したからといって、問題が解決する可能性はほとんどないでしょう。
そのため、空き家を所有することとなった場合は、早期の解体や売却を検討するようにしてください。
解体や売却などについて何らかのハードルがある場合には、不動産法務に強い弁護士へご相談ください。
たきざわ法律事務所では、空き家など不動産にまつわるリーガルサポートに力を入れています。
空き家の放置やその他不動産についてお困りの際は、たきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。