たきざわ法律事務所

【2023】未払い残業代の請求方法・請求された場合の流れは?従業員・会社向けに解説

この記事を書いた弁護士は…

 

 

未払い残業代とは、本来支給されるはずの残業代のうち、支給されていないもののことです。

 

では、未払い残業代が発生している場合、どのように請求すれば良いのでしょうか?また、従業員から未払い残業代を請求されたら、会社はどのように対応すれば良いのでしょうか?

 

今回は、従業員側と会社側それぞれの立場から、残業代請求について弁護士がくわしく解説します。

残業代請求とは

残業代を請求できるケース・できないケース

各企業などで定められた所定労働時間を超えて従業員を働かせた場合には、会社は残業代を支払わなければなりません。また、中でも1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて労働させた場合には、原則として割増賃金の支払いが必要です。

 

このような規定に反して本来支給されるべき残業代が支給されていない場合において、未払い分の残業代を請求することを残業代請求といいます。

退職後でも未払い残業代の請求は可能?

 

会社を退職してしまった後で、適正な残業代を受け取っていなかったことに気が付く場合もあるでしょう。では、退職後であっても、未払いとなっている残業代の請求は可能なのでしょうか?

 

退職後でも残業代は請求できる

 

未払い残業代は、退職後であっても請求することが可能です。すでに発生した残業代を請求する権利が退職によって消滅するわけではありませんので、退職をしたからといって諦める必要はありません。

 

ただし、退職をしてしまった後では、残業代請求に必要となる証拠を集めづらくなる可能性があります。そのため、まだ退職をしていないのであれば、退職前をする前に必要な証拠を集めておいた方が良いでしょう。

 

時効に注意する

 

未払い残業代の請求は退職後でも可能であるとはいえ、時効には注意しなければなりません。2022年12月現在、未払い残業代の時効は3年とされています。

 

ただし、2020年3月31日以前は、残業代請求の時効は2年とされていました。そのため、これ以前に発生した残業代は2年で時効にかかり、すでに消滅しています。

 

これ以降に発生した残業代も3年が経過したものから順次時効にかかっていきますので、未払い残業代の請求はできるだけ早期に取り掛かることをおすすめします。

 

なお、民法の改正とともに、残業代請求の時効は5年に伸長されています。ただし、従来の2年からいきなり5年へと伸長されては影響が大きすぎるとの意見を踏まえ、当面の間3年とする特例が設けられました。今後は原則どおり5年とされる可能性もありますので、今後の動向に注意が必要です。

 

最適解を提案します

 

最適解を提案します

残業代請求で必要となる主な証拠

残業代請求で必要となる主な証拠

未払い残業代の請求をする際には、証拠が必要です。特に、企業が任意での支払いに応じず労働審判や訴訟へと発展した場合には、証拠が不十分では請求が認められない可能性があります。

 

未払い残業代の請求で証拠となり得るものの例は、次のとおりです。ただし、退職後に未払い残業代請求に取り掛かった場合などには、有効な証拠を集めることが難しい場合もあるでしょう。その場合には、早期に弁護士へご相談ください。

 

弁護士へ依頼することで、弁護士が会社に開示請求をするなどして残業代を請求できる可能性があるためです。

 

タイムカードや勤怠記録

 

タイムカードや勤怠記録があれば、残業をしていたことの証拠となります。特に、1日の残業時間を30分未満で切り捨てるなど不適切な処理がされていた場合などには、この証拠が重要となるでしょう。

 

PCのログイン記録

 

業務用のパソコンのログイン記録があれば、これも重要な参考となるでしょう。特に、タイムカードを押した後に業務をすることやPCを持ち帰って休日などに業務をすることが常態化していた場合などには、これが重要な証拠となります。

 

業務上のメール

 

業務上のメールも、重要な証拠となり得ます。たとえば、休日や夜間にも頻繁に業務上のやり取りが行われていた場合などには、これが労働時間であると認定される可能性もあるでしょう。

 

また、上司から残業を指示されたメールなども、証拠となります。

 

業務日報

 

業務日報や作業日報なども、勤務状況を知るための重要な証拠となります。

 

交通ICカードデータ

 

通勤や退勤にICカードを使っていた場合には、このデータが証拠となる場合もあります。会社の通勤や退勤のために、公共交通機関を利用した記録が残っているためです。

 

ただし、会社近くで寄り道をしていた可能性もあるため、証拠としてはさほど強いものではありません。しかし、他の証拠と組み合わせることなどで、証拠力を高めることも可能となるでしょう。

 

手帳や日記

 

継続的に日記をつけていた場合や、日常的に退勤時間を記録していたような場合には、手帳や日記などが証拠として活用できる場合があります。

 

ただし、他の事項がほとんど書かれておらず労働時間のみを記録したメモなどは、証拠力が弱いと判断される可能性があります。訴訟のために、後から記録した可能性もあると考えられるためです。

 

【従業員向け】未払い残業代を会社に請求する流れ

未払い残業代を会社に請求する流れ

 

残業代が適正に支給されていない場合において、これを会社に請求する際には、どのような手順を踏めば良いのでしょうか?従業員が会社に対して未払い残業代を請求する基本の流れは、次のとおりです。

 

証拠を集める

 

はじめに、未払い残業代請求の根拠となる証拠を集めましょう。証拠がないままに請求をした場合には応じてもらえない可能性が高いうえ、仮に労働審判などへと発展した場合にも不利となる可能性があるためです。

 

必要となる証拠については上で紹介しましたので、そちらをご参照ください。

 

未払いとなっている残業代を計算する

 

次に、未払いとなっている残業代を計算します。計算の際には、集めた証拠との整合性が取れるように注意します。

 

残業をした時間はわかるものの残業代の計算方法がわからない場合には、弁護士などに相談をすると良いでしょう。

 

会社と交渉をする

 

未払い残業代が計算できたら、これを支払ってもらうよう、会社に交渉します。ただし、これまで適正に残業代を支給していなかった会社が、いち従業員からの請求で未払い残業代を支払う可能性は低いかもしれません。

 

弁護士へ相談する

 

1つ上で記載したとおり、これまで残業代を未払いとしていた企業が、一人の従業員からの請求で残業代を支給する可能性は高くないでしょう。

 

そのため、未払い残業代の請求は、弁護士へ依頼することをおすすめします。弁護士へ依頼すると、弁護士が代わりに未払い残業代を請求することが可能となります。

 

弁護士から未払い残業代を請求することで、会社が支払いに応じる可能性が高くなるでしょう。なぜなら、支払わなければ労働審判や訴訟の申立ても辞さないとの意思が伝わりやすくなるためです。

 

なお、弁護士を立てて会社に未払い残業代請求をしたことを、同僚などに知られたくないと考える場合もあると思います。そのような場合には、残業代請求をした事実を会社が他の従業員などへと口外しないよう、会社との間で守秘義務契約を結ぶことも可能です。

 

会社としても通常は他の従業員などからまとめて未払い残業代請求をされるような事態は避けたいと考えているため、守秘義務契約には応じてもらえる可能性が高いでしょう。

 

労働基準監督署へ申告する

 

明らかに未払い残業代が生じているにもかかわらず、会社が支払いに応じない場合には、労働基準監督署へ申告することが選択肢の一つとなります。労働基準監督署とは、企業が労働基準法に違反した行為をしていないかどうか、監督する役割を持つ機関です。

 

残業代が適正に支払われていないことを労働基準監督署へ申告すると労働基準監督署から会社への聞き取り調査がなされ、実際に不適切な行為が行われていると判断されれば是正勧告などがなされます。

 

ただし、労働基準監督署が是正勧告などの指導をするためには、違法状態であることの証拠がなければなりません。そのため、会社が証拠を隠ぺいするなどした場合には、労働基準監督署は手出しができない可能性もあります。

 

また、労働基準監督署が未払いとなっている残業代を計算したり、会社側から未払い残業代分のお金を取り立てたりしてくれるわけではありません。あくまでも会社に対して是正勧告をしたり、是正勧告に応じない場合に罰則を科したりするなどの役割を持っているのみですので、誤解しないよう注意しておきましょう。

 

労働審判を申し立てる

 

会社側が未払い残業代の支払いに応じない場合には、労働審判の申立てが選択肢の一つとなります。

 

労働審判とは、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行う、非公開の裁判手続きです。労働審判ではまず双方の話し合いによって解決が図られ、話し合いがまとまらない場合には労働審判委員会側から決断が下されます。

 

通常の裁判とは異なり、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっていることから、迅速な解決が期待できます。

 

ただし、労働審判の結果に不服がある場合には異議を申し立てることができ、この場合には通常の訴訟手続き(裁判)へ移行することとなります。

 

裁判を申し立てる

 

労働審判に異議がある場合には、通常の訴訟手続きである裁判へと移行します。また、労働審判を経ることなく、はじめから裁判(訴訟)を申し立てることも可能です。

 

未払い残業代訴訟では、裁判所が諸般の事情や証拠を踏まえ、決断を下します。なお、裁判は公開法廷で行われます。

 

【会社向け】未払い残業代を請求された場合の対処法

未払い残業代を請求された場合の対処法

 

従業員から未払い残業代を請求されたら、会社はどのように対応すれば良いのでしょうか?主な対応方法は、次のとおりです。

 

未払いとなっている残業代を計算する

 

未払い残業代を請求されたら、まずは未払いとなっている残業代を計算しましょう。従業員から請求されている未払い残業代が、過大である可能性もあるためです。

 

誠実に対応する

 

未払い残業代が確かに発生している場合には、できるだけ誠実に対応しましょう。適正な残業代の支払いは会社の義務である以上、未払い残業代の支払いを拒んだところで、支払わずに済むわけではありません。

 

ここで不誠実な対応をしてしまうと、さらに大きな問題へと発展する可能性があるでしょう。たとえば、労働基準監督署への申告や労働審判の申立てなどへ発展することのほか、他の従業員などからまとめて未払い残業代の請求がされたり、SNSに投稿されて拡散されたりすることなどが考えられます。

 

弁護士へ相談する

 

未払い残業代請求のなかには、対応方法に迷うものもあるでしょう。たとえば、企業としてはその従業員は労働基準法上の管理監督者であり残業代の支給対象ではないと考えている一方で、従業員がこれを否定している場合などです。

 

このように、残業代の請求には、そもそも支給が必要であるかどうかの判断に迷うものも少なくありません。

 

判断に迷うケースにおいて未払い残業代の請求がされた場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。また、これまで適正な残業代を支給していなかったものの今後きちんと支払う体制を整えたいという場合などにも、弁護士に相談すると良いでしょう。

 

最適解を提案します

 

最適解を提案します

 

会社が残業代請求に対応しない主なデメリット

 

現在残業代を適正に支払っておらず、残業代を適正に支払うよう従業員から請求された場合には、会社は真摯に対応すべきでしょう。なぜなら、適正な残業代の支払いは、そもそも法律上の義務であるためです。

 

仮に請求に応じなければ上で解説をしたとおり労働基準監督署へ申告されたり労働審判等を提起されたりする可能性があるほか、次のデメリットが生じる可能性があります。

 

遅延利息が発生する

 

残業代を適正に支払わず、後から未払い残業代を請求された場合には、本来支払うべきであった残業代に加えて、遅延利息を支払わなければなりません。遅延利息の利率は法定利率であり、2022年12月現在、3パーセントとされています。

 

ただし、この法定利率は令和2年(2020年)4月1日に定められたものであり3年ごとに見直されることとなっているため、令和5年(2023年)4月1日以降は異なる利率が適用される可能性があります。

 

参照元:改正後の民法における法定利率

 

従業員のモチベーションが低下する

 

残業をしたら、残業代が発生することはインターネットなどで検索をしてもすぐに出てくる情報であり、今や誰もが知っています。

 

そのような中で、残業代を適正に支給しなければ、従業員のモチベーションが低下する可能性があるでしょう。

 

退職者が増加する

 

残業代を適正に支払わなければ、モチベーションの低下に留まらず、退職者が増加する可能性があります。

 

退職者が増えれば、人材募集に費用をかけざるを得ません。また、せっかく採用した従業員も定着しないとなれば、継続的に人材募集のために多額の支出が発生するうえ、いつまで経ってもベテラン従業員が育たず、負のスパイラルとなってしまいかねないでしょう。

 

未払い残業代をまとめて請求される可能性がある

 

残業代を適正に支払っていなければ、後から未払残業代を請求される可能性があります。また、従業員同士があらかじめ相談し合い、複数人から一気に未払い残業代を請求される可能性もあるでしょう。

 

時効にかかっていない3年分の残業代を多数の従業員からまとめて請求されれば、一気に資金繰りが悪化して、経営が立ち行かなくなってしまうリスクが生じます。

 

企業イメージが低下する

 

残業代を適正に支払っておらず、そのことがSNSに投稿されて炎上してしまったりすると、企業イメージの低下は避けられないでしょう。結果的に、人材採用が困難となったり顧客が離反したりするなど、影響が拡大する可能性があります。

 

まとめ

 

従業員が残業をした場合、企業は原則として残業代を支払う義務があります。また、適正な残業代が支払われていない場合には、未払い残業代を請求することが可能です。残業代についてお困りの場合には、弁護士へ相談すると良いでしょう。

 

たきざわ法律事務所では、残業代にまつわるトラブル解決を得意としております。また、当事務所では、残業代を請求したい従業員様側からのご相談と残業代を支給する体制を整えたい企業様からのご相談の、いずれへの対応も可能です。

 

残業代の請求をしたい場合や未払い残業代の請求をされてお困りの際などには、たきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…

 

サンカラ

サンカラ