たきざわ法律事務所

【2023】試用期間中の解雇は自由?能力不足は会社都合で解雇可能?弁護士が解説!

この記事を書いた弁護士は…

 

 

試用期間とは、採用した従業員の能力や自社への適性、自社との相性などについて、会社が判断するための期間のことです。試用期間の長さは企業によって異なりますが、おおむね1ヶ月から6ヶ月程度としている企業が多いでしょう。

 

では、試用期間中であれば、会社側の都合で自由に解雇することができるのでしょうか?また、本採用の拒否と試用期間中の解雇では、どちらのハードルが低いのでしょうか?

 

今回は、試用期間中における解雇の考え方や試用期間中に解雇をする場合の注意点、不当解雇であると判断されやすい例などについて、弁護士がくわしく解説します。

 

試用期間とは

 

試用期間とは、採用した従業員の職務能力や自社への適性、自社との相性などを、会社側が判断する期間です。

 

採用にあたって面接などはするものの、面接や筆記試験だけでその人物の適性などを見抜くことは容易ではないでしょう。そのため、一定の試用期間を設ける企業が少なくありません。

 

試用期間中は、企業側に雇用契約の「解約権」が留保されていると考えられています。そして、試用期間の満了後、本採用するか本採用をせず雇用契約を解約するかを、企業が判断します。

 

試用期間の長さは法令で決まっているわけではなく、個々の企業が独自に定めています。ただし、あまりにも長い試用期間を設けた場合には、公序良俗違反として無効となるかもしれません。そのため、おおむね1ヶ月から6ヶ月程度としている企業が多いでしょう。

 

企業が試用期間を設けるためには、就業規則や雇用契約書に明記することが必要です。就業規則などに定めていなければ、試用期間中であることを企業側が主張することはできません。

 

また、就業規則などに根拠がないにもかかわらず、企業側が勝手に試用期間を延長することなどもできません。

 

試用期間中の解雇は自由?

 

試用期間中である場合、まだ本採用には至っていません。では、試用期間であれば、会社側の都合で、自由に解雇することができるのでしょうか?

 

試用期間中でも自由に解雇をすることはできない

 

誤解している人も少なくありませんが、試用期間中であるからといって、従業員を自由に解雇できるわけではありません。

たとえ試用期間中の解雇であっても、正当事由がない場合には、不当解雇であると判断される可能性があります。

 

本採用拒否の方がハードルは低い

 

「本採用拒否」とは、試用期間の満了後、本採用をせずに雇用契約を解約することです。

では、試用期間中の解雇と本採用拒否では、どちらのハードルが低いのでしょうか。

 

一般的には、試用期間中に解雇をするよりは、本採用拒否とした方がハードルは低いといえます。

ただし、本採用拒否であっても、何も理由もなく認められるわけではありません。

 

たとえば、企業のコストカットなどを理由に何ら非のない従業員を本採用拒否することは、認められない可能性が高いでしょう。

 

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試用期間中の解雇の考え方

 

試用期間中であっても自由に解雇することができないことは、先ほど解説したとおりです。では、試用期間中の解雇が認められるかどうかは、どのように考えれば良いのでしょうか?

 

基本の考え方は、次のとおりです。

 

能力不足を理由とする場合

 

試用期間中の従業員が能力不足であると感じた場合、解雇したいと考えることもあるでしょう。しかし、能力不足を理由に、試用期間中に解雇をすることは容易ではありません。

 

そもそも、試用期間は従業員の能力などを見極める期間であり、試用期間の途中で能力不足を判断することは時期尚早であるといえるためです。また、試用期間中であれば従業員の教育途上であることも多く、この期間中に能力不足と判断することは適切ではないでしょう。

 

ただし、幹部候補として中途採用をしたにもかかわらず求めるスキルが不足している場合などには、例外的に試用期間中の解雇の正当性が認められる可能性があります。

 

無断欠勤などを理由とする場合

 

正当な理由がなく無断欠勤を繰り返したり、社内でトラブルを頻発させたりするなど勤務態度に重大な問題がある場合には、試用期間中の解雇が認められる可能性が高いでしょう。

 

ただし、従業員が一度無断欠勤をしたからといって、直ちに解雇の正当性が認められるわけではありません。解雇が正当といえるためには、従業員の問題行動に対して企業側が指導を繰り返しているにもかかわらず問題行動が改善されないなど、相当な事情が必要です。

 

重大な経歴詐称を理由とする場合

 

履歴書や職務経歴書、保有資格などに重大な詐称があったことが判明した場合には、試用期間中の解雇が認められる可能性が高いでしょう。重大な詐称があれば、そもそも企業が採用したかった人材の要件を満たしていない可能性があるためです。

 

試用期間中の解雇が不当解雇となりやすい例

 

仮に不当解雇であると判断されれば、買い越した従業員を復職させる必要が生じたり、損害賠償をする必要が生じたりする可能性があります。

 

では、試用期間中の解雇である場合、どのような解雇が不当解雇とされやすいのでしょうか?不当解雇となりやすい主な例は、次のとおりです。企業としては、このような解雇をしないよう注意してください。

 

未経験者なのに能力不足での解雇

 

未経験者であることを知ったうえで採用したにも関わらず、試用期間中に能力不足を理由に解雇した場合には、不当解雇となる可能性があります。未経験者である以上、試用期間中という採用から間もない中で能力が不足しているのは、当然であるともいえるためです。

 

ただし、未経験者であっても勤務態度などに重大な問題がある場合には、試用期間中の解雇が認められる可能性があります。

 

必要な指導をしない上での解雇

 

従業員側に多少の問題があったとしても、必要な指導をせずに解雇をした場合には、不当解雇と判断される可能性が高いでしょう。

 

勤務態度などに問題があるからといってすぐに解雇するのではなく、まずは適切な指導を行い、それでも問題が繰り返された場合に、ようやく解雇の正当性が認められます。

 

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試用期間中に解雇をする際の流れ

 

試用期間中の従業員を解雇したい場合にはどのような手順で行えば良いのでしょうか?解雇をするまでの基本的な流れは次のとおりです。

 

解雇をしたい理由の証拠や記録を残す

 

試用期間中の従業員を解雇したい事情が生じたら、まずはその証拠や記録を残しましょう。たとえば、無断欠勤や遅刻などを繰り返した場合にはその記録を取るほか、会社側が指導した記録も残します。

 

証拠がなければ不当解雇であると主張された場合に、不利となる可能性があるためです。どのような証拠を残すべきか判断に迷う場合には、早期に弁護士へご相談ください。

 

解雇事由が相当かどうかを確認する

 

記録や証拠を残したら、判例などに照らし、その事情が解雇事由として相当かどうかを確認しましょう。

 

ただし、これを自社のみで行うことは、容易ではありません。そのため、労使問題にくわしい弁護士へ相談することをおすすめします。

 

解雇予告が必要であれば解雇予告を行う

 

労働基準法において、労働者を解雇しようとする際には、遅くとも30日前までに予告をしなければならないとされています。また、予告から解雇までの期間が30日に満たない場合には、解雇予告手当として、満たない日数分の賃金を支払わなければなりません。

 

仮に解雇の10日前に解雇予告をした場合には、20日(=30日-10日)分の賃金を支払う必要があるということです。

 

ただし、解雇予告は常に必要とされるわけではなく、使用後14日以内である試用期間中の者には適用されません。裏返せば、14日を超えて使用されている場合には、たとえ試用期間中であったとしても解雇予告が必要になるということです。

 

また、たとえば従業員が横領をした場合など労働者の責に帰すべき事由によって解雇する場合には、解雇予告は必要ありません。

 

この規定により、解雇予告が必要である場合には、解雇予告を行いましょう。解雇予告の要否に迷う場合には、弁護士へご相談ください。

 

解雇通知書を交付する

 

試用期間中の従業員に解雇を告げる際には、解雇通知書(解雇予告をする場合には、解雇予告通知書)を交付します。解雇通知書や解雇予告通知書とは、会社側が解雇対象の従業員に対して、解雇する旨を通知する書類です。

 

解雇は口頭であっても有効ですが、「言った・言わない」のトラブルになる可能性があるため、書面で行うと良いでしょう。

 

解雇通知書や解雇予告通知書には、解雇する旨や解雇日を記載するほか、解雇する理由を明記します。ここに記載した解雇理由は、不当解雇かどうかの判断において、非常に重要となります。そのため、解雇となった事実を明記するとともに、就業規則の条文など解雇の根拠を記載しましょう。

 

また、不当解雇などで争われた際に、ここに書かなかった解雇理由を後から追加することは、原則として認められません。そのため、解雇理由が複数ある場合には、すべての理由を列挙します。

 

試用期間中に解雇をする際の注意点とポイント

 

試用期間中に従業員を解雇する際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?主なポイントは次のとおりです。

 

試用期間中だからといって自由に解雇できるわけではないことを知っておく

 

何度も解説しているように、試用期間中であるからといって、会社側の都合で自由に解雇ができるわけではありません。この点については誤解している企業も多く、誤解したまま安易に解雇をしてしまうとトラブルとなる可能性が高いでしょう。

 

そのため、まずは試用期間中であっても解雇には正当事由が必要となることをよく理解しておくことが必要です。

 

解雇ではなく本採用拒否を検討する

 

一般的に、試用期間中の解雇より本採用拒否のほうが、ややハードルが低いといえます。本採用拒否であれば、会社が定めた試用期間を満了したうえでの判断であり、従業員の適性や能力をある程度しっかりと見極めた結果であると判断されやすいためです。

 

そのため、試用期間の満了まで待てない特段の事情があるのでない限り、試用期間中の解雇ではなく、本採用拒否とすることを検討すると良いでしょう。

 

ただし、本採用の拒否であっても、従業員側に問題がない場合にまで会社側が自由に行えるわけではありません。たとえば、会社の業績が想定よりもよくなかったことを理由として本採用拒否をすることなどは、不当であるといえるでしょう。

 

解雇予告手当の支払いが必要となる場合がある

 

先ほど解説したように、解雇をする際には、原則として30日前までの解雇予告か、解雇予告手当の支払いが必要となります。これは、試用期間中の従業員であっても、例外ではありません。

 

ただし、試用期間中であり、かつ使用された期間が14日以下である場合などには、例外的に解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要とされます。

 

なお、解雇予告をすることと、解雇の正当性とは別の問題です。法令の規定どおり解雇予告をしたり解雇予告手当を支払ったりしたからといって、解雇の有効性が担保されるわけではないため、混同しないよう注意してください。

 

根拠となる証拠を残しておく

 

従業員にとって、解雇は生活の基盤を揺るがしかねない重大事態です。そのため、解雇に納得がいかない場合には、不当解雇であるとして訴えられる可能性があるでしょう。

 

仮に訴訟等へと発展した場合には、証拠が非常に重視されます。そのため、試用期間中の従業員を解雇する場合には、解雇理由についての証拠をしっかりと残しておくようにしましょう。

 

残しておくべき証拠は、解雇する理由によってさまざまです。一例としては、勤怠記録や指導記録、メールのやり取りなどが挙げられます。

 

また、解雇予告通知書や解雇通知書などを交付した場合には、これらの書類を交付した証拠を残すため、受け取りの署名をもらっておいてください。

 

従業員が出社しないなどの理由でこれらの書類を郵送する場合には、内容証明郵便とすることも検討すると良いでしょう。内容証明郵便とは、いついかなる内容の郵便が、誰から誰に差し出されたのかということを、日本郵便株式会社が証明するサービスです。

 

また、交付した書類は相手から証拠として差し出される可能性があるほか、会話が録音されている可能性もあります。そのため、解雇対象となる相手に交付する書面は裁判資料とされる可能性も踏まえて作成することが必要です。

 

また、万が一にもパワハラなどと主張されてしまうことのないよう、会話の内容や言葉遣いには普段以上に注意しましょう。

 

労使問題に強い弁護士に相談する

 

試用期間中の解雇であっても、解雇はトラブルになる可能性が高いものです。また、解雇に際して交付した書面に不備や問題点があれば、不当解雇であると訴えられた際に、不利となるかもしれません。

 

そのため、解雇をする際には自社のみで進めるのではなく、労使問題に強い弁護士へ相談すると良いでしょう。あらかじめ弁護士へ相談することで、その解雇の正当性を確認することが可能となります。

 

また、解雇予告通知書など従業員に交付する書類の確認をしてもらうことができるほか、場合によっては従業員との面談の場に同席してもらうことも可能となるでしょう。

 

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まとめ

 

試用期間とは、会社が従業員の業務適性や能力、会社との相性などを見極める期間です。試用期間中は、雇用契約の解約権が、会社側に留保されていると考えられます。

 

しかし、試用期間中であるからといって、自由に解雇ができるわけではありません。試用期間中の解雇であっても正当事由が必要となりますので、誤解のないよう注意しましょう。

 

仮に不当解雇であると判断されれば、復職させる必要や、損害賠償をする必要が生じる可能性があります。

 

日本の法律において、従業員を解雇するハードルは低いものではありません。そのため、試用期間中であっても従業員を解雇する際には、労使問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。

 

たきざわ法律事務所では労使問題の解決に力を入れており、数多くの解決実績がございます。試用期間中の従業員を解雇したいとお考えの際には、ぜひたきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

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サンカラ

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