たきざわ法律事務所

著作隣接権について解説します

この記事を書いた弁護士は…

 

 1.     はじめに

広い意味の「著作権」全体は、「著作者の権利」と「著作隣接権」に分かれています。過去のコラムでは、このうち著作者の権利である「著作財産権」と「著作者人格権」について学んできました。

今回は、これらと並んで保護される「著作隣接権」について学んでいきたいと思います!

 

 2.     著作隣接権

2.1     意義

著作隣接権は、著作物等を公衆に“伝達する者”に与えられる権利をいいます。

このような者は、著作物の創作をおこなっていないゆえ、著作者にはなれませんが、著作物等を伝達するために重要な役割を果たしたこと、又は準創作活動をしたと評価できることを理由に、著作者の権利に準じた権利を付与することとしています(ただし、このような性格上、付与される権利の内容は著作者の権利よりも弱いです。)。

例えば「放送」の場合、音楽番組であっても通常は既存の音楽を放送するだけで、音楽の著作物の創作は行われていません。しかし、放送局がその番組を制作する(放送によって音楽を人々に伝達する)過程で、どの曲を選ぶか、誰に歌わせるか、伴奏はどうするか、背景やライトをどうするか、カメラはどこに置くか、等準創作的な工夫がなされています。こうしたことを評価して、「著作隣接権」が付与されています(これは、後述する「放送事業者の権利」と呼ばれる権利です。)。

 

2.2     権利の主体・客体

ただし、現実問題として、こうした伝達をする者全てに権利を付与するとなると、著作物等の利用の際に、多数の伝達者の間で取引が必要となり、コストが増大することで、かえって著作物等の円滑な流通を阻害しかねません。このため、現行の著作権法では、伝達行為の中でも特に、社会的重要性が大きく、法的保護の必要性の強い、実演・レコード・放送・有線放送の4種類に限定して、その行為者である実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者に著作隣接権を付与することとしています。

なお、著作隣接権は、著作者の権利と同様に無方式主義を採用しているので、それぞれ実演・レコードの固定・放送・有線放送という行為が行われた瞬間に権利が発生します。また、著作物と異なり、「創作性」は権利付与の要件ではないので、所定の伝達行為が行われれば、権利が発生することになります。

 

2.3     権利の種類

著作隣接権は、著作者の権利と同様に各権利(支分権)の集合体(権利の束)です。これらは、財産権と人格権に大別され、さらに以下の3つに分けることができます。

まず、財産権として上記の4者全てに付与されるのが、①許諾権です。「許諾権」は、他人が無断で利用することを止めることのできる権利です。また、使用料等の条件を付けて他人の利用(録音・録画やインターネット送信等)を認めることもできます。これに加えて、実演家とレコード製作者には②二次使用料・報酬請求権が付与されます。「二次使用料・報酬請求権」は、実演又は商業用レコードを利用した際に使用料や報酬を受けることのできる権利です。さらに、実演家についてのみ、実演家の人格的利益を保護する③実演家人格権が付与されます(下図参照)。

これは、実演自体が著作物の創作と同じく、実演家の個性が強く発揮されるものであり、実演の利用態様によっては著作物の場合と同様に実演家の人格的利益が害されることになるからです。

岡村久道「著作権法 第5版」(民事法研究会、2021)328頁を参考に作成

※なお、著作権法上、「著作隣接権」は、実演家等の権利(89条1項〜4項)から、実演家人格権と二次使用料・報酬請求権を除いた権利(=許諾権)をいいますが(89条6項)、日常的には、「実演家等の権利」の意味で「著作隣接権」との語を用いることも多いため、本コラムでは、便宜上、「実演家等の権利」を「著作隣接権」と表現しています。それに伴い、以下では「法上の著作隣接権」を「許諾権」と言い換えています。

 

 

 

 3.     実演家の権利

3.1     権利の主体・客体

1)  主体:実演家

「実演家」とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」をいいます(2条1項4号)。

すなわち、実演家には、オーケストラ(演奏家)や俳優のように自ら実演を行う者のほか、指揮者や、演出家のように、自らは実演を行わないものの、実演家を指図して自らの主体性の下に実演を行わせる者も該当します。

2)  客体:実演

「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいいます(2条1項3号)。

著作物を実演せずとも「芸能的な性質」を有するものは実演に含まれるので、物真似や手品等も権利の対象となります。一方、体操競技等のスポーツの実技は、芸能的な性質を有するものではないので、実演として保護されません。ただし、フィギュアスケートやアーティスティックスイミングのように、スポーツ実技であっても、芸能的な性質を有するものは実演として保護される場合があります。

 

3.2     権利の内容

実演家の権利は、財産権である①許諾権、②二次使用料・報酬請求権に加えて、人格権である③実演家人格権により構成されています。

 

これらには、以下の権利が含まれます。なお、我が国の実演家人格権は、WIPO実演・レコード条約で実演家の人格権として「氏名表示権」と「同一性保持権」が盛り込まれたのを機に平成14年改正で創設されたものであるため、著作者人格権とは異なり、「公表権」は含まれていません。

例えば、実演が録音・録画された音楽CDや映画DVD等を販売目的でコピーする場合は、「著作権者等」だけでなく、「実演家」の承諾も必要となります。もっとも、映画の著作物については、俳優(実演家)が自分の演技(実演)の録音・録画をいったん了承した場合は、以後その実演を利用することについて、原則として権利が及ばなくなります(91条2項)。これをワンチャンス主義といいます。

ただし、サントラ盤のように映画の著作物から録音物を作成する場合は、例外的に権利が働くので注意が必要です。

 

 4.     レコード製作者の権利

4.1     権利の主体・客体

1)  主体:レコード製作者

「レコード製作者」とは、「レコードに固定されている音を最初に固定した者」をいいます(2条1項6号)。実演家の生演奏から最初に原盤を作成した者がこれにあたります(そのため、本権利は別名「原盤権」ともいいます。)。原盤の再生音を録音した音や原盤からリプレス等の方法で増製した者は、レコード製作者とはなりません。原盤の製作には、設備や機材の準備等、多額の費用が必要となることが多いため、レコード製作者の投資保護の観点から著作隣接権の保護が認められたのです。

2)  客体:レコード

「レコード」とは、物に固定されている音源をいいます(2条1項5号)。録音媒体は何でもよく、LPやSP等のアナログレコードのほか、CDや CD‐ROM、さらにはUSBメモリ等の携帯用メモリカード等も「レコード」に含まれます。ただし、音を専ら映像とともに再生することを目的としたもの(録音物や映画の著作物)は除かれます。

4.2     権利の内容

レコード製作者の権利は、実演家の財産権と同じく①許諾権、②二次使用料・報酬請求権によって構成されています。これらには、以下の権利が含まれます。

例えば、SNSで注意しなければならない著作権侵害とは?の具体例(事例4)中でも言及していますが、CDに録音された音楽をネット上で使用する場合は、「著作権者等」だけでなく、「レコード製作者」の承諾も必要となります。

 

 5.     放送事業者の権利

5.1     権利の主体・客体

1)  主体:放送事業者

「放送事業者」とは、放送(下記参照)を業として行う者をいいます(2条1項9号)。レコード製作者とは異なり、放送を業として行う者のみが放送事業者となります。テレビ放送局、ラジオ放送局等がこれにあたります。

2)  客体:放送

「放送」とは、公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信のことをいいます。テレビ放送のように、番組が常に受信者の手元まで届いているような送信形態のものを指します。

5.2     権利の内容

放送事業者の権利は、上の2者の権利とは異なり、二次使用料・報酬請求権はなく、許諾権のみからなっています。これには、以下の権利が含まれます。

例えば、劇場用映画のTV放送をみた視聴者が、それを録音・録画して動画共有サイトに投稿する場合は、劇場用映画の「著作権者」だけでなく、「放送事業者」の承諾も必要となります。

 6.     有線放送事業者の権利

6.1     権利の主体・客体

1)  主体:有線放送事業者

「有線放送事業者」とは、有線放送を業として行う者をいいます(2条1項9号の3)。CATV(ケーブルテレビ)や、有線音楽放送局等がこれにあたります。

2)  客体:有線放送

「有線放送」とは、公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいいます(2条1項9号の2)。ケーブルテレビの有線放送のように、番組が常に受信者の手元まで届いているような送信形態のものを指します。

6.2     権利の内容

有線放送事業者の権利も、放送事業者の権利と同様に許諾権のみからなっています。これには、以下の権利が含まれます。

例えば、劇場用映画のケーブルTV放送をみた視聴者が、それを自分のスマートフォンでテレビ画面を写真撮影してSNSに投稿する場合は、劇場用映画の「著作権者」だけでなく、「有線放送事業者」の承諾も必要となります。

 7.     さいごに

本コラムでは、著作隣接権の解説をしました。皆さんにとってはあまり馴染みのない分野になるかもしれませんが、日常生活の意外なところで関係してきたりします。例えば「結婚式でお気に入りの曲をかけたいが式場からダウンロードした曲だとNGと言われた」というのをよく聞きますが、実は著作隣接権もこれに関係していたりします。ご興味ある方は是非調べてみてください。

 

 

情報技術分野は日々進歩し、法改正や行政の方針が目まぐるしく変化します。そのため、最新の法律を把握しているだけでなく、前提となる技術分野を理解し、行政の実際の規制運用にも精通している必要があります。

 

 

新しい技術分野はビジネスにとってはブルーオーシャンですが、同時にまだ法の運用が定まっておらず裁判例の集積がない地雷原でもあるのです。ビジネスチャンスを逃さないためにも、迅速かつ的確な対応をする必要がございますので、まずはお気軽に相談ください。
 

 

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…

 

サンカラ

サンカラ