たきざわ法律事務所

商品写真の類似性~春巻き写真事件~

 1.        はじめに

原告のスティック春巻きの写真と被告商品のラベルシールに用いられたスティック春巻の写真の類似性が争われた訴訟(以下、「本件」)で、東京地裁は、原告写真と被告写真はありふれた表現が共通するにすぎず、創作的表現が共通するとは認められないとして類似性を否定する判断をしました。

判決文URL:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/077/091077_hanrei.pdf

 

 

 2.        事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、被告ラベルシール1~3を商品に付して販売する行為が原告写真に係る著作権を侵害すると主張して、被告写真1~3の複製、改変、譲渡及び頒布の差止め及び廃棄の請求をするとともに、被告写真3に係る著作権侵害については損害賠償の支払いも併せて求めた事案です。

 3.        事件の経緯

●     原告

食品の企画、開発、輸入及び販売を主たる業とする株式会社

●     被告

冷凍食品、加工食品、生鮮食品、飲料品等の食品の企画、開発、 製造、販売及び輸出入等を業とする株式会社

●     委託先A社

原告及び被告がそれぞれの商品パッケージの製作等を委託した会社

 

経緯については、下記表にまとめました。

 

表1 被告ラベルシール1及び2に関する経緯について

時期 原告 委託先A社 被告
平成28年10月頃 A社に対し、スティック春巻の商品パッケージのデザインを委託するとともに、原告写真の画像データをメールで送信した。
令和元年9月 A社に対し、被告販売商品である「えびチーズ春巻」の商品パッケージデザインの制作及び印刷を委託した。
令和2年1月頃 原告から受信した原告写真の画像データを原告に無断で使用して、被告ラベルシール1及び2を制作した。
令和2年2月 被告ラベルシール1及び2を印刷し、被告に納品した。
令和2年2月以降 食品スーパーマーケット及び量販店に対し、パッケージに被告ラベルシール1及び2を貼付した「えびチーズ春巻」の営業活動を展開した。
令和2年3月12日 「警告書」と題する内容証明郵便を被告に送付し、原告写真の無断使用等を中止することを請求した。
令和2年3月16日の後 原告に対し、被告ラベルシール1及び2に関して、原告写真の画像データを無断で使用した事実を認めた。
令和2年3月19日 被告ラベルシール1及び2の全部を焼却処分した。

 

 

 

 

表2 被告ラベルシール3に関する経緯について

時期 原告 委託先A社 被告
令和2年4月頃 被告ラベルシール3の写真部分(以下「被告写真3」)に係る写真を自ら又は第三者に委託して撮影し、A社に当該写真の画像データを送信した。
当該データを受信した後、当該データを用いて被告ラベルシール3を印刷し、被告に納品した。
令和2年6月1日以後 被告写真3の画像データを用いた被告ラベルシール3を貼付した商品を食品スーパーマーケットや量販店に販売した。

 

※被告ラベルシール3の画像部分が被告写真3

 4.        主な争点

●    被告写真3に係る著作権侵害の成否

1)   写真著作物の複製・翻案

写真著作物の複製・翻案のパターンは、主に以下の表のように分けることができます。

 

表3 写真著作物の複製・翻案のパターン分け

パターン 該当する裁判例
写真そのものを有形的に再製すること 知財高判H18.3.29「スメルゲット事件」
同一の被写体について、撮影方法が類似する写真を別途撮影すること 知財高判H23.5.10「廃墟写真事件」 等
別の被写体で撮影方法の類似した写真を撮影すること 東京高判H13.6.21「みずみずしいスイカ事件」 等
写真に依拠して絵画等の別の作品を作成すること 東京地判H20.3.13「八坂神社祇園祭ポスター事件」 等

※パターンについては、岡村久道「著作権法 第5版」(民事法研究会、2021)p448を参考に筆者が作成

 

2)   写真著作物における複製権・翻案権侵害の判断基準

写真著作物における複製権・翻案権侵害の成否は、他の種類の著作物と同様に、依拠性(被告作品が原告写真著作物に依拠していること)と同一性・類似性(被告作品が原告写真著作物と同一又は類似すること)により判断されます。

同一性・類似性は、原告写真著作物のうち創作的表現と認められる部分のみを判断対象として、これと被告作品の共通する部分について、「原告写真著作物の表現上の本質的特徴を直接感得し得るか否か」、すなわち、「原告写真著作物と被告作品との間で創作的表現が共通するか否か」という基準によって判断されます。したがって、原告写真著作物と被告作品との間で共通する部分があったとしても、それが思想・感情やアイディアのような表現それ自体でない部分であれば侵害は成立しませんし、たとえ表現部分が共通していたとしても、それが原告写真著作物の表現上の創作性を有しない部分である時には侵害は成立しません。

実際の裁判では、この同一性・類似性を(I)被告作品と原告写真著作物の間で同一性を有する部分がどこかを認定したうえで、(II)同一性を有する部分が創作性を有する表現であるか否かを検討する「濾過テスト」と呼ばれる手法で判断されることも多いです。

3)   写真著作物の創作性を基礎付ける要素

同一性・類似性の判断をするうえで、写真著作物のいかなる要素に創作性が認められるかが重要な問題となります。写真著作物の創作性は、基本的には、構図、シャッターチャンス、撮影ポジション・アングル、露光時間、陰影、色彩といった諸要素の選択を総合的に考慮した結果、撮影者の個性が発揮されていた場合に認められるものと解されています。他方で、被写体に関する工夫については創作性を認めるべきか否かの争いがあります。この代表的な事件として、撮影や現像等によって生じた創作的な表現部分のみならず、被写体の選択・組合せ・配置等における創作的表現についても着目すべきであるとした東京高判H13.6.21「みずみずしいスイカ事件」があります。一方、被写体の選択に創作性を認めることはできないとした知財高判H23.5.10「廃墟写真事件」もあります。この二つの事件は、一見矛盾しているかのようにも思えますが、これらの意味するところは、前者の事件のように被写体を撮影者自らが作り出した場合は、被写体の選択(被写体の選択ではなく、配置・作成という意味であろうと述べるものもあります。)についても創作性が認められ得るが、後者のように既存の被写体を撮影したに過ぎない場合は、被写体の選択に創作性は認められないということになります。

 

 5.        裁判所の判断

【被告写真1及び2について】

被告写真1及び2は、原告写真のデッドコピー(複製)にあたるため、著作権侵害に基づく差止め及び廃棄が認められるが否かの判断がなされました。

その結果、被告は、警告書を受領してからすぐに被告ラベルシール1及び2の全部を焼却処分し、その記載内容に関する調査に着手し、無断使用の事実を認め、商品パッケージのラベルを差し替える旨を表明しており、また、現在は被告ラベル3を被告商品に付して販売していることから、裁判所は、著作権侵害に基づく差止め及び廃棄の必要性を否定する判断をしました。

【被告写真3について】

被告写真3は、被告写真1及び2とは異なり、別の被写体について別途撮影されたものなので、これが原告写真の著作権侵害にあたるか、すなわち、原告写真と同一又は類似しているかについて判断がなされました。

1)   同一性・類似性の判断

裁判所は、「被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものにあたるというためには原告写真と被告写真3の間で創作的表現が共通することが必要である」と述べました。しかし、その一方で「共通する表現がありふれたものであるような場合は、複製又は翻案したものにあたらない」と述べました。

2)   共通する表現(共通点a〜f)の創作性の有無

原告写真と被告写真3との共通する表現(共通点a〜f)の創作性の有無については、「共通点a〜fはいずれも創作的表現であるとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない」として、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものにあたらないと判断しました。

 

各共通点に関する判断は下記になります。

 

表4 原告写真と被告写真3の共通点に係る創作性の有無

共通点 創作性の有無 理由(判決文から要約)
a 被写体であるスティック春巻を2本ないし3本ずつ両側から交差させている点 創作性なし 角度や向きを変えながら料理を順に重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置することは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであるということができる。
b 2本のスティック春巻を斜めにカットして、 断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程度に見えるようにしている点 創作性なし 具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということができる。
c 端に角度がついた、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用している点 創作性なし 白い器は料理の色を引き立てる効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影する際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要であることが認められるので、白色で模様がなく、黄土色のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。
d 皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度をつけて撮影している点 創作性なし 料理写真の構図として、料理を正面から撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの方向から撮影する手法が存在することが認められるので、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るということができる。
e 撮影時に光を真上から当てるのではなく、斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点 創作性なし 料理写真の撮影方法として、料理の斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められるので、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるということができる。
f 葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置いている点 創作性なし 揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行われることということができる。

 

 6.        おわりに

本コラムでは、商品写真の類似性が論点になった事件について解説しました。写真の類似性の判断は非常に難しく、かなり詳細に検討が必要なケースが多いです。本件でも、表現の共通部分を抽出して1つ1つ丁寧に創作性の有無を検討した上で、非侵害の判断をしており、写真の類似性を判断する上で非常に参考になる裁判例だと思われます。

写真の類似性を検討する必要が生じた場合には、著作権を専門とする弁護士に是非ご相談ください。