弁護士が教える企業のSNS活用で注意しなければならない著作権侵害とは?
1. 企業のSNS活用
前回のコラムでは、著作権侵害の第1回目として、著作権法からみた「パクリ」「盗作」問題(複製権・翻案権侵害)について解説しました。
そして、著作権侵害の第2回目となる今回は、前回とは少し角度を変えて、今やあらゆる年齢層で日常的に利用され、同時に幅広いエンドユーザーにリーチするため企業公式アカウントとして利活用する事例も増えているSNS(Social Network Service)での著作権侵害に関する問題を取り上げます。
企業の活用シーンではいい意味で「企業っぽくない」企業アカウントがトレンドになっていますが、ユーザー目線を追及した結果、思わぬ著作権トラブルに発展するケースも散見されますので、注意が必要です。
2. SNSにおける著作物の利用
LINE、Twitter、Facebook、Instagram、TikTokといったSNSの利用が一般的になった現代では、誰でも簡単に情報収集・情報発信ができるようになりました。しかし、深く考えずに画像や動画等をアップロードして投稿したり、ダウンロードしたりしていると、知らず知らずのうちに他人の著作権を侵害してしまっているという事態になりかねません。
そこで、このような事態に巻き込まれないようにするために知っておくべき著作権法上のルールを以下の事例を通じて学んでいただきたいと思います。
※なお、下記いずれの事例も、著作権者の許諾がない前提になります。
目次
事例1:SNSでバズっている(「イイね!」がたくさんついている)他人の投稿写真を保存し、その写真を自分のSNSに転載した場合
こちらは、SNSでの著作権トラブルの典型例です。
SNSの投稿写真については、「写真の著作物(10条1項8号)」として著作権法上の保護を受ける可能性があります。
一般に、写真の著作物は「被写体の選択、シャッターチャンス、シャッタースピード、アングル、構図、現像等により、撮影者の思想・感情が表現されていること」を要します。
したがって、以下のような写真は写真の著作物として保護を受けることはできません。
例:固定式の監視カメラで撮影した写真、自動証明用写真、絵画の忠実な写真等のように単に被写体を写し撮ったに過ぎないもの
そこで、この投稿写真が写真の著作物である場合とそうでない場合とでそれぞれ検討していきます。
【投稿写真が写真の著作物でない場合】
著作権はあくまでも著作物に関してのみ主張することができる権利なので、著作物ではない投稿写真を無断利用したとしても著作権侵害とはなりません。
【投稿写真が写真の著作物である場合】
一方、投稿写真が著作物であれば、著作権者(撮影者)の許諾なしに著作物(投稿写真)を利用すれば著作権侵害となります。
本ケースでは、撮影者の許諾なしに投稿写真を保存(複製)し、それをSNSにアップロード(送信可能化)したので、「複製権(21条)」及び「公衆送信権(23条1項)」侵害となる可能性が高いです。
ただし、著作権法には「権利制限規定」と呼ばれる複数の例外規定が設けられており、一定の例外的な場合には、著作権者に許諾を得ることなく利用することができるとされています。
以下では、当該行為が複製権の権利制限規定である「私的使用のための複製(30条1項)」に該当するかを検討します。
- 私的使用のための複製
『著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは、その使用する者が複製することができる(30条1項柱書き)。』
つまり、個人的に又は家庭内等の“閉鎖的範囲内”で使用する目的である場合、例えば、自宅で個人的に写真を見返すためといった場合は、保存(複製)することが可能です。
しかし、SNSに投稿することが目的となれば、私的使用目的と言えないため、著作権者の許諾なしに複製することはできません。
なお、当初は写真を見返すために保存した(私的使用のために複製した)といった場合であっても、後でSNSにアップロードしてしまえば目的外使用となり、複製を行ったものとみなされる(49条1項1号)ので注意してください。
事例2:TV放送されているスポーツ中継映像をSNSにアップした場合
こちらも、SNS上でよく見かける光景です。
テレビ放送されている一般的なスポーツ中継は、試合の映像を効果的に表現するために、カメラアングル、カメラワーク等の撮影方法及び編集等の具体的表現内容に独自の創意が施されており、また同時に収録も行われている前提から、「映画の著作物(2条3項)」として保護されます。
よって、映画の著作物であるスポーツ中継映像を無断で録画し、それをSNSにアップロードしたとすれば、複製権及び公衆送信権侵害となる可能性が高いです。
実際に、過去の裁判例でも、総合格闘技の試合映像を無断でインターネットサイトの「ニコニコ動画」に投稿した被告に対し、著作権侵害を認めています(東京地判H25.5.17「UFC動画無断投稿事件」)。
事例3:人気キャラクターの画像をSNSのプロフィールアイコンに使用した場合
SNSの投稿でなく、アイコンとしての使用であっても、やはり「私的使用」の範囲とは言い難いため、他人の著作物をそのまま又は多少の加工をして利用した場合には、著作権侵害となる可能性が高いです。
なお、そのキャラクターがいわゆる「フリー素材」として公開されている画像・イラスト等であった場合であっても、著作権が放棄されていないものも存在するため、フリー素材を使用する際には、きちんとそれぞれのサイトで利用規約を確認することをおすすめします。
事例4:流行りの楽曲の「歌ってみた」動画をSNSに投稿した場合
「歌ってみた」動画は、実は権利処理が非常に複雑で、ケース毎に「著作財産権」「同一性保持権(著作者人格権)」「原盤権(著作隣接権)」をそれぞれ検討しなければいけません。
では、まずはこれらの中から、「著作財産権」及び「同一性保持権(著作者人格権)」に関する事項からみていきましょう。
一般に、日本では音楽に関する多くの著作財産権を、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下、JASRAC)等の著作権管理団体が管理しています。
その管理事業の一つとして、動画配信サイトやSNSとの間で利用許諾に関する包括契約を結び、ユーザーがJASRAC等の管理楽曲を手続きなくアップすることができるようにしています。
例えば、 JASRACと契約を結んでいる主要なSNSは以下の通りです。(2021年2月21日現在)
このように、日本国内でユーザー数上位のSNSに関しては、その殆どが JASRACと包括契約を結んでいるので、基本的には JASRACの管理楽曲であれば申請なくアップできると考えてよいと思います。しかし、Twitterだけは例外的にJASRACと契約を結んでいないので注意が必要です。さらに、“音声版Twitter”と呼ばれ、日本でも急速にユーザー数を伸ばしているClubhouseについても同様なので、これらで、JASRACの管理楽曲をアップする場合は別途申請が必要となります。
そして、もう一つ注意したいのが、「この包括契約は、JASRACの管理楽曲をアップする際に申請する必要がないということを取り決めているものであって、楽曲自体を自由に利用していいというわけではない」ということです。
例えば、勝手に歌詞やメロディーにアレンジを加えて歌った動画をSNSに投稿した場合には、翻案権(27条)、二次的著作物利用権(28条)、さらには同一性保持権(20条)の侵害となる可能性があります。
つまり、「歌ってみた」動画を撮影し投稿する場合には、なるべくオリジナルに対して忠実でなければならないということです。
とはいえ、完全に楽曲を再現することは難しいため、場合によっては著作者である作詞・作曲者の意に反する改変となり同一性保持権侵害となる可能性はあります。
※なお、これらはあくまでもJASRAC管理楽曲をアップする際の注意事項ですので、JASRAC管理楽曲以外の楽曲をアップする場合は、著作権者等の許諾が別途必要となります。
つぎに、「原盤権(著作隣接権)」に関する事項についてもみていきましょう。
原盤権は、レコード会社等(レコード製作者)に与えられる権利で、他人がレコード製作者の許可なく音源(レコード)を利用することを止めることができる権利です。
これには、以下の4つの権利があります。
複製権(96条)、送信可能化権(96条の2)、譲渡権(97条の2第1項)、貸与権(97条の3第1項)
したがって、CD音源等の音楽原盤を使った「歌ってみた動画」を投稿する場合には、楽曲の著作権者だけではなく、レコード会社等の著作隣接権者からも許諾を得る必要があります。
詳細については、以下のJASRACのHPに詳しく書かれているのでご参照ください。
JASRAC「動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」
https://www.jasrac.or.jp/info/network/pickup/movie.html
事例5:人気漫画のパロディ作品(同人漫画)のスクリーンショット画像をSNSに投稿した場合
もしかしたら「そもそも同人漫画なんて殆どが許諾を得ていない違法作品なのだから、違法なものに権利は発生しないでしょ!」と思われる方もいるかもしれません。しかし、これについては最近の裁判例で以下のように判示しています。
「原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん、認められる場合であっても、一審原告が、オリジナリティがあり、二次的著作権が成立し得る部分に基づき、本件各漫画の著作権侵害を主張し、損害賠償等を求めることが権利の濫用に当たるということはできない(知財高判令2.10.6「BL同人誌事件」)」
つまり、原著作者の著作権を侵害する二次的著作物であっても、創作性のある部分については二次的著作権が成立するため、損害賠償請求といった権利行使をすることが可能であるということになります。
ですから、同人漫画が違法な二次的著作物であっても、それをダウンロードやスクリーンショットで複製してSNSに投稿すれば二次的著作権の侵害となる可能性があるのです。
さらに、このケースでは二次的著作物に関する原著作者の権利(28条)の存在も考えられるので、同人漫画をSNSに投稿するにあたっては、同人漫画の作者だけでなく、原作漫画の作権者(原著作者)の許諾も必要となる可能性があります。
事例6:私的使用目的で海賊版漫画を掲載しているSNSのページをスクリーンショットし、保存した場合
こちらは、令和2年著作権法改正の「侵害コンテンツのダウンロード違法化(30条4項)」により、著作権侵害となる可能性があります。
詳しくは、こちらのコラムを参照していただければと思いますが、2021年1月より、違法アップロードされた全ての著作物について、それを“知りながら”複製した場合に、著作権侵害が認められるようになりました。
ただ、これはあくまでも“知りながら”が大前提なので、違法アップロードされた漫画(海賊版漫画)であっても、それを知らずにスクリーンショットし保存(複製)した場合には、著作権侵害とはなりません。
さらに、本規定では複数の対象除外事項も設けられており、例えば、数十頁で構成される漫画の1コマ~数コマ等の「軽微なもの」や、同人漫画のような「二次的著作物(翻訳物を除く)」は、規制対象から除外されることになります。
3. SNSの著作権トラブルは弁護士までご相談下さい
本コラムでは、SNS上での著作権侵害に関する解説をしてきました。皆さんにとっても身近な事例が多かったのではないでしょうか。SNSは、情報を収集・発信するツールとしては非常に便利なツールですが、一方で著作権侵害が頻繁に発生しやすい環境であることは理解しておく必要があります。特に企業が公式アカウント等で侵害してしまうと、多くの匿名ユーザーと異なり、いわゆる「炎上」によって企業イメージが毀損されてしまいます。
弊所では、企業向けの著作権講座や事例学習をまじえた担当者向けセミナーも行っております。トラブルになった際の迅速な対応はもちろん、企業イメージを守るためには事前の備えも万全にしておく必要がありますので、そうしたセミナーや勉強会を通じ、社員の著作権意識の向上を図ることをご検討ください。
SNS上での著作権関係のトラブルを回避するためにも、著作権に関する最低限の知識を身に付けておくようにしましょう。