【2024】事業承継対策には不動産の活用が可能?主な対策を弁護士がわかりやすく解説
事業承継の対策として、しばしば不動産が活用されます。
不動産を活用した事業承継には、どのような制度があるのでしょうか?
また、不動産を活用した事業承継を成功させるには、どのようなポイントを押さえればよいのでしょうか?
今回は、不動産を活用した事業承継対策について詳しく解説します。
目次
事業承継とは
事業承継とは、経営者が会社の経営権や事業に必要な資産を、後継者へと引き継ぐことです。
会社を経営するには多くの資産を有することが多く、これがしばしば事業承継の障壁となります。
事業を後継者に譲ることによって贈与税や相続税などの税金が発生するため、節税対策も考える必要があります。
事業承継と不動産の2つのパターン
不動産の観点から見た際に、事業承継には2つのパターンがあります。
それぞれの概要について解説します。
不動産の所有者が法人である場合
1つ目のパターンは、不動産の所有者が会社である場合です。
この場合は、不動産を単独で後継者に承継させる必要はありません。
会社の預貯金や機械器具などと同じく、不動産も会社の「株式」の中にパッケージとなっているため、株式の承継を行うことで自動的にその中に含まれている不動産も承継されることとなります。
不動産の所有者が経営者個人である場合
2つ目のパターンは、不動産の所有者が経営者個人である場合です。
特に中小企業などでは、経営者個人が有する土地や建物を会社に貸し付け、会社から賃料を得ているケースが少なくありません。
この場合は株式を承継しても不動産の所有権までは移転しないため、不動産の承継方法も別途検討する必要が生じます。
不動産を活用した主な事業承継対策と制度の概要
不動産を活用した事業承継対策には、どのような制度があるのでしょうか?
ここでは、不動産の承継で知っておきたい主な制度や対策の方法について、概要を解説します。
不動産購入による株価の引き下げ
不動産を活用した事業承継対策の1つ目は、不動産の購入による株価の引き下げです。
中小企業の自社株は原則として、会社の純資産をベースとして評価されます。
そのため、純資産が少なくなれば、原則として会社の株価も低くなります。
事業承継において株価を算定する際は、会社が所有する不動産は簿価(土地は原則として購入価格。建物は原則として減価償却適用後の価額)ではなく、路線価方式など相続税評価額で算定し直すことが原則です。ただし、評価時点前3年以内に取得した不動産は、取引価額で評価されることとされています。
不動産の相続税評価額は時価や購入価格よりも低いことが一般的であることから、これにより株価を引き下げる効果が期待できます。
ただし、経営の観点から見れば、購入する必要のない資産を購入することが必ずしも得策であるとは限りません。
事業承継で株価を引き下げるためだけに不動産を購入した会社の資金繰りが悪化すれば本末転倒となりかねないため、不動産の購入が本当に有効な対策であるかどうか十分に検討したうえで決断してください。
不動産評価の見直し
2つ目は、不動産評価の見直しです。
事業承継における自社株評価にあたって会社が所有する不動産を評価する場合、原則として相続税評価額によることは先ほど解説したとおりです。
土地の相続税評価額は、原則として路線価(土地が接する道路に付された価格に平米数を乗じた価格)をベースとします。
しかし、この路線価には土壌汚染など土地の個別事情は加味されていません。
そこで、個別事情を踏まえて不動産鑑定士に客観的な価格を算定してもらうことで、土地の評価額が引き下げられる可能性があります。
小規模宅地等の特例
3つ目は、小規模宅地等の特例です。
これは、事業用資産が経営者の個人所有である場合にのみ活用の余地があります。
小規模宅地等の特例とは、相続税の計算をする際、一定の要件を満たすことで土地を最大8割減で評価することができる特例です。
減額の割合が大きいため、土地を有している場合は漏れなく適用を受けたい特例であるといえます。
小規模宅地等の特例は亡くなった人(「被相続人」といいます)の自宅敷地などのみならず、被相続人の事業の用に供していた土地についても適用を受ける余地があります。
ただし、特例の適用には要件があります。
また、特例の適用には、限度面積が設けられており、必ずしも被相続人が有するすべての土地について適用を受けられるわけではありません。
小規模宅地等の特例については注意点が少なくないため、あらかじめ税理士などの専門家へ相談しておくとよいでしょう。
不動産を活用した事業承継を成功させるポイント
不動産を活用した事業承継を成功させるには、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
ここでは、不動産を活用した事業承継を成功させる主なポイントを3つ解説します。
できるだけ早期から取り掛かる
1つ目は、できるだけ早期から取り掛かることです。
不動産を活用したものに限らず、事業承継を成功させるには、できるだけ早期から取り掛かることが鉄則です。
なぜなら、時間的な猶予があれば、取ることのできる対策の選択肢が増えるためです。
たとえば、株式の承継だけを見ても、時間的な余裕がある場合は計画的に株価を引き下げるタイミングを作り、そのタイミングに合わせて承継させることでかかる税金を最小限とすることができます。
一方で、時間的な猶予がなければ講じられる対策も限られるうえ、承継のタイミングを十分吟味することもできません。
専門家へ相談する
2つ目は、専門家へ相談することです。
事業承継に関して専門家へ相談することで、具体的な解決策が見つかりやすくなるためです。
中には、株式の承継にかかる税金で悩んでいたものの、いざ専門家へ相談し株価を算定してもらったら考えていたよりも低額であり、すぐに贈与をしてもさほど税金がかからないこともあります。
これとは反対に、「当社は赤字なので、株価も大したことないだろう」と考えて安易に贈与をしてしまった結果、思いのほか株価が高く多額の贈与税が生じてしまうこともあります。
会社の株価を算定するには専門的な知識が必要であり、「儲かっていないから株価が低い」などと単純に判別できるものではありません。
そのため、事業承継についてお考えの際は、まずは専門家へ相談することをおすすめします。
子どもが複数いる場合はあらかじめ理解を求めておく
3つ目は、子どもが複数いてそのうちの1人に事業を承継させる場合、後継者以外の子どもにあらかじめ理解を求めておくことです。
事業承継をする場合、後継者に引き渡す財産とその他の子どもに渡す財産の価額に大きな差が生じる可能性が高くなります。
会社の株式も後継者に承継させ、会社に賃貸している不動産も後継者に承継させるとなれば、後継者が承継する財産の比率が高くなることが一般的です。
もちろん、それらは今後も事業に活用していくべき資産であり、単純な財産とは異なるというのが経営者や後継者側の考えでしょう。
また、経営にはリスクや心労も伴います。
一方で、経営に携わらない他の子どもから見ると、「後継者だけが多くの財産をもらった」と見られてしまうことも少なくありません。
不公平であると感じられてしまうと、相続争いに発展したり、遺言書を残しても遺留分(子どもや配偶者など一部の相続人に保証された相続での取り分)を請求されてトラブルとなったりするおそれがあります。
そのような事態をできるだけ避けるため、経営者自身が元気なうちに家族に意見を伝える場を設け、事業承継について理解を求めておくことをおすすめします。
不動産活用の他に知っておきたい主な事業承継対策
最後に、不動産活用のほかに知っておきたい主な事業承継対策を、4つ解説します。
生前贈与
事業承継対策には、生前贈与も有効です。
生前贈与とは、相続を機に遺産を承継させるのではなく、存命中に財産を渡すことです。
自社株や不動産を生前贈与することで相続時に残っている財産を減らすことができ、節税につながります。
また、生前贈与しておくことで遺産分割の対象から外れ、より確実に後継者に事業用資産や自社株を渡すことが可能となります。
ただし、むやみに生前贈与をしてしまうと高額な贈与税がかかる可能性があるため、税理士などの専門家へ相談したうえで贈与する財産を検討することが必要です。
また、生前贈与をすることで遺産分割の対象からは外れるものの、遺産分割の際に特別受益として加味されることとなったり遺留分の計算の基礎に含まれたりすることが原則であるため、弁護士へも相談したうえで行うと良いでしょう。
遺言書の作成
事業承継では、遺言書の作成は必須といえます。
遺言書とは、遺産を遺す人自身があらかじめ作成しておくことで、死後の遺産の配分などを定められる手続きです。
生前贈与を進めつつも、相続開始時点で承継が完了していない財産(自社株や事業用不動産など)については後継者に相続させる旨の遺言書を作成しておくことで、事業に必要な資産を漏れなく承継させやすくなります。
ただし、遺言書の作成には注意点が少なくありません。
他の相続人の遺留分を侵害するなど問題のある遺言書を遺してしまえば、むしろ争いの火種となるおそれもあります。
そのため、遺言書は無理に自分だけで作成するのではなく、弁護士など専門家のサポートを受けて作成すると良いでしょう。
生命保険の活用
事業承継対策としては、生命保険もしばしば活用されます。
生命保険金は、原則として遺留分の対象とはなりません。
そのため、後継者を受取人とする生命保険に加入しておくことで、遺留分対策として活用することなどが考えられます。
また、生命保険金の受取人が相続人である場合は独自の非課税枠(500万円×法定相続人の数)も活用できることから、相続税対策としても有用です。
ただし、遺産に対してあまりにも高額な生命保険をかけたことにより後継者と他の相続人との間に著しい不公平が生じる場合は、例外的に遺留分の算定基礎に含まれる可能性があります。
これは、「遺産の何割以下なら問題ない」や「〇万円程度なら大丈夫」のように、一律で線引きができるものではありません。
そのため、事業承継の一環として生命保険の活用をご検討の際は、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談ください。
事業承継税制の活用
事業承継税制とは、一定の要件のもと、後継者が取得した一定の資産(自社株)について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
自社株には価値があるとはいえ、転売して利益を得るような性質のものではありません。
むしろ、自社株を不用意に手放して他者が所有することになれば、経営が立ち行かなくなるおそれもあります。
そこで、一定の要件を満たすことで、自社株などにかかる贈与税や相続税を猶予したり、さらに一定期間にわたって要件を満たすことで最終的に免除したりする制度が設けられています。
それが、事業承継税制です。2019年度の税制改正では、個人向けの事業承継税制も新設されています。
ただし、事業承継税制で猶予を継続するためには、承継後5年間は平均8割以上の雇用を維持することなど、選択した制度に応じて所定の要件を満たさなければなりません。
特に、猶予を受けた額が多額である場合は、適用を受けた後で業績が悪化したとしても雇用維持要件があることで事業の縮小が困難となり、にっちもさっちもいかなくなる事態となるおそれがあります。
そのため、事業承継税制を活用する際は目先のメリットだけで判断するのではなく、将来を見据えて選択するかどうかを検討することが必要です。
参照元:非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(国税庁)
まとめ
不動産を活用した事業承継対策や、事業承継を成功させるポイントなどについて解説しました。
事業承継にあたって有効な対策は、不動産が経営者の個人所有であるか会社の所有であるかによって異なります。
また、どのような対策を講じることが適切であるかは会社の状態などによっても大きく異なることから、早期に弁護士などの専門家へ相談したうえで自社に合った対策を検討するとよいでしょう。
たきざわ法律事務所では不動産法務や事業承継対策に力を入れています。
不動産を活用した事業承継対策をご検討の際は、たきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。
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