たきざわ法律事務所

【2023/4】私道掘削に関する法改正が施行|弁護士がわかりやすく解説

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2023年4月1日(土)、ライフラインを引き込むための私道掘削に関する規程の整備などを盛り込んだ「民法等の一部を改正する法律」が施行されました。

 

自分の土地に水道管やガス管などのライフラインを引き込むために、他者が所有している私道の掘削が必要となることがあります。しかし、これまではライフライン引き込みにまつわる明文規定がなく、相隣関係にまつわる他の規定を類推適用することで対応していました。

 

そのため、私道所有者に設備の設置や使用に応じてもらえないときや掘削したい私道の所有者が所在不明であるときなどに、対応が困難となっていた現状があります。今回の改正で、設備設置権や設備使用権が明文化されたことから、今後このようなトラブルの解決が図りやすくなるでしょう。

 

今回は、改正内容のうち私道の掘削にまつわる内容に焦点をあてて詳しく解説します。

 

私道の掘削とは

 

私道の掘削とはどのようなものであり、なぜ必要になるのでしょうか?はじめに、問題の前提となる事項を解説します。

 

私道とは

 

私道とは、どのようなものを指すのでしょうか?また、他人が所有する私道は通行することができるのでしょうか?それぞれ、次のとおりです。

 

私道と公道の違い

 

私たちが普段通行している道には、「私道」と「公道」が存在します。

 

公道とは国や地方公共団体などが所有している道路であり、この管理や修繕も、所有者である国や市区町村役場が行います。

 

一方、私道とはこれら以外の、たとえば一般個人や一般企業などが所有者である道路です。

私道である以上、その管理や修繕なども、原則としてその所有者である個人や企業が行わなければなりません。

 

ある道が私道であるか公道であるのかは、一見して分からないことも少なくないでしょう。道路の所有者を確実に確認したいのであれば、法務局で、その道である土地の公図(土地の形状などを示した図面)や、全部事項証明書(登記簿謄本)を取得するほかありません。

 

ただし、何車線もあるような道路や幹線道路などは、そのほとんどが公道です。一方、ある土地の所有者のみしか通行しないような形状の道路であれば、私道である可能性があります。

 

また、不動産会社を介して土地を取引した場合には、前面道路が私道であれば通常はあらかじめ教えてもらえるでしょう。私道に面した土地であれば、日常の通行や掘削などで不都合が生じる可能性があるためです。

 

他者が所有する私道は通行できるのか

 

他者が所有する私道は、通行することができるのでしょうか?

 

原則として、他者の私道を自由に通行することはできません。なぜなら、自分の所有する土地をどのように使用するのかは、原則としてその所有者の自由であるためです。土地がたまたま道の形状であるからといって、自由に通行を認める義務が生じるわけではありません。

 

ただし、その私道が建築基準法上の位置指定道路などに指定されている場合には、他者が自由に通行できます。また、袋地の所有者が公道に出るために他者の土地を通行する「公道に至るための通行権(囲繞地通行権)」が発生している場合や、土地に通行地役権が設定されている場合、私道所有者と通行に関する契約を締結している場合もあります。

 

これらの場合には、その権利や契約の当事者のみはその私道を通行することが可能です。

 

通行できる私道には掘削権もある?

 

通行できる権利が生じている私道であれば、ライフラインを引き込むための掘削をすることまでが認められるのでしょうか?

 

これについて、改正前の民法では明文の規定がありませんでした。そこで、実務上は掘削を承諾する「掘削承諾書」があることが、土地売却やインフラ引き込み工事を依頼するうえでの事実上の条件となっていたといえます。また、掘削を頑なに拒否されたり法外な承諾料を請求されたりして、トラブルに発展するケースが散見されました。

 

【2023年4月施行】私道掘削にまつわる法改正の概要

 

2023年4月に施行される改正民法では、私道の掘削について、どのような変更がなされたのでしょうか?私道掘削にまつわる法改正の概要は次のとおりです。

 

設備設置権の明確化

 

改正によって、他の土地にライフラインの設備を設置する権利(設備設置権)が明文化されました。これは、他の土地に設備を設置しなければ電気やガス、水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者が、必要な範囲内で他の土地に設備を設置する権利のことです。

 

この規定の対象となるライフラインとしては、次のものなどが想定されています。

 

  • 電気、ガス

  • 上下水道

  • 電話・インターネットなどの電気通信

 

なお、設備を設置することができるのは隣接している土地のみならず、隣接していない土地についても、必要な範囲内での設置が可能です。ただし、土地の分割や土地の一部譲渡によってライフラインの引き込みができなくなった場合には、その分割者や譲渡者の所有地にのみ設備を設置することが認められます。

 

設備使用権の明確化

 

改正によって、他人が所有するライフラインの設備を使用する権利(設備使用権)が明確化されました。

 

これは、他人が所有する設備を使用しなければ電気やガス、水道水の供給その他これらに類する継続的給付を引き込むことができない土地の所有者が、必要な範囲内で他人の所有する設備を使用する権利です。

 

場所・方法の限定

 

設備設置権や設備使用権の明文化に伴い、設備の設置や使用の場所・方法は、他の土地や他人の設備のために損害が最も少ないものに限定するとの規定が設けられました。

 

たとえば、設備を設置する場合において、設置したい土地に公道に通ずる私道や公道に至るための通行権の対象となっている部分があれば、通常はその部分を選択することになるでしょう。

 

法改正後に他者所有の私道掘削をする方法

 

法改正後において、他者が所有する私道を掘削する基本的な方法は、次のとおりです。ただし、不明点がある場合やトラブルが予見される場合などには、土地にまつわるトラブルにくわしい弁護士へ相談してうえで、慎重に進める必要があるでしょう。

 

あらかじめ土地所有者に通知する

 

ライフラインを引き込むために他者が所有する私道を掘削する必要が生じたら、あらかじめ、次の内容をその土地や設備の所有者に通知しなければなりません。

 

  • 目的

  • 場所

  • 方法

 

通知の時期や相手が所在不明である場合の対応方法は、それぞれ次のとおりです。

 

通知をすべき具体的な時期はいつか

 

設備の設置や設備の使用をする際の通知は、「あらかじめ」行わなければなりません。では、この「あらかじめ」とはどの程度前のことを指すのでしょうか?

 

これについて、法務省民事局の資料によれば、「通知の相手方が、その目的・場所・方法に鑑みて設備設置使用権の行使に対する準備をするに足りる合理的な期間を置く必要(事案によるが、2週間~1ヶ月程度)」とされています。

 

ライフラインを引き込むために私道を掘削する際には、これを参考に、2週間から1ヶ月程度前までに通知をすると良いでしょう。

 

通知の相手方が所在不明などである場合はどうするか

 

私道所有者にライフラインを引き込むための掘削の通知をしようにも、相手が誰であるのかわからない場合や、相手の所在が不明である場合などもあるでしょう。

 

一般的に、その私道である土地の全部事項証明書を取得すれば、所有者の住所と氏名が確認できます。しかし、登記上の名義人が既に亡くなっていたり住所変更の登記がなされていなかったりして、全部事項証明書に記載の住所宛に連絡をしても、連絡がつかないケースは珍しくありません。

 

その場合であっても通知は必要であり、簡易裁判所の公示による意思表示を活用することになります。手続きの方法がわからない場合には、弁護士へご相談ください。

 

相手の所在などが不明であるからといって、通知をすることなく無断で掘削できるわけではないことに注意してください。

 

 

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損害が生じた場合には償金を支払う

 

掘削対象となる私道の所有者は、常に無償で掘削を甘受しなければならないわけではありません。他の土地に設備を設置したり他者が所有する設備を使用したりするにあたって、相手に損害が生じた場合には、償金を支払う必要があります。

 

その一方で、いわゆる「承諾料」などの支払いを求められても、これに応じる必要はありません。償金や費用負担についての考え方は、それぞれ次のとおりです。

 

なお、実際には償金の額などについて、双方で折り合いがつかない場合もあるでしょう。そのような際には、土地にまつわるトラブルにくわしい弁護士へご相談ください。

 

 

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設備設置権への償金

 

他の土地に設備を設置する際に次の損害が生じた場合には、それぞれ次のタイミングで、次の償金を支払わなければなりません。

 

  1. 設備を設置する工事のために一時的に他の土地を使用する際に、その土地の所有者や使用者に生じた損害:実損額相当を一括払い
  2. 設備の設置により土地が継続的に使用することができなくなることによって他の土地に生じた損害:使用料相当額の支払い。1年ごとの定期払が可能

 

このうち、「1」は、他の土地上の工作物や竹木を除去したために生じた損害などが該当します。一方、「2」とは、給水管等の設備が地上に設置され、その場所の使用が継続的に制限されることに伴う損害などです。

 

設備使用権への償金

 

ライフラインの引き込みに際して他人が所有する設備を使用する場合には、それぞれ次の償金を負担する必要があります。

 

  1. 設備の使用開始にあたって損害が生じた場合:実損額相当を一括払い
  2. 継続的に利益を受ける場合:受ける利益の割合に応じて、設備の修繕や維持などの費用を負担

 

設備の使用によって継続的に利益を受けるのであれば、いわゆる「タダ乗り」は許されず、維持管理費用を負担する必要があるということです。

 

改正後に私道掘削をする際の注意点

 

法改正後に他者が所有する私道の掘削をする必要が生じた先には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?主な注意点は次の2点です。

 

引き続きまずは承諾を求めるのがベター

 

改正法の施行によって、インフラ引き込みのために私道掘削の必要性が生じた際、私道所有者などに「通知」さえすれば掘削が可能となりました。そのため、法律上のことのみをいえば、今後は私道所有者から承諾を得る必要まではありません。

 

しかし、一方的な通知のみで指導を掘削されてしまえば、私道所有者が気分を害してしまう可能性があります。そもそも法律が改正されたことを知らず、通常は承諾を求めるものであると考えているケースも少なくないでしょう。

 

そのため、今後も良好な関係を築くためには、あらかじめ私道所有者に掘削の必要が生じて旨を丁寧に説明し、承諾を得ておくことをおすすめします。特に私道所有者が近隣住民である場合には、相手との関係性を壊さないための配慮が必要となるでしょう。

 

自力救済は禁止されている

 

改正によって設備設置権などが明記されたとはいえ、「自力救済」は禁止されていることに注意しなければなりません。自力救済とは、司法の手続きによらず、自分の力で侵害を排除することです。

 

たとえば私道所有者が私道の掘削を拒む場合、掘削が必要な箇所に自動車を駐車するなどして妨害する場合があるでしょう。この場合であっても、設備設置権があるからといって、レッカー車で勝手にその自動車を移動させるようなことは認められないということです。

 

このようなことをすれば、相手方から損害賠償請求がなされる可能性や、状況によっては刑事罰に問われる可能性などが生じます。そのため、仮に私道所有者が掘削を妨害する場合には、裁判所に妨害禁止の判決を求めることが必要です。

 

掘削を妨害されてお困りの際には、弁護士へご相談ください。

 

 

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私道の掘削に関してトラブルとなった場合の対処法

 

私道の掘削に関して私道の所有者とトラブルになった場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか?主な対応方法は、次のとおりです。

 

当事者間で誠実に話し合う

 

掘削が必要な私道の所有者は、すぐ近くに住んでいる場合が少なくないでしょう。そのような間柄で仮に大きなトラブルへと発展してしまえば、今後その地での生活が不快なものとなってしまいかねません。

 

そのため、まずは私道の掘削が必要である旨や、改正によってインフラ引き込みのための掘削は通知のみで認められるようになったことを丁寧に説明するなど、当事者同士で誠実に話し合うことをおすすめします。

 

私道所有者が掘削を拒否する理由はさまざまです。たとえば、もっと多額の償金をもらえる可能性があるなどの情報を聞き償金をつり上げるためにまずは拒否している場合もあれば、日ごろから私道の利用方法に不満を持っていることから私道掘削を拒否している可能性などもあるでしょう。

 

誠実に話し合いをする中で、私道所有者が掘削を拒否している大元の理由がわかれば、他の対処方法が見出せるかもしれません。場合によっては、町内会長などに話し合いへ同席してもらうことなども一つの手でしょう。

 

弁護士に相談する

 

当事者同士の話し合いでは解決がはかれない場合には、弁護士へご相談ください。弁護士へ相談することで、最新の改正内容も踏まえつつ、解決へ向けたアドバイスを受けることが可能となります。

 

また、仮に私道所有者が頑なに掘削を拒んだとしても、先ほど解説した改正がなされたことから、裁判上で妨害禁止などの請求をすれば認められる可能性が高いでしょう。

 

とはいえ、私道の掘削を拒否している私道所有者としても、裁判にまでもつれ込むことは望まない場合が少なくありません。そのため、弁護士が代理で交渉を始めた時点で、一転して掘削を認める可能性も見込めます。

 

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まとめ

 

私道の掘削について法改正がなされ、仮に私道所有者に掘削を拒否されても、解決できる道が開かれました。インフラ引き込みの必要な私道の掘削許可がおりなかったり私道所有者が所在不明であったりしてこれまで建築などを諦めていた場合にも、改めて弁護士へ相談してみると良いでしょう。

 

たきざわ法律事務所では、私道にまつわるトラブル解決に力を入れており、これまでにも多くの解決実績があります。私道の掘削に関してお困りの際には、ぜひたきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

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