【2022】私道の通行を禁止された!対処方法を弁護士がわかりやすく解説
道路には、国や地方公共団体が所有者である公道の他に、一般個人や民間企業が所有している私道も存在します。では、これまで通行できていた私道の通行が突然禁止されたら、どうすれば良いのでしょうか?
今回は、私道を通行するための法的根拠や、私道の通行を禁じられた場合の対応方法などについてくわしく解説します。
目次
公道と私道の違い
道には大きく分けて、公道と私道が存在します。はじめに、それぞれの違いと見分け方について解説しましょう。
公道
公道とは、国や都道府県、市区町村などが所有者である道路です。多くの車が通行する幹線道路などの主要道路は、ほとんどが公道となっています。
公道は、その所有者である国や自治体が修繕や清掃などの管理をします。また、通行できる人などに制限はなく、原則として誰でも自由に通行することが可能です。
私道
私道とは、一般個人や民間企業などが所有者である道路です。私道の管理や清掃は、原則としてその所有者である個人や企業が行います。
たとえば、「コ」の字型となっている道路や奥が行き止まりとなっている道路など、その道路に面した土地の所有者しか利用しないような形状の道路は、私道である可能性があるでしょう。
私道はある人の単独所有となっている場合もあれば、複数人での共有となっている場合もあります。また、一般的に「共有私道」と呼ばれるものには、次の2つが存在します。
共有型
共有型の私道とは、1筆の私道を複数人で共有しているタイプの私道です。このタイプの私道の全部事項証明書を取得すると、権利者欄に複数人の氏名が記載されています。たとえば、次のような表記です。
共有者
東京都〇〇市〇〇1丁目1番地
持分3分の1
共有 太郎
東京都〇〇市〇〇1丁目2番地
持分3分の1
土地 一郎
東京都〇〇市〇〇1丁目3番地
持分3分の1
道路 花子
この場合には、この3名はそれぞれ、私道全体を利用することが可能です。たとえば、共有太郎さんと土地一郎さんが結託をしても、道路花子さんの通行を禁止することなどはできません。
相互持合型
相互持合型の私道とは、それぞれ単独所有している所有が、パズルのように組み合わさっているタイプの私道です。道に線引きはないため一見してはわかりませんが、それぞれの所有者が道の一部ずつを所有しています。
それぞれの土地をお互いに通ることが暗黙の了解となっている場合もありますが、特に奥が行き止まりとなった私道の奥の方に居住している人は、他者が所有する私道を通行しなければ生活に支障が出ますので、権利関係に注意しておかなければなりません。
公道と私道の見分け方
ある道が公道であるか私道であるのかは、現地を見てもわからないことが一般的です。そのため、公道か私道かを正確に知るためには、その道の全部事項証明書を取得しなければなりません。
全部事項証明書は、法務局へ行けば誰でも取得することが可能です。ただし、全部事項証明書を取るためには、その土地の地番の情報が必要となります。そのため、法務局で先に公図を取るなどして地番を調べたうえで、全部事項証明書を取得する流れになるでしょう。
なお、公道であればそもそも公図に地番が付されていないことが少なくありません。
私道の通行禁止が問題になる2つのケース
私道の通行が禁止された場合に、問題となるのはどのようなケースなのでしょうか?2つのケースを解説します。
私道を通らないと公道に出られない
1つ目のケースは、その私道を通行しなければ公道に出ることができないケースです。公道に出ることができなければその土地を利用することができませんので、非常に困ってしまいます。
この場合には、後ほど解説をする「道に至るための他の土地の通行権(囲繞地通行権)」によって私道の通行が認められることが一般的です。ただし、車の通行までが自由に認められるとは限りません。
私道を通らないと不便
2つ目のケースは、その私道を通らなくても公道に出るルートはあるものの、迂回が必要となるなど不便となってしまうケースです。実際に私道の通行を禁じられるケースでは、こちらのパターンの方が多いでしょう。
私道は自由に通行できる?
そもそも、他者が所有する私道は自由に通行することができるのでしょうか?ここでは、私道を通行する法的根拠について整理しておきましょう。
原則として自由な通行権はない
原則として、他者の所有する私道を自由に通行することはできません。いくら道の形をしたとしても、土地は所有者が自由に利用できるものであるためです。そのため、他者の通行を禁止することも、所有者の自由であるといえます。
通行には法的根拠が必要
他者が所有する私道を通行するためには、法的な根拠が必要です。私道の通行が認められるための法的根拠は、次のとおりです。
建築基準法の位置指定道路などへの指定
私道であっても、建築基準法上の位置指定道路やみなし道路として指定されている場合には、原則として他者が自由に通行することが可能です。
建築基準法の規定により、建築物の敷地は、幅員4メートル以上である道路に、2メートル以上接していなければなりません。この接道義務を果たすため、私道を位置指定道路とすることがしばしば行われています。
このように、建築基準法で位置指定道路などとして指定を受けた場合には、たとえ私道であっても、所有者が勝手に廃止をしたり他者の通行を禁じたりすることはできません。
ただし、ある程度自由な通行が認められるとはいっても、たとえば路上駐車をしたり道路上でたむろしたりするなど、権利の濫用と言える行為までは認められないでしょう。
私道の通行禁止でトラブルとなっている場合には、まずは市区町村の道路課などで、その私道が建築基準法上の道路であるかどうかを確認することをおすすめします。
公道に至るための他の土地の通行権(囲繞地通行権)の発生
「公道に至るための他の土地の通行権」とは、いわゆる袋地の所有者が、他者の所有地を通行する権利のことです。
民法(210条)で、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」と定められています。この場合には、袋地の所有者が私道を通行することを、私道所有者が一方的に禁止することはできません。
ただし、通行が認められる場所や方法は、私道所有者にとって損害がもっとも少なく、かつ通行者にとって必要最小限の範囲のみとされています。また、袋地の所有者は、通行する土地の所有者に対して償金を支払うことが必要です。
なお、民法の改正で名称が変わったものの、以前「囲繞地通行権」と呼ばれていたものと中身は変わりありません。
通行地役権の設定
通行地役権とは、土地に付着させる物権です。たとえば、奥まった場所にあるA地の所有者が、A地と公道の間にあるB地の一部(私道となっている部分)を通行するというような内容で設定されます。
この場合のA地のことを「要役地」、B地のことを「承役地」といいます。土地に付随する権利であるため、A地やB地の所有者が変わっても権利の内容が変わらない点が特徴です。
通行地役権が設定されている場合、承役地の所有者が、一方的に要役地の所有者に通行を禁じることはできません。
私道所有者との契約
私道所有者との契約によって、私道の通行が認められている場合もあります。
契約は公道に至るための他の土地の通行権や通行地役権とは異なり、土地ではなく「人」に付随するものです。そのため、土地の所有者が変わった場合に、契約が自動的に引き継がれるものではありません。
つまり、私道所有者との間で私道を自由に通行できる旨の契約を締結していても、土地の売買などで私道の所有者が変わった場合には、新たな所有者から私道の通行を禁止される可能性があるということです。
私道は車でも自由に通行できる?
私道の通行を認められる何らかの法的根拠がある場合、その土地を車でも自由に通行することができるのでしょうか?この結論は、ケースバイケースです。
まず、法的根拠が当事者間の契約である場合には、その契約の内容によります。また、法的根拠が公道に至るための他の土地の通行権や通行地役権の場合には、これまでの慣習などによって異なります。
たとえば、これまでも長年車での通行が認められていたのであれば、引き続き車での通行が認められる可能性が高いでしょう。一方、これまで徒歩のみで通行してきたものの、今後は車での通行を認めて欲しいと通行者側が一方的に主張をしても、認められない可能性があります。
通行権があるからといって、必ずしも車で自由に通行する権利までがあるわけではありませんので、誤解のないよう注意しましょう。
突然私道の通行が禁止される主な理由
私道所有者から突然通行を禁止されれば、日常的に通行している側としては困ってしまうことでしょう。
では、突然私道の通行が禁止される理由には、どのようなものがあるのでしょうか?考えられる主な理由は、次のとおりです。
以前から迷惑行為に悩んでいた
比較的多い理由の一つに、私道所有者が以前から通行者の迷惑行為に悩んでいたというものが挙げられます。迷惑行為とは、たとえば次のような行為です。
騒音
私道上を夜遅くまで車が頻繁に通行している場合や、エンジン音の大きな車が通行している場合などです。また、私道上で公園のように子どもを遊ばせていたり大声で立ち話をしたりする声が迷惑となっている可能性もあります。
迷惑駐車
私道上に無断で駐車される行為などです。また、運転マナーの悪い通行者のせいで、私道所有者が危険を感じている場合もあるでしょう。
ゴミのポイ捨て
原則として、私道は所有者が清掃をしたり修繕したりしなければなりません。そのため、ゴミのポイ捨てなどが頻発すれば、通行を禁止したくなるでしょう。
相続などで所有者が変わった
相続などで私道の所有者が変わったことを発端として、通行が禁止される場合もあります。
以前の所有者は近所づきあいなどの理由から無償や安価で私道の通行を認めてきたものの、新たな所有者が私道の通行を認める必要性を感じていない場合などです。この場合には、通行を禁止されるほか、通行料の設定や値上げなどが行われる場合もあるでしょう。
私道の通行が禁止された場合の対応方法
私道の所有者から私道の通行が突如禁止された場合において、今後も私道の通行をしたい側としては、どのような対応をすれば良いのでしょうか?主な対応方法は、次のとおりです。
誠実に話し合う
私道の通行が禁止されたら、まずは当事者間で誠実に話し合うことをおすすめします。なぜなら、通行を禁止したことには、私道所有者側の事情がある場合も少なくないためです。
たとえば、私道所有者が長年善意で私道の通行を黙認してきたものの、上で紹介したような迷惑行為が散見されれば、通行を禁止したくなるのは自然の流れでしょう。
仮に通行者側にも非があるのであれば、迷惑行為を行わないよう通行者側が注意することによって、再び通行が認めてもらえる可能性があります。状況によっては、清掃への協力や管理費の負担などを申し出ることも一つの手です。
また、私道所有者と私道の通行者とは、近隣で生活していることも少なくありません。そのため、いきなり訴訟などを提起するのではなく、まずは穏便な話し合いで解決を目指すことをおすすめします。
なお、話し合いの内容などについて相談したい場合や、その先の進め方がわからない場合などには、話し合いの前に弁護士へ相談しておくと良いでしょう。
市役所の道路課などへ相談する
私道が建築基準法上の道路であれば、いくら私道所有者が通行を禁止したいと考えていても、勝手に道路を廃止することはできません。そのため、私道が位置指定道路やみなし道路である場合には、市区町村役場の道路課など(課の名称は自治体によって異なります)へ相談すると良いでしょう。
仮に建築基準法上の位置指定などを所有者が通行止めにしている場合などには、市区町村役場の担当者から指導してもらえる可能性があります。
弁護士へ相談する
当事者間の話し合いなどでは解決ができない場合には、不動産法務にくわしい弁護士へ相談すると良いでしょう。弁護士へ依頼することで、弁護士が私道所有者と代理で交渉することが可能となります。
私道所有者が私道の通行を禁止する理由は、さまざまです。先ほど解説したような迷惑行為に辟易としている場合もあれば、単に金銭的な要求がしたい場合などもあるでしょう。しかし、関係性がこじれてしまっている状況で、相手の本意を知ることは容易ではありません。
そこで、弁護士という第三者が介入することで、私道所有者側の主張が明らかとなる効果も期待できます。そのうえで、私道所有者の属性や主張などから最適な提案を行い、トラブルを解決へと導きます。
調停や訴訟で解決をはかる
弁護士が代理で交渉をしてもなお解決できない場合には、調停や訴訟へと移行しましょう。
調停とは、裁判所の調停委員が双方から交互に意見を聞く形で、双方の意見を調整する手続きです。一方、訴訟では、諸般の事情を考慮のうえ、裁判所が結論を下します。
ただし、当然ながら、必ずしも私道の通行者にとって有利となる判決が下されるとは限りません。そのため、あらかじめ弁護士と打ち合わせのうえ、訴訟まで進むかどうかも含めて慎重に検討する必要があるでしょう。
まとめ
私道は、原則として他者が自由に通行できるものではありません。そのため、私道の通行を禁止された場合には、原則として無理やり通行を認めさせることなどはできません。
ただし、建築基準法上の位置指定道路となっている場合や通行地役権が設定されている場合などには一定の通行権が発生しており、私道所有者が一方的に通行を禁止することはできません。
このように、私道の通行を禁止されたといっても、その私道の態様やこれまで通行をしてきた法的根拠などによって、アプローチの仕方は大きく異なります。そのため、私道の通行禁止で困ったら、まずは弁護士へ相談すると良いでしょう。
たきざわ法律事務所では、私道にまつわるトラブルなど、不動産に関するトラブル解決に力を入れております。私道の通行が禁止されてお困りの場合には、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。
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