家の前の私道が共有持分の場合のトラブル例は?解決方法は?
家の前の道が私道であり、さらにその私道が近隣の土地所有者との共有となっている場合があります。このような私道は、のちにトラブルの原因となるかもしれません。
この記事では、共有となっている私道にまつわるトラブル事例やトラブルとなった際の解決方法、私道が共有となっているかどうかの確認方法などについて詳しく解説します。
目次
道路の種類には「私道」と「公道」がある
道路は、私たちが普段から利用しているとても身近な存在です。しかし、その道路についての法令やルールはあまり知られていません。身近すぎて考えたこともない、という人が多いのではないでしょうか?
道路には、大きく分けて「公道」と「私道」とが存在します。まずは、それぞれの定義を確認しておきましょう。
私道とは
私道とは、一般個人や民間の法人が所有している道路のことです。道路の管理は所有者の責任であるため、私道の清掃や修復は所有者である個人や法人の責任で行わなければなりません。
ただし、自治体によっては補修費用を一部負担している場合もありますので、私道のある自治体に確認しておくと良いでしょう。
公道とは
公道とは、国や地方公共団体が所有している道路のことです。誰でも通行することができ、その修繕や維持管理の費用は所有者である国や地方公共団体が負担します。
共有の私道には「共同所有型私道」と「相互持合型私道」がある
共有となっている私道には、「共同所有型私道」と「相互持合型私道」の2つが存在します。それぞれ、どのようなものを指すのか知っておきましょう。
なお、いずれもまっすぐに伸びた長い道路ではなく、A氏、B氏、C氏、D氏、E氏の住宅がそれぞれコの字型に配置されている場合の中央部分にある道路などをイメージしてください。
共同所有型私道とは
共同所有型私道とは、私道として利用している1筆の土地が、A氏、B氏、C氏、D氏、E氏の共有となっているものを指します。
一般的に、共有私道といった場合には、この形態を指すことが多いでしょう。
相互持合型私道とは
相互持合型私道とは、1まとまりに見える道路が登記上はパズル上の数筆からなっており、細分化されたそれぞれの私道をA氏、B氏、C氏、D氏、E氏が単独で所有している形態を指します。厳密にいえば共有ではありませんが、問題をはらんでいる私道という意味では共有私道の1つとして取り上げられることが多い形態です。
家の前の道路が共有かどうかや自己の持分がどれだけかを調べる方法
家の前を通っている道路が私道であるかどうかや、共有になっているのかどうか、共有になっているとして自己の持分がどれだけなのかを把握していない場合もあるかと思います。では、これらを確認するには、どのような方法を取れば良いでしょうか?
固定資産税課税明細書では確認できないことが多い
一般的に、自分の持っている土地や建物を確認する際には、固定資産税課税明細書が便利です。
固定資産税課税明細書とは、毎年4月から6月頃に不動産を所有する地の市区町村役場から送付される、不動産が一覧となった書類です。固定資産税の納付書に同封されています。
しかし、残念ながらこの書類では私道の所有者を確認することはできません。なぜなら、固定資産税課税明細書は、固定資産税の課税対象となっている不動産の一覧でしかなく、その人が持っているすべての不動産の一覧表ではないためです。
一般的に、私道は課税対象になりますが、私道が「公共の用に供する道路」であれば、非課税になります。「公共の用に供する道路」とは、不特定多数の人に利用されている私道のことです。いわゆる通り抜け私道(よく、公道から一本細い道が枝分かれしている道がありますが、その道が該当する可能性があります)が一例です。固定資産税が非課税の場合、固定資産税課税明細書には私道は掲載されないことも多いです。
固定資産税課税明細書に載っていないから私道を所有していないなどと、誤った判断をすることのないよう注意しましょう。
公図で道路の地番を確認する
家の前の道路の所有者を確認するためには、まずその道路の地番や土地の形を確認しなければなりません。では、公図からの地番などの確認について順を追って解説しましょう。
道路にも地番が付されている
土地にはそれぞれ、地番が付けられています。これは道路として使われている私道であっても同様です。
地番がわかれば、その地番の全部事項証明書(登記簿謄本)を取得することで、土地の所有者を確認することができます。
公図とは
土地の地番や形を確認するためには、その土地の公図を取る必要があります。
公図とは土地の区画や地番を示した図面で、法務局で誰でも取得することが可能です。公図は全国どこの法務局でも取得ができますので、自宅などからもっとも近い法務局など出向きやすい法務局で構いません。
法務局で公図を取得する方法
公図を取得するには、どの土地の公図を取得したいのか、地番で指定する必要があります。
公図には近隣の複数の土地がまとめておさまっていることが一般的であるため、家の前の道路の地番や形を調べたいのであれば、家の敷地の地番を指定して公図を請求すると良いでしょう。
なお、家の敷地である土地の地番は住所と同じであることもありますが、必ずしも住所と一致するものではありません。公図の請求は住所ではなく地番で行う必要がありますので、あらかじめ家の敷地の地番を確認しておくとスムーズです。
家の敷地の地番は、上で解説をした固定資産税課税明細書で確認することができます。固定資産税課税明細書が手元にある場合には、公図を請求する際に法務局へ持っていくと良いでしょう。
固定資産税課税明細書がない場合には、法務局に備え付けのブルーマップを見ることで、家の住所から家の地番を調べることができます(なお、ブルーマップでは一般に道の地番が書かれていません)。調べたい道路に隣接する自宅の敷地の公図を請求することで、家の前の私道の地番や形が掲載された公図の発行を受けることができます。なお、公図の取得料金は1通450円です。
地番がわかったらその土地の全部事項証明書を取得する
所有者を調べたい道路の地番が分かったら、法務局でそのままその土地の全部事項証明書(登記簿謄本)を請求しましょう。
全部事項証明書は、誰でも取得することができます。取得にかかる手数料は、1通600円です。
全部事項証明書には、甲欄に、その土地の所有者が記載されています。ここを確認することで、家の前の道路の所有者を確認することが可能です。
家の前の道路が複数の土地に分かれている場合には、それぞれの全部事項証明書を取得して確認すると良いでしょう。
家の前の私道が共有持分や相互持合となっている場合のトラブル例
もし家の前の私道が共同所有型私道や相互持合型私道となっている場合には、どのようなトラブルが予想されるのでしょうか?私道共有に関するトラブル事例を、具体的に紹介していきましょう。
道路舗装時に意見がまとまらない
家の前の道路が共同所有型私道である場合には、その道路の舗装にあたって意見がまとまらず、トラブルに発展する可能性があります。
私道の舗装は、法律上の管理行為に該当する可能性がありますが、この管理行為をするためには、共有持分の過半数の同意が必要とされているためです。
なお、この問題は相互持合型私道である場合には発生しません。
相互持合型私道であれば、それぞれの所有者が自分の所有する土地についてのみ、責任をもって修繕すれば良いためです。
建て替えや水道の引き込み時などの掘削で承諾がもらえない
家の前の道路が共同所有型私道である場合には、家の建て替えや水道の引き込みなどにあたって道路の掘削が必要となった際に、他の共有者の承諾がもらえずトラブルに発展する可能性があります。
道路を舗装する場合と同様に、道路を掘削する行為は法律上の管理行為に該当する可能性が高いでしょう。
共有物の管理行為には共有持分の過半数の同意が必要とされているところ、他の共有者の承諾が得られなければ掘削をすることが難しくなってしまいます。
一方で、家の前の私道が相互持合型私道である場合には、自己が所有する私道のみの掘削で済む場合には大きな問題とはなりません。
しかし、私道の形状や地下の水道管の位置などの事情から他者が所有する私道を掘削する必要がある場合には、その私道の所有者の同意が得られずトラブルに発展するリスクがあります。
特に、土地を購入して新たに住宅を建築する予定である場合などには、私道を掘削する必要性が生じる可能性が高いでしょう。
そのため、私道の権利関係などをよく確認してから土地を購入するべきであるといえます。
ある日突然通行料を請求される
自己が少しでも持分を所有している共同所有型私道である場合には、通行など通常の利用をするにあたって、他の共有者から利用を制限される根拠はありません。
仮に持分が10分の1であるからといって私道の10分の1の面積しか通行できないということではなく、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるとされているためです。
その一方で、相互持合型私道の場合には、他者が単独で所有している私道について、ある日突然通行を制限されたり通行料を請求されたりするリスクがあります。
お互いに相手の所有する私道を通らなければ不便である場合などには、私道の通行を制限されて困るのは相手方も同様であるため、お互いさまの精神で成り立つことが多いでしょう。
しかし、自分のみが相手の所有を通行する必要がある形状である場合には、特に注意が必要です。
仮にこれまで問題になったことがなかったとしても、相手方に相続が起きたり売買などで所有者が変わったりした場合に、突如何らかの請求がなされる可能性は否定できません。
そのため、他者が所有する私道を通行しなければ自分の家への通行が不便になる場合などには、通行地役権を登記したり当人同士で取り決めを書面化したりするなど、対応を講じておくべきであるといえます。
通行地役権とは、自分の土地の便益のために、他人の土地を通行する権利のことです。
また、このような土地を購入しようとする場合には、購入してしまう前に、通行権の有無や通行に関する取り決めの有無をよく確認しておくべきでしょう。
相続手続きが漏れる
上で解説をしたとおり、私道にかかる固定資産税は、非課税となる場合があります。
そのため、非課税となるような私道は固定資産税課税明細書には掲載されないことも多いです。
固定資産税課税明細書は課税義務者が所有する不動産の名寄せではないのですが、固定資産税課税明細書に記載の不動産が故人の所有していた不動産のすべてであると誤解をしたまま相続手続きを進めてしまうこともあるでしょう。
特に、土地の所有者が亡くなった際、司法書士などの専門家へ依頼せずに自分で相続登記をした場合などには、その傾向が強くなります。
たとえ故人所有の土地の一部が手続きから漏れていたとしても、そのことを法務局が指摘してくれることはありません。
あえて一部の不動産のみの相続登記をすることは決して珍しくないうえ、法務局はそこまでの事情に関知する役割を持たないためです。
一度相続手続きから漏れてしまうと、その後、名寄せや私道の全部事項証明書を取得する機会などほとんどありません。
そのため、その後かなりの期間が経過してから私道に隣接する土地を売買することとなった場合などに、ようやく名義変更手続の漏れに気が付くこととなります。
前の相続から時間が経っていればいるほど、改めて私道だけのために相続手続きをすることは大変になる可能性が高いでしょう。
なぜなら、元々相続人であった人が亡くなって代替わりが起きていたり、相続人の状況が変わって認知症になってしまっていたりするリスクが高くなるためです。
私道を持っている場合には、相続手続きから漏れることのないよう、私道を持っていることを相続人となる予定の人にあらかじめ伝えておいてください。
私道の共有持分や相互持合がトラブルになったらどうすれば良い?
共同所有型私道や相互持合型私道についてトラブルが生じてしまったら、どのような流れで解決すれば良いのでしょうか?
誠実に話し合う
共同所有型私道や相互持合型私道についてトラブルが生じてしまった場合や、トラブルに発展しそうな事態が生じてしまった場合には、まずは当事者同士で誠実に話し合いをすることです。今後関わる可能性が低い相手であれば、はじめから法的手段に訴えて白黒をつけた方が良いでしょう。
しかし、私道の共有者同士はすぐ近くに住まいを構えていることが少なくありません。今後もご近所付き合いを続けていく必要がある場合も多いかと思います。そのため、まずは誠実に話し合いをして、妥協点を探るところから始めましょう。
本人からすればある日突然私道の通行料を請求されたと驚いていたとしても、実はあなたの家を頻繁に訪れる友人の運転に問題があり、夜間に騒音を立てていたり相手が所有する私道を傷つけたりしたなどの迷惑をかけていたかもしれません。
1対1での話し合いでは不安が残るようであれば、お互いの家族の同席のもとで話し合いを行うと良いでしょう。
今後のトラブルに備えてルールを取り決める
当事者同士の話し合いでトラブルが解決できたら、今後同様のトラブルが起きないようにルールを取り決めておきましょう。ルールは口約束のみではなく、書面で残しておくと安心です。
場合によっては、通行地役権の登記をすることも検討すると良いでしょう。通行地役権の登記をしておくことで、土地の所有者が変わった場合であっても権利を主張することが可能となります。
土地問題に詳しい弁護士へ相談する
当事者同士での話し合いでは解決ができない場合には、土地のトラブルに詳しい弁護士へ相談してください。トラブルの内容に応じて、裁判所での話し合いである調停や訴訟などでの解決を図ります。
まとめ
家の前の私道が共有である場合には、さまざまなトラブルの原因となります。土地を購入する際には、目の前の道路の権利関係についてよく確認をしたうえで購入するようにしましょう。
すでに土地を所有している場合には、私道の利用についてのルールを他の共有者と話し合い、取り決めておくことをおすすめします。
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