【2023】不当解雇の裁判の流れは?裁判になるまでの一般的な流れを弁護士が解説
不当解雇とは、法令の規定や会社の就業規則、労働契約などに反してされた解雇です。解雇が不当であると解雇をした従業員から訴えられた場合には、裁判などへ発展する可能性があります。
では、不当解雇にまつわる裁判は、どのような流れとなるでしょうか?また、仮に不当解雇であると判断された場合、会社にはどのような義務が生じるのでしょうか?
今回は、不当解雇にまつわる裁判について弁護士がくわしく解説します。
目次
不当解雇とは
不当解雇とは、本来であれば解雇ができない状況であるにもかかわらず行った解雇のことをいいます。
解雇をされた従業員は、明日からの収入の基礎を失うこととなりかねません。そのため、日本においては、従業員の地位が手厚く守られており、解雇が厳しく制限されています。
まず、解雇など労働契約の基本について定める労働契約法には、次の規定があります。
(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
つまり、客観的な合理性に欠けた解雇や社会通念に照らして不相当である解雇をしてしますと、従業員から不当解雇であるとして訴えられ、労働審判や裁判において解雇が無効であると判断される可能性があるということです。
また、他の法令でも解雇が制限されており、これらに反してした解雇は無効となります。不当解雇の代表的なものには次のものがあります。
業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
労働者の性別を理由とする解雇
女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇
従業員を解雇する際には、これら不当解雇に該当することのないよう、慎重に確認をしながら進める必要があるでしょう。
不当解雇が裁判となるまでの一般的な流れ
従業員が解雇について不服に感じたからといって、いきなり裁判となるようなケースはさほど多くありません。一般的には、次の流れを経たうえで裁判へと進行します。
そのため、解雇理由証明書が請求された時点や、遅くとも解雇の撤回が従業員側から直接申し入れられた時点では、弁護士へ相談して対応を検討する必要があるでしょう。
解雇理由証明書が請求される
従業員が解雇について不服を訴える際には、まず会社に対して「解雇理由証明書」の交付が請求されることが多いでしょう。
解雇理由証明書とは、従業員を解雇した理由などについて、会社が証明する書面のことです。労働基準法(22条)の規定により、従業員から解雇理由証明書の交付を求められた際には、企業は遅滞なくこれを交付しなければなりません。
従業員が解雇理由証明書の交付を求める理由はさまざまです。単に解雇の理由を正確に知りたいためという場合もあれば、転職候補先から求められたためという場合もあるでしょう。
しかし、不当解雇であると訴える裁判をする準備である可能性も低くありません。そのため、解雇理由証明書の交付を求められたら、裁判で証拠として提出される可能性も踏まえ、慎重に作成してください。
いったん解雇理由証明書を交付してしまうと、後から解雇理由を追加したり、修正したりすることは困難です。
解雇した従業員側から解雇の撤回が申し入れられる
不当解雇を訴える場合において、従業員側としても、できれば裁判は避けたいと考えていることが多いでしょう。裁判となれば、解決までに時間がかかりやすいほか、費用もかさむ傾向にあるためです。
そのため、訴訟を提起する前に、会社に対して直接解雇の撤回が申し入れられることが一般的です。会社への申し入れは、本人から直接なされる場合もあれば、従業員の代理人弁護士から行われる場合もあります。
会社側としては、解雇した従業員や弁護士から解雇無効を訴える書状が届くなどすると焦ってしまうかもしれません。しかし、慌てて対応した結果不用意な言動をしてしまうと、その後の裁判などで不利となる可能性があります。
そのため、従業員側に何らかの返答をしてしまう前に、労使問題にくわしい弁護士へ相談すると良いでしょう。状況に応じた対応策を弁護士と打ち合わせをしたうえで、会社や弁護士から慎重に回答することをおすすめします。
そのうえで双方の妥協点を探り、会社側にも多少の非がある場合には、一定の解決金を支払う形などで問題を収束させることが多いでしょう。
労働審判や裁判が提起される
直接の交渉で双方の妥協点が見いだせない場合には、労働審判や裁判(訴訟)が提起されます。労働審判とは、労働関係の専門家が関与のうえ、解雇や給料の不払いなど会社と従業員との間の労働関係のトラブルを迅速かつ適正に解決するための手続きです。
通常の裁判とは異なり非公開で行われ、全3回の期日まででの解決を目指します。ただし、労働審判に対して異議が申立てられたり、労働審判委員会により労働審判での解決が難しいと判断されたりした場合などには、通常の裁判へと移行します。
また、労働審判を経ず、はじめから通常の裁判(訴訟)を提起することも可能です。
不当解雇で裁判となった後の流れ
不当解雇で裁判となった場合には、どのような流れとなるのでしょうか?ここでは、労働審判ではなく、通常の裁判を提起された前提で解説します。
訴状が届く
解雇をした従業員が不当解雇であるとして訴訟を提起すると、会社に対して裁判所から訴状が届きます。
訴状とは、裁判を提起した原告(この場合には、解雇された従業員)の主張などが書かれた書類です。また、第一回口頭弁論の期日についても、これに同封されています。
訴状が届いたら、訴状の内容をよく確認したうえで、会社側の反論や主張をまとめましょう。会社側の主張は指定された期日までに「答弁書」に記載して、裁判所へ提出します。
答弁書の写しは裁判所を通じて原告である元従業員にも送付されるため、双方が相手方の主張を知ったうえで、口頭弁論の準備をすることとなります。
口頭弁論や弁論準備が開かれる
訴訟が開始されると、口頭弁論や弁論準備が開かれます。
口頭弁論とは、当事者がそれぞれ主張を述べたり、それを裏付ける証拠などを取り調べたりする期日です。こちらは、公開の法廷で開かれます。
一方、弁論準備とは、それぞれの主張や証拠の整理をする手続きです。行うこと自体は、弁論期日とさほど変わりませんが、こちらは一般の会議室のような場所で、非公開で行われます。
1か月から2か月ごとに口頭弁論や弁論準備が繰り返され、双方の主張を出し尽くします。ここまでで、おおむね半年から1年半程度の期間を要することが多いでしょう。
証人尋問がされる
双方の主張が出しつくされたら、証人尋問が行われます。証人尋問とは、これまで双方から主張された事柄について、証人に質問をする手続きです。
判決が下される
双方の主張が出尽くして証人尋問も終わると、裁判所が判決を下します。
不当解雇を求める裁判であれば、解雇が有効であるのか無効であるのかなどについての判断が下されます。
裁判で不当解雇と判断されるとどうなる?
裁判により、解雇が不当解雇であると判断された場合、企業側にはどのような義務が生じるのでしょうか?生じる主な義務は次のとおりです。
復職させる必要が生じる
解雇が不当解雇であると判断された場合には、そもそもその解雇の効力は生じていないこととなります。そのため、原則としてその従業員を会社へ復職させなければなりません。
なお、会社に対して裁判をしたことなどを理由に閑職に追いやるなどすれば、さらに訴訟や損害賠償請求などの対象となる可能性がありますので、このようなことは行わないようにしましょう。
さかのぼって給与を支払う必要が生じる
解雇が不当解雇であると判断された場合には、解雇日以降の給与を支払う必要が生じます。
解雇が成立していない以上、本来は支払うべきであった給与を支払っていないこととなるためです。これを、給与のバックペイなどと呼びます。
慰謝料の支払いが生じる
不当解雇を訴える際に、併せて慰謝料請求がなされる場合も少なくありません。裁判所が「〇〇円を支払え」などと慰謝料請求を認めれば、その金額の慰謝料を支払う必要が生じます。
ただし、不当解雇において、バックペイのほかに多額の慰謝料が発生するケースはさほど多くありません。多額の慰謝料請求が認容されるのは、パワハラやセクハラが行われていたなど、不当解雇以外の理由による場合が多いでしょう。
退職金の支払いが必要となる
解雇が不当解雇であると判断されても、その後その会社に勤務しない場合には、合意退職に切り替える場合があります。
この場合において、不当解雇とされた解雇が懲戒解雇であった場合には、会社の退職金規程に従って退職金の支払いが必要となる場合があるでしょう。
なぜなら、退職金規程において、懲戒解雇となった場合には退職金を支給しないと定めていることが多いためです。一方、合意退職であれば、一般的に退職金支給の対象となります。
ただし、退職金の支給は法律上の義務ではなく、会社の退職金規程が根拠となるものです。そのため、あらかじめ会社の退職金規程を確認しておく必要があるでしょう。
従業員から不当解雇を訴えられた場合の会社の対応ポイント
解雇をされた従業員から不当解雇であるとして訴えられた場合には、会社はどのように対応すれば良いのでしょうか?主な対応ポイントは次のとおりです。
不用意な言動をしない
解雇をした従業員から不当解雇であると訴えられた場合において、もっとも避けるべきことは、焦って不用意な言動をしてしまうことです。このような状況においてした発言や差し入れた書面、メールなどは、すべて記録されて裁判の証拠になると考えておいた方が良いでしょう。
たとえ口頭であっても、金銭の支払いなど不用意な約束はしないことを徹底してください。また、相手を脅迫することなどは絶対に行ってはなりません。
証拠を集める
不当解雇が裁判へ発展した場合には、証拠が非常に重要となります。そのため、会社側としては、解雇が正当であることの証拠を集めておきましょう。
集めるべき証拠は、たとえば次のものなどです。
従業員が問題行動をした証拠(メール、日報、録音データ、タイムカードなど)
従業員へ改善指導をした記録
配置換えなど代替案を提示したが有効策とならなかったことの記録
解雇予告通知書を渡した記録(受領書や内容証明郵便の控えなど)
ただし、必要となる証拠は、解雇をした理由や状況などによって異なります。どのような証拠が必要となるのか判断に迷う場合には、早期に弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談する
解雇をした従業員から不当解雇を主張された場合において、自社のみで対応することは容易ではありません。従業員側が弁護士へ相談している可能性も高いうえ、裁判などへと発展する可能性もあるためです。
そのため、遅くとも従業員から解雇理由証明書の交付を求められたり不当解雇であると主張されたりした段階で、弁護士へ相談することをおすすめします。また、できれば解雇をする前に弁護士へ相談しておくと、トラブルに発展するリスクを引き下げることにもつながるでしょう。
不当解雇について、会社側が弁護士へ相談する主なメリットは、次のとおりです。
時間と労力を削減できる
不当解雇への訴えについて自社のみで対応しようとすれば、本人への対応や法令や判例を調べることなどに、多大な時間と労力を要してしまいかねません。
一方、弁護士へ依頼すれば、自社でかける労力や時間を最小限に抑えることが可能となります。そのため、裁判手続きに翻弄されることなく、本業に注力しやすくなるでしょう。
裁判になる前に解決できる可能性が高まる
不当解雇への訴えに自社で対応しようとすれば、対応を無視したり落としどころの設定を誤ったりするなどして、裁判へ発展するリスクを高めてしまいかねません。裁判へ発展すれば解決までに時間を要してしまうほか、公開法廷で行われることにより広くトラブルが知られてしまう事態ともなりかねないでしょう。
弁護士が双方の主張を仲裁して落としどころを探ることで、裁判に発展する前に解決ができる可能性が高くなります。
他の従業員などへの波及を防ぎやすくなる
企業として避けたい事態の一つは、他の従業員や顧客などへ問題が波及してしまうことではないでしょうか?たとえば、解雇をした従業員が不当解雇であるなどと触れまわったりSNSへ投稿したりすると、企業イメージの低下は避けられません。
また、他の従業員の士気が低下して、辞めて欲しくない従業員までもが退職する事態となる可能性もあるでしょう。弁護士が代わりに対応することで、この辺りにまで配慮した対応が可能となります。
裁判となっても落ち着いて対応できる
たとえ弁護士が仲裁をしても、たとえば相手が過大な解決金を請求している場合や双方の主張が真っ向から対立している場合などには、裁判に至る場合もあります。
しかし、弁護士へ依頼することで、仮に裁判にまで発展したとしても本業への影響を最小限に抑えつつ、落ち着いて対応することが可能となります。また、裁判において重視される証拠についてのアドバイスも受けられるため、訴訟を有利に進行しやすくなるでしょう。
まとめ
不当解雇で裁判を提起されたら、慌てて対応することはおすすめできません。焦って対応をしてしまえば不用意な言動をするなどして、裁判などで不利となるおそれがあるためです。また、不当解雇の訴えに対して、自社のみで対応することは容易ではありません。
そのため、解雇した従業員から不当解雇を主張されたら、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士へ相談することでリスクを把握できるほか、落ち着いて対応することが可能となるでしょう。
たきざわ法律事務所では、不当解雇など労使問題の解決に力を入れています。解雇をした従業員から不当解雇を訴えられてお困りの際などには、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。