アルバイトにも有給は付与すべき?企業側ですべき付与日数と労働条件をわかりやすく解説
労働時間や労働日数の短いアルバイト従業員に対しても、年次有給休暇を付与・取得させなければならないのか?付与するなら何日?などと悩まれている使用者は多いものです。
年次有給休暇は法的制度であるため、アルバイト従業員に対しても、付与・取得をさせる義務が使用者にあります。万が一、アルバイトの有給取得を妨害したり付与しなかったりすれば、使用者が罰せられることになりかねません。
そこで今回は、アルバイト従業員に対しても有給を付与しなければいけないのか、付与日数や罰則などはあるのかについて解説します。アルバイトを雇用されている使用者の方は、トラブルに発展しないよう、ぜひ参考にしてください。
目次
有給付与対象者は条件を満たしたすべての労働者
年次有給休暇の付与対象者は、条件を満たしたすべての労働者です。雇用形態に一切関係なく、アルバイトでもパート従業員でも、すべての労働者が得られる当然の権利であるため注意してください。
まずは、年次有給休暇の付与対象者やアルバイトに対する、年次有給休暇の付与日数についてお伝えします。
有給付与に雇用形態は関係ない
年次有給休暇の付与対象者は条件を満たした労働者であるため、雇用形態は一切関係ありません。つまり、企業側で正社員に対しては年次有給休暇を付与するけど、アルバイト雇用等の従業員に対しては付与しないということ自体、絶対にあってはなりません。
そもそも、年次有給休暇は企業側の意思に関係なく、労働者が得られる当然の権利であるため、企業で付与するか否かを決定できるものではありません。雇用形態に関係なく、すべての従業員が対象になるので、その点は十分に注意してください。
付与対象者は労働時間・労働日数によって変わる
アルバイトであっても年次有給休暇の付与対象になりますが、すべてのアルバイト従業員が対象になるわけではありません。アルバイトといっても、正規雇用者とは異なり、労働時間や労働日数が大きく異なるためです。
本来、年次有給休暇は「雇入れの日から6ヶ月以上継続して勤務していること、かつ、その間の労働日数の8割以上勤務していること」が条件であり、この条件を満たしたものに対して年10日以上の年次有給休暇を付与しなければなりません。
よって、雇用形態はアルバイトでも、その労働実態が正規雇用者と変わりないなら年次有給休暇の付与対象になり得ます。一方、極端に労働日数が少ないアルバイトに対しては、週所定労働日数もしくは年間所定労働日数によって、付与日数が異なります。
1年間の所定日数 | 年次有給休暇付与義務 |
---|---|
週所定労働日数1日
1年間所定労働日数48日〜72日 |
勤続年数に応じて1日〜3日付与 |
週所定労働日数2日
1年間所定労働日数73日〜120日 |
勤続年数に応じて3日〜7日付与 |
週所定労働日数3日
1年間所定労働日数121日〜168日 |
勤続年数に応じて5日〜11日付与 |
週所定労働日数4日
1年間所定労働日数169日〜216日 |
勤続年数に応じて7日〜15日付与 |
なお、下記の条件を満たしたアルバイトに対しては、正社員同様の年次有給休暇付与義務が発生するので注意してください。
1週間の所定労働日数が5日を超えるアルバイト
1週間の所定労働時間が30時間を超えるアルバイト
1年間の所定労働日数が217日を超えるアルバイト
つまり、週4日勤務のアルバイト従業員でも、1日8時間労働していれば、正社員同様の年次有給休暇を付与しなければなりません。
アルバイトに対する有給付与日数一覧
アルバイトに対する有給休暇付与日数は、所定労働日数や労働時間によっても大きく異なります。現在では、年に10日以上の年次有給休暇を付与された労働者は、年5日以上の年次有給休暇取得が義務付けられています。
このことからも、アルバイトの年次有給休暇付与日数はとても大切です。下記表で労働日数ごとの一覧をお伝えしています。
1週間所定労働日数 | 1年間所定労働日数 | 半年 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5日以上 | 217日以上 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
4日 | 169日〜216 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121日〜168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73日〜120 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48日〜72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
1週間に1日しか勤務しないアルバイトでも、勤続年数が6ヶ月を超えたときは1日以上の年次有給休暇が発生します。また、1週間に3日以上勤務するアルバイトで、5年6ヶ月以上勤めている従業員は、年10日以上の有給を付与されるため、年5日以上の有給休暇取得が義務付けられているので注意してください。
シフト勤務で所定労働日数の算出が困難なときの対処法
アルバイト勤務の場合、シフト制であることも多く「1週間の労働日数は○日」と明確に算出することが困難なときもあります。そういったときは、年間の所定労働日数によって算出すれば良いですが、それでも難しいときは労働契約時に締結した日数で計算してください。
アルバイトを雇い入れたときには必ず、労働契約書を締結しているはずです。その契約書に記載されている所定日数をもとに算出すれば問題ありません。
ただし、労働契約書には「週1日の勤務」と記載されているにもかかわらず、実際には週2日以上働かせていた場合、実際の労働日数に応じた年次有給休暇を付与してください。
特に、繁忙期に長い時間働いてもらった、シフトに多めに入ってもらったなどのことがあるときは要注意です。年次有給休暇はあくまでも、その実態に応じて付与・発生します。
アルバイトの有給休暇に対する賃金計算方法
年次有給休暇は、有給で休暇を与える制度です。よって、アルバイトが年次有給休暇を取得した場合でも当然給料が発生するでしょう。
しかし「アルバイトに対しては何時間分の有給を支給すれば良いのか?」と疑問を抱える事業主も多いです。アルバイトへ渡す給料は、給料形態によっても異なります。時給・日給・日給月給・月給等があるため複雑です。
次に、アルバイトへ年次有給休暇を付与する際の賃金計算方法についてお伝えします。
通常の賃金から計算する場合
日給・日給月給・月給制のアルバイト従業員なら、通常の賃金で計算して有給を付与すれば良いです。たとえば、1日1万円で働いているアルバイトが年次有給休暇を取得したときは、1万円を給料として支払えば良いです。日給月給や月給制なら、100%で支給すれば問題ありません。
過去3ヶ月の実績から算出する場合
時給制で働いているアルバイトは、その日やシフトの状況によって労働時間が異なるため、過去3ヶ月の実績(実際に支払われた給料)から算出してください。つまり、年次有給休暇を取得する前日までに発生した3ヶ月分の給料を、その総日数で割った金額が有給として支給する金額です。
たとえば、直近3ヶ月で50万円の給料を支払った場合、
- 50万円÷90日(実際の総日数)=5,555円
を有給として支給すれば良いでしょう。
アルバイトの有給トラブル対処法
アルバイト従業員に対する、有給トラブル事例についてお伝えします。
アルバイトとして雇用されている方の中には、学生も多いため、使用者側の知識が乏しいと説明できなかったりトラブルに発展したりしてしまいます。これからお伝えする3つのトラブル事例を今後の参考にしてください。
トラブル事例1:有給の当日申請は受け入れるべき?
有給の当日申請を受け入れる必要はありません。
そもそも、有給休暇は1日単位で取得するものです。つまり、その日の0時ちょうどから23時59分までを年次有給休暇の1日取得とみなします。よって、年次有給休暇の性質上、当日の取得は不可能です。
では、アルバイト従業員が前日になって突然「明日、年次有給休暇を取得させてください」と申し出てきた場合はどうなのでしょうか?
このケースは、ケースバイケースです。使用者には時季変更権という権利が与えられており、労働者の年次有給休暇の取得時期を変更できる仕組みがあります。しかし、いつでも時季変更権を行使できるわけではありません。
時季変更権を行使しなければ、業務が正常に回らないと認められるときに限って行使できます。たとえば、居酒屋で働くアルバイトが年次有給休暇の取得を申し入れた日は、団体の予約が入っており、アルバイトがいなければお店が回らないとき。
このようなケースでは、アルバイトに対して時季変更権を行使できます。ただ、上記のようなケースがない限りは、前日の申し入れであっても時季変更権を行使できません。使用者からできる取り組みとして、年次有給休暇取得時は早めに伝えて欲しい旨を伝えておくことでしょう。
トラブル事例2:退職時にまとめて有休消化はあり?
退職時にまとめて有給休暇を取得させるのは可能です。通常、退職時は2週間以上に伝えなければなりません。この期間を年次有給休暇取得すれば、アルバイトは実質的な即日退職も可能になります。
ただ、突然アルバイトが退職をしてしまうと、業務が正常に回らないことも考えられます。そういったときは、時季変更権を行使してアルバイトの年次有給休暇取得時期を変更してもらってください。
トラブル事例3:有給を買い取って欲しいと言われたらどうすれば良い?
有給の買い取りは認められていません(例外あり)。有給休暇は心身のリフレッシュを目的としているため、その本質とはまったく異なるためです。
ただし、下記に該当する場合は、例外的に買い取りが認められます。
- 法律で定められた年次有給休暇以上の休暇(使用者の意思・善意で支給した休暇)
- 時効によって消滅した年次有給休暇
- 退職時点で未消化になっている年次有給休暇
上記以外の買い取りは認められていません。アルバイトから相談があったときは、上記項目に当てはまるか確認してください。
アルバイトに有給を与えなかったらどうなる?
アルバイトに有給休暇を与えないのは違法です。アルバイトであることを理由に与えないのは言語道断ですし、そもそも有給休暇を付与しないのも違法です。
最後に、アルバイトに年次有給休暇を与えなかったらどうなるのかについてお伝えします。
年次有給休暇は法的制度であるため要注意
「年次有給休暇制度は会社の福利厚生の一つ」と勘違いされている方も多いですが、大きな間違いです。年次有給休暇は法的な制度であり、すべての労働者が得られる当然の権利です。
たとえば、「うちの会社に有給制度なんてないよ!」とか「うちではアルバイトに有給は付与していないんだよ」などといって、取得を妨害する行為は禁止です。
使用者がアルバイトの年次有給休暇取得を妨害した場合は、労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。
また、労働者が年次有給休暇を主張して一方的に休暇を取得し、使用者が給料を支払わなかった場合は、賃金未払いとして労働基準法違反になり得ます。
年次有給休暇制度はすべての労働者が取得できる権利を持っている制度です。使用者はあくまでも時季変更権を有しているのみであって、取得を妨害することは決して許されません。
当然、アルバイトに対して圧力をかける行為も禁止されています。万が一、誤ってアルバイトの有給取得を妨害したなどの事実があるときは、弁護士等へ相談して対応を協議されたほうが良いでしょう。
年次有給休暇の取得(利用)は義務
年次有給休暇を付与しっぱなしでは意味がありません。付与した後に必ず、取得させる努力をしてください。また、使用者は年10日以上年次有給休暇を取得された労働者に対しては、年5日以上の年次有給休暇を取得させなければなりません。
1週間所定労働日数 | 1年間所定労働日数 | 半年 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5日以上 | 217日以上 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
4日 | 169日〜216 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121日〜168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73日〜120 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48日〜72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
アルバイト従業員であっても、年10日以上の年次有給休暇を得る労働者はいます。会社ごとの決めごとではなく、各労働者、アルバイトが持つ当然の権利であることを理解のうえ、正しい対処をしてください。
まとめ
今回は、アルバイト従業員に対しても年次有給休暇の付与・取得義務はあるのかについてお伝えしました。
年次有給休暇制度は、あくまでも国が定める制度であり、働くすべての労働者が対象です。アルバイトであることを理由に、有給取得を妨害されることがあってはなりません。
また、付与日数は各労働日数や労働時間によっても異なります。年10日以上付与されるアルバイトは、年5日以上の有給取得が義務です。
今回お伝えしたことを参考に、使用者側がアルバイトにも積極的に有給取得をさせられるような体制を整えてください。
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