ファスト映画は何がダメなのか?弁護士が解説します。
1. はじめに
先日、「ファスト映画※」を無断で動画投稿サイトに投稿したとして著作権法違反の容疑で男女3人が逮捕されたという報道がありました。ファスト映画をめぐって逮捕者が出たのは全国初だそうです。
そこで、本コラムではこの「ファスト映画」に関する著作権法上の違法性について解説していきます。
※「ファスト映画」とは、英語の「fast(速い、急速な、素早い等)」と「映画」を組み合わせた造語で、「権利者に無断で映画作品を編集して10分程度の動画に要約したコンテンツ」を意味します。
なお、本コラムでは便宜上、これを映画作品に限定するのではなく、テレビアニメやテレビドラマ等を含む「映画の著作物」全般の意味で使用しています。
2. 他人の著作物を利用する際の留意点
本題に入る前に、他人の著作物を利用する際に留意すべき点を確認しておきましょう。
まず、我々ユーザーは著作物を利用するにあたって、著作権者等からの許諾なしに自由に利用することができるかを検討しておく必要があります。具体的には、以下の手順に従って検討します(下図参照)。
このように、他人の著作物を利用する場合、上図(1)〜(6)の手順を踏んで許諾の要否を判断しなければならないのですが、現実では「少しくらいなら大丈夫」「バレないければ平気」といった感覚で安易に自己判断をしてしまった結果、予期せぬ紛争に巻き込まれてしまう事例も見受けられます。
※次章以降は上図(1)〜(6)の要件のうち(1)〜(4)を充足している(全てYESである)体で解説しています。
3. ファスト映画の違法性
それでは、ここからファスト映画の違法性を著作権法の観点から解説します。本章ではファスト映画の違法性を以下の3段階に分けて検討していきます。
- 題材となる映画の著作物の入手
- ファスト映画の製作
- ファスト映画の投稿
※なお、以下の行為はいずれも著作権者等の許諾を得ていないことが前提となります。
目次
3.1 題材となる映画の著作物の入手
3.1.1 著作権法上の問題点
まず、ファスト映画の題材となる映画の著作物を入手する段階で生じ得る著作権法上の問題点を解説します。
その入手ルートは様々で、例えば
- レンタルDVD等のコピーガードを解除して映像をコピーする方法
- 海賊版動画サイトから映像をダウンロードする方法
等が挙げられます。しかし、実際にどのようなルートを選んだにしても複製の目的が「ファスト映画を製作し公開すること」である以上、「私的使用の目的(30条1項柱書)」とはいえないため、「複製権(21条)」の侵害に該当する可能性が高いです。
一方で、ここで例示した入手ルートに関しては、それが仮に個人的に視聴する目的(=私的使用の目的)でなされた場合であっても、前者はコピーガードを解除して映像をコピーしている以上、「技術的保護手段(2条1項20号)」を回避した著作物の複製に当たりますし、後者は違法にアップロードされた映画の著作物であることを“知りながら”ダウンロードしている可能性が高いので(詳しくはこちらのコラムをご参照下さい)、「録音・録画著作物の違法ダウンロード」に当たり、いずれにしても複製権侵害に該当する可能性が高いでしょう(30条1項2号・3号)。
3.1.2 違法行為に対する法的措置
これらの行為に該当した場合、以下のような法的措置の対象となり得ます。
表1. 入手段階での違法行為と法的措置
3.2 ファスト映画の製作
3.2.1 著作権法上の問題点
つぎに、入手した映画の著作物を元にファスト映画を製作する段階で生じ得る著作権法上の問題点について解説します。
ファスト映画は、映像や静止画を編集したり、字幕やナレーションを付したりして製作されるので、著作権法上は以下の2パターンの問題が生じる可能性があります。
- ファスト映画の全体が入手した映画の著作物と類似することで権利侵害するパターン
- ファスト映画内における素材(画像、写真、ナレーション等)の利用が権利侵害するパターン
a. ファスト映画の全体が入手した映画の著作物と類似することで権利侵害するパターン
著作権の侵害の有無は、依拠性と同一性・類似性で判断されます。
ファスト映画は、入手した映画の著作物をベースに創られるものなので、基本的には「依拠性」が認定されるものと思われます。一方で、「同一性・類似性」については、両作品を比較して、ファスト映画からその映画の著作物の「表現上の本質的特徴を直接感得できるか否か」によって判断されます(最判H13.6.28「江差追分事件」)。表現上の本質的特徴を直接感得できれば「同一性・類似性あり」となり、著作権者の「複製権(21条)又は翻案権(27条)を侵害する」と判断されます。
しかし、「表現上の本質的特徴」をどのように解釈するかは、学説・裁判上も2つに考えが分かれているとされています。
※以下、学説の紹介については上野達弘・前田哲男「〈ケース研究〉著作物の類似性判断 – ビジュアルアート編」(勁草書房、2021年)を参考にしています。
- 創作的表現一元論(創作的表現の共通性一元論)
創作的表現一元論は、「表現上の本質的特徴」を直接感得できることを「創作的表現の共通性」の有無によって判断する考えです。これによると、両作品の間で「創作的表現の共通性」があると評価されればそれだけで同一性・類似性が肯定されることになります。
【参考裁判例】
知財高判R1.10.10「スピードラーニング事件」
- 全体比較論(直接感得性独自説)
全体比較論は、「表現上の本質的特徴」を直接感得できることを「創作的表現の共通性」のみで判断するのではなく、「それ以外の作品の全体」または「もう少し広いまとまり(まとまりのある部分)」における両者の相違部分を考慮して判断するという考えです。これによると、両作品の間で創作的表現の共通性が認められたとしても、それだけで同一性・類似性が肯定されるわけではなく、作品全体における相違点の存在や第三者の認識等の事情を考慮して、新たに作成された作品の「全体」において創作的表現の共通性が認められる箇所が埋没しており「色あせている」と言えるような場合には、同一性・類似性は否定されることになります。このように、全体比較論では当該共通性以外の要素によって同一性・類似性が否定され得るので、創作的表現一元論に比べると被告側(今回だとファスト映画を製作した側)にとっては有利に働く可能性があります。
過去には、映像同士の類否をめぐって「映像として表現されている限り、その創作性は極めて多様な形で発揮されていることを前提に、その表現に表れている様々な要素を総合的に考慮して、全体として(全ての要素が結実した映像として)類似性があるかを判断すべきである。」(東京地判H26.4.30「パチンコ機CR松方弘樹の名奉行金さん事件」)として全体比較論が採用された裁判例もあります。
【参考裁判例】
知財高判H24.8.8「携帯電話機用釣りゲーム事件」
東京地判H26.4.30「パチンコ機CR松方弘樹の名奉行金さん事件」
なお、「表現上の本質的特徴」を直接感得できる態様でその映画の著作物を利用する場合は、複製権や翻案権以外でも著作者人格権の一種である同一性保持権(20条1項)も侵害する可能性があります。同一性保持権は、著作物やその題号につき著作者の意に反して改変されない権利なので、ファスト映画の製作の際になされる編集や加工等が著作者の主観的な意図に反する改変と認められる場合、同一性保持権侵害が成立することになります。
b. ファスト映画内における素材(画像、写真、ナレーション等)の利用が著作権を侵害しているパターン
素材(画像、写真、ナレーション等)が第三者の著作物である場合、素材の著作権者又は著作者の許諾なく素材をファスト映画に利用すれば、a同様に複製権若しくは翻案権又は同一性保持権の侵害となる可能性が高いです。
3.2.2 権利侵害に対する法的措置
これらの権利侵害に該当した場合、以下のような法的措置の対象となり得ます。
表2. 製作段階における権利侵害と法的措置
3.3 ファスト映画の投稿
3.3.1 著作権法上の問題点
さいごに、ファスト映画(入手した映画の著作物と同一又は類似のものに限る。以下同じ。)を投稿する段階で生じ得る著作権法上の問題点について解説します。
ファスト映画の配信にあたっては、動画投稿サイトへのデータのアップロード行為が必要となります。当該行為は著作権法上の「送信可能化(2条1項9号の5)」に当たるので、それを著作権者の許可なく行えば公衆送信権(23条)侵害となります(なお、ファスト映画が二次的著作物に当たる場合は、公衆送信に伴う二次的著作物利用権(28条)侵害となります。)。
3.2.2 権利侵害に対する法的措置
これらの権利侵害に該当した場合、以下のような法的措置の対象となり得ます。
表3. 投稿段階における権利侵害と法的措置
4. さいごに
本コラムではファスト映画に関する著作権法上の違法性について解説しました。ご覧になった方はわかるかと思いますが、ファスト映画は著作権法の観点では基本的に侵害リスクの高いものだと言えるでしょう。一方で、「動画の同一性・類似性」の観点では、同一性・類似性の範囲が明確ではない部分があり、コンテンツ企業が(同一性・類似性の観点で微妙な)ファスト映画に対して権利行使を検討する場合には、創作的表現一元論や全体比較論を踏まえた上で検討しておくのが望ましいと個人的には思われます。このような詳細な検討を行う場合には、著作権法を専門とした弁護士へ事前に相談しておくのが望ましいでしょう。