他人の著作物を許諾がなくても利用できる場合とは?無料の演奏会なら自由に使える?
1. はじめに
前々回から3回に渡って権利制限規定に関する解説をしています。そのラストを飾る第3回目の今回は、以下の規定について解説していきたいと思います。
- 営利を目的としない上演等(38条)
- 時事の事件の報道のための利用(41条)
- 美術の著作物等の原作品の利用(45条〜47条)
- 美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(47条の2)
- プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(47条の3)
2. 営利を目的としない上演等(38条)
著作物の提供・提示(コピーをせずに公衆に伝えること)のうち、一定の行為は、非営利目的等の要件を満たせば適法となります(38条各項)。
(1)非営利・無料の上演・演奏・上映・口述(同条1項)
まず、著作物の提示のうち上演・演奏・上映・口述に関しては、以下の要件を全て満たす場合に、著作権者等の許諾を得ることなしに著作物を公に上演・演奏・上映・口述することができます。
①公表された著作物であること
②営利を目的としないこと(非営利)
③聴衆・観衆から料金を受けないこと(無料)
④実演家等に報酬が支払われないこと(無報酬)
⑤慣行があるときは出所の明示をすること(48条1項1号)。
文化祭・学園祭等での演奏会(コンサート、音楽発表会)が典型的なケースになりますが、有料であれば、著作権者等から許諾を得る必要があります。また、無料であっても、プロのミュージシャン等を招いて出演者に報酬を支払う場合は、同様に許諾を得る必要があります。
(2)非営利・無料の有線放送・自動公衆送信(同条2項)
これに対し、同じく著作物の提示のうち公衆送信に関しては、権利者の利益を害する程度が大きいので、放送される著作物をリアルタイムに非営利・無料で有線放送、自動公衆送信する場合に限り認められます。
(3)非営利・無料又は通常の家庭用受信装置による伝達(同条3項)
さらに、公への伝達に関しては、次のいずれかの場合に限り認められます。
- 放送又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む)をそのままリアルタイムに非営利・無料で伝達する場合
例:大型のビデオプロジェクター等の特別な装置を用いて放送・有線放送を受信し、公衆に直接視聴させる場合
- 営利目的・有料であっても通常の家庭用受信装置で伝達する場合
例:飲食店等においてラジオ・テレビを通常の家庭内受信機・受像機で客に視聴させる場合
(4)非営利・無料の貸与(同条4項)
一方で、著作物の提供のうち貸与に関しては、図書館が利用者に対して書籍を貸し出すような非営利・無料での貸与が権利制限の対象になります。
(5)映画の著作物の非営利・無料の貸与(同条5項)
ただし、貸与の主体が「映画の著作物」の場合に限っては、前項でなく本項が適用されます。例えば、図書館(政令で定めるものに限る)が利用者に対して映画DVD(映画の著作物の複製物)を貸し出すような場合に、本項が適用されることになります。なお、この場合、権利者に相当な額の補償金を支払う必要があります。
表 38条のまとめ
3. 時事の事件の報道のための利用(41条)
写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合は、事件を構成し、又は事件の過程で見聞きされる著作物を、報道の目的上正当な範囲内で利用できます(41条)。同様の目的であれば、翻訳もできます(47条の6 1項3号)。
具体的には、絵画の窃盗事件についての報道するためにその絵画の写真を新聞に掲載したり、ニュースで放送したりする場合が対象となります。
なお、慣行があるときは出所の明示をする必要があります(48条1項3号)
4. 美術の著作物等の原作品の利用(45条〜47条)
45条〜47条は、美術の著作物についてその原作品の所有権と展示権を調整する規定になります。
(1)美術の著作物等の原作品の所有者による展示(45条)
美術の著作物又は写真の著作物の原作品の所有者等は、その作品を公に展示することができます(45条1項)。ただし、屋外の場所に恒常的に設置する場合は、公衆による著作物の享受の機会が大きくなり権利者の利益を害する程度が大きいので、たとえ所有者といえど許容されません(同条2項)。
(2)公開の美術の著作物等の利用(46条)
屋外に恒常的に設置された美術の著作物又は建築の著作物は、方法を問わず利用できます(46条柱書)。裁判例としては、車体に絵画作品が描かれた市営路線バスの写真を幼児向け自動車の解説本に掲載して販売した点につき、本条の適用が認められた事例があります(はたらく自動車事件。東京地判平13.7.25)。なお、屋外に恒常的に設置された美術の著作物又は建築の著作物であっても以下のいずれかに該当する場合には、許諾なしに利用することはできません。
❶彫刻を増製する場合等(同条1号)
❷建築著作物を建築により複製する場合等(同条2号)
❸一般公衆に開放されている屋外の場所等(45条2項)への恒常的設置のために複製する場合(同条3号)
例:屋外恒常設置を目的とした建築の著作物のミニチュアを作成する場合
❹専ら美術の著作物の複製物の販売を目的とした複製等(同条4号)
例:絵葉書やポスター等の形で屋外恒常設置の美術作品を写真に撮影して複製し、それを販売する場合
なお、慣行があるときは出所の明示をする必要があります(48条1項3号)。
(3)美術の著作物等の展示に伴う複製等(47条)
美術の著作物の原作品又は写真の著作物の原作品は、美術館等において、展示作品の解説や紹介を目的とする場合には、必要と認められる限度において、小冊子やタブレット端末等の電子機器に掲載することができます(47条1項・2項)。
また、展示作品に関する情報を広く公衆に提供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、当該作品に係る著作物のサムネイル画像をインターネットに公開することもできます(同条3項)。
これらはいずれも同様の目的であれば、変形又は翻案をすることもできます(47条の6第1項4号)。
なお、慣行があるときは出所の明示をする必要があります(48条1項1号・2号)。
5. 美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(47条の2)
美術の著作物や写真の著作物の原作品又は複製物について、インターネットオークションや通信販売等の対面で行われない取引をする際、その商品画像の掲載(複製又は自動公衆送信)をすることができます(47条の2)。
6. プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(47条の3第1項)
プログラムの著作物の複製物の所有者は、原則として、自らコンピューター等において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製(インストールやバックアップ等)又は翻案(バグの除去等)をすることができます(47条の3第1項・47条の6第1項2号)。ただし、違法著作物であることを知りつつ取得して業務上コンピューター等において使用する場合(113条2項)には本項を適用することはできません(47条の3第1項但書)。
また、プログラムの複製物の所有者が、元の複製物又は前項の規定により複製された複製物のいずれかの所有権を滅失以外の理由(譲渡等)で失った場合には、原則としてその他の複製物を保存できません(同条2項)。
7. さいごに
今回は、権利制限規定の3回目として「営利を目的としない上演等」、「時事の事件の報道のための利用」、「美術の著作物等の原作品の利用」、「美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等」、「プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等」の5つの権利制限規定について解説しました。全3回の権利制限規定に関するコラムをご覧頂いた方には、権利制限規定が非常に細かい要件を課した上で著作権侵害にならない範囲を定めていることをご理解いただけたかと思います。
実務でも、権利制限規定の適用を検討する場合には、細かい要件を一つ一つクリアにしていかないと思わぬところで権利侵害のリスクを抱えることになります。迷った場合には、専門家に相談するようにしましょう。