【買取業者様向け】共有地の購入でよくあるトラブルとは?所有者が不明な場合の対応方法
共有地とは、複数人で共用となっている土地のことです。共有地にはさまざまなトラブルが存在する可能性が高く、買取業者様としても買い取りに躊躇することが多いのではないでしょうか?
実際に、これまでの法律では対応できないトラブルも少なくありませんでした。しかし、所有者不明土地への対策の一環として共有制度を見直す改正が多くなされており、大半は令和5年(2023年)4月1日から施行される予定です。
今回は、共有地にまつわるトラブルへの対処法について、改正後に取り得る手法も含めてくわしく解説します。
目次
共有地のよくあるトラブル
はじめに、共有地の売買にまつわるよくあるトラブルを紹介します。
共有者間で売却への方針がまとまらない
代表的なトラブルは、共有者間で売却への方針がまとまらないケースです。土地全体の売却は多数決で決められるものではなく、共有者全員の合意が必要となります。
そのため、それぞれ5分の1の持分を有する共有者のうち4人が売却したいと考えていても、残りの1人であるA氏が売却に合意しなければ、土地全体を売却することはできません。また、売却価格について共有者の一部が納得していない場合も、同様です。
なお、5人の共有者のうち4人が売却に合意している場合には、A氏の共有持分を残して4人からのみ土地持分を買い取ることは可能です。
ただし、この場合にこの土地を買い取っても、土地を新たに賃貸したり他者に転売したりするためには、A氏の同意も得なければなりません。購入者が土地持分の5分の4を取得しても、A氏は引き続き5分の1の持分を有しているためです。
そのため、買い取ったところで、使い道は非常に限定されてしまうでしょう。ちなみに、この場合には、改正法においても対応は困難です。
共有者の一部が認知症
近年増えているトラブルは、共有者の一部が重い認知症などであり、売却の意思表示ができないケースです。土地全体の売却には共有者全員の合意が必要になり、共有者の一部であるB氏が認知症であるからといって、B氏を無視してB氏の持分までを勝手に売却することはできません。
B氏の持分を含めて土地を売却するためには、まずB氏の成年後見人を家庭裁判所で選任してもらったうえで、成年後見人が家庭裁判所に売却の許可を得て行うこととなります。
なお、家庭裁判所が許可を出す基準は、原則として本人であるB氏の利益となるかどうかです。
たとえば、B氏が施設へ入所するためのお金が足りず、その土地の持分を売却して得た対価で施設へ入所するような場合には、許可が下りる可能性があるでしょう。一方で、他の共有者の都合による売却の場合には、許可が下りる可能性は高くありません。なお、こちらの場合も、改正法においても対応は困難です。
共有者の一部と連絡が取れない
共有不動産でよくあるトラブルの3つ目は、共有者の一部と連絡がとれないケースです。たとえば、不動産を共同購入した人の一部がその後消息を絶ってしまっている場合や、土地の共有者が亡くなり相続人が複数いるもののそのうちの1人と連絡が取れない場合などが、これに該当します。
繰り返しとなりますが、土地全体を売却するためには、共有者全員の合意がなければなりません。一部の所有者が行方不明であったとしても、その人の持分までを含めて勝手に売ることはできないのが原則です。
このケースは改正法の施行により、解決方法の幅が広がることとなるでしょう。この場合の対処方法については、改正法施行の前後に分けて、後ほどくわしく解説します。
トラブルの原因となる共有地が生まれる理由
上で解説をしたとおり、共有地はさまざまなトラブルの原因となります。
では、そもそもなぜ共有地が生まれてしまうのでしょうか?土地が共有となる主な原因とは、次のとおりです。
土地の共同購入
1つ目の原因は、土地の共同購入です。
夫婦などでの共有であればまだしも、複数の友人同士での共有や複数の親戚同士での共有などであれば、後にトラブルとなる可能性が低くないでしょう。
また、当初は親しい友人同士での購入であったとしても、その後そのうちの一部が亡くなることで、友人の子同士など縁遠い人同士の共有となるリスクもあります。
相続で「とりあえず」共有
2つ目の原因は、相続の場面で遺産を平等に分けるために、「とりあえず」不動産を共有としてしまうことです。
主な財産が不動産のみである場合において、複数の相続人間で遺産を平等に分けることは困難です。たとえば、長男が不動産を相続する代わりに長男から二男に対してお金を払うなどして調整できれば良いのですが、財産の保有状況などによっては困難な場合もあるでしょう。
このような場合に、とりあえずの対処法として不動産を共有する場合があります。不動産を共有することで、たしかにその場は丸く収まることが多いでしょう。
しかし、その後の不動産の活用方法への意見の相違などで、トラブルとなるケースは少なくありません。また、友人同士などでの共有の場合と同じく、その後相続人も亡くなると甥姪同士など少し遠い関係の人同士での共有となり、意見の取りまとめがさらに困難となるリスクがあります。
相続登記の放置
3つ目の原因は、相続登記をしないままで放置してしまうことです。
不動産登記法の改正によって令和6年4月1日以降は取得後3年以内の相続登記が義務化されるものの、これまでは相続登記は義務ではなく、期限もありませんでした。
そのため、相続登記がされないままで放置されている不動産が散見されます。不動産登記をしない理由は状況によってさまざまですが、たとえば次の理由などが挙げられるでしょう。
相続登記に費用や手間をかけたくなくて放置している相続人の一部が行方不明で連絡が取れないので、放置している
遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)がまとまらないため、塩漬けになっている
亡くなった人(「被相続人」といいます)が相続人との連絡を絶っており、相続人は誰も被相続人が亡くなったことや不動産を持っていたことを知らないため手続きのしようがない
相続登記がされておらず、遺産分割協議もなされていない場合には、その不動産は潜在的に相続人全員での共有となっています。このように、登記簿上には名前が載っていなくても、実質的には共有者の1人となっている場合も存在します。
共有地の所有者が不明な場合の対応方法
共有者の一部の所在が分からない場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか?基本の調査方法は、次のとおりです。
共有者の現住所を調査する
はじめに、共有地の登記簿謄本(全部事項証明書)を取得して、その共有者の現住所を確認します。登記簿謄本には、共有者全員の住所と氏名が載っているためです。
しかし、次の場合などには、登記簿に記載の住所地に文書を送っても共有者と連絡を取ることはできません。
その共有者が住所変更登記をしないまま引越しをしている場合
その共有者がすでに亡くなっている場合
このような場合には、戸籍謄本などをたどって、その共有者の現在の住所地や相続人など現在の権利者の現在の住所地を調べることになります。これらは重要な個人情報であるため、第三者は調べることができないものの、一定の利害関係者であれば調査が可能です。
お困りの際には、弁護士へご相談ください。
現住所が判明したら連絡を取る
共有者の住民票上の現住所が判明をしたら、現住所に手紙を送るなどして連絡を取りましょう。それでも手紙が戻ってきてしまうなど本当に所在不明である場合には、さまざまな手段を取ることができます。
具体的な対応方法は、次のとおりです。
調査しても共有者が不明な場合の対応策:改正法施行前
調査をしても共有者の所在や生死などが不明である場合において、共有地を買い取りたい場合には、どのような対応があるのでしょうか?いずれも、それぞれ5分の1の持分を有する共有者のうち4人は売却に同意しており、残りの1人であるA氏が所在不明である場合で見ていきましょう。
令和4年(2022年)10月現在に取れる主な対応方法は、次のとおりです。
他の共有者の持分のみを買い取る
もっとも単純な対応策は、所在不明者であるA氏の持分は無視して、所在が判明している共有者の持分のみを買い取る方法です。ただし、この場合には購入者5分の4とA氏5分の1との共有地となりますので、土地の利用や転売には制限がかかります。
なお、とりあえずこの方法を採ったうえで改正法の施行を待つことは、有力な方法の一つとなるでしょう。
判決による共有物分割制度を利用する
判決による共有物分割制度とは、裁判所に共有物の分割方法について判断を仰ぐ制度です。
状況に応じて、たとえば、他の共有者が不在者Aの共有持分を買い取って代金を供託するなどの判断がくだされます。
ただし、申立人の望んだとおりに判決がなされるとは限らず、競売によって不動産を売却して対価を分けるよう判決がなされるリスクもあります。
また、すべての共有者を当事者として訴えを提起しなければならないなど、手続き上の負担が小さくありません。
不在者財産管理人制度を利用する
不在者財産管理人制度とは、所在不明者が所有する財産を管理する管理人を、裁判所に選任してもらう制度です。不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得ることで、管理している財産を売却することもできます。
ただし、不在者財産管理人の役割は不在者A氏の財産を包括的に管理することであり、共有地の持分のみなど一部の財産のみを選んで管理できるわけではありません。また、そもそも共有地の共有者である不在者が誰であるのかさえ特定することができない場合には、不在者財産管理人制度を使うことは不可能です。
調査しても共有者が不明な場合の対応策:改正法施行後
令和5年(2023年)4月1日、共有制度に関する改正法が施行されます。改正法が施行された後は次の方法をとることも可能となり、共有地買い取りへのハードルが低くなることでしょう。
こちらも、5分の1ずつの持分を有する5人の共有者のうち、A氏1名が所在不明であるとの前提で解説します。
所在等不明共有者の不動産の持分の「取得」制度を利用する
「所在等不明共有者の不動産の持分の取得制度」とは、裁判所の決定を得たうえで、不在者であるA氏の持分を他の共有者が買い取る制度です。
他の共有者が支払う買い取り対価は不在者であるA氏に直接支払うことはできませんので、供託することとなります。
制度を利用する要件
この制度を使って不在者であるA氏の持分を取得するための要件は、次のとおりです。
1. 申立人において不動産登記簿や住民票の調査など必要な調査を行い、裁判所においてA氏が所在不明であると認められること
2. もとの所有者が亡くなったことにより自動的に共有となっている遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過していること
持分取得までの流れ
この制度を使って、共有者の一部である申立人がA氏の持分を取得するまでの主な流れは、次のとおりです。
1. A氏の所在調査:住民票や戸籍謄本などで、A氏が所在不明であることの証拠を集めます
2. 申立て:共有者の一部が、不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ申し立てます
3. 異議届出期間の公告など:3か月以上の異議届出期間を設けるとともに、登記簿上の共有者へ通知がなされます
4. 供託:対象としている共有地の時価相当額のうち、A氏の持分に相当する金銭を供託します。具体的な金額は裁判所が決定します
5. 取得:裁判の確定をもって、申立人である共有者がA氏の持分を取得します
所在等不明共有者の不動産の持分の「譲渡」制度を利用する
「所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡制度」とは、所在等不明者の持分をいったん他の共有者が取得するのではなく、そのまま土地全体を第三者に売却する制度です。
申立てをした共有者に、所在不明であるA氏の不動産の持分を譲渡する権限を付与してもらうことで、A氏の持分を含んだ土地全体の売却が可能となります。
共有地をすぐに売却する場合には1つ上の「取得」制度ではなく、こちらの「譲渡」制度を活用すると良いでしょう。
制度を利用する要件
この制度を使って不在者であるA氏の持分を含めた土地全体を譲渡するための要件は、次のとおりです。
申立人において不動産登記簿や住民票の調査など必要な調査を行い、裁判所においてA氏が所在不明であると認められること
もとの所有者が亡くなったことにより自動的に共有となっている遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過していること
所在不明であるA氏以外の共有者全員が持分の全部を譲渡すること
持分取得までの流れ
この制度を使って共有地を売却するまでの主な流れは、次のとおりです。
1. A氏の所在調査:住民票や戸籍謄本などで、A氏が所在不明であることの証拠を集めます
2. 申立て:共有者の一部が、不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ申し立てます
3. 異議届出期間の公告など:3か月以上の異議届出期間が設けられます
4. 供託:対象としている共有地の時価相当額のうち、A氏の持分に相当する金銭を供託します。時価算定では、この制度を使って第三者に売却する際に見込まれる売却額などが考慮されます
5. 譲渡権限の付与:裁判の確定をもって、申立人である共有者がA氏の持分を譲渡する権限を取得します
6. 売却:裁判確定時から2か月以内に、A氏以外の共有者全員で共有地を売却します
まとめ
共有地の買い取りではトラブルも多いため、買い取りを躊躇してしまうケースも少なくないかと思います。しかし、令和5年(2023年)4月1日の改正法施行後は、一部の共有者が所在不明である共有地の買い取りがしやすくなることでしょう。
今後は、所在等不明共有者の不動産の持分の「譲渡」制度を使ってそのまま買い取る方法や、あらかじめ不動産業者様が他の共有者の持分のみを買い取っておき、改正法施行後に所在等不明共有者の不動産の持分の「取得」制度を利用することなどが考えられます。
制度自体は令和5年(2023年)4月1日しか使うことはできないものの、施行日に先だって準備に取り掛かれる場合もありますので、お早めにたきざわ法律事務所までご相談ください。
たきざわ法律事務所では、所有者不明土地問題など不動産法務に力を入れており、土地所有者様や不動産業者様からのご相談をお受けしております。