【2022】所有者不明土地に関する法改正を弁護士がわかりやすく解説!施行日はいつ?
近年、所有者不明土地の増加が、社会問題となっています。そこで、所有者不明土地の誕生を予防したり、既存の所有者不明土地へ対処したりするための法整備が広く行われました。
今回は、所有者不明土地関連の法改正についてまとめて解説します。
目次
所有者不明土地とは
所有者不明土地とは、所有者がわからなくなってしまった土地や所有者と連絡が取れなくなってしまった土地のことを指します。所有者不明土地が社会問題となっている理由は、土地の所有者が不明になると、土地の円滑な利用が阻害されるためです。
たとえば、所有者不明土地を含む一帯を活用したいと考える人がいたとしても、土地の所有者が不明である以上、購入や賃借の交渉を誰として良いのかわかりません。また、土地が共有となっている場合、共有者の一部が所在不明であれば、残りの共有者だけでその土地全体を売却することは困難です。
そのため、所有者不明土地が増えれば増えるほど、有効利用することができる土地の減少につながってしまいます。
別の視点でいえば、所有者不明土地は近隣にある土地の利活用にも悪影響を与えます。
たとえば、現行の法律では隣地から越境してきた木の枝を勝手に切ることはできず、木の所有者に切ってもらうか、裁判を申し立てなければなりません。しかし、隣地の所有者が不明であれば所有者に切ってもらうことはできませんし、枝を切るためだけにわざわざ裁判を申し立てることも非常に煩雑です。
そのため、もともと隣地を所有している人にとっては悩みの種となりますし、新たに土地を購入する場合には所有者不明土地の隣地はできれば避けたいことでしょう。結果的に、隣地の円滑な利用や流通までをも妨げてしまいかねません。
このように、所有者不明土地が増えれば増えるほど、その土地や近隣の土地にとって悪影響となるのです。
所有者不明土地が生まれる主な原因
「土地の戸籍謄本」ともいうべき土地の登記簿謄本には、土地所有者の氏名と住所が登記されています。そうであるにもかかわらず、なぜ所有者不明土地が生まれてしまうのでしょうか?
その主な原因は、次の3点にあります。
住所変更登記の放置
所有者不明土地が生まれてしまう原因の一つは、住所変更登記の放置です。
先ほどお伝えしたように、土地の登記簿には所有者の住所と氏名(法人が所有者であれば、法人名と法人の所在地)が記載されています。
しかし、その後住所や所在地を移転したとしても、住所変更登記をしないままとするケースが後を絶ちませんでした。なぜなら、これまで住所変更登記は義務ではなく、放置をしたからといって罰則などもなかったためです。
住所変更登記がされないまま所有者が住所移転をし、さらにその後相続が起きることなどで、所有者を追うことが難しくなってしまいます。
相続登記の放置
所有者不明土地が生まれるもう一つの大きな理由は、相続登記の放置です。相続登記とは、土地など不動産の所有者が亡くなった後、相続人などへと土地の名義を変えることを指します。
通常、亡くなった人(「被相続人」といいます)が遺した遺言書や相続人全員で行う遺産分けについての話し合い(「遺産分割協議」といいます)で誰が不動産を取得するのかを決め、その結果に従って相続登記をすることとなります。
しかし、当面売却や活用の予定がないような比較的価値の低い土地を中心に、相続登記がされないまま放置されるケースが頻発していました。なぜなら、住所変更登記と同じく、これまで相続登記も義務ではなかったためです。
実際に、価値の高い土地であればともかく、さほど価値がない土地や売ろうにも買い手がつかず手放せないような土地においては、相続登記をしなくともすぐに実害が生じるケースはほとんどなかったものと思われます。
このような理由から、相続登記がなされないまま長年放置され、さらに当時の相続人も亡くなるなど数代に渡って相続が繰り返された結果、もはや権利者さえもその土地の権利を持っていることを知らない所有者不明土地が増加する原因となっています。
要らない土地を「捨てる」方法がなかったこと
土地が要らないからといって、土地を「捨てる」方法がなかったことも、所有者不明土地が増加した原因の一つでしょう。
たとえば、被相続人である父が故郷である農村に土地を持っており、これを相続人が引き継ぎたくないと考えていても、手放すことは困難でした。これまでも「相続放棄」の制度はありましたが、これは一部の相続財産のみを放棄する制度ではなく、はじめから相続人ではなかったこととなる制度です。
そのため、相続放棄をすると確かに要らない土地を相続せずに済むものの、預貯金など他の財産も一切相続することができなくなってしまいます。
また、市町村などへ寄付をすれば良いと考えるかもしれませんが、寄付といっても強制的に行うことはできません。
価値を生む不動産や活用方法のある不動産であれば、相手も喜んで受け取ってくれるでしょう。その一方で、価値を生まないどころかむしろ管理に手間やコストがかかるだけの不動産であれば、市町村も要らないのです。
こうした理由から相続人間でいらない土地を押し付け合い、自分だけが面倒を負いたくないとの考えからあえて相続登記を放置するケースが少なくありませんでした。これも、所有者不明土地が増加した理由の一つであると考えられます。
所有者不明土地関連の法改正①:不動産登記法の改正
所有者不明土地が新たに生まれてしまう可能性を減らすため、不動産登記法が改正されました。主な改正ポイントは次の2点です。
住所変更登記の義務化
所有者不明土地が生まれる原因の一つである住所変更登記の放置を減らすため、住所変更登記の義務化が決定されました。
改正法施行後は、住所を変更した日から2年以内に住所変更登記の申請をしなければなりません。正当な理由がないにもかかわらずこの義務に違反した場合には、5万円以下の過料の適用対象となります。
なお、法人の場合には法人の所在地変更登記と連動し、不動産の住所変更登記が登記官の職権で行われる仕組みが導入される予定です。
また、個人の場合には本人の了解があるときに限られるものの、住基ネットなど他の公的機関から取得した情報に基づいて、登記官が職権で住所変更登記をする仕組みの導入も予定されています。これにより、手続きの簡素化や合理化が図られることでしょう。
相続登記の義務化
所有者不明土地が生まれるもう一つの原因である相続登記の放置を減らすため、相続登記の義務化が決定されました。
改正法施行後は、遺言や相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由がないのにもかかわらずこの義務に違反した場合には、10万円以下の過料の適用対象となります。
また、被相続人が持っている不動産の把握ができず相続登記が漏れてしまっているケースもあることから、被相続人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、登記官が証明する制度(「所有不動産記録証明制度」)が新たに設けられる予定です。
所有者不明土地関連の法改正②:相続土地国庫帰属制度の創設
相続した「要らない土地」を手放せるようにするため、相続土地国庫帰属制度が新たに誕生しました。制度の概要は、次のとおりです。
相続土地国庫帰属法とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続した財産のうち特定の土地だけを指定して、国にもらってもらうことができる新しい制度です。
これまで任意に自治体と寄付の交渉をしていたこととは異なり、一定の条件を満たした土地であれば、国庫への帰属を断られることはありません。これまで多くの人が望んできたいらない土地を「捨てる」制度が、ようやく実現することとなります。
相続土地国庫帰属法で土地をもらってもらうための条件
相続土地国庫帰属制度で国庫に帰属した土地は、その後税金を使って管理されることとなります。そのため、どのような土地であっても無条件で引き取ってもらえるわけではありません。
相続土地国庫帰属制度で土地をもらってもらうための要件は、主に次のとおりです。
建物、工作物、車両等がある土地ではないこと
土壌汚染や埋設物がある土地ではないこと
危険な崖がある土地ではないこと
境界が明らかでない土地ではないこと
担保権などの権利が設定されている土地ではないこと
通路など他人による使用が予定される土地ではないこと
中でも、土地上に空き家が建っているケースは多いと考えられますが、空き家ごと引き取ってもらえるわけではないことには注意しましょう。
また、相続土地国庫帰属制度を利用するためには、「審査料」と「負担金」を支払わなければなりません。
審査料は、要件を満たしているかどうかを法務局に審査してもらうためにかかる費用です。
そのため、仮に国庫への帰属が承認されなかった場合であっても発生します。
一方、負担金は国庫への帰属が決まった時点で支払うべき費用です。負担金の額は、10年分の土地管理費相当額とされており、具体的な金額は今後政令で定められます。
所有者不明土地関連の法改正③:民法の改正
所有者不明土地の予防や解消などの観点から、民法の改正がなされました。主な改正ポイントは、次の4点です。
なお、これらはそれぞれ別の記事でより詳しく解説していますので、そちらを併せて確認してください。
遺産分割に関する新たなルールの導入
相続が起きた後、遺産を分ける際の基本は「法定相続分」です。
法定相続分とは、民法で定められた相続分です。たとえば、法定相続人が配偶者、長男、二男の3名であれば、それぞれ次のようになります。
配偶者:2分の1
長男:4分の1
二男:4分の1
しかし、たとえば長男だけが生前に1,000万円の贈与を受けていた(特別受益)とか、二男は被相続人の事業を長年無償で手伝ってきた(特別な寄与)などの事情があれば、これらを加味して相続分が調整されます。これを、法定相続分に対して「具体的相続分」といいます。
従来、この具体的相続分に時効のようなものはなく、仮に相続が起きてから20年後にようやく遺産分割協議を行う場合であっても、具体的相続分の主張が可能とされてきました。
しかし、相続が起きてからあまりにも長い時間が経っていると証拠が散逸している可能性が高く、具体的相続分の立証が困難であるとの問題が生じます。そのため、より遺産分割協議が長引く原因の一つとなっていました。
こうした問題を受け、改正法の施行後は、相続開始から10年が経つと、原則として具体的相続分の請求ができなくなります。これにより、先ほどお伝えしたように、あまりにも時間が経ってから具体的相続分が請求され争いが長期化するなどのリスクを防ぐことが可能となります。
また、具体的相続分を請求したい相続人にとっては10年以内に遺産分割を行うインセンティブが働くこととなるため、早期の遺産分割の実現へつながる効果も期待できるでしょう。
なお、詳しくはこちらの記事を参照してください。
共有制度の見直し
共有状態にある不動産に変更行為を加えるには共有者全員の同意が必要であり、管理行為を行うためには持分の過半数の同意が必要です。しかし、共有者の一部が所在不明である場合には、これらの行為に必要な同意を取り付けることができません。その結果、共有物の円滑な利活用が制限されていました。
そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくするため、共有制度全般についてさまざまな見直しがされています。主な改正ポイントは、次の2点です。
共有物を利用しやすくするための見直し
共有物の変更のうち「軽微な変更」については、全員の同意は不要となり、持分の過半数で決定することが可能とされました。また、所在不明の共有者がいるときは、地方裁判所の決定を得ることで、残りの共有者の同意のみで管理行為や変更行為が可能となります。
共有関係の解消をしやすくするための仕組み
所在不明な共有者がいる場合は、他の共有者が地方裁判所の決定を得ることで、所在不明な共有者の持分を取得したり所在不明者の持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりすることが可能となります。
なお、詳しくはこちらの記事を参照してください。
相隣関係の見直し
隣地が所有者不明土地である場合には、隣地に面した自己の建物を修繕する目的での隣地の利用や、隣地から伸びてきた枝の切取りなどに必要となる同意を得ることができません。そのため、土地の円滑な利活用に支障が生じていました。
そこで、改正法では、相隣関係に関するルールについてさまざまな見直しがなされています。改正法の施行後は、
隣地所有者が不明である場合に隣地から伸びてきた枝を自ら切り取ることなどが可能となるなど、隣地所有者が円滑に土地を利用するための制度が整備されました。
なお、詳しくはこちらの記事を参照してください。
土地・建物に特化した財産管理制度の創設
所有者が不明になったり管理不全となったりしている土地や建物は、近隣に悪影響を及ぼしかねません。しかし、これまでは、このような土地や建物に特化した管理制度は存在しませんでした。
そこで、改正により、所有者が不明だったり所有者が適切に管理していなかったりする土地や建物の管理に特化した財産管理制度が新たに誕生しました。改正法施行後は、利害関係者が裁判所へ請求することにより、土地や建物の管理を行う管理人を選任してもらうことが可能となります。
なお、詳しくはこちらの記事を参照してください。
所有者不明土地に関する法改正はいつ施行?
所有者不明土地関連の法改正は、いつから施行されるのでしょうか?施行日は、それぞれ次のとおりです。
住所変更登記義務化の施行日
住所変更登記の義務化については、具体的な施行日は決まっていません。ただし、令和8年(2026年)4月までに施行される予定です。
相続登記義務化の施行日
相続登記の義務化は、令和6年(2024年)4月1日に施行されます。
なお、この制度は施行日より前に発生した相続についても適用されますので、注意が必要です。施行日前に発生した相続分については、施行日から3年以内に登記を済ませなければなりません。
また、所有不動産記録証明制度は令和8年(2026年)4月までに施行される予定です。
相続土地国庫帰属制度の施行日
相続土地国庫帰属制度は、令和5年(2023年)4月27日に施行されます。なお、施行日前に相続で取得した土地についても、この制度の利用が可能です。
改正民法の施行日
改正民法の施行日は、令和5年(2023年)4月1日です。
なお、遺産分割に関する新たなルールは、施行日前に発生した相続についても適用されます。ただし、施行日前に発生した相続については、施行日から5年間の猶予期間が設けられています。
まとめ
社会問題となっている所有者不明土地問題に対応するため、多くの法整備がなされました。
これにより、これまで諦めていた所有者不明土地などにまつわる問題が一気に進展するケースも少なくないのではないかと思います。
所有者不明土地にまつわる問題が改正法で事態が進展する可能性があるのかどうかを知りたい場合には、ぜひたきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。たきざわ法律事務所には不動産法務に詳しい弁護士が多数在籍しており、ご相談者様の困りごとの解決に日々尽力しております。
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