【2023】立退料の相場は?オーナー向けに交渉のポイントを弁護士がわかりやすく解説
立退料とは、貸している不動産からオーナー側の都合で入居者に立ち退いてもらうにあたって、入居者に支払う金銭です。オーナー側の都合で入居者に立ち退いてもらうためには正当事由の存在が必要となりますが、立退料を支払うことで、この正当事由が補完されます。
では、立退料の相場は、どのくらいなのでしょうか?また、立退料について入居者と交渉する際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
今回は、立退料の相場や金額の考え方、立退料交渉のポイントなどについて弁護士がくわしく解説します。
立退料とは
立退料とは、賃貸している不動産からオーナー側の都合で入居者に立ち退いてもらう際に、入居者に対して支払う金銭です。
法律上、物件からの立ち退きにあたって、立退料の支払いが義務付けられているわけではありません。しかし、オーナー側の都合によって物件から入居者に立ち退いてもらうためには、正当事由があることが必要です。
たとえば、建物が老朽化して危険な状態にあるなどであれば、立ち退き事由の正当性が認められる可能性が高いでしょう。一方、より高い収益性が見込める建物に建て替えたいなどといった事情である場合には、正当事由が弱いといえます。
立退料の支払いは、この正当事由の補完として位置づけられています。そのため、仮に入居者が任意での立ち退きに応じず訴訟などへと発展した際には、提示している立退料の額も踏まえて正当事由の有無(つまり、立ち退きが認められるかどうか)が判断されることとなります。
相場の立退料を支払えば絶対に立ち退かせられる?
立退料にまつわるよくある誤解の一つに、「相場の立退料さえ支払えば、絶対に立ち退きが認められる」というものがあります。しかし、立退料の支払いは正当事由の「補完」にはなるものの、一定の立退料を支払ったからといって必ずしも立ち退きが認められるわけではありません。
立ち退きが認められるかどうかは、そもそもの事由の正当性がもっとも重要となります。
入居者の立ち退きを希望する場合には、まず正当事由があるといえるかどうかを確認するため、不動産法務にくわしい弁護士へ相談すると良いでしょう。
立退料に決まった相場はある?
入居者を賃貸物件から立ち退いてもらう場合における立退料の相場は、どの程度なのでしょうか?
まず、立退料に、決まった相場があるわけではありません。ただし、一般的には、月額賃料の6ヶ月から1年分ほどの金額に落ち着くケースが多いでしょう。
立退料相場の考え方
立退料に決まった相場がないことは、先ほど解説したとおりです。では、立退料の金額は、どのように決まるのでしょうか?
個々の事情によって異なるため一概にはいえませんが、一般的には、次の金額を積み重ねて算定した金額程度で落ち着くケースが多いでしょう。
家賃の差額
引越しや移転によって、現在の家賃よりも家賃の高い物件に移らざるを得ない場合には、移転先の家賃と現在の家賃との差額を、立退料として負担する場合があります。差額分の家賃を負担する期間は、おおむね6ヶ月程度とするケースが多いでしょう。
契約費用(仲介手数料など)
立ち退きによって引越しや移転をする場合には、新たな物件の仲介手数料や礼金などの支払いが発生します。これらの契約費用を、立退料として負担することが多いでしょう。
引越し・移転費用
引越しや移転をするには、引越し代などが発生します。立退料として、これらの費用を負担することを提示することも少なくありません。
休業補償
入居者が賃貸物件で店舗などを営んでいた場合には、一定期間分の休業補償が必要となる場合があります。
立ち退きによって店舗を移転する必要が生じた場合、移転先の内装工事や移転に要する一定期間中は、営業することができません。休業補償とは、休業した期間に仮に通常どおり営業を行っていたら収受できたであろう収益を補填する金銭です。
なお、店舗の場合には、集客の関係上、場所も非常に重要となります。移転をしてしまうと、せっかくついた顧客が離れてしまうリスクもあるでしょう。また、同じような条件のよい物件が都合よく見つかるとも限りません。
そのため、店舗の立ち退きは、住居の立ち退きよりもより慎重に交渉を進める必要があります。状況によっては非常に高額な立退料の負担が必要となる可能性がありますので、あらかじめ弁護士へ相談のうえ、心積もりをしておく必要があるでしょう。
立退料の支払いが不要なケース
入居者を物件から立ち退かせるにあたって、必ずしも立退料の支払いが必要となるわけではありません。立退料を支払うことなく入居者を退去させられる主なケースは、次のとおりです。
入居者が任意に立ち退く場合
入居者によっては、立ち退きを求める事情があると伝えた時点で、立退料などの支払いを求めることなく、任意での立ち退きに応じることがあります。この場合には、あえて立退料を負担する必要はありません。
ただし、他の入居者とのバランスを考えるのであれば、引越し代がまかなえる程度の一定の金銭を、迷惑料として支払うことも検討すると良いでしょう。
入居者に著しい債務不履行がある場合
入居者側に著しい債務不履行があったことを理由として退去を求める場合には、立退料の支払いは必要ありません。
債務不履行とは、契約上の義務を果たさないことです。たとえば、入居者が賃料の支払いを長期間滞納して催告しても支払わない場合や、物件を許可なく改装したりペット禁止の物件でペットを飼育したりしている場合などがこれに該当します。
このような場合には、賃貸借契約の解除と、これにともなう明け渡しの請求が認められる可能性が高いでしょう。この場合において、立退料の支払いは不要です。
ただし、入居者の債務不履行があったとしても、オーナーとの信頼関係が破壊されたとまではいえない程度である場合にまで、契約の解除などが認められるわけではありません。たとえば、賃料の支払い期限に一度や二度遅れた程度では、賃貸借契約の解除は認められない可能性が高いでしょう。
定期借家契約の場合
入居者との賃貸借契約が定期借家契約である場合において、定期借家契約の期間満了によって退去を求める場合には、立退料の支払いは必要ありません。
定期借家契約とは、通常の借家契約とは異なり、原則として契約の更新がない賃貸借契約です。あらかじめ定めた契約期間の満了によって自動的に契約が終了するため、入居者は契約の満了に合わせて退去しなければなりません。
ただし、契約期間が1年以上である場合には、契約機関が満了する1年前から6ヶ月前までの間に、賃貸借契約が終了の旨を入居者に通知する必要があります。仮にこの期間を過ぎてから通知をした場合には、そこから6ヶ月間は賃貸借契約が終了しませんので、注意しましょう。
なお、定期借家契約を締結するには、公正証書などの書面によることが必要です。また、契約書とは別途、「建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了する」旨を記載した書面の交付も求められます。
立ち退き交渉の進め方
入居者に立ち退いてほしい事情が生じた場合、立ち退き交渉はどのように進めれば良いのでしょうか?立ち退き交渉を進める基本の流れは、次のとおりです。
立ち退きを申し入れて丁寧に説明する
立ち退きの必要性が生じたら、まず入居者に対して立ち退きの申し入れと事情の説明をします。
まずは書面で立ち退きの申し入れをしたうえで、その後口頭での説明をすると良いでしょう。書面で説明をすることで、立ち退きを申し入れたことや申し入れた時期が明確になるためです。
この段階で渡す書面には、差出人であるオーナー側の情報のほか、次の内容などを記載します。
対象物件の特定:どの物件についてであるのか、所在地や号室などを特定して記載します
賃貸借契約の特定:終了させたい賃貸借契約について、契約日などで特定して記載します
立ち退きをお願いしたい旨:立ち退きをお願いする旨を丁寧に記載します
立ち退きが必要な理由:立ち退きが必要な正当事由を丁寧に記載します
明け渡し期限:いつ明け渡してほしいのかを明記します。通常は、次回の契約満了時となるでしょう
また、この段階で「引越しにかかる費用は負担させて頂きます」など、オーナー側が立退料として負担する金額を提示することも一つです。
なお、仮に入居者が立ち退きに応じず訴訟などへと発展した場合などには、ここで差し入れた書面が証拠として提示される可能性があります。そのため、立ち退きを申し入れる書類は、裁判上の資料となっても差し支えない内容かどうかよく検討して作成しましょう。
一連の立ち退き手続きを弁護士に依頼することで、立ち退きの申し入れ書類の作成を弁護士に行ってもらうことも可能となるため安心です。
立退料など条件面の交渉をする
次に、立退料の支払いなど、条件面での具体的な交渉を行います。あらかじめ弁護士へ相談し、そのケースでの立退料の相場をある程度把握したうえで、交渉に臨むと良いでしょう。
また、たとえば転居先のあっせんなど、オーナー側として提示できる条件をあらかじめ整理しておくことをおすすめします。
立ち退きと同時に立退料を支払う
立ち退きについて無事に合意ができたら、合意した期限までに、建物を明け渡してもらいます。合意した立退料は、建物の明け渡し(立ち退き)と同時に支払いましょう。
立退料交渉のポイント
先ほども解説したように、立退料の金額は法令などで明確に決まっているわけではなく、「〇円を支払えば絶対に立ち退きが認められる」といった性質のものではありません。
また、立ち退きの正当事由が弱い場合においては、仮に裁判をしても物件からの立ち退きが認められない可能性があります。
そのため、立ち退き交渉は、いかに任意に立ち退いてもらえるかがカギといえるでしょう。そして、立退料の金額は大きな交渉材料の一つです。
では、立退料交渉を成功させるポイントは、どのような点にあるのでしょうか?主なポイントは次のとおりです。
誠実に対応する
立退料の交渉を成功させるポイントの1つ目は、オーナー側ができるだけ誠実に対応することです。
立ち退きを迫られた入居者は、生活の本拠や事業の拠点を移す必要が生じます。これは、多くの人にとって大きな負担を感じさせることでしょう。
そのような負担が生じるにもかかわらずオーナー側が不誠実な対応をしてしまっては、入居者の反発を買ってしまうかもしれません。そうなれば、高額な立退料を要求される可能性もあります。
そのため、オーナー側としては、立ち退きによって入居者に負担を強いることを理解したうえで、誠実に交渉に臨む必要があるでしょう。
ただし、中にはオーナー側がいくら誠実に対応しても、オーナー側の足下を見て高額な立退料を請求する入居者がいるかもしれません。その場合には無理な要求には応じずに、早期に弁護士へご相談ください。
スケジュールに余裕をもって交渉を始める
立ち退き交渉は、スケジュールに余裕をもって行うことが重要です。なぜなら、スケジュールに余裕があると、入居者が新たな入居先を探すなど、準備に充てられる期間が長くなるためです。
まず、借地借家法の規定により、オーナー側の都合による賃貸借契約の解約申し入れは、6ヶ月前までにしなければならないとされています。そのため、遅くとも明け渡しを求めたい日の6ヶ月前までには、立ち退きの申し入れをしなければなりません。
ただし、できれば6ヶ月前ギリギリで告げるのではなく、1年前など余裕のあるスケジュールで立ち退きを申し入れた方が、入居者にとって受け入れやすいでしょう。
交渉がまとまったら書面を残す
立退料など立ち退きに関する条件の合意がまとまったのであれば、すみやかに合意書を作成しましょう。口頭で合意したのみであれば、その後入居者から「合意をした覚えはない」などと主張されてしまう可能性があるためです。
立ち退きの合意書には、賃貸借契約を合意解除した旨や明け渡し(立ち退き)期限、合意した立退料の額などを記載しましょう。合意書の案文は自分で作成したりインターネット上にあるひな形などをそのまま用いたりするのではなく、弁護士に作成してもらうことをおすすめします。
引越し先などの紹介を提案する
たとえば、入居者が高齢である場合などには、次の入居先を見つけることに不安があるとの理由から、立ち退きに応じないケースがあります。入居者が立ち退きに難色を示す場合には、その理由を確認したうえで代替案を提案すると良いでしょう。
引越し先の紹介やあっせんなどを提案することで、立ち退きに応じてもらえる可能性があります。
弁護士に相談する
立ち退き交渉は、難航することも少なくありません。また、足元を見られてしまい、相場よりも高額な立退料を要求される場合もあるでしょう。そのため、立ち退き交渉をするにあたっては、不動産法務にくわしい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士にサポートを依頼することで弁護士が代わりに交渉することが可能となり、オーナー側の精神的な負担が軽減されます。また、過去の判例などを踏まえて交渉を行うため、立退料を相場内に抑えられる可能性が高くなるでしょう。
まとめ
立退料は正当事由の補完としての位置づけであり、一定の立退料さえ支払えば必ず立ち退きが認められるというものでもありません。また、立退料に決まった相場はなく、個々の事情に合わせて適正額を算定する必要があります。
オーナー様が自らその状況に合った適正な立退料を算定し、交渉を進めることは容易ではありません。また、入居者側からの要求を呑むべきかどうか、判断に迷うことも少なくないでしょう。そのため、立ち退き交渉を行う際には、弁護士へ相談することをおすすめします。
たきざわ法律事務所では不動産法務に力を入れており、不動産オーナー様の立ち退き交渉をサポートとしております。立退料や立ち退き交渉についてお困りの際には、ぜひたきざわ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。