みなし勤務(労働時間制)とはどのような制度?押さえておくべき3つのポイント!メリットとデメリットも合わせて紹介
みなし勤務とは、あらかじめ定められた時間を「勤務したとみなす制度」です。
多様化する働き方の中でも、とくに注目を集めている働き方のひとつと言えるでしょう。
そこで今回は
「みなし勤務とはどのような制度なんだろう?」
「どのようなメリット・デメリットがあるのだろう?」
と思われている企業に向けて、みなし勤務の抑えておくべき3つのポイントや、
メリット・デメリットについてお伝えしています。
これからみなし勤務の導入を検討されている企業の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
みなし勤務(労働時間制)とはどのような制度?
みなし勤務とは「みなし労働時間制」のことを言い、所定時間を勤務したと「みなす」制度です。
このみなし勤務には、事業場外労働と裁量労働の2種類があり、それぞれで対象の職種等が異なります。
また、すべての企業で導入できる制度ではなく、ある程度定められた職種の中で、条件をクリアしたときのみ利用できる勤務形態です。
みなし勤務は、勤務時間をみなす制度であることから、労働者からも重宝されている制度です。
まずはみなし勤務(労働時間制)とはどのような勤務形態なのか?どのような制度なのか?について、下記のポイントごとに詳しくお伝えします。
所定時間勤務したと「みなす」のがみなし勤務(時間労働制)
みなし勤務には「事業場外労働」と「裁量労働制」の2種類があり、条件や特徴が異なる
みなし勤務の条件次第では休日や深夜賃金等の別途費用が発生するので要注意
まずは、上記3つのポイントをもとに、みなし勤務とはどのような制度なのかについてお伝えします。
ポイント①:所定時間働いたと「みなす」制度
みなし勤務とは、所定の時間勤務したものと「みなす」制度です。
一般企業等で働いている方のほとんどは「1時間◯◯円」や「1日◯◯円」「1か月〇〇万円」「年俸制」など、
あらかじめ労働時間とそれに対する報酬(給料等)額を決定しています。
しかし、みなし勤務はあらかじめ〇〇時間働いたものとしてみなし、その労働や時間に対して報酬(給料等)を支払います。
一般的な会社員等と異なる点は、あたえられた仕事が早く終わっても遅く終わっても、あらかじめみなした時間しか勤務していないものとみなし、
あらかじめ定められた報酬額(給与等)を支払えば良い。という点です。
会社員等であればあらかじめ「10:00~19:00までが勤務時間」等とみなされており、自分の仕事が終わっても新たな仕事に取り掛かることが多いでしょう。
しかし、みなし勤務は、自分の裁量で勤務時間等を調整できるのが最大のメリットです。
会社員にたとえるのであれば「固定残業代」が似ています。
結果的に残業をしなかったとしても、あらかじめ定められた固定残業費の支払いは行われます。
一方で、固定残業を過ぎた部分は別途支給されるケースが多いでしょう。
この固定残業代が給与に変わったようなものが、みなし勤務(時間労働制)制度と思っておけば良いでしょう。
具体的な制度内容は異なりますが、大まかな概要は同じです。
ポイント②:「事業場外労働」と「裁量労働制」の2種類がある
みなし勤務(時間労働制)には、大きく分けて「事業場外労働制」と「裁量労働制」の2種類あります。
この2つを総称して「みなし労働時間制(みなし勤務)」と言います。それぞれ、利用できる職種等が定められているので詳しくお伝えします。
事業場外労働制
事業場外労働制は、外回り営業等のように「実際の労働時間把握が難しい職種」に適用できる制度です。
外回りで営業を中心としている企業では、直行直帰を許可している企業も多く、実際の勤務時間を把握するのはとても困難です。
そのようなときにみなし勤務を利用することで、あらかじめ〇〇時間働いたものとみなせるため、企業側も管理が楽になります。
また、労働者もその時間内で自分の仕事を終了させることができれば、その日の業務を終了させることができるでしょう。
ただ、会社によっては、数名のグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をしている者がいる場合や、電話・メールで随時上司と連絡を取り指示を受ける場合、日々業務日報の提出を求めている場合、外回りを終えるときに会社に連絡をいれるよう指示している場合もあるかと思います。その場合には「労働時間を算定し難い」と認められない可能性が高いです。そのため、実際のところ、「労働時間を算定し難い」という状態が認められるケースは少ないというのが現実であろうと思います。
また、事業場外労働制のみなし方には下記の2つがあります。
- 所定労働時間働いたものとしてみなす
- その業務を遂行するために通常要する時間を勤務したとみなす
基本的には、所定労働時間労働したものとみなされるのが原則ですが、当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要になる場合には、当該業務遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます。
ただし、その業務を遂行するために通常要する時間を勤務したとみなすときは、労使協定の締結が必要なので注意してください。
裁量労働制
裁量労働制とは、あらかじめ所定の労働時間を定めておいて、その時間に労働者が勤務をしたとみなす制度です。
つまり、あらかじめ7時間勤務と定めた契約をし、企業側はこの時間に対する報酬(給与等)を支払いますが、
労働者はきっちり7時間働く必要はなく、4時間でも良ければ8時間でも良いのです。
何時間働くかは「労働者の裁量」によって決められるのが、裁量労働制の最大のメリットです。
頑張れば頑張った分だけ早く帰れる、自分のタイミングや自分の裁量で仕事を決められるなど、労働者から見ても非常に自由度の高い制度です。
この裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
どちらも裁量労働制であることに変わりありませんが、職種等によってどちらの裁量労働制を利用できるかが異なります。
【専門業務型裁量労働制】
専門業務型裁量労働制は特定の業務(下記表参照)にのみ利用できる制度で、前提として上司等からの直接的な指導がないことが絶対条件です。
(1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7) 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8) 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
(18) 税理士の業務
(19) 中小企業診断士の業務
引用元:厚労省|専門業務型裁量労働制
【企画業務型裁量労働制】
企画業務型裁量労働制では、企業内で企画や調査、立案などを行う労働者に対して利用できる制度です。
内容は専門業務型裁量労働制とほとんど変わりませんが、導入時の手続きが少し複雑なので注意してください。
たとえば、労使委員会を作って企画業務型裁量労働制を実施するための決議をしなければいけないなど。
専門業務型裁量労働制にはない手続きが増えると思っておいてください。
ポイント③:条件次第で休日・深夜賃金等が発生する
みなし勤務であっても深夜(22時~5時)に労働したときは、深夜手当として割増賃金を支給しなければいけません。
また、休日についても当然休日手当の支給をしなければいけません。
しかし、みなし勤務を導入している以上、実際の労働時間等を把握することが困難です。
そのため、あらかじめ休日出勤に関する規定を社内で定めておくなどの対策をしておいたほうが良いでしょう。
みなし勤務制度を導入するのメリットとデメリットは?
みなし勤務は企業側・労働者側双方でメリットの多い制度であることに間違いはありません。
とくに、裁量労働制では自分の裁量次第で自由に仕事をできるのは、最大のメリットと言えるでしょう。
企業側もみなし勤務を導入することで勤務時間管理の簡略化など、多くのメリットを生みます。
しかしその一方で、いくつか懸念しなければいけないことやデメリットもあります。
最後に、みなし勤務のメリットやデメリットについてもお伝えします。
これからみなし勤務を導入予定の企業はぜひ参考にしてください。
みなし勤務を導入する2つのメリット
労働管理がしやすい
労働者が自由に働けるため、生産性の向上につながる
みなし勤務のメリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット①:労働管理がしやすい
みなし勤務制度は「あらかじめ労働時間を定めておくもの」なので、労務管理がしやすいです。
1日8時間以内、週40時間以内のみなし時間であれば、残業代を支給する必要もなく、本来の報酬のみの支払いで済みます。
ただし、週40時間を超えるみなし勤務で契約するときは、40時間を超えた部分の残業代を支給しなければいけません。
また、あきらかに1日8時間、週40時間で完了することができないような仕事量を振るのは違法です。
あくまでも、法定労働時間内で定められたみなし勤務時間で、一般的に見てその時間内で終わる業務のときは、残業代の概念がない、という意味で労務管理がしやすい、
ということなので注意してください。
メリット②:労働者が自由に働けることによる生産性の向上
みなし勤務制度は、労働者自らが自由な働き方を選択できます。
あらかじめ定められた時間内で自分の業務を遂行すれば良いので、モチベーションアップにもつながるでしょう。
また、会社全体の生産性向上にもつながるでしょう。自分の頑張り次第でプライベートの時間が増えます。
「10:00~19:00まで絶対勤務」のように、
縛られたものがなければある程度開放的な働き方ができるようになることは間違いないでしょう。
みなし勤務を導入する3つのデメリット
固定残業代は別途支給
深夜手当・休日手当は含まれない
過剰労働の管理が必要
みなし勤務を導入することで発生するデメリットについて見ていきましょう
デメリット①:残業代は別途支給
みなし勤務は原則として、残業代の概念がありません。
しかし、1日8時間・週40時間(法定労働時間)を超えるみなし時間で契約するときは、別途固定残業代の支給をしなければいけません。
たとえば、1日9時間・週45時間でみなし時間を設定するのであれば、1週間あたり5時間分の残業代は別途支給しなければいけません。
また、あきらかに時間内で終わらない業務を振るのも違法であることは前述の通り。
「みなし勤務=サービス残業OK」とはならないので注意してください。
デメリット②:深夜手当・休日手当等は含まれない
みなし勤務で働いている労働者が深夜(22時~5時)の間で働いたときや、
休日出勤をしたときは、別途手当を支給しなければいけません。
みなし勤務は労働時間や労働する時間帯等ある程度自由に決められますが、
深夜労働が必要なときや休日出勤が必要なときは、
みなし勤務か否かに関係なく手当が発生します。
みなし時間は好きな時間に働けるから手当は支給しない。などのことが起こらないように注意してください。
デメリット③:過剰労働の管理が必要
みなし勤務は、その勤務形態が故に「過剰労働」が横行しがちです。
企業側で労働時間等の管理が難しいからこそ、みなし勤務制度を導入するわけですが、
あきらかに過剰労働しているときなどは、積極的に声を掛けたり休ませたりすることも大切です。
また、日頃から業務の進捗を確認したり労働者に見合った業務を渡したりするなどの管理も最低限必要でしょう。
みなし勤務だからこそ、自分の労働時間は自分で管理すべきですが、企業側も目を配ってあげられればなお良いでしょう。
まとめ
今回は、みなし勤務とは何か?メリットデメリットは?についてお伝えしました。
みなし勤務とは「みなし時間労働制」のことを言い、労働者や企業側どちらから見てもメリットの多い制度とのことでした。
多様化する働き方の中で、自分の裁量次第で労働時間を短くしたり長くしたりできる制度であり、労働者のモチベーションアップにもつながるでしょう。
また、企業側は時間労働の管理が楽になるなどのメリットもあります。
その一方で、残業代や各種手当、過剰労働の管理が大変などのデメリットも多くありました。
どちらもバランス良くできれば、労働者・企業どちらにとっても素晴らしい制度となるでしょう。
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