たきざわ法律事務所

ボーナスは退職した社員にも支払わなければいけない?会社で定める「就業規則」次第では支払い義務が発生することもある

この記事を書いた弁護士は…

 

 

 

「退職予定の労働者に対してもボーナスを支給しなければいけないのか?」

企業としては悩ましい問題のひとつと言えるでしょう。

 

そもそもボーナスとは、今までの業績に応じて労働者へ還元する意味と労働者のモチベーションアップにつなげて、生産性の向上を目指す2つの目的があります。

「今までの業績」について支給するのは納得できても、将来のモチベーションに対する支給はしたくない。

そう考える方も多いはずです。

 

そこで今回は、退職予定の労働者に対してもボーナスを支給しなければいけないのか?支給するなら満額?減額は認められないのか?と

疑問を抱えている方に向けて、下記のことをお伝えします。

 

退職者へのボーナス支給は「就業規則」で判断をする

 

退職者へのボーナス支給は「就業規則」で判断します。

そもそもボーナス支給に関する規定がなければ当然支払う必要はありません。

 

ボーナス支給の規定があっても「支給日在籍条項」が定められているときや、業績不振等によって支払えないときも支払わなくて良いことになっています。

 

つまり、退職者へのボーナス支給をするか否かを判断するためには下記の3つがポイントになるでしょう。

 

  • 会社規定にボーナス支給の規定があるか否か

  • 支給日在籍条項の規定があるか否か

  • 業績不振等が原因でのボーナス不支給か否か

まずは、退職者へのボーナス支給をしなくても良いケースと、支給義務があるケースについてお伝えします。

 

 

ボーナスに関する法律の定めはない

 

労働に関する基本的な法律「労働基準法」では、ボーナス支給に関する法律はありません。

よって、会社の規定にボーナス支給を設けていなければ、退職者や自社の社員にボーナスを支給する必要はありません。

 

また、会社の業績が好調だったときに行う社員への還元もボーナスと捉えられますが、退職社員へ支給する必要はありません。

なぜなら、会社の規定にボーナス支給規定がないためです。

 

もし会社規定に「業績により決算賞与支給」等の記載があれば、退職者への支給を行わなければいけないこともあるので注意してください。

 

 

就業規則で「支給日在籍条項」があればその日付での在籍有無による

 

会社の就業規則等にボーナス支給に関する記載があるときは「支給日在籍条項」の有無が、大きなポイントになります。

 

支給日在籍条項とは、ボーナス支給日付で会社に在籍している労働者に対して支給するという条項です。

つまり、「支給日在籍条項」さえ定めていれば、ボーナス支給前日までに退職した労働者に対してボーナスを支給する必要はありません。

 

ただし、支給日在籍条項が認められるのはあくまでも自己都合退職のときのみです。

定年退職や会社都合退職など退職日をみずから選択できないときは、支給日在籍の要件を満たしたものとしなければいけません。

 

また、会社側の都合等により本来の支給予定日より遅れてしまったときも、ボーナスを支給しなければいけません。

支給日在籍条項の要件を満たすには、自主退職であることと本来の支給日以前に退職していることが条件になるでしょう。

 

有給休暇消化中は「在籍中」として認められる

有給休暇取得時はまだ会社に「在籍」しているため、消化期間中にボーナス支給日があれば、支給日在籍条項の要件を満たすことになります。

 

よって、事実上退職していることを理由にボーナスを支給しなければ、賃金未払いとして指導されたり訴えられたりしてしまう恐れがあるでしょう。

 

 

支給要件を満たしていなくても、支給しなければいけないケースがある

 

退職者に対するボーナス支給は基本的に「支給日在籍条項」がもっとも有効な考え方です。

しかし会社によっては、さまざまな規定を定めているケースがあり、実際はその規則に準じるとされています。

 

たとえば、ボーナス支給日が6月15日だったとしても、会社規定で「5月末時点で在籍している者に支給」との記載があれば、

その時点で在籍していた労働者に対してボーナスを支給しなければいけません。

 

また、年俸制の契約をしているときも在籍期間に応じたボーナス支給を行わなければいけません。

年俸制の場合は、ボーナスも賃金の一部として認めるのが一般的です。

そのため仮に、支給日在籍条項を規定していなくても、

在籍日数に応じたボーナスの支給が必要となるケースもあるので注意してください。

 

 

会社都合退職のときもボーナスを支給しなければいけない

 

会社都合や定年退職等、自分で自由に退職日を選択できないときはボーナスを支給しなければいけません。

 

また、形式上は自主退職であっても、会社側からの強い要望等によって退職をせざるを得なかった労働者に対してもボーナス支給義務が発生します。

 

先にもお伝えしましたが、ボーナスを支給しなくても良いのはあくまでも「自主退職の労働者」のみであることは覚えておいてください。

 

 

業績不振によるボーナス不支給は問題なし

 

ボーナス支給に関する法律はなく、就業規則内に「業績によって不支給となることがある」との記載があれば、

ボーナスを支給しなくても問題ありません。これは、退職者か否かに関係ありません。

 

ただし、在籍中の労働者に対してのみボーナスを支給して退職者にのみボーナスを支給しないのは問題があります。

 

 

ボーナス支給後に退職した労働者から返済してもらうことはできる?

 

退職を希望する労働者の中には「ボーナスを受け取ってから退職を申し出よう」と考えている方もいるかもしれません。

企業としては、将来への期待を兼ねているボーナスを支給した直後に退職されてしまうと、複雑な気持ちになることもあるでしょう。

 

しかし、一度支給したボーナスの返金を求める行為や「ボーナス支給後◯か月以内に退職したときはボーナスの一部もしくは全額を返金」といった、就業規則も禁止されています。

 

ただ退職する予定の社員に満額のボーナスを支給することに抵抗があるのであれば、減額を検討してください。

退職者の状況等によっては、ボーナスの減額が認められることもあります。

 

次に、ボーナスを支給した後に退職するときはどのような対応になるのか?についてお伝えします。

 

 

ボーナスの返済を求める就業規則は認められない

 

「ボーナス支給後◯か月以内に退職したときは、ボーナスの全額もしくは一部を返金しなければいけない」などと定めた就業規則は禁止されており、

仮にこのような規則を設けていたとしても、無効と判断されるでしょう。

 

そもそもボーナスの支給は各企業の判断で定めることができるため

「ボーナスを支給するか否か?」

「どのような計算方法で支給額を決定するのか?」

「いつ支給するのか?」など、

すべてを企業側で決定できます。

 

しかし、就業規則等にボーナス支給を定めているのであれば、ボーナス支給も労働契約内に含まれます。

 

よって「ボーナス支給後◯か月以内に退職したときは、ボーナスの全額もしくは一部を返金しなければいけない」のような就業規則は、

労働者の退職自由を妨害する行為、賠償予定の禁止に抵触すると判断されるでしょう。

 

 

ボーナス支給後に退職予定の労働者は「減額」が許される

 

ボーナスは業績に応じた一時金としての認識が根強いですが実際は、

将来への期待や労働者のモチベーションアップも目的に含まれています。

そのため、ボーナス支給後に退職をする予定の労働者に対しては、

おおむね2割程度の減額を行っても良いでしょう(過去には退職予定者のボーナス2割減を認めた裁判例があります)。

 

また「ボーナス支給後◯か月以内に退職する予定の労働者に対しては、◯割の減額をする」といった就業規則を設けるのも問題ありません。

◯割はあくまでも「将来への期待程度」の部分です。

あまりにも著しい減額は認められないので注意してください。

 

 

退職者へのボーナス支給をしなかったときの罰則規定は?

 

退職を理由にボーナスを支給しなかったときは、賃金未払い等に該当して厳しい罰則を受けることになるでしょう。

しかし、業績不振等によるときはボーナス不支給になる旨を記載してあり、実際に業績不振で支払えないのであれば問題はありません。

 

一概に、ボーナス不支給=違法とは言い切れず、各ケースや就業規則によって判断が分かれることに十分に注意してください。

 

それでは最後に、退職を理由としたボーナス不支給を行ったときの罰則等についてお伝えします。

 

 

正当な理由がなければ労働基準法の「賃金不払い」に該当する

 

就業規則に「ボーナスを支給する旨の記載」「支給日在籍条項」が設けられていて、

支給日に在籍しているにも関わらず支給しなかったときは「賃金不払い」に該当します。

 

賃金の不払いは労働基準法違反として最大で6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金に科されます。

労働基準法違反は労働監督署の調査や指導も行われるため、企業のイメージダウンにもつながりかねません。

 

なお、退職者のボーナス不支給が賃金不払いに該当するためには、下記の2つをクリアしている労働者への不払いが認められるときです。

  • 就業規則にボーナスを支給する旨の記載がある
  • 支給日に労働者が在籍していたとき

 

そもそも就業規則にボーナス支給の記載がなければ、支給する必要はありません。

また、支給日在籍条項によって、支給日に在籍していない労働者に対しては、ボーナスを支給しなくても良いことになっています。

 

 

業績不振等によるボーナス不支給は罰則の対象外

 

就業規則に業績不振等に陥ったときには、ボーナスを不支給とする旨の記載があれば、ボーナスを支給しなくても罰則を受けません。

ただし、業績不振を理由とするのであれば、当然在籍中の労働者への支給も行わないことが前提です。

 

中には、労働者のモチベーションアップを行うために「本当は業績不振でボーナスを支給できないけど、

ほんの気持ちとして、今後のモチベーションアップのために支給する」といったケースでは、在籍中労働者のみへの支給でも問題ありません。

 

先にもお伝えしましたが、ボーナスは「今までの業績に対する還元」の意味と「今後のモチベーション」の2つの意味を持っています。

上記のようなケースでは「今までの業績に対する還元はできないけど、今後のモチベーション分だけ支払うよ」といって支給するものです。

 

よって、退職予定の労働者へ支給する必要はないでしょう。過去に裁判例で認められた「2割程度の減額」と同じ理屈です。

業績不振によるときは支給しなくても良いと考えておけば問題ないでしょう。

 

 

退職を理由とした明らかな減額も不当

 

ボーナス支給後に退職する社員に対しては、2割を限度とした減額を認めた裁判例があります。

この2割という数字は「将来への期待、モチベーションアップへの期待」を込めた数字です。

 

将来に向かって在籍しない労働者に対しては「将来への期待、モチベーションアップへの期待」を支払う必要がない。

との見方のもとで下った判決です。そのため、退職する社員へ対して減額して支払うこと自体は何ら問題ありません。

 

ところが「将来への期待、モチベーションアップへの期待」の基準が、企業によって曖昧なのが恐ろしいところです。

著しく減額をしてしまうと、退職する労働者から賃金未払いの訴えを提起されてしまう恐れもあります。

 

減額率は高くても2割以内で個別判断しておくのが良いでしょう。

また、トラブルを回避する目的から「ボーナス後◯日以内に退職予定のものは◯%減額」のような就業規則をあらかじめ決めておくと良いでしょう。

 

 

まとめ

 

今回は退職した労働者、退職予定の労働者にボーナスを支給しなければいけないのか?についてお伝えしました。

 

そもそも「ボーナス」を支給するか否かは各企業で決定できるため、ボーナスを支給しないこと自体は何の問題もありません。

ただ、就業規則でボーナスの支給を定めているときは支給をしなければいけないとのことでした。

 

そして、退職する社員に対してのボーナス支給についても「支給日在籍条項」が設けられているか否かが大きなポイントです。

支給日在籍条項を定められていて、支給日に在籍している労働者であれば必ず支給しなければいけません。

仮に、ボーナス支給日翌日に退職が決まっている労働者であっても例外ではありません。

 

企業側が唯一できることは「最大で2割程度のボーナス減額」とのことでした。

著しい減額やボーナスの不支給は「賃金不払い」として、懲役刑や罰金刑の対象になり得ます。

会社のイメージダウンにもつながるため、退職者に対してもボーナスを支給したほうが間違いないでしょう。

 

この記事を書いた弁護士は…