【2022】賃借人の立退料の相場・算定方法は?
「賃貸していた建物が古くなったため、建直しをしたい」「都市開発プロジェクトに応じて売却したい」このような時に、賃貸人(大家)または管理会社にとって、大きなハードルとして立ちはだかるのが、賃借人の立退き問題です。
本稿では立退き問題において、賃借人との間で最も論点となりやすい「立退料」について、考え方や算定方法、金額が低くなるケース、高くなるケースなどについて解説します。
目次
立ち退きとは
立ち退きとは、大家側の都合で賃貸借契約を終了させ、それまでその建物を住居などとして使用していた賃借人に建物から退去してもらうことです。はじめに、立ち退きの基本について解説しましょう。
立ち退き請求は契約期間満了の6ヶ月前に行うべき
建物やアパートの一室を借りて住んでいる賃借人としては、自分に何ら非がないにもかかわらず、大家から突然「今月末限りで出ていってください」などと言われても困ってしまいます。引っ越しには事前の準備が必要となる他、すぐに希望する条件に合った転居先が見つかるとは限らないためです。
そのため、借地借家法という土地や建物の賃借について定めた法律において、賃貸人(大家)からの解約の申し入れは、遅くとも6ヶ月前までにすべきこととされています。立ち退きの請求は突然申し入れるのではなく、期間に余裕をもって行うようにしましょう。
大家からの立ち退き請求には正当事由が必要
大家からの立ち退き請求は、6ヶ月前までに通知さえすれば、どのような場合であっても認められるわけではありません。なぜなら、賃借人にとって生活の拠点が変わるということは、ライフイベントにおいて比較的重大な出来事であるためです。
住居が変わること自体にストレスを感じる人もいる他、高齢の賃借人にとっては次の住居を探すことが容易でない場合も少なくないでしょう。そのため、借地借家法において、賃貸人からの解約の申し入れには、正当事由が必要とされています。
正当事由があるかどうかは、次の事項などを総合的に考慮して判断されます。
大家や賃借人などがその建物の使用を必要とするそれぞれの事情
建物の賃貸借に関するこれまでの経過
建物の利用状況
建物の現在の状況
立退料の有無やその金額
たとえば、建物が老朽化しており危険な状態であるため建て替えが必要であるなどの事情であれば、正当事由として認められる可能性が高いでしょう。一方で、入居者の若返りを図るため、高齢である賃借人に立ち退いてもらって若い人に貸したいなどの場合には、立ち退きの正当事由としてはかなり弱いものと思われます。
大家側の正当事由が弱い場合には、立退料の支払いや立退料の増額によって、正当事由が補完されることとなります。
大家から立ち退きを求められた際の対処方法
賃借人の立場として大家から立ち退きを求められた場合、提示の条件で立ち退きに応じなければならないと誤解している場合もあるでしょう。しかし、大家側から提示された条件に納得がいかない場合には、必ずしもそのままの条件を受け入れる必要はありません。
では、大家側から立ち退き請求をされたら、どのように対処すれば良いのでしょうか?基本的な対処方法は、次のとおりです。
大家側の提示条件をよく確認する
はじめに、大家側が提示している立ち退き条件を確認してください。中でも、次の事項について特によく確認をしておきましょう。
立ち退きをすべき時期
立ち退きが必要である理由
転居先を大家があっせん・紹介してくれるかどうか
立退料の有無とその金額
また、これらの条件については、書面で交付してもらっておくことをおすすめします。そのうえで、大家側から提示された条件に納得するのであれば、そのまま受け入れても問題ありません。
ただし、その場合であってもその場ですぐに回答をしてしまうのではなく、大家側から提示された条件が正当なものであるかどうかをきちんと調べてから、最終的な回答をすべきでしょう。いったん交渉を受け入れ自らの意思で(大家側に脅されたなどの事情がなく)書面に捺印などをしてしまえば、後から交渉を蒸し返すことは困難となってしまうためです。
立ち退き条件について交渉する
大家側から提示された立ち退き条件に納得がいかない場合には、条件について大家側と交渉しましょう。学生や高齢などであり自分のみでの交渉に自信がない場合には、親や子などの親族に立ち会ってもらうことも一つの手です。
交渉がまとまったら、こちらも書面で残しておいてください。書面に捺印などをする場合には、書面の内容と口頭で合意をした内容とに食い違いがないか、よく確認してから行うようにしましょう。
弁護士へ相談する
当人同士での立ち退き条件に関する交渉がまとまらない場合や、大家側から不当な要求をされている場合などには、弁護士へ相談しましょう。
弁護士へ相談し依頼することで、弁護士に代理で交渉してもらうことが可能となります。弁護士へ相談すべきケースについては、後ほど改めて解説します。
立退料に明確な決まりや算定式はない
賃貸人が、賃借人に対して、立退きを求めるケースはいくつか存在しますが、例えば「賃料不払い」や「賃借人の帰責による賃貸借契約の解除」などと比べて、「賃貸人側の事情により賃貸借契約を解約する場合」は、借地借家法28条により正当事由が必要となり、又その正当事由を補完する事情として「立退料の支払い」が加味されることになります。
立退料に関しては、一律な相場はなく、また法律で明確に決められたものもありません。故に、立退交渉において、賃貸人、賃借人それぞれの立場から提示された立退料が高いのか、低いのかが分からないといったケースが多く存在します。
立退料の目安の考え方について
立退料には、一律な相場や明確な算定式はないと説明しましたが、算定の根拠となる考え方についてはいくつかのパターンが存在します。順番に説明します。
①転居費用という考え方
居住用建物からの立退き交渉の際に、よく用いられる考え方です。
という考えで、退去時の「引越し費用」をベースとして交渉を行います。
具体的には、
引越し費用
初期費用(敷金・礼金・保証金など)
一定期間における、これまでの賃料と転居先の賃料の差額
の合算額を、立退料のベースとする考え方となります。
②経済的損失という考え方
事業用賃貸借契約の解約により、テナントに退去を求める際に、よく用いる考え方です。
この考え方では、退去に伴ういわゆる補償をベースに立退き料を考えます。
具体的には、転居に伴って休業を余儀なくされたことによる「休業補償」や、新たに設備を導入する必要が生じたことによる「設備補償」などがベースとなって算出されます。
③借家権という考え方
借地借家法においては「借家権」という概念はありませんが、一般的に建物の賃借人の地位に財産的価値が認められる場合の、その価値を「借家権」と言います。
本意ではない立退きに伴った「事実上喪失する賃借人の経済的利益等を補償する考え方」であり、この考え方ではまずは以下の計算式に従って「借家権の価格」を算出します。
借家権の価格 = 更地価格 × 借地権割合(※1)× 借家権割合(※2)
※1借地権割合は、住宅地で6割、商業地域で7割から8割程度となるケースが多い
※2借家権割合は3割とされるケースが多い
次に、算出された借家権の価格から、
建物を利用又は建物を取り壊して土地を利用する必要性がどの程度か
これまでの賃料が相場と比べて安かったか否か
契約期間は長かったか
退去に伴い賃借人に生じる不利益はどの程度か
などの様々な事情を踏まえて、最終的な立退料を計算します。実際には借家権の価格の2割〜4割等で調整されることが多いです。
以上が、立退料の目安となる代表的な3つの考え方です。上記の考え方は「必ずどれか1つを選択しなければならない」というものではなく、あくまでも事情に応じて、それぞれの考え方を併用して算出することになる、という点にはご注意下さい。
立退料が低額になるケース
立退料が低くなるケースとはどのようなものでしょうか。2つのケースをご紹介します。
①賃料が安い
一概には言えないですが、賃料が近隣不動産の相場と比べて安い時、立退料も低くなる傾向があります。賃借人は「これまで安い賃料による利益を受けてきたので、立退きの不利益は大きくない」と考えられたものです。
もっとも、何十年にもわたって賃料を据え置きで更新していた場合などは「同じ家賃で新居を探すことができないから、その差分は補填するべきだ」という趣旨の裁判事例もあるため、賃料の安さの一事情をもって、必ず立退料が安くなるとは決められません。
②建物の老朽化が激しい
建物の老朽化が激しい場合も、立退料が低くなる傾向にあります。「建物の老朽化が激しい」ということは、取り壊しや改修工事などの必要性が高く、よって賃借人に退去してもらう必要性も高いと判断されるためです。老朽化の程度によっては、立退料を不要とした裁判例も存在します。
立退料が高額になるケース
逆に、立退料が高くなるケースとはどのようなものでしょうか。3つのケースをご紹介します。
①入居から間もない時期の立退きの場合
賃貸人の都合で「入居から間もない時期に、早期の契約解約をする」という交渉になると、それに伴うある程度の損失補償を行う必要があり、結果として立退料が高額になりやすいです。またテナント等で、室内に色々な改装を行っていた場合に、その造作の「買取費用相当額」を立退料として上乗せすることを要求されることも多く、高額となります。
②賃借人が営業を廃止せざるを得ない場合
賃借人に「他の場所では営業を継続できない事情」がある場合には、立退きによって営業を廃止しなければならないため、必然的にその補償額は高額となります。
③早期に立退きを求める場合
不動産の仕入業者が行う、立退き交渉で多いケースです。何らかの理由で、交渉開始から実際の退去までを早期に実現する場合には、「賃借人の提示額を全額支払う」というケースもあり、立退料が高額になる事が多いです。
借家権の立退料に関して法律相談した方が良いケース
借家権のある建物の立退料や立ち退きに関して、どのような場合に弁護士へ相談すべきでしょうか?次のようなケースでは、早期に法律相談をすることをおすすめします。
立ち退き交渉がまとまらない場合
大家側であっても賃借人側であっても、立退料など立ち退き条件についての交渉が難航している場合には、弁護士へ相談しましょう。弁護士へ相談することで、相手方から提示されている立退料などの条件が正当な範囲内であるかどうか、ある程度把握することが可能となります。
相手方からの要求が法律や先例から見て不当なものでないのであれば、交渉を長引かせたり裁判にもつれ込んだりすることは得策ではありません。その条件で手を打つことも選択肢の一つとなるでしょう。また、弁護士へ依頼をすることで、弁護士に代理で交渉してもらうことが可能となります。
立ち退き交渉で大家が不当な行為をしている場合
賃借人としては、立退料や立ち退き条件の交渉に際して大家が不当な行為をしている場合には、早期に弁護士へ相談した方が良いでしょう。大家側の不当な行為とは、たとえば次のようなものが該当します。
大家が勝手に鍵を変え、居室に入ることができなくなった
不在時に、大家が勝手に荷物を運び出した
深夜など常識的に迷惑な時間帯に電話をかけたり訪問したりする
職場への連絡はしないでほしいと伝えているのに、何度も職場へ連絡され業務に支障が生じている
ドアや共用スペースなどに誹謗中傷のビラを貼られた
暴力的な行為をにおわせ、交渉に応じさせようとする
このような行為は、立退料の交渉方法として決して許されるものではありません。大家側に損害賠償請求などができる可能性が高い他、内容によっては刑罰に問える可能性もありますので、早期に弁護士へ相談してください。
大家側としては、いくら賃借人が立ち退き交渉に応じないからといって、このような行為は決して行わないようにしましょう。
立ち退き交渉で賃借人が不当な行為をしている場合
大家側としては、次のような場合には早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
賃借人が交渉に応じず、家賃も支払わなくなった
賃貸人が一切交渉に応じず、連絡が取れない状態である
繰り返しとなりますが、たとえこのような場合であっても勝手に鍵を変えたり居室内の荷物を運び出したりすることは、絶対に行わないでください。日本の法律では「自力救済」は禁じられており、仮にこのような行為をすれば、むしろ大家側が罪に問われてしまう可能性があるためです。
このような場合には弁護士へ相談し、法律の範囲内で適切に対応するようにしましょう。
まとめ
立退料に関しては、一律な相場はなく、また法律で明確に決められたものもありません。
しかし、これまでの裁判例や、実態を元にした、業界内での相場感というのは存在します。また、相手との交渉力によって金額が大きく変わることもあります。
ゆえに、
賃貸人:できるだけ低額の立退料で済ませたい
賃借人:できるだけ高額の立退料が欲しい
といった場合には、弁護士への相談及び交渉の代理を任せることを推奨致します。 不動産は当事務所にもよく寄せられる相談ですが、法制度やメリットデメリットなど、知っておくべき事項が多い分野です。まずは当事務所のメルマガに登録をし、情報を集められる体制をお作りください。
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