【2023】不動産広告の表示義務とは?遵守すべき広告規制をまとめて解説
不動産を広告する際には、顧客にはぜひ自社から物件を購入したり賃借したりして欲しいと考えることでしょう。しかし、この想いが行き過ぎてしまい、虚偽の内容の広告をしたり誤解を招く内容の広告をしたりしてしまうことは、避けなければなりません。
では、不動産広告をするにあたって遵守すべき表示義務には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、不動産広告で遵守すべき表示義務や広告規制などについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
不動産広告に関するルールとは
違法や不当な不動産広告をしないためには、表示義務や規制の内容がどの法令で定められているのか、知っておく必要があります。不動産広告に関するルールを定めている主な法令と規約は、次のとおりです。
宅建業法
宅建業法とは、「宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もって購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ること」を目的とした法律です。
すなわち、宅建業法では、不動産取引の公正を確保するための規制や、宅建業の免許などについて定めています。宅建業法における不動産広告に関する主な規制は、次のとおりです。
誇大広告等の禁止
宅建業者は、次の広告をしてはならないとされています。
著しく事実に相違する表示
実際のものよりも著しく優良または有利であると人を誤認させるような表示
広告の開始時期の制限
不動産の広告をするためには、必要な許可が下りていなければなりません。必要な許可とは、次のものなどです。
宅地造成をするなど開発許可が必要な宅地:開発許可
未完成の建物:建築確認
なお、「販売予告」や「予告広告」などと称したとしても、これら必要な許可を取得する以前に広告をすることは、この規定に違反します。
取引態様の明示
宅建業者が不動産広告をする際には、取引における自己の立場を明確にしなければなりません。具体的には、自己が売買や賃貸の当事者であるのか、取引を媒介や代理をしている立場であるのかを明示することが求められます。
景表法
景表法とは、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護すること」を目的とした法律です。
各々の事業者が自己の都合のよい広告を自由に展開すれば、消費者の利益が阻害されてしまいかねません。そこで、広告などの表示に関するルールを定めています。
景表法で禁止されている表示は、次のとおりです。
優良誤認表示:商品やサービスを実際よりも著しく優良であると一般消費者に示す表示や、事実に相違して競争業者のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
有利誤認表示:商品やサービスの取引条件を実際よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示や、事実に相違して競争業者よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
その他内閣総理大臣が指定する表示:実際には取り引きできない不動産を広告する「おとり広告」など
不動産の公正競争規約
不動産の公正競争規約とは、不動産業界の自主規制団体である不動産公正取引協議会連合会が定めている不動産広告などに関するルールです。不動産公正競争規約は、全国9地区(北海道、東北地区、首都圏、東海、北陸、近畿地区、中国地区、四国地区、九州)の不動産公正取引協議会が運用しています。
不動産公正取引協議会は任意加盟の団体であり、不動産業者が必ずしも加盟しなければならないものではありません。そのため、協議会に加盟していない不動産業者も存在しており、このような不動産業者には、公正競争規約の効果が直接的には及びません。
しかし、不動産公正競争規約は、景表法の規定にもとづいて公正取引委員会の認定を受けており、公正取引委員会が広告の不当性を判断する際にはこの規約が参酌されることとなっています。
つまり、不動産広告のガイドラインとしての位置づけとなりますので、協議会に加盟していない不動産業者も不動産公正競争規約を理解し、遵守することが必要です。
不動産広告に違反した場合のペナルティ
上で紹介をしたそれぞれの規定に違反をした場合には、どのようなペナルティの対象となるのでしょうか?それぞれ、次のとおりです。
宅建業法に違反した場合
宅建業法に違反をした場合には、罰則の対象となります。
上で紹介をした「誇大広告等の禁止」規定に違反をした場合の罰則は、6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科です。また、法人の場合には、行為者のほかに法人に対しても、同程度の罰金刑が課される可能性があります。
さらに、宅建業法に違反をした場合には、業務停止処分や免許の取り消し処分を受ける可能性もあります。これらの処分を受けると営業を継続することができませんので、不動産業者にとっては最も避けたい処分であるといえるでしょう。
景表法に違反した場合
景表法に違反をし、さらに、内閣総理大臣からの是正命令にも違反をした場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される可能性があります。
また、これとは別途課徴金の対象にもなる点が、景表法の大きな特徴です。課徴金とは、違反行為(不当な広告など)によって得た金銭の一部を、国に納付させる制度です。
景表法における課徴金の額は、原則として対象の商品やサービスの売上額に3%を乗じた金額とされています。
不動産の公正競争規約に違反した場合
不動産公正競争規約は、先ほども紹介をしたとおり法律ではないため、これに違反したからといって懲役刑などの対象となることはありません。
ただし、規約の実効性を高めるために違約金課徴の制度が設けられており、加盟している不動産業者が違反をした場合には、最大500万円の違約金の対象となります。他に、主要なポータルサイトへの広告掲載が最低1ヶ月間停止される施策も講じており、これによっても規約の実行性が担保されています。
不動産の広告表示義務とは
不動産の広告表示義務とは、不動産公正競争規約による不動産広告に関する表示のルールです。協議会に加盟している不動産業者はもちろんのこと、不動産広告のガイドラインとしての位置づけとされているため、加盟していない不動産業者も無視することはできません。
広告表示義務の対象とされる物件と広告はそれぞれ次のとおりです。
不動産の広告表示義務の対象物件
不動産の広告表示義務の対象となる物件は、居住用物件である宅地や建物のみです。居住用であれば、たとえばアパートの1室を賃貸する場合なども対象となります。
一方、事業用物件は、原則として対象とはなりません。ただし、事業用物件であっても宅建業法の規制対象とはなるため、規約に則した広告とすることが推奨されています。
不動産の広告表示義務の対象となる広告
不動産の広告表示義務は、すべての広告が対象とされています。一方、レインズ情報や事業者間の情報図⾯は広告ではないため、これらを消費者に手渡すなどしない限り、規制の対象外です。
不動産の広告表示義務①:広告開始時期
ここからは、具体的な広告表示義務について解説していきましょう。1つ目の規制は、広告開始時期です。
広告開始時期の制限
不動産広告は、それぞれ次の時期以降でなければ行ってはならないとされています。
未完成の建物(マンション・⼀⼾建て):建築確認取得後
未完成の宅地(開発許可が必要な場合):開発許可取得後
これらに例外はなく、たとえ「販売予定」などと称したとしても、これらを取得する前に広告をすることは認められません。
ただし、「道路の位置指定」については、広告表⽰の開始時期の制限の規制対象外であり、指定を受ける前の広告も可能です。
建築条件付⼟地取引の表示規制
建築条件付土地とは、一定の期間内に、指定された建設業者で家を建築することが売買の条件となっている土地のことであり、⼟地の売買契約と建物は請負契約の二本立てとなる取引態様です。
この態様を利用して、建築確認を受ける前(または申請中)の新築住宅を「建築条件付⼟地」と称して広告した処分事例がありますが、これは脱法⾏為であり認められません。
また、建築する建物について「このプランでなければだめです」「若⼲の変更しかできません」などと制限をかけて販売すると、建築確認前の建物広告である「⻘⽥売り」と判断され、宅建業法違反として⾏政処分を受ける可能性があります。
不動産の広告表示義務②:表示すべき事項
次の不動産広告では、物件概要である「必要な表示事項」の記載が必須です。
新聞折込チラシ
投込みチラシ
インターネット広告
雑誌
新聞
パンフレット
一方、上記以外の次の広告などでは、「必要な表示事項」を記載しなくても構いません。
現地看板
電⼦メール
ダイレクトメール
駅貼りポスター
テレビ店頭ビラ
⼿渡し図⾯
セールストーク など
「必要な表示事項」の概要は、次のとおりです。
必要な表⽰事項
必要な表示事項は、不動産公正競争規約において、取引の態様ごとに定められています。ここでは主なもののみを掲載しますので、他の取引態様については不動産公正競争規約をご参照下さい。
なお、これら必要な表⽰事項は、不動産広告内の⾒やすい場所に、⾒やすい⼤きさ(原則として7ポイント以上)で、⾒やすい⾊彩の⽂字により、わかりやすい表現で明瞭に表⽰することが必要です。
予告広告の特例
予告広告とは、価格や賃料が決まっていない時点で行う広告です。予告広告が可能な物件は、次のものに限定されており、中古物件の予告広告はできません。
分譲宅地
新築分譲住宅
新築分譲マンション
新築賃貸マンション・アパート
予告広告では、14ポイント以上の⼤きさの⽂字で「予告広告」である旨を記載すべきほか、価格などが未定であることまたは予定の価格帯、取引開始予定時期などの明示が必要です。
特定事項の明⽰義務
次の事項に該当する場合には、すべての不動産広告においてその旨を明確に表示する義務があります。これらに該当する物件は、建築や利用が著しく制限される可能性があるためです。
市街化調整区域内に所在する⼟地
道路に適法に接していない⼟地
条例による敷地形態制限に適合しない⼟地
30%以上の路地状部分を含む⼟地
セットバックを必要とする⼟地
古家が存在する⼟地
沼沢地、湿原または泥炭地
⾼圧線下の⼟地
地下に地上権が設定されている⼟地
30%以上の傾斜地を含む⼟地
著しい不整形地
がけ上、がけ下にある⼟
都市計画道路等の区域内の⼟地
建築⼯事を相当期間中断した新築物件
建築条件付⼟地の条件等の内容
国⼟利⽤計画法の適⽤がある物件
該当するにもかかわらず記載が漏れた場合には、不当表示となる可能性があります。
不動産の広告表示義務③:表示基準
不動産広告では、一定の表現をするためのルールが定められています。主な表示基準は、次のとおりです。
物件の内容及び取引条件の表⽰基準
取引対象とする物件の内容や取引条件について、それぞれの不動産業者が独自の表記をしていては、消費者による比較が困難となってしまいます。そこで、不動産公正競争規約では、一定の表示基準が定められています。
主な表示基準は、次のとおりです。
徒歩所要時間は、道路距離80mにつき「1分間」として算定する(端数は切り上げ)
通勤時の所要時間が平常時の所要時間を著しく超えるときは、通勤時の所要時間を表⽰する。また、特急、急⾏等の種別を明⽰する
物件周辺の⼩学校や中学校、公園、スーパーマーケット等を表⽰する場合は、物件から当該施設までの道路距離を表⽰する(徒歩所要時間のみの表⽰は不可)
リフォームやリノベーションをしたことを表⽰する場合は、その実施時期とリフォーム等の内容を表⽰する
物件の写真を掲載する際には、取引するものの写真を掲載する。完成予想図はその旨を明⽰して⽤い、物件の周囲の状況について表⽰するときは、現況に反する表⽰をしてはならない
部屋の畳数を表⽰する場合の1畳当たりの広さは、壁芯⾯積で1.62平⽅メートル以上の広さとする
建築基準法上、居室と認められない部分については「納⼾」等と表⽰する
消費税が課税される新築住宅等の物件は、税込表⽰とする(別表記は不可)
特定⽤語の使⽤基準
不動産公正競争規約では、一定の用語について使用するためのルールを定めています。主なものは、次のとおりです。
新築:建築後1年未満であって、居住の⽤に供されたことがないもの
新発売:新たに造成された宅地や新築の住宅について、⼀般消費者に対して初めて購⼊の申込みの勧誘を⾏うこと
建物の建築⼯事の完了:建物をその⽤途に従い直ちに使⽤することができる状態に⾄った時点
また、合理的な根拠がないにも関わらず、「完全」や「最高」、「激安」などの表示をすることは禁じられています。
不動産の広告表示義務④:禁止事項
不動産広告において禁止されている表示は、次のとおりです。
不当な⼆重価格表⽰
二重価格表示とは、たとえば販売する不動産のか価格の「2,900万円」を二重線などで消して「2,500万円」とするなど、消費者に値引きしたことを訴える表示です。
不動産広告において、原則としてこのような二重価格表示をすることはできません。ただし、次の場合には、例外的に二重価格表示が可能です。
値下げ前3か⽉以上にわたり実際に販売のために公表していた過去の販売価格を⽐較対照価格とする⼆重価格表⽰をする場合(売買のみ。賃貸は不可)
「売買代⾦全額をキャッシュで⽀払う場合は10%引きとする」「2年分の賃料を契約時に⼀括払いした場合には、毎⽉の賃料を5,000円引きとする」など、⼀定の条件を満たした際に割引をする場合において、その条件や割引率(額)を明示した場合
おとり広告
おとり広告とは、実際には取引ができない物件を公告することです。たとえば、次のケースが考えられます。
架空物件:物件が存在しないため、実際には取引することができない物件
意思なし物件:物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件
契約済み物件:物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件
おとり広告は特に問題視されており、わざとである「故意」であっても、うっかりである「過失」であっても認められませんので注意しましょう。また、当然ながら「社員(バイト)が勝⼿にやった」などと主張をしたからといって、免責されるものではありません。
まとめ
不動産の広告には、さまざまな表示規制が存在します。表示規制に違反をしてしまえば、行政指導や罰則、課徴金などの対象となるほか、顧客からの信頼を損ねてしまう可能性もあります。
うっかり違反をしてしまわないためにも、不動産の表示義務や広告規制をよく理解して、社内でも周知しておく必要があるでしょう。
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