たきざわ法律事務所

令和3年民法改正「土地・建物に特化した財産管理制度の創設」を弁護士がわかりやすく解説

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所有者不明土地が社会問題となったことを受け、不動産登記法の改正や相続土地国庫帰属制度の新設などが行われました。その一環として、契約や相隣関係などのルールを定める法律である民法も改正されています。

 

今回は、民法の改正事項の中でも、特に「土地・建物に特化した財産管理制度の創設」に重点を置いて解説します。

 

土地・建物に特化した財産管理制度とは

 

たとえば家の隣地に所有者がわからなくなった土地・建物や管理不全の土地・建物がある場合、隣地所有者は多大な迷惑を被りかねません。空地であれば雑草などが茂って越境をしてくるためその対応に追われる他、虫などが繁殖して家に害虫が侵入するリスクが高くなります。

 

また、空き家であれば放火などの危険があるほか、害獣の住処となったり不審者が入り込んだりする可能性もあるでしょう。

 

このような被害を受けていても、従来、隣地の所有者は原則として、何ら手出しをすることができませんでした。せいぜい、市区町村役場へ相談して応急措置を取ってもらうことができる程度でしょう。

 

そこで、民法の改正により、「土地・建物に特化した財産管理制度」が新設されました。土地・建物に特化した財産管理制度とは、所有者が不明である土地・建物や管理不全である土地・建物の管理人を選任してもらうことができる制度です。

 

参照元:

 

土地・建物に特化した財産管理制度の概要

土地・建物に特化した財産管理制度の創設

 

土地・建物に特化した財産管理制度について、もう少し深堀していきましょう。

 

土地・建物に特化した2つの財産管理制度

 

土地・建物に特化した財産管理制度には、「所有者が不明であるもの」と「管理不全状態であるもの」とに分けて、次の2つの制度が設けられています。それぞれの概要は、次のとおりです。

 

所有者不明土地・建物の管理制度

 

1つ目の制度は、「所有者不明土地・建物の管理制度」です。これは、所有者がわからない土地・建物や、所有者は分かっても所有者の所在を知ることができない土地・建物について、その土地・建物の管理人を選任してもらう制度です。

 

所有者不明土地・建物の管理人は、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、裁判所が選任します。管理人には事案に応じて、弁護士や司法書士などのふさわしい者が選任される予定です。

 

この制度を活用するためには、次の2つの要件を満たさなければなりません。

 

  1. 調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができないこと
  2. 管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること

 

この「調査」には、たとえば次のものが挙げられます。

 

  • 登記名義人が自然人である場合:登記簿、住民票、戸籍などの調査

  • 登記名義人が法人である場合:法人登記簿上の主たる事務所の存否、代表者の法人登記簿上の住所、住民票などの調査

 

また、管理者選任の申立てをすることができるのは、所有者不明土地・建物の管理について利害関係を有する利害関係人に限定されています。たとえば、公共事業の実施者など不動産の利用や取得を希望する者のほか、共有地における不明共有者以外の共有者がこれに該当します。

 

なお、管理人は土地・建物の保存や利用、改良行為などを行うことができる他、裁判所の許可を得て、売却や建物の取壊しなどをすることも可能です。ただし、当然ながら売却などで得た金銭は管理人のものとなるわけではなく、供託をしてその旨を公告することとされています。

 

管理不全状態にある土地・建物の管理制度

 

もう1つの制度は、「管理不全状態にある土地・建物の管理制度」です。これは、所有者による管理が不適当であることによって他人の権利や法的利益が侵害されていたり、侵害されるおそれがあったりする土地・建物について、その土地・建物の管理人を選任してもらう制度です。

 

管理不全土地・建物の管理人は、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、裁判所が選任します。管理人には事案に応じて、弁護士や司法書士などのふさわしい者が選任される予定です。

 

この制度を活用するための要件は、次の3点です。

 

  • 所有者による土地・建物の管理が不適当であること

  • 他人の権利・法的利益が侵害され、又はそのおそれがあること

  • 土地・建物の管理状況等に照らし、管理人による管理の必要性が認められること

 

先ほど解説した「所有者不明土地・建物の管理制度」とは異なり、所有者が不明であることは要件とされていません。

 

管理不全状態にある土地・建物には、たとえば次のものが該当します。

 

  • ひび割れ・破損が生じている擁壁を土地所有者が放置しており、隣地に倒壊するおそれがあるケース

  • ゴミが不法投棄された土地を所有者が放置しており、臭気や害虫発生による健康被害を生じているケース

 

また、管理者選任の申立てをすることができるのは、倒壊のおそれが生じている隣地所有者や、被害を受けている者などの利害関係人です。

 

管理人は、その土地・建物の保存や利用や改良行為のほか、裁判所の許可を得ることにより、これを超える行為をすることも可能であるとされています。しかし、こちらは所有者自体が不明ということではありませんので、売却や建物の取壊しなどをするためには、所有者の同意を得なければなりません。

 

不在者財産管理人制度との違い

 

所在がわからない人の財産を管理する仕組みとして、「不在者財産管理人」制度は従来から存在していました。

 

不在者財産管理人は、たとえば、相続人の1人が行方不明である場合などに不在者の代わりに遺産分割協議に参加したり、不在者が取得した相続財産やその他の財産を管理したりする役割を担います。

 

しかし、これはあくまでも「人単位」の制度であり、土地や建物など財産面から見た制度ではありませんでした。また、そもそも所有者をまったく特定できない土地や建物については、不在者財産管理人制度の利用は困難です。

 

新たに「土地・建物に特化した財産管理制度」が創設されたことで、今後は土地・建物単位での管理人選任が可能になる点が大きなメリットであるといえるでしょう。

 

土地・建物に特化した財産管理制度はいつから始まる?

 

土地・建物に特化した財産管理制度は、令和5年(2023年)4月1日から施行される予定となっています。

 

土地・建物に特化した財産管理制度創設の理由である「所有者不明土地」とは

 

土地・建物に特化した財産管理制度の創設は、所有者不明土地の増加に起因しています。

 

所有者不明土地とは、登記上に所有者の氏名は載っているもののその所有者と連絡がつかない土地や、所有者の生存さえ不明である土地や、その相続人とも連絡がつかない(相続人が誰なのかもわからない)土地などを指します。

 

所有者不明土地のなかには、相続人が誰もいない状態でなくなり、実際に所有者といえる人が誰一人いない土地(本来であれば、国庫への帰属手続きをすべきであった土地)もあるでしょう。

 

その一方で、実際には相続人などの権利者はいるもののたとえば自己が相続人であることさえ認識していない場合や、相続人の1人であることは認識しつつもその土地と関わりたくないために放置をしている場合なども存在します。

 

従来のルールでは、どのような事情であってもどこかに所有者がいる以上は、原則としてその土地を他者が勝手に使用したり、再開発地に勝手に組み込んだりすることはできません。しかし、所有者不明土地が増加してしまったことから、これが土地の有効利用を阻害するなど、無視することができないほどの社会問題となっています。

 

所有者不明土地はなぜ生まれる?

所有者不明土地が発生する理由

 

そもそも、所有者不明土地はなぜ誕生してしまうのでしょうか?その主な原因は、次の2点です。

 

住所変更登記の放置

 

不動産の登記事項の1つに不動産所有者の住所があり、新たに不動産を購入したり建物である不動産を建築したりした際には、氏名とセットで住所の登記もなされることが一般的です。

 

しかし、その後所有者の住所が変わった際の住所変更登記はこれまで義務とされておらず、行わなくとも特に罰則などはありませんでした。そのため、住所が変わっても、変更登記がなされないままのケースが散見されています。

 

確かに、収益不動産などであるのであればともかく、お金を生むわけではない不動産にあえて司法書士報酬や登録免許税(登記に際して、法務局へ支払う税金)などの費用をかけてまで住所変更登記をしないというのは、ある意味で合意的な選択であったといえるでしょう。

 

しかし、その結果として、現在の所有者の住所がわからず連絡が付かない所有者不明土地が多く生まれてしまいました。

 

相続登記の放置

 

相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった後で、その不動産の名義を相続人などへと変える手続きです。

 

不動産の相続登記を行うためには、原則として相続人全員で行う話し合いである「遺産分割協議」で誰がその不動産を取得するのかを決める必要がある他、亡くなった元所有者の出生までさかのぼる除籍謄本などを提出しなければなりません。

 

これらの手続きの手間を避けるため、特に比較的価値の低い不動産を中心に、相続登記をしないまま放置された土地が多く生まれています。その結果、登記された名義人の死亡から相続が何代にもわたって繰り返され、もはや誰が所有者であるのかわからない所有者不明土地が点在する結果となってしまいました。

 

相続登記を行わなければその土地を売ったり担保に入れたりすることができないのですが、そもそも売却の見込みが薄い地域の土地などでは放置をしても特に実害がなかったことや、相続登記に期限や罰則などがなかったことなどが原因の一つといえるでしょう。

 

所有者不明土地の解消に向けた主な取り組み

民法改正

 

土地・建物に特化した財産管理制度創設の他にも、所有者不明土地の解消に向けた取り組みが行われています。主な取り組みは次のとおりです。

 

住所変更登記等の義務化

 

所有者不明土地が生まれる原因の1つであった住所変更登記の放置を減らすため、住所変更登記が義務化されます。

 

改正法の施行後は、住所変更をした日から2年以内に、登記申請をしなければなりません。正当な理由がないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料の適用対象となります。

 

この改正は、令和8年(2026年)4月までに施行される予定です。

 

相続登記の義務化

 

住所変更登記の放置と並んで所有者不明土地が生まれる原因の1つであった相続登記についても、義務化が決まっています。

 

改正法の施行後は、相続や遺言で不動産の所有権を取得したことを知った日から、3年以内に相続登記をしなければなりません。正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。

 

この改正は、令和6年(2024年)4月1日に施行される予定です。

 

相続土地国庫帰属制度の創設

 

所有者不明土地が増加した原因の一つに、「いらない土地を捨てる方法がなかった」ことが挙げられます。

 

都心でなくとも、せめて住宅地などであれば、土地は「財産」となり得ます。その一方で、ほとんど出向くことのない田舎の土地や山林などを相続しても、固定資産税の支払いや管理の面倒などが増えるだけという場合も少なくないでしょう。

 

しかし、このような土地を手放すことは容易ではありません。安価であっても隣地所有者などに売却ができれば良いのですが、買い手もおらず、また寄付をしようにも受け取ってもらえない場合には、まさに「負」動産となってしまうのです。

 

こうした事態を嫌がる相続人が、あえてその土地の相続をしないまま放置をするケースが後を絶ちませんでした。

 

そこで誕生したのが、「相続土地国庫帰属制度」です。この制度では、相続した不動産を国にもらってもらうことができるようになります。

 

ただし、税金で土地の管理をする以上、どのような土地でも無条件でもらってもらえるわけではありません。原則として、次の要件をすべて満たすことが必要です。

 

  • 建物や工作物がないこと

  • 土壌汚染や埋設物がないこと

  • 危険な崖などがないこと

  • 境界が明らかとなっていること

  • 担保権などの権利が設定されていないこと

  • 通路など他人による使用が予定される土地ではないこと

 

そのうえで、10年分の土地管理費相当額である「負担金」を支払わなければなりません。しかし、このような条件であっても、手放せない土地の管理で悩んでいた方にとっては、非常に朗報でしょう。

 

相続土地国庫帰属制度は、令和5年(2023年)4月27日に施行される予定です。

 

民法の改正

 

土地・建物に特化した財産管理制度のほか、民法では次の3点についても改正がされています。それぞれの概要は、次のとおりです。

 

なお、これらはすべて、令和5年(2023年)4月1日の施行が予定されています。

 

共有制度の見直し

 

土地の共有者の一部が行方不明である場合、その土地の活用に支障をきたしてしまいます。そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から、共有制度全般についてさまざまな見直しが行われました。

 

遺産分割に関する新たなルールの導入

 

相続が発生してから長期間放置されると、遺産の管理や処分が困難になります。また、長期間が経過するうちに寄与分などを考慮した具体的相続分に関する証拠がなくなってしまい、遺産分割が難しくなるといった問題が指摘されていました。

 

こうした問題を受け、被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として寄与分などの具体的相続分を考慮せず、法定相続分などによって画一的に行うこととされました。

 

相隣関係の見直し

 

境界付近の建築物を修繕する目的などで隣地へ立ち入る際には、原則として隣地所有者の承諾を得なければなりません。しかし、調査しても隣地の所有者がわからない場合には、必要な承諾を得ることができず、これが土地の円滑な利活用の障害となっていました。

 

そこで、相隣関係に関するルールのさまざまな見直しが行われています。

 

まとめ

 

土地・建物に特化した財産管理制度とは、所有者が不明である土地・建物や、管理不全である土地・建物について、管理者を選任してもらう制度です。この制度の施行後は、危険な状態にある土地・建物の管理や所有者不明土地の活用などがしやすくなるでしょう。

 

たきざわ法律事務所では、不動産法務に強い弁護士が複数在籍しております。制度施行は令和5年(2023年)4月1日ではありますが、あらかじめ準備を進めていくことは可能ですので、お早めのご相談も可能です。

 

所有者不明の土地を利用したいと考えている場合や、隣地の土地・建物が管理不全でお困りの場合などには、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。

 

 

 

 

 

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サンカラ

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