体調不良で退職する労働者への対応はどうするべき?企業側が気をつけるべき5つのことも詳しく紹介
体調不良が原因で退職を希望する従業員に対して、どのように対処するべきなのか?
企業側としては悩ましい部分であるでしょう。
多少は強引にでも引き止めるべきなのか、すぐに退職を受理すべきなのか。
とくに、会社として貴重な人材であればあるほど「退職してほしくない」という気持ちが勝り、
少々強引な引き止めが行われることがあるかもしれません。
また、もしも従業員が体調不良を原因として「即日退職」を申し出てきたときはどうしたら良いのでしょうか。
本来は、退職を伝えてから2週間経過しなければ退職は認められません。
果たして、損害賠償等を請求できるものなのか否か。
体調不良が原因であるからこそ、悩ましい問題が多くあるかと思います。
そこで今回は、体調不良で退職を希望する従業員に対する対応方法についてお伝えします。
体調不良の退職希望者への対応はどうするべき?
体調不良を理由にした退職希望者に対する対応として、退職を引き止めても良いのかどうか悩ましい部分ではないでしょうか。
基本的な考え方として「体調不良」を理由とした退職希望者であれば、退職を引き止めることは許されません。
ただ契約期間に定めがあるときは、事情によっては引き止めが認められる可能性はあります。
また、どうしても引き止めたい従業員に対しては「休職制度」の利用を促すのも効果的です。
まずは、体調不良を理由に退職を希望する従業員に対する対応について、どうすれば良いのか?詳しくお伝えします。
無理に引き止めるのはおすすめできない
体調不良を理由に退職を希望する従業員を無理に引き止めるのは、あまりおすすめはできません。
「体調不良」の理由は従業員によって異なりますが、中には会社内でのストレスが原因で体調を崩してしまった方もいるでしょう。
もし、会社内での人間関係やストレス等が原因で退職を希望されている方が、
会社側から無理な引き止めを受ければ、ものすごいストレスになることは容易に想像できます。
万が一、会社側の引き止めが原因で体調が悪化してしまえば、会社側が不利益を受けることになるでしょう。
貴重な人材が離れていってしまうことは、会社として大変な損害です。
しかし、退職の理由が「体調不良」なのであれば、慎重な対応を求められます。
在職強要は違法になる可能性が高い
在職強要は労働基準法第5条【強制労働の禁止】に該当する恐れがあります。
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
もし、在職強要が違法と認められてしまえば、企業側が「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」に処されます。
また、民法でも退職の自由が認められており、労働基準監督署からの指導のみならず損害賠償請求のリスクも伴います。
どうしても手元に残しておきたい従業員であっても、無理な在職強要は逆効果です。
必要に応じて「休職制度」の利用検討を促す
体調不良を原因に退職を希望する従業員でも、回復の見込みがあるのであれば、退職ではなく「休職制度」の利用を促してください。
具体的な制度の内容や復職後のポジション確保など、
従業員としっかり話し合いしなければいけませんが、退職を避けられる可能性は高いでしょう。
従業員も体調が回復した後の仕事が決まっているのは安心感があります。
ただ、休職制度はあくまでも「回復の見込みがある方」を対象にしているケースがほとんどです。
また、業務外に起因した体調不良等が対象です。
つまり、業務に起因して発生した体調不良で退職を希望する従業員や、
回復を見込むことが難しい従業員に対しては、素直に退職を受け入れるしかありません。
仮に休職制度を利用したとしても、会社側は治療状況や健康状態の把握等業務負担が少なからず増えます。
また、社内規定によっては休職期間中の給与が発生することもあるので、従業員とよく話し合いを行ったうえで検討してください。
契約期間の定めがあるときは退職を止められる可能性がある
原則として、退職を希望する従業員を引き止めることは許されませんが「契約期間に定めのある従業員」に対しては引き止めができます。
そもそも、有期雇用の方は一方的な退職が認められておらず、
勝手に退職をしてしまえば「債務不履行」として損害賠償請求の対象になり得ます。
ただ「やむを得ない事情」があるときはこの限りではありません。
どのような事情がやむを得ないと認められるか否かは、各事情で判断されるため一概には言えません。
少なくとも「体調不良で就労不能」という医師の診断書があれば、やむを得ない事情に該当するでしょう。
仮に、医師の診断書を出されたにもかかわらず、無理に在職を強要してしまえば、企業側の違法性が認められるので注意してください。
体調不良で退職するときは原則「即日退職」が認められる
民法の規定により、雇用期間に定めのない労働者は退職の自由が認められています。
しかし、退職を伝えてから2週間経過しなければ退職は認められません。
この事実を知っている方は多いですが、じつは「体調不良」のときは即日退職も認められています。
会社側としては、突然「本日付で退職します」と言われれば大変困ることかと思います。
後任を見つけたり引き継ぎ業務だったり、最低限行ってほしい業務はあるでしょう。
しかし、上記のことを従業員に伝えてしまうと「在職強要」と言われてしまう恐れがあるので、慎重な判断や対応が求められます。
次に、体調不良で即日退職が認められる根拠についてお伝えします。
体調不良は民法628条「やむを得ない事由」に該当する
民法第627条では、退職の申し出から2週間経過すれば雇用契約が終了すると記載されています。
逆に言えば「退職日の2週間前までに退職の意志を伝えなければいけない」とも解されます。
つまり、いくら体調不良が原因だと言っても、
2週間前までに退職を伝えなかった従業員の退職は止めることができるのか?と、思われる方も多いでしょう。
しかし、民法628条では「やむを得ない理由による雇用の解除」について明記しています。
民法628条によれば、やむを得ない事情が該当するときは各当事者は直ちに雇用の解除が可能。とされています。
もちろん当事者間の合意が必要ではありますが「体調不良」は立派なやむを得ない事情に該当するでしょう。
仮に、従業員が医師の診断書を持って退職を願い出てきたとき、
会社側がやむを得ない事情と認めなければ、厳しく対応される可能性があります。
体調不良で就労不能という結果が出たのであれば、やむを得ない事情と認め、即日退職にも合意すべきでしょう。
後のトラブル等を考えれば、致し方のないことと割り切るべきです。
業務に起因した体調不良等であれば労災が認められることもある
業務に起因した体調不良であれば、労働災害が認められることがあります。
たとえば、業務で発生した強いストレスでの体調不良などが該当するでしょう。
従業員が労働災害認定を求めてきたときは、会社側は積極的な調査等を怠ってはいけません。
また、会社内にストレスの原因となり得る事情が未だに残っているのであれば、早急に解決してください。
改善しなければ体調不良での退職希望者は増加する一方になるでしょう。
体調不良で退職する労働者にしてはいけない5つのこと
体調不良を原因として退職を希望する従業員に対して、
会社側がついやってしまいがちなこと、絶対にやってはいけないこと5つについてお伝えします。
後任が見つかるまでの在職強要
給与や退職金を支払わない
有給休暇の取得を認めない
離職票を渡さない
懲戒解雇や損害賠償請求をすると脅す行為
会社側も貴重な人材を失いたくないと思う気持ちはわかります。
しかし、従業員も1人の人間である以上、ときには体調を崩してしまうこともあるでしょう。
体調を崩してしまった従業員に対して追い打ちをかけるような行為は絶対に避けるべきです。
最後に、退職を希望する従業員に対する行動として避けるべきことをお伝えします。
①:後任が見つかるまで退職を認めない(退職させない)
「後任が見つかるまでは在職してほしい」そう思う気持ちは十二分に理解できますが、
在職強要になる恐れがあるので避けるべきでしょう。
とくに、体調不良で退職を希望されている方は、医師の診断書を持って来られているはずです。
それまでずっと体調不良の中で仕事をしてきて、限界が来たから退職を希望しているはずです。
従業員の思いを汲んで、ときには会社側の意見は飲んで素直に応じてあげなければいけないときもあります。
「体調が悪いから退職します」と伝えられたときは、退職届を受理してあげましょう。
②:給与や退職金を支払わない(「支払わない」と脅す)
「即日退職をするのであれば給与や退職金は支払わない」と脅したり、実際に支払わなかったりするのは違法です。
賃金未払いになり得ますし、万が一、従業員が退職をできなければ在職強要になる恐れもあります。
体調不良はやむを得ない事情に該当するため、
即日退職が可能であることを再認識し、当然給与や退職金が発生するものと覚えておいてください。
③:有給休暇消化を認めない
「体調不良=即日退職」というイメージがあるためか、中には有給休暇の取得を認めない企業もあります。
しかし、有給休暇は従業員が持つ当然の権利であり、取得を認めないのは絶対にやめてください。
体調不良を原因とした退職者でも、残っている有給休暇をすべて取得してからの退職は可能です。
希望されたときは、かならず受け入れてあげてください。
④:離職票を渡さない
離職票の発行を求められたときは、かならず発行してください。
企業側は離職後10日以内に離職票の発行義務があります。
また、今退職するなら離職票は発行しないなどと脅す行為も絶対にやめてください。
体調不良で退職する従業員は、
すぐに就職する予定はないですし失業手当の受給要件も満たさないため、言ってしまえば離職票は不要です。
ただ、企業側に発行義務がある以上は、かならず離職票の発行をしておいたほうがトラブルを避けられるでしょう。
⑤:懲戒解雇や損害賠償を請求すると脅す行為
何度もお伝えしていることですが体調不良での退職は「即日退職が可能」です。
会社側が従業員に対して「退職は2週間前までに言わなければいけない」とか「即日退職するのであれば、違反だから懲戒解雇にする、
損害賠償を請求する」と伝えるのは絶対やめてください。
体調不良での退職はやむを得ない事情に該当するため、従業員側が一方的に退職できます。
このことだけは覚えておいてください。
最後の最後で嫌がらせのようなことをしてしまえば、会社側の評判が下がってしまう恐れがあるので注意してください。
まとめ
今回は、体調不良で退職する従業員に対する対応についてお伝えしました。
今回お伝えしたことをまとめると下記のとおりです。
- 体調不良を理由に退職する従業員を無理に引き止めるのやめたほうが良い。在職強要として訴えられたり労働基準法違反になったりする恐れがあるので要注意
- 体調不良による退職は原則「即日退職」が認められる。たとえ有期雇用の従業員であっても「やむを得ない事情」が認められるときは即日退職が可能
- 体調不良で退職する従業員に対して、暗に在職を強要する行為は絶対に避けるべき。どうしても在職してほしいのであれば、好条件での休職制度利用検討を促すのも有り
- 体調不良の原因が会社に起因したものであれば、労働災害になるので要注意。万が一、労災が認められたときは積極的な協力が必要不可欠
通常の退職は、退職を伝えた日から2週間経過しなければ認められません。
しかし、体調不調のときは「即日退職が可能」このことだけは大前提として覚えておいてください。
そのうえで、無理な引き止め等はさらに従業員の体調を悪化させる原因になり得ます。
従業員が医師の診断書とともに即日退職を希望したときは、素直に受理するもしくは、休職制度の利用を促す。
いずれかの方法をとると良いでしょう。
何度もお伝えしていることですが、在職を強要することだけは絶対に避けてください。
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