育休後の退職率は意外と高い!企業ができるフォロー体制には何がある?今すぐ検討すべき「企業側の努力」について
育休制度は、復職を前提としてさまざまな権利や給付制度を受けられます。
この制度自体は、法律によって定められているものであって、会社内で制度を設けていなくても権利があれば利用できます。
その結果、自分の権利ばかりを主張して育休を取得し、
いざ復職のタイミングになれば退職をしてしまう方も少なくありません。
会社としては、復職を前提としていた従業員が退職してしまうことで受ける被害は少なからずあるでしょう。
会社側の心情としては「納得ができない」と思うのも致し方のないことです。
しかし、従業員が育休後の退職を申し出ることも、実際に退職することも何ら問題のないことです。
そこで今回は、育休後の退職率やその原因、会社側が育休後の退職を防ぐためにできることは何か?についてお伝えします。
目次
育休後の退職は認めざるを得ない?出産後の離職率が高い現実
育休は本来、復職をすること前提で取得するものです。
そのため、育休中にはさまざまな権利が保護されていたり、収入面で苦労しないよう給付制度が利用できたりします。
しかし、育児と仕事の両立が難しいことを理由に退職をされる方が多いのも事実であり、
会社側としては育休後の退職を認めるべきか否か悩ましいところでもあるでしょう。
今後の育休取得にも大きな影響をあたえる可能性があるため、
自分の権利ばかりを主張する従業員を全面的に受け入れるべきなのか。
復職を前提とした制度を利用している以上は、最低限の復職を求めるべきなのか。
企業としてはどうあるべきなのか、法律的にはどうなのか。悩ましい部分と言えるでしょう。
先に結論から言ってしまえば、育休後の退職を規制する法律はありません。
むしろ、退職の自由が認められている従業員を無理に引き止めようとする行為に、違法性が発生する恐れもあります。
従業員が育休後の復職を考えていても、実際に子育てを体験したときに「育児と仕事の両立は厳しい…」と、現実を突きつけられることもあるでしょう。
まずは、育休後の退職は認められるのか否か、出産後退職率の現実はどうなっているのか?についてお伝えします。
やむを得ない理由での退職は認めざるを得ない
育休は復職を前提として得る権利のひとつであるため、育休後の退職を快く思わないのは当然です。
しかし、退職の自由が認められている従業員を無理に引き止めることは許されません。
育休後の退職はあくまでも「マナー」のひとつであって、退職を引き止める権利は会社にありません。
1人のマナー違反で後に育休を取得される方にも影響を及ぼす恐れもあるでしょう。
しかし、育休も退職も従業員が持つ当然の権利と思って切り替えるしかありません。
育児後の退職理由は「育児と仕事の両立が困難」であることが一番大きい
育休後の退職理由として多いのが「育児と仕事の両立が困難」であることや「子供の預け先が見つからない」など、
育休取得前までに把握することが難しい問題が原因です。
育休取得時や育休中は当然、復職する予定でいても実際その場面になってみると「現実的に厳しい」となってしまうこともあります。
また、従業員のメンタル部分な要素も強いでしょう。
理想と現実のギャップの中でメンタル的に弱ってしまう方も多くいます。
その結果、なかなか復職が難しいと感じる方もいるでしょう。
会社側が理解を示し、
育休後の退職希望をされた従業員に対しては希望通りの答えを出してあげてはどうでしょうか。
退職日が育休復帰日以降のときは年次有給休暇の取得も認められる
本来、育休は復職を前提として得られる権利であることは何度もお伝えしているとおりです。
そのため、従業員が退職の意思を伝えた時点で、育休自体が終了するため年次有給休暇の取得は原則できません。
一方で、育休終了後まで復職の意思があって、退職日を育休後に設定しているときは年次有給休暇の取得ができます。
会社としては育休直後に退職し、さらに年次有給休暇まで取得しようとする従業員を快く思わないのは当然です。
しかし年次有給休暇も、労働者にあたえられた当然の権利であり、取得することを止める権利は会社側にありません。
退職する従業員から年次有給休暇の取得したい旨の申請があったときは、対応するべきでしょう。
とくに女性は出産後の退職率が高い
女性の社会進出が日本の経済に多大な影響を及ぼすと言われている昨今ですが、
女性の育休後退職率や出産前後の退職率が非常に高く推移しています。
年々離職率が減少しているのも事実ですが、現状では「子育てと仕事の両立」や「子育てへの専念」から離職率が依然として高い状態が続いています。
また、育休制度に対する認知度の低さや会社側からの情報発信が少なく、出産前後に体調不良等を理由に退職される方も多いのが現状です。
この現状をみれば、育休後に退職する従業員を責めるのではなく会社側としてできることも見えてくるでしょう。
参考:内閣府男女共同参画局|「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について
育休後の退職を避けるためには企業側の努力が必要不可欠
貴重な人材を育休後も雇用し続けるためには「企業側の努力」が必要不可欠です。
育休後も子供中心の生活になり、今まで通りに働けないことは多々あるでしょう。
会社側が子育てに理解を示し、働きやすい環境、育休後に復帰しやすい環境を作ることが何よりも重要な課題のひとつです。
- 会社全体で育児に対する理解や情報発信を行う
- 急欠時の対応等を準備しておく
- 時間外労働や深夜労働に関する制限や配慮
- 育休中のフォロー体制
- フレックスタイム制の導入
- 短時間勤務制度の導入
育休中の社員を迎え入れる準備や、復帰後も働きやすい環境を作ることこそが、育休後の退職を防ぐために有効な策と言えるでしょう。
次に、上記でお伝えした「育休中の従業員を迎えるためにできる企業側の努力」についてお伝えします。
①:会社全体で「育児」に対する理解が必要
会社側の育児に対する理解は必要不可欠です。
この配慮が欠如していれば「働きたくても働けない」「そもそも働きたくない環境、復帰したくない職場」と見られてしまい、
育休後の退職は避けられないでしょう。
最低限、会社全体で「育休制度」や「育児」に関する理解を深め、何かあったときのために助け合える環境づくりが大切でしょう。
積極的に育休を取れる雰囲気、復帰しやすい雰囲気や実績を作れば、いずれ育休を取得した従業員も復帰しやすくなります。
②:急欠時の対応等を準備しておいて、休みやすい環境を整える
とくに小さいお子様がいる家庭では、突然子供が熱を出したり病気にかかったりすることがあります。
そういったときにいつでも対応できるよう準備がなされていれば、育休後も働きやすい職場と言えるでしょう。
何かあったときは快く休ませてもらえる環境、誰かがフォローしてれる環境がとても大切です。
中には、常に複数の人が複数の仕事を持ち、1人が急欠で欠けても対応できるシステムを導入している会社はあります。
「この人がいなければ困る」ではなく、誰かが欠けても誰かがフォローできるように、
1人の人が複数のことをできるような職場環境を作り上げれば良いでしょう。決して難しいことではありません。
育休後の退職を防ぐためには最低限行うべき対策のひとつと言えるでしょう。
③:育児のための時間外労働・深夜時間労働の制限
育休後の退職を防ぐためには「仕事と家庭の両立がしやすい環境」を作ることも大切です。
育休前は当たり前に残業をしていた方でも、子供がいればそう簡単にできるものではありません。
時間外労働や深夜時間労働の制限をすれば、家庭との両立もしやすいです。
時間的融通が利かないとどうしても、正社員ではなく非正規雇用での就業先に移ってしまう傾向にあります。
結果、育休後の退職にもつながるでしょう。
④:育休中のフォロー体制が大切
育休後に復帰しやすいように「育休中」のフォローが必要です。
育休中のフォローとしてできることは、下記のようなことが挙げられます。
- 育休中の定期的な相談や連絡
- 必要に応じて面談を行う
- 社内の状況等を定期的に報告する
とくに、育休中の定期的な相談や連絡を密に取ってあげることがとても大切です。
復帰に関する不安や要望等があるときは、積極的に相談できる環境を作り、可能な限り要望に応じてあげられる努力があっても良いでしょう。
また、育休中の社内の様子等も定期的に報告してあげられれば、復帰しやすい環境を作れます。
育休後の退職を避けるためには何よりも「復帰しやすい環境づくり」が必要不可欠です。
これは、企業側の努力でどのようにもできるものです。
積極的に連絡を取り、不安や要望等はないのか?など、ヒアリングできる環境を整備してあげられれば良いでしょう。
⑤:フレックスタイム制の導入
フレックスタイム制の導入も育休後の復帰を検討している方からすれば、ありがたい制度と言えるでしょう。
この制度があるか否かで、育休後の退職をするか否かを決定する従業員もいるかもしれません。
フレックスタイム制とは、日々の出退勤時間や働く長さを労働者自ら選択できる制度です。
小さいお子様がいる家庭では、自由な出退勤時間や働く時間の長さが自由に決定できるのは非常にありがたいことでしょう。
育休後の退職理由として多い「育児と仕事の両立が難しい」という問題も、フレックスタイム制の導入で少しは解決できるのではないでしょうか。
たとえば「時間的融通が利かないから育児との両立が難しい」と思っている方に対しては、フレックスタイム制はとても有効な手段と言えるでしょう。
配偶者が○時からなら都合がつく、子供の面倒を見てくれる人が○時までしか難しい。
など、さまざまな時間的場面に対応できるフレックスタイム制は、育休後の退職理由として多い問題をひとつ解決できます。
積極的に導入を検討してみてはどうでしょうか。
⑥:短時間勤務制度の導入
短時間勤務制度は別名「育児短時間勤務制度」とも呼ばれる制度で、一定の条件をクリアした方を対象にした制度です。
3歳に満たない子供を養育する労働者
1日の所定労働時間が6時間以内ではないこと
日々雇用(1日単位での雇用、日雇いや日給月給等)ではないこと
短時間勤務制度中に育休制度を利用していないこと
労使協定により除外された労働者ではないこと
短時間勤務制度は1日の労働時間を原則として6時間としなければいけません。
つまり「10時出勤16時退社」等、朝の時間と夕方の時間等お子様のいる家庭のライフスタイルに合わせた、労働時間の設定ができます。
従業員も「会社側の取り決め」として、上記の労働時間を提示されれば積極的にその時間内で出退勤をできるようになるでしょう。
とくに、フレックスタイム制とあわせて導入してあげられれば、時間的融通が利くやすく、育休後の退職も避けられるでしょう。
まとめ
今回は、育休後の退職は認められるのか、会社として退職を防ぐ方法や手段はあるのか?についてお伝えしました。
今回お伝えしたことをまとめると下記のとおりです。
育休後の退職は原則として認められる。会社側がこれを引き止めようとすると、退職の自由を妨害する行為であって、違法行為になる恐れがある
育休後の退職を快く思わないのは当然。しかし、やめるやめないは労働者の意思であって、あくまでも「マナー」的な問題
女性の育休後退職や出産前後の退職は非常に多い。その理由は「育児と仕事の両立が難しいから」
育休後の退職を防ぐためには会社側の努力が必要不可欠。とくに、労働時間的な問題や育休中のフォロー、育児中のフォローが復帰しやすい環境を作り上げる
育休は復職を前提とした制度であるため、
育休終了を目前として退職を告げられれば会社としても当てにしていた人材を失ってしまう結果になりかねません。
損害を受ける可能性もあるため、看過できないと思うのは当然です。
しかし、育休後にどうしても退職しなければいけない事情を抱えることも多いです。
とくに女性は、未だに家庭での時間が男性に比べて圧倒的に多いです。
仕事に家事、育児ともなれば「育児と仕事の両立が難しい」と思うのは当然でしょう。
会社側ができる努力として、家庭で何かあったときのフォロー体制や柔軟な時間制度の導入が働きやすさを後押しすることになります。
育休後の退職を避けるためには、会社側の努力が必要不可欠と言えるでしょう。
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参考:内閣府男女共同参画局 – 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(週全体平均)(1日当たり,国際比較)