たきざわ法律事務所

契約社員の中途退職は注意が必要!退職理由と退職後のお金について

この記事を書いた弁護士は…

 

 

有期雇用契約として雇用契約を締結する契約社員は、特定の期間のみの人材確保として、とても有効です。しかし、非正規雇用であることを理由に、簡単に退職をしようとしてしまう契約社員労働者の方もいます。

 

実は、契約社員という雇用形態では、契約期間内での退職は原則として認められていません。正社員などの雇用期間に定めのない人たちに対しては、当然にあるはずの“退職の権利”が、有期雇用契約を締結している契約社員にはありません。

 

もしも契約社員の方が契約期間の途中で退職をしたいのであれば、“やむを得ない事由”が必要となります。やむを得ない事由がないにも関わらず退職をしてしまえば、企業側は損害賠償請求が可能となります。

 

今回は契約社員について、

  • 退職が認められるやむを得ない事由とはなにか

  • 損害賠償請求ができる可能性

  • 契約社員が退職後に受け取れる可能性のあるお金

にお伝えします。契約社員を雇用されている企業様の参考になれば幸いです。

 

契約社員が退職するためには“やむを得ない”理由が必要

契約社員は期間を定めて雇用しているため、期間内の退職は原則できません。企業側も、契約社員から契約期限内に退職の申し出があった場合、応じる必要がありません。

 

ただし、「いかなる理由があろうと退職を認める必要はないのか?」といえば、そういうわけでもありません。例えば、契約社員本人の体調不良が原因で就労が厳しいと診断を受ければ、当然に退職を認めるべきです。

 

一方で、働いてみたら会社のイメージが違ったなどという、“やむを得ない事由”に該当しない場合は、退職を認める必要はありません。まずは、契約社員が退職を認められる可能性が高い“やむを得ない事由”についていくつかお伝えします。

 

実際は各事情によって異なるため、下記に記載されていない理由であっても退職を認めるべき事由もあります。下記に示す“やむを得ない事由”はあくまでも、最低基準とお考えください。

 

契約社員の退職理由

契約社員の方は雇用期間に定めがあるため、期間内での退職が認められていません。円満に退職できるケースとしては、「契約期間満了による退職」しかありません。

 

ただ例外として、契約期間満了前であっても勤続年数が1年を超えている場合と、やむを得ない事由がある場合に限り、退職が可能です。つまり、やむを得ない事由がなくても、勤続年数が1年を超えていれば、“契約社員でも退職をできる権利がある”わけです。

 

これは労働基準法によって定められており、就業規則に定める期間を置いた上での退職が可能です。一般的には、退職日の2週間前までには申し出を行うことが必要です。

 

そして、勤続年数が1年に満たない場合であっても、やむを得ない事由がある場合に限り、退職を認める必要があります。やむを得ない事由かどうかの判断は、各企業に任されてはいますが、基本的に下記の4項目はやむを得ない事由に該当します。

以上に該当する場合には、やむを得ない事由に該当する可能性が高いため、企業側は契約社員の退職を認めざるを得ません。それぞれの事由について詳しくお伝えいたします。

1.本人の怪我や病気で就業不能となった

契約社員本人が怪我や病気を患ってしまい、就労不能となってしまった場合には、やむを得ない事由に該当します。

 

ただし、契約期間に復職が可能である場合には、この限りではありません。

 

一方で企業側は、契約社員の病気や怪我を理由に一方的に解雇(契約終了)を言い渡すことは認められていません。

 

企業側が契約社員に対して、解雇(契約終了)を通達し、認められるケースは下記のとおり。

 

  • 怪我や病気により業務に耐えられないとき
  • 怪我や病気が完治するときには契約期間が満了している

 

などなど、各事情によっても異なりますが、上記のような例であれば企業側からの解雇(契約終了)が認められる可能性が高いです。

 

一方で、契約社員の怪我や病気が業務上の理由である場合や妊娠である場合などは、解雇(契約終了)がほぼ認められませんので注意してください。

2.家族等の介護が必要となった

契約社員の家族の介護が必要となった場合にも、退職を認めざるを得ません。

 

ただし、「家族の介護を理由に即日退職したい。」など、近々の退職希望であれば、ただちに認める必要はありません。もちろん、契約社員の家庭に合わせた柔軟な対応も必要です。

 

しかし企業側がすべてを受け入れる必要はありません。家族介護の証明書提出を求めたり、数日ないし数週間前までには申告するよう求めたりすることは可能です。

 

各事情に応じて柔軟な対応は認められますが、あくまでも“家族介護はやむを得ない事由に該当する”ということだけは覚えておいてください。

3.ハラスメントが横行している

ハラスメントが横行している場合には当然にやむを得ない事由に該当します。

 

ハラスメントと言っても最近ではさまざまなハラスメントが横行しています。例えば、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、アルコールハラスメントやモラルハラスメントなど。挙げればキリがないほどのハラスメントがあります。

 

何がハラスメントに該当するのか、基準が難しいところではありますが、「社内規則に違反していないか?」はひとつの基準になるはずです。時間外労働であったり、社内のコンプライアンス規定であったり。

 

職場内でのハラスメントが発生している場合には、契約社員の退職を企業側が止める権利は一切ありません。

4.話し合って円満退職

企業側と契約社員側で話し合いを行って、円満退職をする場合はトラブルにもなりません。

 

契約社員は契約期間内での退職は契約違反となってしまいますが、企業側が承諾した場合にはこの限りではありません。契約社員側から申し出があり、企業側が納得したのであれば、円満退職という形にしても良いでしょう。

 

ただ企業側は、契約期間中であれば契約社員の退職を拒否する権利を有しています。そのため、必ずしも話し合いで円満退職を行う必要はありません。

 

あくまでも、企業側の判断でやむを得ない事由に該当する場合や、話し合いの結果、納得できるのであれば退職を認めても良い。ということです。

 

契約社員の中途退職は損害賠償請求の対象

契約社員が契約期間中に退職をした場合には、損害賠償請求の対象となります。

 

企業側は退職した契約社員に対して損害賠償請求をできる権利が発生します。一方で退職した契約社員は、企業側に対して損害賠償を行う義務が発生しますので注意してください。

 

正社員などの正規雇用者は、会社に対して「2週間の期間」を置いて、退職の意志を伝えれば無条件で退職が可能です。これは民法627条一項に規定されている法律であり、企業側も受け入れざるを得ません。

 

たとえ会社の規定で2か月以上前に申告をするように定められていても、日本の法律である“民法”のほうが強いため、2週間での退職が可能です。

 

しかし、上記はあくまでも雇用期間の定めがない正規雇用者等の話であって、契約社員は例外です。契約社員はそもそも、契約期間を定めて働く労働契約であるため、例外を除いて、定められた期間は労務に服さなければいけません。

 

もしも契約期間中に強制的に退職していった場合には、被った被害に対する損害賠償請求が可能です。ただし、待遇が契約内容と違う場合や、やむを得ない事由に該当する場合には当然損害賠償の請求もできません。

 

具体的にいくらくらいの損害賠償請求が可能であるのかについては、各事由によって異なるため一概には言えません。ただ一般的には、“実際に被った被害額”が損害賠償請求の対象となるでしょう。

 

例えば、契約社員を雇うために利用した広告費用や育成に必要な育成費用等は、損害賠償請求の対象にはなりません。その一方で、とあるプロジェクトの即戦力として採用したが、退職してしまいプロジェクトが失敗に終わってしまった場合には、損害賠償の対象となります。

 

上記のように“実際に被った被害”に対して請求できるのが損害賠償請求です。

 

ただ、契約社員の退職に対する損害賠償請求はあまりおすすめできません。企業の印象や社内環境の悪化につながってしまう可能性があるためです。損害賠償を行うかどうかは、慎重に検討されたほうが良いでしょう。

 

最適解を提案します

 

最適解を提案します

 

契約社員退職後のお金について

契約社員の退職に伴い、退職金を支払うべきなのかを悩んでいる企業も多いでしょう。基本的には、契約社員に退職金を支払う必要はありません。

 

退職金についても、正社員などの正規雇用者とは大きく異なる部分です。過去には、契約社員に対して退職金を支払わないのは不当であるとの裁判が起こされたともありました。

 

裁判の結果では、有期雇用契約について退職金に関する規定を設けないことに不合理ではないとしています。その一方で、事例に応じて柔軟に対応すべきとの見方もされていました。

 

そして2020年4月からは派遣社員を対象とし、給与の6%を退職金として支給が開始されることとなりました。契約社員に関する変更はとくにされていないため、有期雇用である契約社員には退職金を支払う必要がないとの見方が強いです。

 

しかし、有期雇用契約を締結している契約社員であっても、中途退職をせずに契約期間を満了すれば、満了金が支払われるのが一般的です。

 

つまり、契約社員が中途退職をすれば、退職金も支払われず、満了金も受け取れません。その一方で、期間を満了すれば満了金が支払われるわけです。

 

次に、契約社員が退職をしたあとに受け取れる可能性のある、2つのお金についてお伝えしていこうともいます。

 

契約期間が満了していれば“満了金”

契約社員であっても、契約期間の満了による退職であれば、満了金が支払われます。

 

満了金は、「定められた期間について勤め上げてくれてありがとう」といった意味合いが含まれています。そのため、通常の企業等で支給する退職金とは少し異なり、ボーナス的な役割を担っています。

 

満了金は、ボーナス的な役割を担っている部分であるため、絶対に支払わなければいけないなどの規定はありません。あくまでも企業側が、労いの気持ち等で支給すべきです。

ただ、契約当初の契約書等に記載がある場合には、しっかりと満了金を支払うべきでしょう。もしも契約書に記載があるのにも関わらず、満了金を支払わなければトラブルの原因になりかねません。

 

条件を満たせば失業保険も受け取り可能

大前提として契約社員であっても、社会保険や雇用保険への加入義務があることを忘れてはいけません。そのため、契約期間が満了した契約社員や中途退職した契約社員であっても、受給条件を満たせば、失業保険の受給が可能です。

 

契約社員がいくらほどの失業保険が受給できるかどうかは、勤続年数や受け取っていた給与等によっても大きく異なります。そして、普通の正社員等などの正規雇用者と契約社員が大きく異なる部分は、“給付制限”についてです。

 

通常、正社員等の雇用期間に定めがない人が退職をした場合には、給付制限があります。自己都合退職の場合などは、3か月間(待機期間)の間失業保険の受給ができません。

 

一方で契約社員の方は、給付制限がなく失業保険の受給が可能であるため、契約期間満了後もただちに失業保険が受給できます。ただし、契約途中で退職をした場合には、有期雇用の自己都合退職と同じ扱いになり、給付制限が発生します。

 

まとめ

今回は、契約社員が退職をする場合には注意が必要である。ということについてお伝えしてきました。

 

契約社員は有期契約であるからこそ、退職に対する自由度がとても低いです。ただ、契約社員の退職は“やむを得ない事由”のもとに可能です。

 

契約社員であることを理由に無理に引き止めてはいけません。場合によっては損害賠償請求が可能ですが、会社としてのイメージを著しく下げる可能性がありますので、慎重に検討してください。

 

契約社員としての契約は、法的拘束力が強いということを念頭におきつつも、“やむを得ない事由”についてはしっかりと意識しておきましょう。

 

 

本件を始めとした労務トラブルは、企業経営に大きく影響しかねない重要な問題です。もちろん裁判になってからの対応も可能ですが、当事務所としては裁判を起こさない「予防」が最重要だと考えております。

 

労務関連で少しでもトラブルがある企業様、不安のある企業様は、まずは当事務所までご相談下さい。訴訟対応はもちろん、訴訟前の対応や訴訟を起こさないための体制づくりのサポートをいたします。

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…

 

サンカラ

サンカラ