コロナによる経営状況の悪化が原因でも簡単には解雇できない!企業に求められる条件とは?
厚生労働省の発表(2020年8月14日時点)によると新型コロナウイルス感染症に関連する解雇や雇い止めは見込みを含めて4万5,650人に上ります。業種別では製造業が最多で、その他、宿泊業、小売業、飲食業、従業員派遣業が多くの割合を占めています。
コロナ禍による売上減少により、従業員を解雇するとの判断をする企業が多いですが、いくらコロナ禍といえども、従業員を自由に解雇することはできず、解雇のためには「正当事由(客観的合理的理由と社会的相当性)」が必要です。
そこで、本稿では「コロナ禍での整理解雇が、どのような場合に認められるのか」について解説します。
目次
一時的な売上減少程度の理由で”整理解雇”はできない
コロナの影響により一時的に売上が大きく減少し、従業員の整理解雇を行おうとする企業は多いですが、簡単には認められません。直近の裁判例を一つご紹介します。
新型コロナが原因で一時的に客がいなくなった
仕事が少なくなって売上が減った
”程度の理由”では、整理解雇することはできない
ということです。
経営状況が悪化した場合に行う解雇や雇止めであっても、その判断や手順を誤れば紛争に発展するリスクをはらんでいます。
整理解雇の正当性を判断する4つのポイント
では、整理解雇を行う場合どのような判断基準で、その正当性が決まるのでしょうか。
以下の4つの要件(要素)で正当性が判断されます。
- 人員削減の必要性
- 解雇を回避するための努力が尽くされているか
- 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であるか
- 事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしている等の適正な手続きがとられているか
それぞれ詳しく解説していきます。
人員削減の必要性
人員削減の必要性とは、
- コロナ感染拡大防止のため大幅に営業時間を縮小、それにより売上げが減少
- そのため、店舗、工場を閉鎖したり、人件費を削減しなければならなくなった
などの事情が発生している状況です。
この点は、ある程度会社の経営判断の問題ですので、昨今のコロナウイルス感染状況等に照らせば裁判所が厳格にその必要性を判断するとは考えにくいと思います。
もっとも、新型コロナウイルスの影響により少なからず売上が減少したとしても、赤字にまで至っていないような場合には、人員削減の必要性が否定される可能性があります。
そのため、今後のことも考えて「今のうちに人員削減したい」などの理由で解雇に踏み切るのはかなりリスクが高いといえるでしょう。
解雇を回避するための努力が尽くされている
解雇は、従業員に対して与える影響が極めて強いことから「最終手段」にする必要があります。
つまり、その最終手段に出る前に「やれることを全部やっておく」必要があるのです。
希望退職者の募集
他の雇用調整手段の検討
新規採用の停止
残業抑制や賃金カット
配転の検討
雇用調整助成金の利用・検討の有無
役員報酬の削減
上記の手段を全て実施しなければならないというものではなく、具体的な事情の中で、解雇回避のためにどのような手段を検討したかが非常に重要になります。
特に、新型コロナウイルスを理由とする整理解雇の場合には、雇用調整助成金等でも人件費を補填できない程度に業績が悪化したことが必要になります(助成金で人件費がまかなえるのにも関わらず、制度を使わずに解雇を行おうとすることは「やれることをやっていない」と判断されるでしょう。)。
冒頭の裁判例でも、報道によると、裁判所は
助成金を申請すれば運転手を休ませた際に支払う休業手当の大半が補填(ほてん)できた
と指摘しているようなので、この点の事情が重要視されているのだと考えられます。
解雇される者の選定基準及び選定が合理的である
解雇の対象者が「企業側により恣意的に選定される」のは許されません。合理的な人選の基準に基づかなければなりません。
一つの判断基準例として、勤続年数、扶養家族の有無、職種、勤務地、業績などが挙げられますが、性別や国籍、年齢、障害の有無や性的指向・性自認に関する観点のみに基づいて選定することは許されません。
派遣従業員やパート・有期雇用従業員等の非正規雇用従業員を正社員より先に解雇してよいかという問題がありますが、非正規雇用従業員だからといって一律に整理解雇が適法となるわけではないので、慎重に検討しなければなりません。
手続きの妥当性
解雇の必要性や内容・補償内容等について対象者の納得を得る説明・協議の有無などが考慮されます。これらは、工場閉鎖・会社解散の場面においても同様で、解雇が無効とされる可能性はあります。
なお、これらの4つの判断要素については、どれか一つでも欠けたら即座に解雇が無効というものではなく、それらの事情を総合的に判断することになります。
できる限り退職により従業員に辞めてもらう
以上のとおり、整理解雇にはかなり高いハードルがあるので、事後的な紛争を防止するために、出来る限り従業員の自主的な退職を促すことが適当であると言えます。
もっとも、形式的には退職といっても実質的に解雇と認められるケースもあるので、対応には十分慎重になる必要があります。
解雇を匂わせての退職勧奨はNG
「解雇だと〇〇の不利益がある」等と解雇による不利益を匂わせつつ、従業員に選択肢を与えず自発的に退職届を出させる形をとって、解雇をせず退職をさせることがあります。
企業の状況を正直に説明し、従業員の納得を得るようにしてください。なお、企業が説明する必要があるのは、例えば、売上高、原価、人件費、営業利益、今野後の見通し等です。
執拗な退職勧奨はNG
従業員が退職を拒否しているにもかかわらず、何日も繰り返し退職勧奨をし、精神的に追い詰められた従業員が最終的に退職に合意するケースです。
退職は、あくまでも従業員の自主的な意思によるものですので、企業において執拗に退職勧奨をし、退職させないように注意してください。(コロナ禍ですので、従業員を退職させたいとの企業側の事情は非常に理解できます)
金銭面の調整
退職に伴い、退職金制度が設けられている企業では、規定に基づく退職金の金額を算出します。この点、あくまでも従業員にやむなく退職してもらうので、退職金規定により算出された金額に一定の上乗せをすることも検討されるのがよろしいかと考えられます。
退職する従業員としては、新型コロナウイルスの問題が続いている限り、再就職が困難な可能性がありますので、金銭面の条件は従業員が強く意識するポイントですし、仮にこの点について企業で不適当な対応をとると、事後的に「退職を迫られた」と言われかねず、裁判等により不要な費用・時間が発生しかねません。
離職票について
退職に伴い離職票を発行する場合には、「自己都合」ではなく、必ず「会社都合」とすることを検討する必要があります。
自己都合退職としてしまうと、失業給付金の支給開始日や支給日数等に違いが出てきます。
まとめ
この記事では、直近の裁判例を踏まえて、コロナ禍での整理解雇について解説してきました。
従業員に退職を求める場合の進め方、やむなく整理解雇を実施する場合の手続等については、企業毎の事情を踏まえて慎重に進める必要があります。
ぜひ一度労務に関する法律知識の豊富な弁護士にご相談ください。