著作権にはどのような種類があるのか 著作人格権について(著作権法解説第3回)
1. はじめに
著作者の権利は、下図のように財産的性質を有する著作財産権と人格的性質を有する著作者人格権とに大別されます。そのうち、前々回と前回のコラムでは「著作財産権」の内容について具体的に解説してきました。そして、今回のテーマは人格的性質を有する「著作者人格権」について解説していきます。
2. 著作者人格権とは
著作者人格権とは、著作者の人格的・精神的利益を保護する権利の総称を言います。著作権法上は、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種類に加え、第4の著作者人格権として「名誉声望保持権」が規定されています。
また、著作者人格権はあくまでも著作者本人の思い入れやこだわりを保護するためのものであることから、財産的利益の保護を目的とする著作財産権とは異なり、第三者に譲渡したり相続したりすることはできません(59条)。
したがって、ある著作物に係る著作財産権が著作者から第三者に譲渡されても、著作者人格権はそのまま著作者の元に残るため、著作財産権を譲り受けた第三者ですら、著作者の保有する著作者人格権を侵害しないように気をつけなければいけないのです。
それでは、具体的にはどのようなことについて気をつけなければいけないのでしょうか。著作者人格権の内容についてそれぞれ見ていきましょう。
(1)公表権(18条1項)
まずは、トップバッターとして「公表権」の説明をします。
公表権は、「未発表の著作物について、それを公表するか否か、公表する場合はいつ・どのように公表するかを決定することができる権利」を言います。
一度公表された著作物には公表権は及びません(18条1項前段)。ただし、既に公表された著作物であっても、著作者の同意を得ずに公表されたものについては、例外的に未公表扱いするものとしています(18条1項かっこ書)。
また、ある著作物を元に創作した二次的著作物においては、その元となる著作物(原著作物)が公表されていない場合に、二次的著作物を公表すると原著作物の公表権の侵害となります(18条1項後段)。すなわち、例えば未発表の小説を原作として制作されたドラマを放送すると原作者である小説家の公表権の侵害となります。
では、ここで実際に裁判となった事例について見ていきましょう。
【東京地判 H30.12.11「歌手A未発表曲放送事件」】
歌手Aが自身の未発表曲について、感想を聞く目的で芸能リポーターIに録音データを提供したところ、テレビ局Yが製作する情報番組に出演する芸能リポーターIとテレビ局Yは、それぞれ歌手Aに無断で未発表曲の録音データの一部を再生し、その番組を放送したため、「IとYは共同して Aの公表権を侵害したと言える。」と裁判所は認定しました。 |
なお、公表権は、「著作者が著作物を公表する場合にその時期や方法についても決定することのできる権利」なので、本事例のように第三者が著作者に無断で未発表の著作物を公表した場合に限らず、公表を許諾された場合であっても、著作者の要求を無視した時期や方法で公表したときは公表権の侵害となります。
ただし、これにも例外が存在します。その一例が未公表の著作物の著作財産権を譲渡した場合です。そのような場合は、著作物を公表するのに著作者が同意したものと推定される(18条2項)ため、譲受人が勝手に公表したり、著作者の希望に沿わない形で公表したとしても著作者は文句を言うことはできません。
(2)氏名表示権(19条1項)
つぎに、「氏名表示権」について説明します。
氏名表示権は、「著作者が著作物を公表する時に、著作者名を表示するか否か、表示するとすれば実名(本名)か変名(ペンネーム等)かを決定することができる権利」を言います。
したがって、例えば著作者の実名を表示したとしても、著作者が匿名又はペンネームによる公表を望んでいた場合には、実名は著作者の選択した著作者名ではないため、氏名表示権を侵害することになります。
しかしながら、氏名表示権についても細かい例外規定が定められています。例えば、その作品について既に特定の著作者名が表示されているような場合は、著作者から特に何も言われなければその著作者名の表示をすれば氏名表示権に当たらないことになっています(19条2項)。
さらに、次の要件①②の両方を満たす場合は著作者の氏名表示を省略することもできます(19条3項)。
①著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれのないこと
②公正な慣行に反しないこと
例えば、スーパーやカフェ等の店内でBGMを流す場合や、テレビドラマ中に流れるBGMがそれに該当します。すなわち、これらの音楽を流すのに、アナウンスや字幕等により作詞・作曲家名の表示をしなかったとしても、氏名表示権の侵害とはなりません。
(3)同一性保持権(20条1項)
つぎに、著作者人格権のうち最も実務上トラブルとなる事例の多い「同一性保持権」について説明します。
同一性保持権は、「著作物の内容や題号について意に反して改変されない権利」を言います。
著作物だけでなく、一般に著作物性が認められないケースの多い“題号”についても、改変すると同一性保持権の侵害となる点はこの権利の特徴的な点の一つです。これは、題号についても著作物と一体をなすものであるため区別するべきではないという理由からになります。
また、同一性保持権は著作者の意に沿わない改変をされた場合に受ける精神的苦痛から救済する趣旨で設けられた規定であることから、著作者の“主観的な意図(こだわりや愛着等)”に反する改変に対して及ぶものとされています。そのため、もし仮に表現を良い方向に変えたとしても、その変えたこと(改変)が著作者の主観的意図に反するものであれば、それは同一性保持権の侵害となり得ます。
なお、ここでいう「改変」行為については「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為」をいうものと解されています(最判H10.7.17「『諸君!』事件)。
では、ここでまた実際に起きた裁判例を見ていきたいと思います。
【知財高判 H24.4.25「マンモスCT画像3DCG事件」】
ロシアで発見された冷凍マンモスの頭部CT写真を基にして大学教授である原告(非控訴人)が作成した3DCG画像について、被告出版社(控訴人)が被告出版社の書籍に掲載する際に画像の色彩及び色調の明暗を変更した行為について、裁判所は「本件各画像における色彩は、本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素の一つ であり、カラー画像である本件各画像を白黒画像に改変することは、著作者の許諾が認められない以上、著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるものというべきである。」と判断しました。 |
このように、著作者の許諾なしに色の変更(濃淡の度合いの変更を含む)をする行為は、原則として“著作者の意に反する改変”に該当するため留意しましょう。
ただし、同一性保持権についても複数の例外規定が設けられています(20条2項)。次のいずれかに該当する場合は、例外的に改変が許されるため、同一性保持権の侵害とはなりません。
①教科書等に著作物を掲載する場合の教育上やむを得ない用字等の変更(1号)
例えば、小学校低学年用の教科書に小説を掲載する際に、漢字表記からひらがな表記に直すことが該当します。
②建築物の増築、改築、修繕又は模様替えに伴う改変(2号)
例えば、老朽化した建築物を安全性の観点から修繕する目的で改変することが該当します。
③プログラム著作物の実行上の改変(3号)
例えば、コンピューター・プログラムのデバッグやバージョンアップのために必要な改変をすることが該当します。
④著作物の性質ならびにその利用の目的及び態様に照らしやむを得えないと認められる改変(4号)
例えば、音痴であるがために曲のメロディーを正確に再現できない場合が該当します。
なお、ここで言う“やむを得ないと認められる改変”の意義については、「利用の目的及び態様において、著作権者の同意を得ない改変を必要とする要請がこれらの法定された例外的場合と同程度に存在することが必要であると解するのが相当である」と限定解釈されています(東京高判 H3.12.19「法政大学懸賞論文事件」)。
そのため、上記のマンモスCT画像3DCG事件においても、原告の許諾なしに画像を複製して、被告書籍に掲載している時点で、やむを得ないと認められる改変には該当しないと判断されています。
(4)名誉声望保持権(113条7項)
最後に、第4の著作者人格権と指摘されることもある「名誉声望保持権」について説明します。
名誉声望保持権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権が及ばない行為であっても、「著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為については、著作者人格権を侵害する行為とみなし、禁止することのできる権利」です。
そのため、例えば著作物を改変しないでそのまま利用した場合であっても、名誉声望保持権は適用されます。
なお、ここでいう「名誉・声望」とは、単なる主観的な名誉感情ではなく、客観的な名誉・声望、すなわち“社会的な評価”を指します。
したがって、例えば芸術性の高いクラシック音楽(著作者が生存している場合に限る)をアダルトビデオや性風俗店のBGMとして使うと、名誉声望保持権の侵害となる可能性があります。
3. さいごに
本コラムでは著作者人格権として「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」「名誉声望保持権」の4つの権利について解説しました。著作物を利用する際には、著作財産権だけでなく、著作者人格権にも配慮しないとトラブルになることがあります。コンテンツ業界では著作者人格権によるトラブルを回避するために、「著作権の譲渡時に著作者人格権を行使しない旨を契約条項に入れて締結する」というケースも多くみられます(いわゆる「著作者人格権の不行使特約」)。コンテンツに関係する契約を締結する際には著作者人格権の不行使特約の有無をしっかり見ておくことをお勧めします。