たきざわ法律事務所

【2024】免税事業者に消費税を払わないのは違法?独占禁止法・下請法を踏まえた対応方法

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2023年10月、インボイス制度が施行されました。これにより、納税すべき消費税を計算するにあたって、インボイスを発行できない免税事業者以外に支払った消費税を控除できないこととなりました(一定期間の経過措置あり)。そのため、課税事業者としては、インボイスを発行できない免税事業者に対して値下げなどの対応を求めたいと考えることもあるでしょう。

 

しかし、その際は下請法などに違反しないよう注意しなければなりません。そこで今回は、下請法などの規定に照らし、免税事業者への対応ポイントを弁護士がくわしく解説します。

 

【取引相手の態様別】インボイス制度の影響

 

そもそも、インボイス制度の開始により具体的にどのような影響が生じるのでしょうか?はじめに、取引相手の態様別にインボイス制度による影響を解説します。

 

なお、消費税の「10%」は厳密には「消費税率7.8%、地方消費税率2.2%」であるほか、軽減税率が適用されて8%となる場合もあります。しかし、この記事では解説を簡略化するため、「消費税は10%」との前提で解説を進めます。

 

取引相手がインボイス登録をしている場合

 

自社が納付する消費税は、非常に簡略化して解説すると、「取引によって自社が受け取った消費税-取引によって自社が支払った消費税」で計算されます。

 

たとえば、ある企業の1年間の売上が税込3,300万円であり、仕入れや経費などで支払った金額が税込1,100万円である場合、納めるべき消費税は200万円(=300万円-100万円)ということです(厳密には非課税取引などが含まれている可能性もありこのような単純計算はできませんが、ここではすべて課税取引であると仮定しています)。この、支払った消費税である100万円を差し引くことを、「仕入税額控除」といいます。

 

消費税を支払う企業としては、消費税の計算上、この仕入税額控除が「多ければ多いほど嬉しい」こととなります。仕入税額控除の対象額が大きければ大きいほど、自社が納めるべき消費税額が少なくなるためです。

 

インボイス制度が開始するまでは、この仕入税額控除の対象とできるかどうかに、相手方が免税事業者であるか否かは関係ありませんでした。しかし、インボイス制度の開始後は、仕入税額控除の対象とできるものが「適格請求書(=インボイス)」に限定されることとなっています。この適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者(=インボイス発行事業者)」のみです。

 

インボイス発行事業者が発行した適格請求書は引き続き仕入税額控除の対象となるため、取引相手(仕入先や経費の支払い先)がインボイス登録事業者である場合には、自社の納税額に特に変化はありません。

 

取引相手がインボイス登録をしていない場合

 

適格請求書を発行することができるのは、インボイス発行事業者として登録を受けた事業者のみです。そして、この登録を受けるには消費税の課税事業者である必要があり、免税事業者のままでは登録することができません。すなわち、免税事業者のままでは適格請求書を発行できないということです。

 

そのため、仕入先や経費の支払い先がインボイス登録をしていない場合、その取引相手に支払った消費税は仕入税額控除の対象とすることができません。つまり、取引先が免税事業者である場合、インボイス制度の開始前後で自社が納付すべき消費税額が増えることとなります。ただし、2029年9月までは一定の経過措置が設けられています。

 

(参考)自社が免税事業者である場合

 

自社が消費税の免税事業者である場合は、取引相手がインボイス発行事業者であるか否かを気にする必要はありません。免税事業者はそもそも消費税の納付義務を免除されており、仕入税額控除を考慮する必要はないためです。

 

(参考)自社が簡易課税事業者である場合

 

自社が消費税の簡易課税事業者である場合は、取引相手がインボイス発行事業者であるか否かを気にする必要はありません。

 

簡易課税とは、実際に支払った仕入額などに関わらず、売上に係る消費税額に一定割合を乗じて仕入税額控除の額を計算する方法です。実際の仕入額などを積み上げて仕入税額控除を計算するわけではないため、取引相手がインボイス発行事業者であるか否かによって自社が納付する消費税額は変動しません。

 

なお、基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税務署に届け出ることで簡易課税を選択できます。

 

取引相手が免税事業者である場合の選択肢

 

取引相手が免税事業者である場合、対応にはどのような選択肢があるのでしょうか?ここではまず下請法などを考慮せず、考えられる主な対応を紹介します。なお、以下は自社が消費税の課税事業者(簡易課税ではない)であることを前提に解説を進めます。

 

相手方が提示した取引条件をそのまま受け入れる

 

1つ目の選択肢は、相手方が提示した取引条件をそのまま受け入れることです。インボイス発行事業者への転換を求めず、消費税分の値下げなども要求しません。

 

取引相手にインボイス登録を要請する

 

2つ目の選択肢は、取引相手にインボイス登録(つまり、課税事業者への転換)を要請することです。取引先がインボイス登録をすれば、これまで通りに仕入税額控除の対象とすることができるためです。

 

相手方に消費税分の値下げを要請する

 

3つ目は、取引相手に消費税分の値下げを要請することです。仕入税額控除の対象とできない代わりに値下げをしてもらうことで、自社の手元に残る金額を減らさずに済むためです。

 

インボイス登録をしないことを理由に取引を打ち切る

 

4つ目は、取引相手がインボイス登録をしないことを理由に、取引を打ち切ることです。免税事業者との取引を打ち切り課税事業者との取引に切り換えることで、支払った金額をこれまで通り仕入税額控除の対象とできるためです。

免税事業者への対応で注意すべき独占禁止法・下請法の概要

 

インボイス制度の施行に伴い免税事業者に対して何らかの対応を求めようとする際は、独占禁止法と下請法に抵触しないよう特に注意しなければなりません。ここでは、独占禁止法と下請法の概要について解説します。

 

独占禁止法とは

 

独占禁止法は、正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。独占禁止法の目的は、一般消費者の利益の確保と、国民経済の民主的で健全な発達の促進です(独占禁止法1条)。

 

この目的を達成するため、私的独占や不当な取引制限、不公正な取引方法を禁止する規定など、公正かつ自由な競争を促進するための規定を設けています。

 

独占禁止法にはさまざまな規定が設けられているものの、インボイス対応で特に注意が必要なのは、優越的地位の濫用に関する規定です。取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用にあたる可能性があります。

 

インボイス制度への対応についても、自己の優越的地位を濫用して取引先に一方的な値下げや課税事業者への転換を求めたり、これに従わなかったことを理由に一方的に取引を打ち切ったりした場合、独占禁止法違反となる可能性があります。

 

下請法とは

 

下請法の正式名称は、「下請代金支払遅延等防止法」です。下請法の目的は、下請事業者の利益を保護し、国民経済の健全な発達に寄与することです(下請法1条)。この目的を達成するため、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まる規定などが設けられています。

 

下請会社がインボイス登録事業者でないことを理由に一方的に消費税相当額を減額する場合や、課税事業者転換を要請したにもかかわらず下請会社からの価格改定交渉に応じない場合などには、下請法に違反する可能性があります。

 

免税事業者への対応が独占禁止法や下請法に違反するケース

 

免税事業者へのインボイス対応が独占禁止法や下請法に違反するのは、どのようなケースなのでしょうか?ここでは、独占禁止法や下請法に違反する可能性が高い対応を紹介します。インボイス対応において独占禁止法などへの違反を避けたい場合や、取引先からインボイス対応を強要されてお困りの際などには、弁護士へご相談ください。

 

参照元:

 

最適解を提案します

 

 

最適解を提案します

 

一方的に消費税分の値下げを要請する場合

 

1つ目は、一方的に消費税分の値下げを要請する場合です。

 

たとえば、「報酬110万円」で契約が成立していたものの、その後取引先がインボイス登録事業者でないことが判明したため、「免税事業者であれば100万円しか払えません」と通告する行為などがこれに該当します。

 

課税事業者への転換を求めたものの価格交渉に応じない場合

 

2つ目は、課税事業者への転換を求めたものの、その後の価格交渉に応じない場合です。

 

今後の取引を見越して取引先に課税事業者転換を求めたものの、取引先からの単価交渉に応じず従来どおりの価格での取引を強要する場合などがこれに該当します。

 

一方的に取引を打ち切る場合

 

3つ目は、一方的に取引を打ち切る場合です。

 

一方的に「インボイス事業者にならなければ、消費税分はお支払いできません。承諾いただけなければ今後のお取引は考えさせていただきます」などと通告する行為はこれに該当し、独占禁止法などに違反する可能性があります。

 

下請法や独占禁止法への対応でお困りの際はたきざわ法律事務所へご相談ください

 

下請法や独占禁止法への対応でお困りの際は、たきざわ法律事務所までご相談ください。最後に、たきざわ法律事務所の主な特長を4つ紹介します。

 

フットワークの軽さがウリである

 

たきざわ法律事務所は、おひとりおひとりのご事情に合わせたフットワークの軽さをウリにしています。「夜間しか相談できない」「すぐに対応してほしい」など、可能な限りご要望にお応えします。

 

医師やクリニックからの相談に特化している

 

たきざわ法律事務所は、医師やクリニックからのご相談を特に強みとしています。そのため、下請法にまつわるご相談のみならず、誹謗中傷トラブルやスタッフトラブル、いわゆるカスハラ対策など幅広い対応が可能です。

 

難しい用語を使わずアドバイスする

 

たきざわ法律事務所は、難しい用語を使わないアドバイスを心がけています。そのため、自社の状況や「今、やるべきこと」の整理ができ、「相談してよかった」とのお声を多くいただいています。

 

ご依頼者様からの満足度が高い

 

たきざわ法律事務所は、ご依頼者様からの高い満足度を誇っています。これは、無理に流れに当てはめるのではなく、個々の状況に応じて最適な解決策を提案しサポートにあたっていることが大きな要因であると自負しています。型に縛られない柔軟な対応を得意としておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。

 

最適解を提案します

 

最適解を提案します

 

まとめ

 

免税事業者に消費税を支払わないことは違法なのか、インボイス制度の施行に伴う対応について解説しました。

 

当面は経過措置があるものの、インボイス制度の施行後は免税事業者への支払いが仕入税額控除の対象から外れることとなりました。自社が課税事業者である場合、免税事業者に消費税分の減額やインボイス発行事業者(課税事業者)への転換を求めたい場合もあるでしょう。

 

しかし、取引先に対して一方的に消費税分の値下げを要請したり課税事業者登録を要請したりすれば、下請法や独占禁止法に違反するおそれがあります。そのため、一方的な要請は行わないよう注意しなければなりません。

 

たきざわ法律事務所は企業法務にも対応しており、下請法や独占禁止法に関するご相談やリーガルサポートも可能です。インボイス制度開始に伴う免税事業者への対応でお困りの事業者様や、取引先からインボイス対応を要請されてお困りの免税事業者様は、たきざわ法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

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