【2023】メタバース上でアバターを販売する際に知っておくべき他者の権利と注意点
メタバース上では、それぞれのユーザーが自分の分身ともいえる「アバター」を介し、他者とコミュニケーションを取ったりイベントを楽しんだりします。メタバースのアバターは自分で制作することができるほか、他者が作成したアバター購入して使用することも可能です。
一方、企業としてはアバターを自社で制作したり、クリエイターに制作を委託したりして販売し、収益を得る道もあります。では、企業がクリエイターに制作を委託したアバターをメタバース上で販売する際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
今回は、メタバース上でのアバター販売にまつわる注意点や理解しておくべき他者の権利について詳しく解説します。
目次
メタバースのアバターとは
メタバース上のアバターとは、メタバース上で動き回るユーザーの分身となるキャラクターです。
メタバースとは、インターネット上に存在する三次元の仮想空間です。個々のユーザーがメタバースにログインすることで、メタバース上を自由に歩き回ったり他のユーザーと交流をしたり、イベントに参加したりすることができます。つまり、現実世界での活動と同じように、仮想空間上で「生活」を送ることができるわけです。
そして、現実世界で街を歩いていると他者の姿が見えたりイベント参加時に他の参加者の姿が見えたりするのと同じように、メタバース上でも他のユーザーの姿が目に入ります。この姿は現実そのままの姿かたちではなく、個々のユーザーが設定したアバターです。
どのようなアバターを使用するのかについて特に頓着しないユーザーも存在する一方で、メタバース上における自己のアイデンティティを表現するためにアバターを活用するユーザーも少なくありません。アバターは必ずしも自己に似せる必要はなく、たとえば男性が女性のアバターを用いたり実世界とは体型や髪型が大きく異なるアバターを使用したりすることもよく行われています。
メタバース上でアバターを販売する方法
メタバースによっては、ユーザーがアバターを販売することも可能です。その主な方法には次の2つが存在します。
自分で制作して販売する
1つ目の方法は、自社でアバターを制作して販売する方法です。社内でクリエイターを雇用している場合には、こちらの方法をとることが多いでしょう。
クリエイターに制作を委託して販売する
もう1つの方法は、外部のクリエイターに制作を委託する方法です。一から制作を任せる場合もあれば、自社商品などとコラボレーションをしたアバターを制作するよう委託する場合などもあるでしょう。
メタバースアバターを制作・販売する際に知っておくべき他人の権利
メタバースのアバターを制作したり販売したりする際には、他者の権利を侵害することのないよう注意しなければなりません。注意すべき主な権利は次のとおりです。
ある行為が他者の権利侵害になるかどうか判断に迷う場合には、販売を開始する前に弁護士へ相談しておくことをおすすめします。
肖像権
肖像権とは、自分の容姿をみだりに撮影されたり、撮影された写真や映像を勝手に公表されたりしない権利です。
写真や映像のみならず、たとえば実在する他者にそっくりであるアバターを公表した場合には、肖像権の侵害にあたる可能性があります。肖像権の対象となるのは芸能人や有名人に限定されるわけではなく、一般人も対象です。
肖像権自体が法令に明記されているわけではなく、肖像権の根拠は憲法第13条の幸福追求権です。肖像権侵害をした場合には、損害賠償請求や差止請求などがなされる可能性があるでしょう。
とはいえ、偶然他者の容貌と似たアバターが生成されたからといって、直ちに肖像権侵害となるわけではありません。また、肖像権侵害に該当するかどうかは、権利侵害の程度が社会通念上受忍すべき限度を超えるかどうかで個々に判断されます。
パブリシティ権
パブリシティ権とは、その肖像や氏名のもつ顧客吸引力から生じる経済的な利益や価値を、排他的に支配する権利です。
たとえば、著名人がCMに出演したり「芸能人の〇〇さんも使っている」などとPRされたりすることで、商品やサービスが売れることもあるでしょう。これこそが、保護されるべきパブリシティ権です。
そのため、たとえば芸能人や著名人を模したアバターを販売した場合には、パブリシティ権の侵害となる可能性が高いでしょう。「その芸能人と似た姿をしているからアバターが売れた」のであれば、それ自体が、パブリシティ権の侵害だということです。
パブリシティ権を侵害した場合には、損害賠償請求や差止請求などがなされる可能性があります。
著作権
著作権とは、著作物を保護するための権利です。
著作権の対象となる著作物は、「思想または感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」とされています。なお、著作権は創作時点で発生する権利であり、保護されるために登録などは必要とされていません。
メタバース上でアバターを制作・販売するにあたっては、著作権の対象範囲が非常に広いことに注意する必要があるでしょう。
たとえば、有名なアーティストが描いた絵画や市販されている漫画本が著作権の対象となることはもちろん、一般人が創作してSNSに投稿しているイラストや一般人が撮影した写真などであっても著作権の対象となり得ます。
そのため、アバターの衣装に漫画のキャラクターや他者の写真、イラストを無断で掲載した場合などには、著作権侵害にあたる可能性が高いでしょう。また、他者が制作したアバターに酷似したアバターや、漫画やアニメのキャラクターなどを模したアバターを作成した場合にも、著作権侵害となり得ます。
著作権を侵害すると損害賠償請求や差止請求の対象となる可能性があるほか、著作権法の規定により10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科に処される可能性があります。また、法人が業務として著作権侵害をした場合には行為者が罰せられるのみならず、法人に対しても3億円以下の罰金が課される可能性があります。
商標権
商標権とは、商標法の規定によって保護される商標の排他的独占権です。商標権は著作権とは異なり、登録を受けることで権利が発生します。
たとえば、他者の商標を模したロゴマークをアバターの衣服に表示して販売をした場合などには、商標権侵害となる可能性があるでしょう。
商標権を侵害すると損害賠償請求や差止請求の対象となる可能性があるほか、商標法の規定により10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科に処される可能性があります。また、著作権侵害の場合と同じく法人が業務として侵害行為をした場合には、法人に対しても3億円以下の罰金が課される可能性があります。
意匠権
意匠権とは、物や建築物などのデザインに対して与えられる独占排他権です。
著作権と似ていますが、著作権が美術などを主な対象としているのに対して、意匠権は工業製品を主な対処としています。また、意匠権の保護を受けるためには登録を受けなければなりません。
衣服や装飾品のデザインは、意匠権で登録されている場合があります。そのため、印象的なデザインの衣服を模した衣装を着用したアバターを販売した場合などには、意匠権の侵害となる可能性があるでしょう。
意匠権を侵害した場合には損害賠償請求や差止請求の対象となる可能性があるほか、意匠法の規定により10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科に処される可能性があります。また、法人が業務として侵害行為をした場合には、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります。
メタバースアバターの制作をクリエイターに委託する際の注意点
メタバースアバターの制作をクリエイターに委託する際には、トラブルを避けるための対策を検討しなければなりません。主に講じるべき対策や委託時の注意点は次のとおりです。
信頼できるクリエイターを選定する
注意点の1つ目は、信頼できるクリエイターをしっかりと選定することです。不誠実なクリエイターを選定してしまうと、著作権や肖像権などに問題のある作品を納品されてしまうかもしれません。
他者の権利侵害に気付かず納品されたアバターを販売してしまえば、権利侵害であるとして差止請求や損害賠償請求などの対象となるほか、企業の信頼が失墜したりSNSなどで「炎上」したりするリスクが生じます。
相互運用性を考慮する
メタバース空間は一つではなく、たとえば「cluster」や「VRChat」、「The Sand box」など多数のプラットフォームが存在します。相互運用性とは、これらの異なるプラットフォームで共通のアバターやアイテムを利用する仕組みです。
ユーザーの利便性で考えればアバターの相互運用ができることが望ましいものの、現状では相互運用に関する課題も多く、発展途上であると言わざるを得ません。これについては、今後共通IDの利用などで統一が図られていくことが期待されます。
クリエイターにアバター開発を依頼する際には相互運用性に関する最新情報に留意しつつ、クリエイターとの間で相互運用性についての考え方をすり合わせておく必要があるでしょう。
著作権の所在について十分にすり合わせる
メタバースアバターの制作をクリエイターへ委託する際には、その作品であるアバターの著作権についてすり合わせをしておかなければなりません。
特に取り決めをしない場合には、アバターの著作権は制作者であるクリエイターに帰属します。その場合には、たとえ発注者やそのアバターを最終的に購入したユーザーであっても、そのアバターを自由に利用することはできません。
たとえば、人気の出たアバターをプリントしたリアルのグッズなどを販売使用する際には、別途制作者の許可を得る必要があります。
契約書を取り交わす
アバターの制作をクリエイターに委託する場合には、必ず契約書を作成しておきましょう。契約書がなければ、著作権など権利の所在があいまいとなりやすいほか、クリエイターが他者の権利を侵害していた場合などトラブルが発生した際に、対応が困難となる可能性があるためです。
他にも、納期や代金などについて正式に取り決めるという観点からも、契約書を取り交わすことをおすすめします。
あらかじめ弁護士へ相談する
クリエイターにアバターの制作を委託する際には、インターネット法務に強い弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士へ相談することであらかじめリスクの洗い出しができるほか、そのケースに合わせて契約書を作り込んでおくことで、無用なトラブルを予防することにもつながるためです。
また、あらかじめ契約内容を十分に検討しておくことで、万が一トラブルが発生した際にも対応がしやすくなるでしょう。
まとめ
メタバース上のアバターにこだわるユーザーは、少なくありません。企業がメタバース上でアバターを販売することで新たな収益源となる可能性があるほか、自社の知名度控除や顧客のファン化などに寄与する効果が期待できるでしょう。
アバターを販売するにあたっては自社で制作することのほか、クリエイターに制作を委託することも可能です。
ただし、アバターの販売にあたっては、著作権や肖像権、意匠権など、他者の権利を侵害しないよう十分に留意しなければなりません。また、クリエイターに制作を委託するにあたっては信頼できるクリエイターを選定したうえできちんと契約書を取り交わすなど、トラブル予防に務めることが必要です。
たきざわ法律事務所では、インターネット法務に力を入れています。メタバース上アバターの販売や制作委託をご検討の際や、アバターに関してトラブルが発生している場合などには、たきざわ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。