知的財産権とは?
知的財産権とは?
まずはじめに、皆さんは「財産」と聞いて何を思い浮かべますか?おそらく、その多くは土地・建物・車・宝石などの形をもつもの(有体物)、すなわち「有体財産」ではないでしょうか。
これら有体財産を所有する権利(所有権)は、民法などの法律によって保護され、盗まれたり壊されたりすることを防ぐことができます。
これに対し、「知的財産」は、「知的創造活動により生み出された経済的に価値のある情報をいい、それ自体が形をもたないもの(無体物)」をいいます。(有体財産と対比して「無体財産」と呼ばれることもあります。)
そして、この知的財産を一定期間保護する権利が「知的財産権」です。ここで、一つ例を挙げてみましょう。
ある日、あなたが通勤途中の駅で仕事用に新聞を購入したとします。そうすると、あなたはその新聞という有体物について所有権を得たことになります。したがって、あなたはその新聞を自由に読むことができ、読み終わった新聞については廃棄をすることもできます。
しかしながら、新聞紙面に掲載されている記事や写真といった無体物までもがあなたのものになったわけではありません。それは、これら無体物が「知的財産」と呼ばれるものであり、新聞社がそれに関する権利をもっているからです。
ですから、読み終わった新聞記事について、それを切抜き、勝手にコピーして社内資料などに活用してはいけません 。これをする場合には、あらかじめ権利者である新聞社に連絡して了解を得たり、利用料を支払ったりしなければならないのです。
図1 所有権と無体財産権(著作権)
なお、この例でいう「無断で第三者に新聞記事をコピーさせない権利」もまた知的財産権の一種の「著作権」と呼ばれる権利になります。
知的財産権制度の意義
ここまで、「知的財産権」という言葉がもつ意味について解説しましたが、ではなぜその権利化のために法制度が必要になるのでしょうか?
それは、知的財産の性質に関係しています。
知的財産は、そのアイデアや創作物を見聞きした他人から容易にコピー・模倣されやすいという性質をもっています。
では、仮に知的財産を模倣・コピーすることを規制する法律のない世界ではどうなるでしょうか?以下の例を見てみましょう。
一方、このCDがヒットすると見込んだBさんは、CDを1枚購入し、そのCDに収録された歌唱を第三者に販売する目的で大量に空のCDにコピーしました。
Bさんは実際のCDの販売価格よりもかなり安値でコピーCDを販売したため、BさんのコピーCDはたくさん売れ、AさんのオリジナルCDアルバムの売上は伸びませんでした。
しかしながら、この世界ではBさんのような行為を規制する法律がないので、AさんはBさんにコピーCDの販売停止を求めることはできず、泣き寝入りするしかありませんでした。
図2 知的財産のコピー行為
このように、どんなに多くの時間や金銭を費やして知的財産を完成させたとしても、いとも簡単にコピー・模倣されてしまうのでは、せっかくの努力も水の泡です。そうなると、創作意欲を失ってしまい、文化や産業の発展を停滞させてしまうことになりかねません。
そこで、新しいアイデアや創作物などの知的財産を権利として一定期間保護する知的財産権制度が考え出されたのです。
知的財産及び知的財産法の種類
知的財産権制度の重要性について、お分かりいただけたところで、次に、その中身についてみていきたいと思います。
実は、知的財産と一口に言っても皆さんのよく聞くものからあまり馴染みのないものまで様々な種類のものがあり 、 それぞれ異なった性質をもっています。そのため、それぞれの性質に合わせた異なった法律の下で保護が図られています。
その中でも、代表的なものとして、図3に示す以下の6種類のものが挙げられます(語句の説明参照)。
図3 知的財産及び知的財産法の種類
語句の説明
特許法:自然法則を利用した、新規かつ高度で産業上利用可能な発明を保護する法律
実用新案法:物品の形状、構造、組合せに関する考案を保護する法律
意匠法:独創的で美感を有する物品の形状、模様、色彩などのデザイン(意匠)を保護する法律
商標法:商品・サービスを区別するために使用するマーク(商標)を保護する法律
著作権法:美術、音楽、文芸、学術など作者の思想や感情が表現された著作物を保護する法律
不正競争防止法:営業秘密の盗用などの不正行為を禁止する法律
では、ここで私たちの身近にある知的財産について、今や生活必需品となったスマートフォンを具体例に見ていきましょう(図4)。
図4 スマートフォンの知的財産
このように、スマートフォン一つを取り上げただけでも、特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・不正競争といった様々な知的財産権が絡み合った知的財産のかたまりであることがお分かりいただけると思います。
知的財産法の分類
知的財産とその対応する法律の種類までもお分かりいただけたところで、最後に、知的財産法の分類を説明することで、その法的枠組みについて理解していただきたいと思います。
的財産法はその法律をどう位置づけるかによって様々な分類方法があります。
その代表的なものとして、どのような「目的」を有する法律であるかという観点から、分類する方法があります。
この方法により分類すると、特許法・実用新案法・意匠法・商標法といった「産業の発達」を目的とする「産業財産権法」と、「文化の発展」を目的とする「著作権法」という2つのグループの法律に分類することができます。
ここで、「産業財産権法」とは知的財産権の中でも、特に産業政策的な諸権利について取り扱う法律の総称をいい、この法律で規定される産業財産権は、その目的から経済産業省の一部門である特許庁によって所管されています。一方、「著作権法」は文化的側面から著作物に関する著作者等の権利について取り扱う法律をいい、この法律で規定される著作権は、その目的から文部科学省の一部門である文化庁によって所管されています。
また、産業財産権法では権利を発生させるために、特許庁へ出願手続きをし、登録されることを要件とするのに対し、著作権法では、登録を行う必要なく、創作時に自動的に権利が発生する(無方式主義)点で大きく異なります。
つまり、今書いているこのコラムについても、なんら手続きをすることなく、著作権が発するということになります。
図5 法目的による知的財産法の分類
まとめ
今回のコラムでは、知的財産権全般について解説してみました。知的財産権と一言で言っても、様々な権利があり、保護対象によって法律も異なります(場合によっては、複数の法律で重畳的に保護されることもあります。)。
皆さまの日々のビジネスやプライベートでの活動でも多くの知的財産権が発生し、利用しているはずですが、一方で知的財産権の中身を理解していないが故にトラブルになるケースも多く発生しています。知的財産権に関係するトラブルは専門的な知識を必要とするケースも多く、トラブルの解決や未然防止のためには弁護士等の専門家の力が欠かせません。
たきざわ法律事務所では、弊所をご利用いただいているお客様の申請の際にお力になれるよう、日々最新の情報を収集しメールマガジン等でもご共有させていただいております。
次回以降は、知的財産権の中でも著作権についてフォーカスをあてて説明していこうと思います。