【2023】不当解雇で慰謝料は請求できる?相場や対応方法を弁護士がわかりやすく解説
不当解雇とは、労働契約法などの法令や就業規則の規定などに違反をしてなされた解雇です。不当解雇であると判断された場合にはその解雇が無効となるほか、慰謝料を請求できる可能性もあります。
では、不当解雇で認められる慰謝料の相場は、どの程度なのでしょうか?また、不当解雇で慰謝料請求をする際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
今回は、不当解雇の慰謝料相場や不当解雇をされた場合の対応ポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
不当解雇とは
日本においては労働者の地位が非常に強く守られており、会社側の一方的な都合で、自由に解雇することはできません。解雇が有効となるための要件や解雇が無効となる事由などについては、労働契約法などの法律で厳しく定められています。
たとえば、次のような解雇は無効です(参照元:労働契約の終了に関するルール(厚生労働省))。
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇
業務上災害のため療養中の期間と、その後の30日間の解雇
産前産後の休業期間と、その後の30日間の解雇
労働者の性別を理由とする解雇
女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
労働者が育児・介護休業などを申し出たことなどを理由とする解雇
労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
有効に解雇をするためには、これらに当てはまらないことに加え、従業員側に非があることを理由とした懲戒解雇の場合には、就業規則や労働契約書に根拠があることも必要です。
また、いくら就業規則どおりの懲戒解雇であったとしても、従業員側の非に対して懲戒解雇処分が重過ぎると判断されれば、これも無効となる可能性が高いでしょう。
このような規定に違反をしてなされた解雇(本来は解雇できないはずであるのにされてしまった解雇)のことを「不当解雇」といいます。
解雇予告手当と不当解雇の関係性
労働基準法には、企業が従業員の解雇をしようとする際には、遅くとも解雇日の30日前までに解雇の予告をしなければならないとの規定があります。また、30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払うことで、解雇予告に代えることも可能です。
では、この規定どおり解雇日の30日前までに解雇予告をしたり所定の解雇予告手当を支払ったりすれば、解雇の有効性が担保されるのでしょうか。
結論をお伝えすれば、解雇予告手当を払ったり解雇日30日以上前に解雇予告をしたりしたからといって、解雇の有効性が担保されるわけではありません。
解雇予告の問題と、不当解雇であるかどうかの問題は別問題です。
解雇予告手当を受け取ってしまったからといって、不当解雇による慰謝料請求などができなくなるわけではありませんので、諦めずにご相談ください。
不当解雇による慰謝料の相場
不当解雇をされた場合には、会社に対して慰謝料請求をすることができるのでしょうか?また、認められる慰謝料の相場はどの程度となるでしょうか?ここでは、不当解雇による慰謝料の相場について解説していきましょう。
不当解雇で慰謝料を請求できる?
まず、不当解雇をされたからといって、必ずしも会社への慰謝料請求が認められるわけではありません。不当解雇と認定されたとしても、いわゆるバックペイ分の賃金支給に留まるケースが多いでしょう。
バックペイとは、解雇されなければ支給されたであろう賃金の支払いを受けることであり、逸失利益に相当するものです。
バックペイ以上に慰謝料請求が認められるためには、会社側に「不法行為」があり、これを立証できることが必要です。たとえば、従業員を辞めさせるために会社側ぐるみでパワハラ行為やセクハラ行為などを行って休職に追い込み、休職を理由に解雇された場合において、これが立証できれば慰謝料請求が認められる可能性が高いでしょう。
ただし、慰謝料請求が認められるかどうかを個人で判断したり、不法行為の証拠を集めたりすることは容易ではありません。そのため、慰謝料請求をご検討の際には、弁護士へ相談することをおすすめします。
不当解雇の慰謝料相場
不当解雇でバックペイのほかに慰謝料請求が認められる場合、その相場はどの程度なのでしょうか?
不当解雇と認定された場合に受け取れる慰謝料金額は状況によって異なりますが、おおむね50万円から100万円程度となるケースが多いでしょう。
ただし、会社側から受けた不法行為の内容や被害の内容などによっては、さらに高額となる場合もあります。相場などから一様に判断できるものではありませんので、実際のケースで請求できる慰謝料の見込み額を知りたい場合には弁護士へご相談ください。
不当解雇による2つの請求パターン
不当解雇を訴える場合には、いずれの方向で請求するのかあらかじめ検討しておくと良いでしょう。不当解雇で慰謝料請求をする際のパターンは、主に次の2つです。
慰謝料を受け取って引き続きその企業で勤務する
1つ目は、引き続きその企業で勤務することを希望するパターンです。
訴えが認められれば、慰謝料を受け取ったうえで、今後もその企業の従業員として勤務することとなるでしょう。
慰謝料と退職金を受け取って合意退職する
2つ目は、今後はその企業で勤務しないパターンです。訴えが認められれば、慰謝料を受け取るとともに、解雇を合意退職へと切り変えます。
解雇と合意退職とは、いずれも会社を辞めるという意味では同じです。しかし、特に制裁的な意味合いを持つ懲戒解雇の場合には退職金が支給されないことが多い一方で、合意退職であれば原則として退職金の支給対象となります。また、再就職の際にも影響する可能性があるでしょう。
不当解雇で慰謝料の他に受け取れる可能性のある金銭
不当解雇に関連して、慰謝料のほかに受け取れる可能性のある金銭には、どのようなものがあるのでしょうか?主なものは次の2つです。
解雇予告手当
解雇にあたって解雇予告手当が支給されていない場合には、慰謝料とは別途、解雇予告手当が受け取れる可能性があります。解雇予告手当とは、解雇予告をされた日から解雇日までの期間が30日に満たない場合において、支給しなければならないとされている手当です。
たとえば、「明日から来なくていい」というように即時解雇をされた場合の解雇予告手当の金額は、次の式で算定されます。
- 解雇予告手当の額=平均賃金×30日
また、即時解雇ではないものの、解雇予告日から解雇日までの期間が30日に満たない場合には、次の額の解雇予告手当の支給が必要です。
- 解雇予告手当の額=平均賃金×(30日-解雇予告から解雇日までの日数)
たとえば、解雇日の10日前に解雇予告手当をされた場合には、「平均賃金×20日(30日-10日)」分の解雇予告手当が支給されるということです。
なお、この計算に用いる平均賃金とは、過去3か月にその従業員に支払われた 賃金の総額 を、その期間の総日数(勤務日数ではなく、暦日数)で除した金額となります。この「賃金総額」には、通勤手当や皆勤手当、昼食料補助など、賃金のすべてが含まれます。
一方、次のものは、平均賃金を計算する際の「賃金総額」に含まれません。
臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金など)
3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(ただし、四半期ごとに支払われる賞与など、賞与であっても3か月ごとに支払われる場合は算入されます)
労働協約で定められていない現物給与(労働協約によらない現物給与は違法です)
退職金
解雇が不当解雇であるとされ、合意退職に切り替えた場合には、退職金が受け取れる可能性があります。ただし、退職金は解雇予告手当などとは異なり、法令で支給が義務付けられているものではありません。
退職金の支給根拠は、企業ごとに定めている退職金規程です。そのため、そもそも退職金規程が存在しない場合には、退職金を受け取ることはできません。
そして、退職金の支給要件などについても、退職金規程に定められています。この退職金規程において、懲戒解雇の場合には退職金を支給しないと定めている企業が多いでしょう。
そのため、懲戒解雇をされて退職金の支給対象外とされた場合であっても、これが不当解雇であるとされ合意退職に切り替えた場合には、企業の退職金規程に従って退職金の支給対象となる可能性があります。
不当解雇を訴える際には、企業の退職金規程についても確認しておくと良いでしょう。
不当解雇で慰謝料を請求したい場合の対応ポイント
不当解雇で慰謝料請求をしたい場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか?主な対応ポイントは次のとおりです。
早期に対応する
不当解雇について争いたい場合には、早期に対応することをおすすめします。
まず、不当解雇を争うこと自体には、時効はありません。その一方で、不当解雇に伴って請求することの多いバックペイ分の賃金や退職金は、時効期間を過ぎると請求することが困難となります。
それぞれの時効は、次のとおりです。
賃金:3年(従来の2年から5年へと改正されたものの、当分の間は3年。ただし、改正法施行日である2020年3月31日以前分は2年)
退職金:5年
また、その後再就職などを検討している場合においても、不当解雇の問題はあらかじめ解決しておきたいことでしょう。さらに、時間の経過とともに、集めるべき証拠が散逸してしまう可能性も高くなります。
そのため、不当解雇を争いたい場合や慰謝料請求をしたい場合には、できるだけ早期に対応を始めることをおすすめします。
証拠を集める
不当解雇を訴える際には、会社側に訴える前に、可能な限り証拠を集めておきましょう。なぜなら、不当解雇での慰謝料請求は、訴訟などへ発展する可能性が低くないためです。
解雇を撤回して欲しい場合や不当解雇であるとして慰謝料請求をしたい場合には、まずは会社側と直接交渉します。しかし、会社が自発的に不当解雇であると認めて解雇を撤回し、さらに慰謝料まで支払うケースは、さほど多くないでしょう。
会社が任意に不当解雇を撤回しない場合には、労働審判や訴訟などによって解雇の正当性を争うこととなります。そして、労働審判や訴訟では単なる主観を主張しても認められない可能性が高く、証拠が非常に重視されます。
そのため、あらかじめ証拠を集めておく必要があるのです。集めておくべき証拠は状況によって異なりますが、おおむね次のものなどです。
就業規則や雇用契約書
会社から渡された解雇予告通知書や解雇通知書
会社へ請求して受け取った解雇理由証明書
給与明細や賞与明細
給与規程や退職金規程
解雇に関して会社とやり取りをしたメールや書面、録音データ
これらの中には、解雇された後では集めることが難しいものも少なくありません。そのため、会社を去る前に、可能な限り集めておくことが必要です。
弁護士に相談する
不当解雇で慰謝料請求をする場合、自分ですべての対応をすることは容易ではありません。そのため、不当解雇での慰謝料請求をしたい場合には、労使問題にくわしい弁護士へ相談することをおすすめします。
不当解雇の慰謝料について弁護士へ依頼する主なメリットは、次のとおりです。
適正な請求が可能となる
弁護士へ依頼することで、そのケースに応じた適正な請求をすることが可能となります。
バックペイ以外の慰謝料請求が可能かどうか、可能であればどの程度の請求が妥当であるのかなど、判例などを参照しつつ具体的なアドバイスを受けられることでしょう。
会社と直接交渉する必要がなくなる
弁護士へ依頼すれば、弁護士が会社側との交渉を代理してくれます。そのため、自分で会社へ請求をしたり、会社と交渉したりする必要がなくなります。
これに伴い、不用意な言動をして訴訟などで不利となる証拠を残してしまう事態を避けられるほか、精神的な負担の軽減にもつながるでしょう。
会社側の対応が変わる
弁護士が代理で交渉をすることで、会社側が誠実に対応しようとする可能性が高くなります。自分で請求をした場合には、「対応しなくてもそのうち諦めるだろう」などと軽く考えて、真摯な返答が得られないかもしれません。
一方、弁護士へ依頼することで交渉への本気度や訴訟も辞さないとの意思が伝わるため、会社側にとって請求を無視したり無下な対応をしたりしづらくなるでしょう。また、その結果、訴訟などへ発展する前に、解決金の支払いなどにより解決できる可能性も高くなります。
時間と労力が軽減される
不当解雇の訴えや慰謝料請求をするためには、専門的な知識が必要となります。そのため、自分で請求を行おうとすれば、多大な時間と労力を割いて法令や判例、訴訟を提起する方法などを調べなければなりません。
一方、弁護士へ依頼すればこれらのことは弁護士側で行うため、時間と労力の負担が大きく軽減されることになるでしょう。
労働審判や訴訟となっても落ち着いて対応できる
不当解雇による慰謝料請求は訴訟や労働審判へ発展する可能性もあります。これに対して、自分で対応することは容易ではありません。
一方、弁護士へ依頼した場合には弁護士がサポートするため、落ち着いて対応することが可能となります。また、上でも触れたとおり訴訟への発展も辞さないとの意思が伝わるため、結果的に訴訟などへ発展する前に解決ができる可能性も高くなるでしょう。
まとめ
不当解雇をされたからといって、必ずしも慰謝料請求が認められるわけではありません。ただし、不当解雇であれば賃金のバックペイ分の支払いは認められる可能性が高いほか、退職金の支給対象となる可能性もあります。また、パワハラなどがあった場合には、別途慰謝料請求も認められる可能性があるでしょう。
しかし、自分で会社に不当解雇を認めさせ、慰謝料請求をすることは容易ではありません。そのため、不当解雇で慰謝料請求をしたい場合には、労使問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。
たきざわ法律事務所では、不当解雇など労使問題の解決に力を入れております。また、解雇をされた従業員様側からのご相談と、不当解雇を訴えられている企業様側のご相談の、いずれへの対応も可能です。
不当解雇やこれに伴う慰謝料請求でお困りの際には、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。